私は何とか逃げ延びた。
どうやって、どこを通って、どうやってそのあとを過ごしたのかまるで覚えがない。
けれど気付けばあの日から3日が経過していた。
髪はぱさぱさになり肌には血が固まってパリパリになったものが張り付いていた。
あの日、心が死んだー
ふらふらとした足取りで焦点の定まらない目を転がしながら、私はまだ歩いていた。
そしてある思い出深い場所へとたどり着いた。
いっちゃんたちの家。
私達が一緒に遊んだあの家だ。
たった3日来ていないだけとはいえもうずいぶん長いこと訪れてないような気がした。
そう言えばあの二人はどうなったんだろうか…
家のほうは…うん、あんまり燃えなかったようだ。
これならあの二人が炎に巻かれて死んだ、なんてことは無いはずだ。
「ねぇいっちゃん、きーちゃん、いる?」
ドアをノックしたが帰ってきたのは叩いたドアの音の残響だけだった。
数十分もドアの前で粘ったが彼女たちが出てくる気配なんてない。
そうか…私は、本当に一人になってしまったんだ…
「はぁはぁ…おなか、空いた…死にそう…」
そしてそこからさらに数日が経過した。
私の足は自然と自宅のほうへと向いていた。
あの日以来敬遠していたあの家、あそこなら何か食べ物が、お母さんたちが残したお金があるはずだ…
けれど…あの家を見て、正気でいられる自信が無かった。
だけどもう手遅れだ、私の目の前にはもうあの家が見えていた。
あの日以来ずっと放置されたいえ、そこはすさまじい惨状だった。
牛や豚の死肉は腐り酷い臭いを放っている、それにそこにハエがたかっている始末だ。
両親の死肉にもハエがたかっている。
こう見てみると不思議なモノだ、両親だったものも、牛や豚だったものも、死んで肉になってしまえば同じじゃないか…
数日前の私では考えられないような思考が頭をよぎりぶんぶんと頭を振った。
「お母さんとお父さんのお墓作らないと…」
お腹は空いていたがまずはそれが先決だ。
両親を弔ってやらないと、ずっとあんなところで放置されていてはだめだろう。
私は倉庫からすこっぷを取り出してザクザクと土を掘っていく。
その間ずいぶんと頭はクリアだった。
初めここに来るまではこの惨状を見ると取り乱してしまうのではないと思っていたが…
やはり私の心は狂ってしまったのか…
「うぅ…グス…うえぇぇん…」
けれど…涙は出てきた。
両親が死んでから私は涙を流さなかったことを思い出した。
今まで溜めてきたその分を発散するかのように、私は泣いた。
涙でこの掘った穴が埋まってしまうんじゃないかというほどに泣いた。
もういない両親への、最後のプレゼントに、涙を―
「あった…ハムにチーズに、それにお野菜も…」
両親を埋葬したのち家を物色、そこから食べ物を発見した。
何日ぶりだろう、こんなにおいしいものは…
家で食べるからだろうか、こんなにおいしいのは…
ご飯を食べたのち私はさらに家を物色した。
幸い家の中は無傷なようだ、慣れ親しんだ家具の配置などが私を出迎えてくれていた。
ふと開けてみたお母さんが大切にしていた洋服タンス。
お母さんはちょこちょこそこにお金を入れていたのをおぼえている、だから開けてみた。
だけどそこにあるのはお金じゃなくって…
「これ…ウサミミパーカー…」
私が着ているものと同じ、お母さん手作りのパーカーだ。
サイズが違うウサミミパーカーが何着もその中に入っていたのだ。
それが意味するのは…私の誕生日用のパーカーのストック…
毎年毎年贈ってくれるお母さんのプレゼント、お母さんの愛情がそこにはうんと詰まっていたのだ。
「お母さん…うぅ…おかあさぁん…」
もう贈られないプレゼントともういない母をかさねあわせて私はまた、泣いた。
お母さんが一生懸命作った形見の品、私はそれを一生大事にしようと決めた。
そしてその夜の事だった。
私の家に一人の訪問者が訪ねてきた。
大柄で朗らかな笑顔を見せる50代ぐらいの男性、彼は孤児院をしているらしい。
街で私が一人でいるのを見かけたのでもしやと思って訪ねてきたらしい。
さらに彼の話を聞いていくとあの火災で親を亡くした子供たちを助けて回っているらしい。
生きる術もない幼い私は彼に連れられて孤児院に入ることにした。
この家を離れることに抵抗がなかったわけではない。
けれど…お母さんたちは私に生きて欲しいと願った。
だから、私はそっちへ行くことにした。
孤児院での生活が始まったが私は誰とも馴染めなかった。
だって…私とかかわったらみんないなくなっちゃうと思っていたから。
ツキくんも、ツキちゃんも、いっちゃんも、きーちゃんも、ましてやお母さんたちも…
私の目の前からいなくなってしまったんだ…
だったらもう…関わり合いが無い方がいいんだ…