着物お披露目会
「初詣!」
「急にどうしたんだよ、ユキ?」
「年もあけたんだし初詣いこ!」
「いや、だからどうして急に…」
「えぇ~!いいじゃんちょっとぐらい!」
年明けの朝、ユキは俺の部屋にやってきたかと思うとすぐにそんなことを言い出した。
「せっかくのお正月なんだしお外に出ないと!それにずっとお部屋に籠ってたら太っちゃうよ?」
「いやいや、そんなすぐには…」
「そんなこと言っててもいいのかなぁ?お正月はいろんな食べ物の誘惑がいっぱいなんだよ?お餅とかお雑煮とか…あとおぜんざい!」
全部餅じゃねぇか…
そんなに餅ばっかり喰わねぇっての。
もしかするとユキはお餅が好きなのかもしれない。
「とにかく!初詣いこうよ!」
耳元で大声で騒ぎながら俺の袖を引っ張ってくるユキ。
まるでおもちゃを買ってくれと駄々をこねる子供のようだ。
「はぁ…分かったよ。準備するから待ってろよ」
「やった!お兄ちゃん大好き!それじゃ校門の前で待ち合わせね!」
「お、おう…?」
俺の用意が終わるまでここで待っていればいいのだが…
結局ユキは俺の答えをきいたのちすぐにどこかへ行ってしまった。
「うぅ…寒い…こんな寒いのに初詣なんてなぁ…」
外に出ると憂鬱になるほどの寒さが肌を刺した。
正直帰ってしまいたいと思ったが妹のお願いを無碍にするわけにもいかない。
俺はユキが喜ぶからと自分を鼓舞しながら校門まで向かう。
「あっ!お兄ちゃん!こっちこっち~」
「おうユキ、遅くなってゴメン…ってお前!その格好…!?」
寒空の下たたずむ妹、その身には今まで見たことがない着物が纏われていた。
「あ?これ?えへへ~着物だよ!可愛い?」
そう言ってクルリと回転してみせるユキ。
水色を基調とした布地にところどころ赤やら金の刺繍が施されている着物。
それがいつもの金髪のツインテールと相まってとても可愛らしく見える。
それにまだ幼さが残るユキにはとても似合うデザインのモノであった。
「あれ?お兄ちゃん?お~い…もしかして、見惚れちゃった?」
「あ、あぁ…そうかもしれない」
「う、うぅ…お兄ちゃん…そんなにはっきり言わなくても…こっちが恥ずかしくなっちゃうよ…」
俺の言葉に頬を染めて照れるユキ。
少しうつむいてもじもじするユキもやはり可愛らしい。
「…って!早くいこ!いっぱい人がきちゃうよ!」
と、照れ隠しをするように早口でそうまくしたてて俺をせかす。
かくいう俺も寒いのは嫌なのでそれに従うことにした。
「うわぁ…人がいっぱいだねぇ…」
「そうだなぁ…やっぱり正月だからだよなぁ」
なぜ人は正月というだけでこうも神頼みをしたがるのだろうか。
普段は神様なんて信じてないというような人たちも今日だけは特別だとでも言うように祈りに来るのだから不思議である。
「お兄ちゃん、ベビーカステラ買って!」
「お前いきなり食うのかよ…」
「だってぇ…おいしそうなにおいしてるんだもん…それにお参りの順番が来るまでの間に食べたいなぁとか…」
目の前の屋台からは甘ったるい匂いが漂ってきている。
それがオレの腹の虫を思いっきり刺激した。
「はぁ…分かったよ」
「やったぁ!やっぱりお兄ちゃんは優しいなぁ」
俺、妹にやさしすぎるか…?
