終焉ペレストロイカ   作:如月ライト

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悪夢は終わらない

ウサギの一発、それは天井を崩壊させるまでに至った。

壊れた天井からは光が漏れて俺たちの目を襲った。

久しぶりの太陽の光に目を細めてその奥をキッと見た。

天井の先、そこには森が広がっていた。

どうして森なのか…?

きっとそれは俺たちが入ってきた滝の上流の所なのだろう。

俺達が入ってきた滝が1Fとするならこちらは水が流れていた2F、もしくはそれ以上か…

何にしろ俺たちにはあまり関係のない事か…

「うっわぁ…すっごいよぉこれ…緑がいっぱいで…あ、あれ…?ここって…」

ウサギが驚きの声をあげて上を指差した。

「ここって…私たちがここに侵入するまでに通った森だ…」

ということは…俺たちは来た道を逆に進んできたっていうことか!?

はぁ…と俺はため息と同時に肩を落とした。

もちろん自身の推理が外れたからではない、逆走してきたという真相にだ。

「じゃあまた戻るか…」

「そう、ですわね…」

「はぁ…また戻るのかぁ…」

「これはこれで良かったんじゃない?だってこのまま知らずにセンパイが進んでたら後戻りってレベルじゃすまなくなってたかもよ?」

「確かに…」

「物事はポジティブにとったものが勝ち、ってね!だから先輩もポジティブにいきましょー!」

「ははは、そうだな」

イツキのやつ、自分が一番つらそうにしてるのにな…

一歩進むたびに足のけがが痛むのが表情から丸わかりだ…

だけど彼女は必死に俺たちを元気づけようとしてくれている。

その心遣いに、俺は目を潤ませた…

俺はイツキを肩に背負うと来た道を戻った。

 

「そうだ!キョウヤ!ウサギちゃん頑張ったよ!ご褒美はないの!?」

「は?なんだよ唐突に…」

「うぅ…私がアイツを倒したよね?だからご褒美が欲しいなぁ…」

いじらしそうな瞳で見上げるなよ…

「そうだなぁ…何が欲しい?さすがに今は店も何もないからあげられないけどさ…」

「ううん…今、キョウヤがあげれるものが欲しいの…」

ウサギは頬をピンク色に染めてもじもじとし始めた。

なんだなんだ…?もしかして…

「その…ね…ウサギちゃん…キョウヤのちゅーが欲しいなぁ…なんて」

ウサギは照れ臭そうに小声でそう言った。

「え…?なんで俺なんかの…」

「言ったでしょ…私キョウヤが本気で好き…今までも好きだったけど、やっと今本気で好きなんだってわかった…このキモチは誰にも譲りたくない、いいや、譲れない!もちろん…ユキにも…だからキョウヤ…私と…ちゅーしよ…?」

こ、こいつ…目が本気だ!?

今まで好き好き言ってたけどその時とは比べ物にならない重さがある…

まさか本気で俺のこと…?

そう意識した途端俺の中でウサギへの想いがすべてよみがえった。

それは俺の脳をぐつぐつと煮えぎらせ鼓動をバクバクと速まらせるには十分だった。

「ねぇ…お願い…キョウヤぁ…」

くそ…!上目づかいで泣きそうな声で、しかも甘ったるい声を出すな…!

ただでさえロリ顔で頼まれたら何でもやりたくなるような表情をしている彼女がこんなことをしてるんだ…

俺の精神の天秤は急速にキスへと傾いている。

(落ち着け俺!俺にはユキがいるだろ!?あ、でもユキは妹だからこれは浮気にはならない…?いやいや!俺にはユキしかいないんだ!ゴメンなユキ…一瞬でもウサギとのキスを考えた兄ちゃんを許してくれ…!)

「ねぇキョウヤぁ…」

「くっ…」

俺は…俺はぁ…!

「ねぇお兄様…」

「な、なんだイリヤ!?」

俺が心の中で激しい葛藤を繰り広げている最中、イリヤは唐突に俺をよんだ。

それは救いの船のようで俺は必死にイリヤの話に食いつくことにした。

「なんだか…音が聞こえません?ドドドド、という何か大きな獣が走るみたいな音ですわ…」

「音…?」

俺も耳を澄ませてみる、確かに大きな音が聞こえなくもない…

その瞬間俺の心に嫌な想像が浮かんだ。

(いや、まさか…こんなことありえない…だってアイツは下敷に…!…いや、俺たちのうちの誰か一人でも姿態を確認したか…?)

だんだんと近づいてくる音に俺は冷や汗が止まらない。

後ろを振り返ろうとするが首が固まったように動こうとしない。

本能が後ろを向くことを拒んでいるようだ。

「イリヤ…まさか…」

「えぇ…その、まさかですわ…」

俺はぎゅっと力を込めて後ろを向いた。

そこにいたのは…

「やつだ…アイツは死んでなんていなかった…」

真っ白な体に血の赤をにじませながらも四足でこちらに走ってくるドラゴンがいた。

羽はぐちゃぐちゃになっていて飛べないのでまるでサイが突進してくるような感じでこちらまで追いついてきた、というべきか…

血が噴き出しながらもなおも俺たちに向かって突進してくるその姿は鬼気迫るものがある。

俺たちは、あんな化物を相手にしようとしていたのかよ…

「ダメだ!逃げるぞ!俺たちには勝ち目なんかない!」

「キョ、キョウヤ!?さっきは逃げちゃ絶対に勝てないって…」

「そんなの言ってられる相手じゃないだろ!?ウサギの銃で撃たれても、岩に下敷にされても生きてるんだ!俺達4人がどうこうして勝てるわけがない!いや、みんなと再会しても無理かもしれない…とにかく逃げるぞ!」

