「そう言えば…どうしてウサギはドラゴンが苦手になってしまいましたの?」
偵察に出した人形が帰ってくるのを待つ間適当な話をして時間を潰していた俺たちだったが、ふいにイリヤはそんなことを言い出した。
確かにその理由はまだ聞いていなかったな…
「え…?」
だが訊かれたウサギはというと少しいやそうに顔をしかめていた。
やはりこの話はダメだったのだろうか…
なにせデリケートな話なのだ、そう簡単に話すわけにも…
「わかった、いいよ」
「え?いいの?」
あまりにも素早い回答に俺は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
「そう言えば私の話ってほとんどしたことないなぁって思ったし…ついでにウサギちゃんの武勇伝も聞いていってよ!」
「武勇伝って…そこまで話さなくても…」
「私が話したいんだからキョウヤは黙って聞くの!」
「はい…」
「それじゃ私が生まれた時の話から…」
「ちょっと待った!」
得意げに話そうとしていたウサギを制止する。
さすがに生まれたときからは長いぞ…
「なぁ…短縮できないのか?」
「そうですわよ、さすがのわたくしでも生まれたときからっていうのはきついですわ…」
「そっか…しょぼん…それじゃあ5歳ぐらいの時から…」
「いや、それも長い気が…」
「もう!どこからならいいの!もしかしてキョウヤってウサギちゃんの話聞く気がないとか?」
あまり鋭くない瞳でキッと睨まれても…
「はぁ…分かったよ、好きなように話せって」
ここで妥協するのが大人の対応ってものさ。
決してちょっとふくれっ面で睨んだ顔が可愛かったからじゃないぞ?
「コホン…それじゃあウサギちゃんのお話の始まりはじまり~」
幼い時の私の生活は幸せそのものだった。
幸せって言ってもお金がいっぱいあったとか上流階級の家に住んでたとかそんなんじゃないよ?
お金は生活には困らないギリギリの額だったし両親ともに普通の家族だ。
澄んでたところもオシリスの端っこのほう、ちょうど平野が広がってるところに住んでたの。
そこで私たち家族は牛さんや豚さんを育ててたの、もちろん鳥さんも育ててたんだよ。
週末にはそこでとれた牛さんのお乳とかお肉をお父さんと一緒に街に持って行って売って生活してたの。
その間お母さんは家でおいしいご飯を作って待っててくれて…
毎日が家族団らんで幸せだったんだ…
「ねぇねぇお母さん!ウサミね、今日は牛さんのお乳搾ったんだよ!いっぱいピューピューってして!えへへ~えらいでしょ~」
「そうね、ウサミちゃんえらいえらい」
「お母さんになでなで~嬉しいな~ぴょんぴょん!」
「ははは、そんなにぴょんぴょん跳ねて、ウサギみたいだな」
「お父さん、ウサミ、うさちゃんみたい?可愛い?」
「あぁ、可愛いぞ~」
「えへへ~じゃあウサミ、今日からうさちゃんになる!ウサギさんみたいにぴょんぴょんする!」
「そっか、それじゃお母さんもがんばってお手伝いしないとね…」
それから数時間後にはお母さんは私にウサミミパーカーを作ってくれていたのだ。
「これでウサギさんになれるよ」
「うわぁ…お母さん凄いすごい!ウサギ嬉しいなぁ…ぴょんぴょん!」
「フフ、ほんとにウサギみたい…」
そしてそこから私は自分のことをウサギと呼び、お母さんもお父さんもそう呼んでくれた。
今思えばこれが私の原点だった。
お母さんはそれから毎年私の誕生日になると新調したウサミミパーカーをプレゼントしてくれた。
年月を重ねるごとにたまっていくパーカー、それが私の宝物になった。
「えへへ~お父さんお母さん大好き!ぴょんぴょん!」
そう、私達はどこにでもいるような幸せな家族だった。
あの事件が起こるまでは―