でもこの笑顔を見られただけでも優しくしたかいがあるってものだ。
「おっ?もしかしてキョウヤか?」
と、そんなことを思っている俺の背で聞き覚えのある声が聞こえた。
「あぁ、ケントか?お前も初詣か?」
「まぁな。で、マリナに頼まれて今はこれを買いに来てたんだ」
ケントはそう言って目の前の屋台を指差す。
こいつも俺と同じ境遇だったのか…
で、俺達はベビーカステラを買いそのままケントたちと合流した。
「ケントお帰りです!うわぁ…おいしそうなにおいです~」
そう言ってマリナは無邪気な笑みを浮かべてそれを頬張る。
「そう言えば…マリナも着物なんだな。スゲェ新鮮だ」
「確かに…私もマリナの着物姿なんて初めて…すっごく可愛いよ!」
「えへへ~…照れるですぅ」
マリナの着物は子供っぽい赤が基調になったもの。
だが身長の低いマリナにとってはとてもピッタリなモノだった。
「そういやウサギたちとも一緒に行こうって言ってたんだけど…キョウヤは見てないか?」
「いや、俺は見てないな」
「ウサギたちも来るの!?今年は楽しくなりそう!」
それと同時に騒がしくなりそうなのも確かだけどなぁ…
「遅くなってごめんね!ちょっと手間取っちゃって…主にキラが」
「だって着物着るなんて初めてだったし…」
「ヤッホー先輩たち!あけましておめでとう!」
と、ワイワイと騒ぎながらウサギとキラとイツキが合流した。
三人ともやはり着物に身を包んでいる。
ウサギは黒を基調としたものを、イツキとキラは互いに同じ模様の着物を着ていた。
「うっはー!着物の可愛い娘がこんなにいっぱいいるなんて…俺もう死んでもいいかも…」
「バカケント!マリナちゃん以外に目移りするなんて許さないです!浮気です!」
年明けからほんと騒がしいな、こいつらは…
しかし今年もこうやってバカ騒ぎ出来る親友がいるんだ。
それだけでも今年のスタートとしては最高のモノだった。
結局俺たちが参拝できたのは合流してから2時間以上が経過した時だった。
どうしてこれほど時間がたったかというとこの神社が恋愛の神様を祭ったところだったからだ。
恋を叶えてほしいという人たちが溢れんばかりの列を作っていたのだ。
そして帰る頃にはもう空に夜がにじんできたぐらいだった。
「そう言えばお兄ちゃんは何をお願いしたの?」
と、帰り道、ふとユキが俺にそう尋ねてきた。
「俺か?俺は…今年もみんなでバカ騒ぎできますようにって」
「なんかお兄ちゃんらしいなぁ…しかも恋愛の神様にそんなこと頼むなんて。神様もびっくりしてるんじゃない?」
「はは、確かにそうかもな。そういうユキは何をお願いしたんだ?」
「え?私?私は…内緒!」
「おいおい、俺にはきいておいてそれは無いだろ」
「だってお願い事は他の人に話したら叶わなくなるんだよ!」
「おい、それじゃ俺の願い事はどうなるんだよ!」
「お兄ちゃんのは別に神様に頼まなくてもなんとかなるって」
どういう理屈だよ、と突っ込みたくなるがこらえた。
このままいけば平行線だ、ここは退くとしよう。
「お兄ちゃんとラブラブできますように、なんて恥ずかしすぎて言えるわけないもん…」
ぼそりと何かをつぶやいたユキだったが俺の耳には届かなかった。
と、俺の鼻先に何か冷たいものが落ちた。
「あれ?」
そして空を見上げて気付いた。
ちらちらと真っ白なしずくが降ってきていたのだ。
「雪…」
「ん?呼んだ?」
「いや、お前じゃなくて…雪が降ってきたってこと」
「そう…雪が…」
ユキも同じように空を眺める。
「寒くなってきたなぁって思ってたけど…雪まで降ってくるなんて…お正月に雪、ホワイトお正月?」
「なんだよ、それ」
「だってクリスマスに雪はホワイトクリスマスだしバレンタインはホワイトバレンタインってなるでしょ?だからホワイトお正月?」
「語呂悪いなぁ…」
そんなバカな会話をしている間にも雪はどんどん勢いを増して俺たちの上に降り積む。
「うぅ…お兄ちゃん寒いよぉ」
「そうだな…コンビニよって肉まんでも買うか?」
「うん!でも…このあたりコンビニないよ?ちょっと歩かないと…」
「そうか…なら、ほら、これ貸してやるよ」
俺は自分がしていた手袋をユキに貸してやる。
冷たい空気が手に当たりヒリヒリとする。
しかしユキにずっとその痛みを与えるわけにもいかないと覚悟を決めて手袋を渡した。
「いいの?お兄ちゃんも寒いんじゃ…」
「俺は平気だって!」
「ウソ…手が真っ赤だよ?やっぱりお兄ちゃんも寒いんだよ。私のことはいいからお兄ちゃんが使って…?」
俺に気を使って頑なに使おうとしないユキ。
仕方ないと俺は最後の手段を使うことに…
「わかった、半分こだ。俺が左手を使うからユキは右手な。これならお互い寒くないだろ?」
「でも開いてる手は…?」
「ほら、お互い握ってたらあったかいだろ?」
そして俺は妹の手を握った。
まだ小さな妹の手は冷たかったが握っているだけで芯からポカポカとしてきた。
「お兄ちゃん…ありがと…大好きだよ!」
外は寒かったが俺たちの心はポカポカと温かかった…