「くっ…硬い!刃が通らない…!」
「そうですね…ボクのナイフも通りません…」
「ボクの…魔法も…ダメ…」
「私の弾丸もですわね…これじゃ倒せませんわ…どれもこれもあのチャラ男のせいですわ…あとで締め上げませんとね…」
おいおい、いつからマヨの中で俺はチャラ男になったんだ…
だが原因は俺にあることは確かだし…
いや、俺が何かしなくてもこいつはいずれこの手を出してきていたはずだ…
相手の奥の手を先に出させたということでプラスに見ていいのか…?
だがどちらにしてもこちらに不利な条件には変わりないな…
相手は無数に湧き上がる鋼鉄の人形、こっちは俺含め7人、その中には戦うことができないヒカリも含まれている。
数でも戦力でも圧倒的な不利、この状況、どうするか…
魔法も無理、剣も銃も通らない、そんな敵にどう対処すればいいのか…
「いや…諦めちゃダメだ…俺たちは必ず生きて帰りたいんだ!」
「ナイト…」
「そうですね、ナイトさんの言うとおりです…ボクたちはなんとしても生き延びて、ここから帰って日常を手に入れるんです!」
「そうですわね…どれだけ人を傷つけてもいいこちらもいいですけど…やはり平穏な方が好きですから…わたくしの平穏を脅かす奴は早く殺さねぇとな…」
「フフ、そんな希望だけでどうやって戦うのかしら?ガキがそんな夢見事言ってんじゃないよ!さぁ!あいつらを蹴散らして!」
ヒルデの一喝によりゴーレムの攻撃はさらに勢いを増した。
どこからそんな速度を出せるのかと思うぐらい不思議な位の速さだ。
ゴーレムは腕を振り上げ重く力強いパンチを繰り出す。
俺はそれをギリギリで避けがら空きになった背中に炎を撃ちこむ。
が、やはり硬さを増した敵には通用しなかった。
炎は虚しく霧散しすえた匂いだけを残しただけだった。
圧倒的不利な状況、だけど俺たちが希望を捨てない限り、必ず突破口は見つかるはずだ…!
「ねぇナイト…私のことを守って」
「は?ネム、いきなりどうした」
「私、突破口を思い付いたの」
にやりと笑い拡声器を構えるネム。
彼女がどんな策に出るかわからない、けれど俺は仲間を信用する。
みんなを守るために…
「ナイトはできるだけ私に近づいた敵を遠ざけて。ヨウも、お願いできる?」
「姉さんの頼みなんだ、断わるわけないだろ?」
「さっすがヨウ君だ!お姉ちゃん大好きだぞ!」
「そういうのは成功してから頼むよ」
「な、なぁなぁ、俺も参加してるんだから俺にも何かさ…」
「は?ナイトに?意味わかんないんだけど…ねーヨウ君」
「そうですね、確かにナイトさんには何も言うことはない。今だけは姉さんの意見に賛成です」
「お前ら…」
やっぱりこいつらの俺への扱いが不当すぎる気がする…
しかし今はそんなことをしている場合ではない…
俺は気分転換のためにもう一本煙草を取り出して火をつけた。
「けほ…ナイトさん、あんまり近くでタバコ吸わないでくださいよ…ボク煙草の煙嫌いなんですよ」
「す、スマン…けど、少しだけ…落ち着かせてくれ…」
ヨウは呆れたように顔を背ける。
俺はその間に大きく煙を吸い込んだ。
重量を帯びた煙が頭をくゆらせて気分を落ち着かせる…
「オーケイ…これでいけるぜ…俺は敵が近づかないように立ち回る、お前は万が一近付いてきた敵を薙ぎ払え、いいな?」
「わかりました、ナイトさん…それじゃ…行くよ姉さん!」
ネムは頷き大きく息を吸った。
そして拡声器を通じて大きな声を出した。
それは幼児の絶叫の様にも聞こえるほどの甲高い声、まるで耳が割れてしまいそうな感覚だ…
「ネム…お前、何を…」
「ちっ…煩い女ね…まずはその口を黙らせてあげるわ!」
大声を出したことによりすべての注目がネムについた。
「お姫様を守るのは楽じゃないってか」
「そう、みたいですね…」
俺達が敵と戦っている間もネムは叫ぶのをやめない。
初めの甲高い声には驚いたが更に高音を加えてくるネム。
ネムの異常なまでの声がオリジナルの拡声器を使い増幅されて周りへ放射される。
が、それもただの音波の波だ、ゴーレムを倒すまでの力は無い…
「もっと…もっと高い音を出さないと…すぅ…あぁーーーーーー!」
耳がキンとするほどの高い音。
それが洞窟の壁と共振してぐらぐらと辺りを揺らした。
「ネム…お前何がしたいんだよ…」
いや、待てよ…洞窟の壁の揺らめき、壁は土や岩、それはゴーレムを作り出すもの…まさか…
「あああああぁぁぁぁぁぁ!」
パリン…
ネムの絶叫と連動するようにゴーレムの身体にひびが入った。
それも一体だけではなくこの場にいるすべて。
ゴーレムはそのヒビからガラガラと崩れ落ちて瓦解した。
「な、なぜだ…どうして私の下僕たちが…!?あの硬さを敗れるはずない…!」
「共振って知ってる?」
「共振、だと…?」
「そう、昔流行った声でグラスを割るっていうあれと原理は同じ。特定以上の音波を流すと物体は震え、それが耐え切れなくなった瞬間、壊れてしまうの」
やはり、それが狙いだったか…
あの異常な高音は岩を砕くために…
ネムの異能とあの拡声器が無ければできなかった荒業だ。
いや、ネム自身の才能もかかわっているのかもしれない。
あのアイドルという、声で人を引き付ける特異な才能が…
「私の異能、歌姫【ディーヴァ】には出せない音はない、あなたがどれだけ硬い岩や鉱石を使ったところで私に勝ち目はないわ。諦めなさい」
そう言ってネムは拡声器をヒルデに向けた。
「諦めるわけないじゃない…ガキども!」
「そう…なら、ここで眠ってもらうわ」
ネムの冷たい声と同時に拡声器の引き金がひかれる。
拡声器にストックされていた音波はそのままヒルデを狙い打ちぬいた―