私の叫び声も奥底に眠るお兄ちゃんの心には届かなかった。
悪魔はまるで幼子がオモチャを飽きて捨てるように、仮面の男を地面に無造作に投げ捨てた。
ぐしゃり、とかつて人だったものが地面にぶつかった。
その瞬間彼の身体に突き刺さっていた剣はすべて闇へと霧散して消えた。
残るは醜い肉片のみだった…
そんなものには興味を示さないという風に悪魔はそれを踏みつけて歩き出した。
そして壁の一点を見つめると不意にそこに手をかざした。
何をするのだろうか、そう思ってい見つめていると悪魔は手から炎のようなものをはきだした。
真っ黒な炎がボン!と爆発を引き起こし壁を破壊した。
何故そんなことをするのか、そんな私の疑問はすぐに解決された。
壁の奥に部屋があったのだ。
その部屋には玉座が一つありそこに太った中年ぐらいの男が座っていた。
いや、頭を抱えて迫ってくる何かに怯えたように、座っていた…
「ひぃっ!?」
たぶんアイツがこの国の王なんだろう…
けれど王の威厳というかそういうものは何一つなくて、あいつにあるのはただの腰ぬけ、それだけだった。
何故あんな奴が戦争を仕掛けようとしたのか、それになぜここまで私達を誘ったのだろうか?
この国の戦力ならば私たちがここに来るまでに殺せていたはずだ。
今までの戦いはまるで、何かを待っていたかのように思われた…
まさかこの王様が?と思ったがその疑問は彼の怯えた態度を見て一瞬で吹き飛んだ。
「コ…ろ…す…」
悪魔が小さくそうつぶやき王の元へと飛び込んでいく。
手に握られたのは暗黒の剣、悪魔は彼を殺すつもりなんだ…
「やめろキョウヤ!あいつを殺しちゃいけない!」
王を殺そうとしていた悪魔を止めたのは、ナイトだった。
ナイトはぎゅっと悪魔の身体を抱きしめて身動きを封じたのだ。
「あいつを殺してもまた争いが増えるだけだ…アイツに停戦を宣言してもらう、そのためには殺しちゃダメなんだ…!」
確かにナイトの言うとおり今ここで王を殺せば私たちは青の国から集中砲火を受ける。
いや、それどころか周りの国全てを敵に回すかもしれない。
それだけはダメだ…
これ以上戦いを増やせば…仲間がまた傷ついてしまう…死んでしまう…!
「そうだよ!やめて…お兄ちゃん…!お願いだから…帰ってきてよぉ!」
「うぐおぉぉぉぉ!」
必死にもがき叫び声をあげる悪魔。
けれどその瞳には涙があふれていた。
そしてそれはつつぅと頬を垂れて地面にポタリと雫を落とした。
その瞬間だった、まるでスイッチを切ったかのように悪魔、いや、お兄ちゃんはその場に崩れ落ちたのだ。
その表情はまるで眠っているかのように穏やかなモノだった。
何事かもわからずに戸惑っている私の耳にきぃと少し寂れた音が聞こえた。
「彼のその力はどうやら異能だったみたいだな」
そしてまた聞きなれた声、それにふりむくとそこには青の番犬の一人、霧雨翔だった。
彼が連れているのはあの車椅子に縛られた囚人のような存在だった。
異能を全て打ち消すことができるという最悪な能力を持っている存在…
まさか、あいつらがお兄ちゃんを助けてくれた…?
「勘違いするなよ。俺は彼を助けたんじゃない。このままじゃ王様が殺されそうだったからな」
私の考えを読み取ったかのようにショウがそう言った。
「さぁ、最終戦を始めようか!お前らは俺がここで殺す!」
「ショウ…俺は仲間たちをもうこれ以上殺されないように…戦う!」
「ほう…ケントが相手か…いいぜ、かかってきなよ…!お前が戦う理由があるように、俺にも戦う理由がある…俺も仲間が殺されてるんだ…その仇討ぐらいさせてくれよ…邪魔されても困るからな、お前ら!」
ショウの掛け声とともにどこからわいて出たのか多数の兵士が姿を現した。
皆手に武器を持ち戦闘態勢だ。
「あいつらがほかの奴らと戦っている間に俺達は決着をつけようぜ…いくぞケント!」