「ふぅ…何とか終わりましたわ…」
イリヤは安堵のため息とともに医療キットを地面に置いた。
イツキの傷口にはしっかりと包帯が巻かれていた。
どうやらこれでひとまずは無事のようだ。
「ですが…このまま放置するといけませんわ。早く帰ってお医者様に診せた方がいいですわね」
「そうだな」
かくいうイツキはぐったりと気を失ってしまっていた。
安堵からか痛みからかはわからないが、すぅすぅと気持ちよさそうな寝息を立てていることだけはわかった。
「それで…これからどうする?」
「そうですわね…」
イリヤはちらりと眠っている二人を見てニヤリと口の端を釣り上げた。
「あの二人は眠っていますの…だから今は私とお兄様二人きり…その間に兄妹の愛を深める秘密の儀式を…」
「しない」
俺はいつものように彼女の頭にチョップをした。
「うぅ…お兄様!頭は酷いですわ!わたくしの優秀な脳細胞が死んでしまいましたわよ!お兄様責任取ってくださいまし!」
「はぁ…ホントお前は緊張感ないなぁ…」
「緊張感?そんなのずっと持ってたら息が詰まって死んでしまいますの。適度な息抜きが最高のコンディションを生むのに重要なんですわよ」
「あぁ、そうだな。だけどまずはここから出ないと。青ぶのはそれからだ…そうだな…入り口をふさいでる岩を壊すのはどうだ?」
「いいえ、それはダメですわね…もしこの場所がアイツの巣なら出たところを狙い撃ちですわ」
「だけどなんとか戦えば…」
「それも無理ですわ。これだけの岩をどかすのに何時間働けばいいと思っていますの?疲れきった体でまともに戦えるはずありませんわ」
「確かに…」
ということは…この奥を進むしかないってことか…
ここは敵の本拠地、何かしらのトラップなどが仕掛けられているはずだ…
「お兄様、心配いりませんわ」
と、イリヤは俺の不安をくみ取ったようでそう俺に笑いかけた。
そしてカバンからいつものように人形の群れを取り出した。
「この奥に何があるか探してきなさい!」
イリヤの命令を受けた人形たちはいっせいに洞窟の奥を目指して走っていった。
「やっぱり人形って便利だな」
「フフン!もっと褒めてもいいのですわよ!」
「調子にのるな」
「あたっ!…うぅ…またチョップゥ…」
ったくイリヤの奴め…
「そう言えば…イリヤって俺のことをどれだけ知ってるんだ?生憎俺は記憶を無くしててな、自分のことが知りたいんだよ」
「そうですわね…あれ?そう言えばお兄様の事はあまり知りませんわね…」
「え…?」
予想外の言葉に俺は素っ頓狂な声を出してしまった。
だってこいつは借りにも俺の妹、俺のことをある程度は知っていてもおかしくないはずなのに…
「お兄様の事はあの時話したこと以外ほとんどありませんわ…そうですわね…今思えばお兄様には不審な所が多数ありましたの…」
「そ、それって!?」
ずいっと身を乗り出してイリヤの答えを求めてしまう。
俺は早く自分のことが知りたかった…
「お兄様がどうしてわたくしの所にきたのかもわかりませんし、それになぜわたくしと同じ異能が使えるのか、それに…何故わたくしのお父様のことを知っていたのか」
「イリヤの…お父さん?」
「えぇ、初めてわたくしのお父様にあった時、お兄様は確かに父さんと呼びましたの。初対面の相手を父さんと呼ぶのはおかしいですわ」
「確かに…」
それってどういうことだ?
もし俺がイリヤと会うより前に彼女の父親にあっていれば話は別だが…
そんな簡単な事では収まらない気がする…
「はぁ…結局お兄様は謎が多いのですわね」
「う、うにゅぅ…あれ?私、どうして…?」
「お、ウサギ、起きたか」
「あ、きょうやだ~おはよ~」
ウサギは寝ぼけているのかまだふわふわとしていた。
俺達があんなに大変な目に遇っていたのにこいつは…
ほんっとマイペースな奴なんだから…
俺はあきれ交じりのため息をついたのだった…