大切な妹の笑顔を
「逃げられた、か…」
辺りを見渡してそう悔しげにつぶやくケント。
もうここにはあの軍服の男も、ましてや縛られた謎の人物もいなかった。
多分ショウが連れて逃げたのだろう。
「はぁ…まぁこれで一段落かな」
ケントはんーっと大きく伸びをする。
先ほどまでの張りつめていた空気はどこへやらだ。
まぁそれがケントのいいところでもあるのだが…
「お、お兄ちゃん…」
と、涙ぐんだ声で俺のことを呼ぶ人物が一人。
そうだな、こいつともちゃんとけりをつけないと…
俺は妹の方をじっと見つめる。
が、彼女の下着だけの格好ばかりに目が行ってしまいどう話していいかわからなくなってしまった。
改めてみると妹の体つきは丸みを帯びてぷっくらとしている女の子のそれだった。
おっぱいだってちゃんと膨らんでるし…
「ほら、これ…着ろよ」
あまりじろじろと見るのも悪いので羽織っていた上着を妹にかけてやる。
俺の身長に合わせて作っているものだからユキにはとても大きくてぶかぶかだがちゃんと下着も隠れる。
「あったかい…えへへ…ありがと、お兄ちゃん」
ユキはフニャリとした笑顔を向けるがそれも一瞬だった。
次に見せたのはどこか憂いを帯びたばつの悪そうな顔だった。
「あのね、お兄ちゃん…私…お兄ちゃんに謝らなくちゃ…」
「いや、謝るのは俺のほうだ」
ユキの言葉を遮り俺は言葉を続ける。
これは俺から言わないといけないことなんだ…
「俺、ちゃんとユキのことを理解してやろうとしなかった…お前も大変な過去を背負ってるのに、それを不気味だって、怖いって思ってしまったんだ…俺だって触れられたくない過去だってあるはずなんだけど…いや、実際忘れてるんだけど…え~と…あぁ…なんて言えばいいのかな…とにかく!俺が無神経でバカだった!謝ったところでどうにかなる問題でもないってのはわかってるけど…えと…」
俺の矢継ぎ早の言葉にぽかんとしていたユキだったが…
「フフ…あはは!もうお兄ちゃん必死すぎ!おかしいんだから!」
「え…?」
ユキは思いっきり笑っていた。
俺の言葉をきいて笑っていた。
「お兄ちゃんってばほんとに必死なんだから!そんなに必死にならなくても私はお兄ちゃんのことキライになったりしないよ?私にはお兄ちゃんしかいないんだから…お兄ちゃんがいなくなってその大切さに気が付けて…だからお兄ちゃんには隠しごとはしたくないなって思って…だから…私のお話、聞いてくれる?」
「あぁ、もちろんだよ…けど、それは帰ってからな。帰ってゆっくり話そう、俺たち二人っきりで…」
「お兄ちゃん…」
「ユキ…ゴメンな、一人にして…」
「大丈夫だよ…こうしてお兄ちゃんが迎えに来てくれたんだから…全然さびしくなんてないよ…」
しかし妹の頬には涙が伝っていた。
安心しきって今までの恐怖が出てきたんだろうか…?
泣いた理由はどうあれ俺は妹には笑っていて欲しいと思った。
ちゃんと笑顔でもう一度兄妹に戻りたかった。
「ユキ、笑ってくれよ…」
俺はそのままぎゅっとユキを抱きしめた。
小さくて細身の身体、ちょっと力を込めれば壊れてしまいそうな華奢な体で、ユキはどれだけのことを背負ってきたのだろう?
もし俺がそれを一緒に背負えれば…彼女はずっと笑っていてくれるのだろうか…?
「お兄ちゃん…ありがと…」
腕の隙間から見えたユキの顔は、確かに笑顔だった…
「お~い…アツアツお二人さ~ん…ダメだ、もう完全にあっちの世界だよ」
「別にいいんじゃない?先輩たちの好きにさせておけば。邪魔するのも悪いよ、ケントセンパイ」
「そうです!ケントはいっつも空気読めないです!これだから馬鹿にされるんです!」
「バカケント…ぷふぅ」
「ウサギに笑われるのだけは納得いかねぇ!」
結局この後事態が完全に集約するまでには一時間かかったのだった…