俺はイツキを背負って全力で走る。

ウサギもイリヤも危機的状況から全力で逃げているが、やつの速度は速い…

だんだんと俺たちの距離が近づいてきている。

それに俺とウサギたちの距離もだんだんと離れてきていた。

イツキを担いでる俺がアイツらより遅れているのだ…

「センパイ!このままじゃ死んじゃう!だから私を下ろして!」

「ダメだ!死ぬ気かイツキ!?」

「私はこの力があるから防げる!その間に先輩だけでも逃げて!」

例えイツキの力があったとしてもこいつの猛進を止めるのは難しいはずだ…

「俺たち全員生きて帰るんだろ!?だったら…」

「一番生きなきゃいけないのは先輩だよ!」

「え…?」

「センパイにはユキちゃんがいるでしょ!?あの娘は先輩がいないと壊れちゃう弱い娘なの…あの娘にはお兄ちゃんであるセンパイが必要なの!もしここで私と一緒に先輩まで死んじゃったら…もうあの娘、壊れるだけじゃすまないよ…?」

俺の中でユキの姿が思い浮かんだ。

俺にべったりで俺がいないとだめな脆い妹の姿が…

くそ…!いくら妹のためとはいえイツキを犠牲になんて…!

「センパイ…大丈夫…センパイが気に病む必要なんてないの…私が、センパイの背中にちゃんとついていけなかった、ただ、それだけ…」

イツキのその言葉と同時に俺の背中が軽くなる。

それはイツキが自ら飛び降りたのを意味していた。

「イツキ!」

「センパイ!今までありがとね…サヨナラ…」

「イツキぃ!」

振り返りイツキを助けようとした、けれどそれは俺の手を握った少女によって拒まれた。

「イリヤ!離せ!俺はイツキを…イツキを…!」

俺の絶叫も虚しくイリヤは無言で俺を引っ張っていった…

 

 

「センパイ…ゴメンね…誰もかけて欲しくないってセンパイの願い、かなわなくしちゃって…」

センパイに聞こえていないとわかっていてもそう呟かずにはいられなかった。

私は自身の足を睨みつけた。

縫合してくれたがそれはもう解れて血がドクドクと漏れ出してびりびりとした痛みが襲ってきている足。

センパイ達は戻れば助かるって言ってるけどそれはただの気休めだ、自分の足の事は自分がよくわかっている。

もう私の足は助からない、それに足から細菌が入ったのか時折めまいのように意識がフッと飛ぶことがある。

こんなんじゃもう生きてかえるなんて夢のまた夢だ。

お荷物になるならせめてここでみんなの役に立って死にたいんだ…

けれど、何でだろう…

「死ぬ覚悟はできたのに…涙が止まらない…」

必死に私の名を叫ぶセンパイが遠くに感じる。

私たち姉妹のことをちゃんとわかってくれたセンパイ…優しくてカッコよくて、私をキラと区別して接してくれたセンパイ…

私はそんな先輩に…恋をしていた…

「センパイ…大好きでした…私もキス…してみたかったなぁ…」

最後に先輩に告白したかった、私の想いを知ってほしかった。

けれどセンパイは優しいから私の想いを知ればまた苦しんでしまう。

だから私は告白するのをやめたのだ…

それは意気地がなかった私の言い訳かもしれない、けれど後悔したってもう遅い…

「はぁ…最後にもう一度…キラにあいたかったなぁ…ずっと私と運命を共にしてきた、最愛の妹に…」

目の前に迫るのはドラゴンの大きな咢…

もしここがマンガの世界ならキラが飛んできて助けてくれるところ…

けれど現実はマンガのように都合のいいわけじゃない。

だから私は一度目を閉じて涙を殺した…

「完全防御【パーフェクトガードナー】…最高出力…!展開!」

私の持てるすべての力を解き放ち…能力を発動する!

身体の奥から湧き上がる何かに身を任せて、私は今までの最大の力を発揮する。

ドラゴンのあごが私の身体を貫こうと迫る。

あごが私の身体に触れる、だが私の異能によってその攻撃は入らない。

「くっ…重い…!」

ギリギリとドラゴンの牙が私の身体を貫かんと威力を増して迫ってくる。

威力を増した異能でもこれか…

さすがの私も、無理か…

センパイはもう逃げてるかな…

だったら私の役目はもう終わりかな…

じりじりと私の身体に食い込んでくる牙、それに耐えうる手段は、もうない…

「ごめんね、みんな…ゴメンね、センパイ…ゴメンね、キラ…」

私の目の前に迫ったのは死―

だけど不思議とそれは怖くなくて…

「イツキー!」

最後に先輩が私を呼ぶ声だけが聞こえてきた…

 

 

「イツキー!」

「お兄様ダメです!これ以上振り返っちゃ…!」

ギリギリとドラゴンに食い殺されそうになっているイツキ。

それを助けようと足掻くけどイリヤがそれを邪魔をする。

結局俺は何もできないのか…!

「お兄様!もう…振りかえらないで…」

グイッとイリヤが俺の頭を前に向かせる。

その瞬間ちらりと視界に入ったのは…真っ赤な色―

それは血の色―

そう、それが意味するのは、イツキの死ー

「イツキ…イツキぃ!」

何もできなかった俺はただその場から全力で逃げるしかできなかった―

 

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