「さて…そろそろ出発だな…で、ユキ、そろそろ俺の上着返してくれないかな?」
と、ちゃんと服を着てまでまだ俺の上着を独占しているユキに俺はそう言った。
なんだか俺も寒くなってきてしまったのであれが欲しいんだが…
「え~!嫌だよ!私まだ服完全に乾いてなくて寒いもん!」
確かにまだちょっと湿っていたけど…
「それに…お兄ちゃんの匂いにず~っと包まれてて…すぅ~はぁ~…う~ん!幸せぇ…!もう離したくないよぉ…」
何だろう、後者の方が主な理由に聞こえるのは俺だけだろうか?
まぁ理由はどうであれユキがまだ持っていたいというならそれを尊重しないとな。
「ユキずるい!私もキョウヤの服着てみたい!それでキョウヤの服に私の匂いをしみつけて…それで毎晩毎晩ウサギちゃんのふわ~っとしたいい匂いを嗅いでないと寝れなくなっちゃう身体にするの!」
「せ、センパイ…私も寒くなってきちゃったから上着、貸してほしいなぁ…?」
「おっ!キラってば私がいない間にいつの間にそんなに大胆に!?昔はお姉ちゃんの後ろでもじもじしてた恥ずかしがり屋さんだったのにねぇ…」
「そ、そんな昔の事思い出させないで!」
「フフ、ごめんごめん…じゃあ私はキラの後に貸してもらおっかなぁ…」
「お兄様…?私には貸していただけませんの?お兄様のお洋服なら何でもよろしくてよ?もちろん…下着でも…」
「お、お兄ちゃんの下着!?そ、それって…パ、パンツのこと…だよね…?…ごくり」
「はぁ…」
この状況に俺はため息をつくしかできなかった。
ユキがいなかったさっきと比べるとテンションが違いすぎる。
女子は数が多ければ多いほどに騒がしくなっていくものなのだろうか…?
「キョウヤも災難だね」
「サクヤ…笑いながらそう言われても…」
「ほんっとキョウヤはモテモテだよなぁ…羨ましいぜ」
「ケントはモテモテになりたいです?じゃあもうマリナはいらないのです?うぅ…酷いです…マリナちゃんとは遊びだったんです…ケントは最低です!」
「ご、ゴメンマリナ!そういう意味じゃなくって…!」
こっちはこっちで相変わらずだなぁ…
今は敵本拠地だというのにこの緊張感のなさ…
だがこれくらいの方が俺たちにはいいのかもしれない。
楽しめるときに楽しんでおかないと…
だって俺たちはいついなくなってしまうかわからないからな…
「あ!あそこ!出口じゃない!?光が漏れてるよ!」
「お、確かに…」
「ウサギちゃんが一番のりするんだから!」
「走るなって!危ないぞー!」
「大丈夫だってぇ!」
ウサギの大丈夫ほど心配なモノはないのだが…
まぁウサギには自衛能力があるからいいか。
あのガンテクニックがあれば大抵の敵は怖れるに足らずだもんな。
「ぎゃあぁぁぁ!」
「う、ウサギ!?」
そう思っていた矢先だった、ウサギの悲鳴が聞こえてきたのは。
「あのバカ…!ちょっとは警戒しろって…!」
俺達は急いで悲鳴のした方へ向かう。
ウサギが叫んだのはちょうど光がさしていた方、その奥からだ。
洞窟の闇から抜け出したそこには…
「ど、ドラゴン…!?」
全長は10メートル以上の大きな真っ白なドラゴンがそこに鎮座していた。
俺たちにはそれに見覚えがあった。
上陸する途中、戦艦を鎮めたあの白龍だ。
そのドラゴンは体から真っ白な光を放ちまるでおとぎ話に出てくるそれのようだった。
「まさか…ここから漏れていた光って…」
「あぁ…こいつが放ってたやつだな…」
俺達はそのドラゴンを見上げる。
ギラリとした眼光、まるでそれだけで人が殺せそうなほどだ、が俺たちをとらえた。
「ヤバ…逃げるぞ…!」
「でも…ウサギは…」
俺は辺りを見渡す、そして数メートル先に倒れているウサギの姿を見つけた。
そしてその近くには人一人はいれるほどに小さな洞穴。
あそこに逃げ込めれば…!
「イリヤ!人形だ!あいつをあそこまで運ぶぞ!」
「わかりましたわ!さぁいらっしゃい!わたくしの僕(しもべ)たち!」
「センパイ!私も手伝います!」
「サンキューイツキ!お前らは援護頼む!」
俺達は急いでウサギの元へかける。
「ん…ふにゅぅ…」
ウサギはぐったりと倒れているが外傷はない、どうやら本当にドラゴンを見て気絶しただけだった。
人形とイツキの手を借りてなんとかウサギを持ち上げて背にのせる。
そしてそのまま洞穴へと全力で走った。
「お兄ちゃん危ない!」
「え…?」
気が付けばドラゴンのターゲットは俺たちになっていた。
ぎろりと睨みつけた眼光に殺意がこもる。
「おいキョウヤ!ブレスがくる!走れ!」
「あ、あぁ…!イリヤ、イツキ!お前らも早く!」
ドラゴンの口にエネルギー波がたまっていく。
そしてそれが限界に達した時、それは光線となって俺たちに降りそそいだ。
「ぐっ…!まにあええぇぇぇ!」
最後に俺はその洞穴へと向かって飛んだ…
「はぁはぁ…お、お前ら…大丈夫か…」
「うん…何とか…」
「えぇ…大丈夫ですわ…でも…」
と、イリヤは俺の後ろを指差した。
そこには崩れた岩が山のように積み重なり出口をふさいでいた。
「お、おい…まさか…」
「えぇ…隔離、されましたわね…」
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
瓦礫の奥からユキの声が聞こえる。
何とか声は聞こえるのか…
「俺は大丈夫だ!イツキもイリヤも無事!お前らも逃げてくれ!またどこかで合流しよう!」
「お兄ちゃん…分かった!死なないでね!」
「あぁ…もちろんさ」
くそ…ユキと再会して直ぐに散り散りになるなんて…
運命ってやつはことごとく残酷だ…
「ぐっ…痛…」
「イツキ!?大丈夫ですの?」
「ご、ゴメン…足、やっちゃったみたい…」
イツキが抑えている右足、そこを見ると血がドクドクと溢れていた。
多分瓦礫の破片にやられたのだろう。
「かなり深いな…まずは止血からだ…イリヤ、治療器具はあるか?」
「えぇ、包帯と…縫合具がありますわ…」
「縫合って…縫うの…?」
「じゃないと血が止まらないぞ…」
「それって…痛い?」
イリヤがこくんと無言でうなずく。
それを見たイツキの目には大粒の涙が浮かんでいた。
「なんとか痛くないようにしますわ…だから…」
「わかった…イリヤを信じる…」
「ありがとう、ですわ…」
退路は無く先は見えない、そんな中ウサギは気絶してイツキの足は重傷…
希望の後の絶望、その落差が俺の気を重くした…