「ねぇねぇ…本、一緒に読まない?」
「え…?私…?」
孤児院での生活にも慣れてきたある日、私の元に一人の女の子がやってきた。
ふわふわの長髪を携えた彼女は、確か…みんなにさっちゃんって呼ばれてる娘、最年長でみんなを支えるまるでお母さんみたいな娘だ。
彼女は本を両手で抱えてうれしそうに私の顔を覗き込んでくる。
こんなニコニコ顔で迫られれば断れるわけがないだろう、そういうわけで私はこくりと頷いた。
「よかった~断わられちゃうんじゃないかってドキドキしちゃった」
彼女はほっと息をついて私の前に持っていた本を差し出してくる。
その本の表紙には絵本チックなタッチで描かれたドラゴン。
「ど、ドラゴン…うっ…ゴメン…それ…しまって…!」
それを見た瞬間にこみ上げてくる吐き気。
脳裏に思い出されるあの日の光景、あの日の匂い。
血の匂い、木々が焼ける焦げ臭いにおい、人の臓物の異臭、目の前に広がった師の匂い…
その全てがフラッシュバックしてきて頭が壊れそうに痛む…
「うあぁぁぁぁぁ!」
もう我慢できなかった。
私は力の限り叫んだ。
悲痛な叫びが孤児院の小さな部屋の壁にこだまする。
びくりと彼女が肩を震わせるのが分かった。
「ど、ドラゴン…怖い…ヤダ…もう…あんなの嫌だよぉ…」
あぁ、まただ…
あの日以来ずっとだ。
ドラゴンを見るとこうなってしまうのだ。
それがどんな形でも、どんなものでも、たとえそれが絵であってもドラゴンであれば体が反応してしまう…
そのせいか孤児院では気持ち悪いと言われ孤立した存在になってしまっていて…
私のことを頭がおかしい子だとみんな噂して…
この子にも、嫌われたかな…
「大丈夫…怖くなんかないよ…」
普段なら気持ち悪がられて離れていってしまうが、けれど彼女は…私のことをぎゅっと抱きしめてくれた。
「ごめんね…怖かったよね…でも大丈夫だよ…これは本だから…襲ってこないよ?」
「うん…けど…怖いよ…私、もうあんなの嫌だよ…」
「そう…でも大丈夫…今は怖くってもいいの…いつか絶対に大丈夫になる日がくるから…」
その日、私にまた友達ができた。
彼女は優しく笑いかけて私の心を癒してくれた。
心が、また息を吹き返したのだ。
そして彼女が治してくれたのは心だけではなかった。
私のドラゴン恐怖症もだ。
完全に治ったわけじゃないが絵なら大丈夫になった。
どれもこれも彼女のおかげ…
けれど彼女は私と友達になってから一月後に、引き取り手が見つかった。
そう、私はまた一人になってしまった。
さっちゃんが院を出ていく前の日の晩、それは月の綺麗な夜だった。
窓から差し込む月の光がさっちゃんの母親のような優しい笑顔を照らし出す。
「ねぇウサギちゃん、私がいなくなったのは私が幸運だったから。それはウサギちゃんのせいじゃないよ?だからね、ウサギちゃん?これからはみんなと仲良くしてね?ウサギちゃんは笑ってる顔が一番かわいいと思うんだ!たぶんお母さんもそれを願ってるよ」
「うん…」
「それにお母さんだけじゃなくて私も願ってるんだから!前みたいに暗い顔のウサギちゃんなんてもう見たくないよ…」
「さっちゃん…」
「それにウサギちゃんはみんなと仲良くできる才能があるんだから!過去なんかに負けないで!私も天国のみんなもずっとウサギちゃんを見てるからね、だからウサギちゃんは安心して笑顔で日々を過ごして」
それが彼女との最後の会話。
だから私は―
「あのねみんな…私と友達になって!」
勇気を出して、みんなにこういったのだ。
そう、私が取り戻したのは人とのかかわり。
何物にも代えがたい人とのつながりを。
だから私は、孤児院で出会ったユキにも声をかけた。
キョウヤを失った悲しみで誰にも心を開かなかった姿が、昔の私と被ったから。
だから私は、彼女の、さっちゃんのようになろうと思った。
彼女を救う存在になりたい、とー