「やつだ…どうする…?」
「この距離じゃ逃げてもすぐに追いつかれますわ…この洞窟内は狭い、ですからそれを活かして戦うのはどうですの?」
「そう、だな…」
俺はいつものように虚空から愛用の剣を取り出してかまえる。
イリヤも深紅の鎌を取り出して戦闘態勢に入った。
「え…?な、なになに…?何がくるの?」
だがいまだに状況を分かっていないウサギは戸惑いきょろきょろとしている。
「ウサギ、ドラゴンだ」
「ど、ドラゴン…?いや…ドラゴン怖い…ねぇ…逃げようよ…隠れようよ…ね?今から逃げたら上手く撒けるかもしれないよ…?だからやめよ…ドラゴンと戦うなんて無理だよ…みんな、死んじゃう…」
ウサギはその場にへたり込み涙目でそう訴えかけてくる。
肩はがくがくと震えぎゅっと体を小さくかがめて、まるで小さい子供が身を守る時にするそれと同じだ。
「ダメだ、逃げられない。この距離だと安全地帯に逃げ込む前にやられる、それにイツキもいる、足をケガしたこいつを連れて逃げられるわけない…」
「ごめんね、ウサギちゃん…けど、裏を返せばこれは絶好のチャンスなんだよ?この狭い洞窟内だとアイツは身動きがとりにくいはず、だからまだ勝機は残ってる」
「けど!だからって絶対勝てる保証はないはずだよ…私たちみんな死んじゃうんだよ…アイツに殺されて…お母さんたちみたいに、生きたまま食べられて…うぅ…そんなのヤダぁ…!」
自分の身体をぎゅっと抱きしめて涙交じりの声で叫ぶウサギ、その言葉から痛いほどウサギの思いが伝わってきた。
「ウサギ!」
だけど今は逃げるわけにはいかないんだ…
逃げたら絶対後悔する。
だから…
「立て!立ち上がるんだ!いつまで怯えてるんだ!俺たちはアイツを倒さなきゃいけない…それにはウサギの力が必要なんだ!」
「倒せるわけないよ!あんな大きな奴…」
「無理だと思ってもやるんだ!俺たちが力を合わせれば…奇蹟だっておこせる!あとはウサギの勇気だけなんだ…怖いのはわかる、だけど、それを乗り越えなくちゃいけない時が必ずある…お前が無理だというなら俺はもう頼らない、俺達が食われるところをそこで怯えながら見ていろ!」
「そんなの…ヤダ!私の大事な人が食べられるなんて…見たくない!」
「だったら戦え!逃げるだけじゃ負ける運命は変えられない!抗って…精一杯抗ったやつが未来を作れるんだ…!俺たちはアイツを倒して生き残る未来を手に入れたい…なぁウサギ…お前の力は何のためにある…?」
「私の…力…?」
「お前の力は人を守るため、もう誰も奪われないためのモノだろう?だったら俺たちにその力を見せてくれよ…もう、俺たちの誰も失わないためによ。もちろん俺たちも力を貸す、みんなが生きて帰れる未来をつくるための…」
「キョウヤ…」
そのあと数秒の沈黙が続いた。
その沈黙の中、ウサギは何を思うのだろうか…
俺が言えることはすべていった、あとはウサギの心次第だ。
もし彼女の中にトラウマを乗り越える力があるなら、いや、必ず彼女はその力を持っている、それを発揮してくれるかどうかだ。
それが、俺たち全員の命を繋ぐ力なのだ。
精神的に弱っている彼女にそんな重たいことを期待している俺自身に吐き気もするが、でも今はそうするしかなかったのだ。
彼女の強さに、俺は賭ける―
「私は…」
洞窟にやけに響くウサギの声、一瞬言葉を飲んだのち彼女が口を開いた。
「私は、戦う!ドラゴンは怖いけど…戦う!私の大事な友達のために…戦う!」
力強い彼女の声、その声音にはまだ怯えが見えていたが迷いはなかった。
まっすぐで鋭い声に俺たちの意識は昂る。
「いくぞみんな!あいつを…倒せ!」