「ん…こ、ここは…?」
目を覚ますと俺は真っ白な部屋にいた。
どこか鼻にツンとする匂い、これはきっと薬の匂いだろう…
それに体中に付けられた包帯やらが否応なくここを病院だと理解させた。
「ん?病院…?なんで…」
確か俺たちは青の国に攻めていって、それで長い廊下にたどり着いて、そこでユキが…
「ユキ!?」
「んっ…すぅ…むにゃぁ…お兄ちゃぁん…」
ベッドの横から聞こえるききなれた声に俺は目を向けた。
そこにはベッドの脇に頬をつき眠りこけているユキの姿があった。
「よかった…」
見た感じケガなどないようで何よりだ…
「ユキ…」
俺は眠っている彼女の頬をぷにぃと引っ張った。
うにゅぅと小さく声を発したがどうやら相当眠りが深いようで起きるまでには至らなかった。
「…ってこいつよだれ…」
口の端からは透明なよだれが垂れてベッドに小さなシミを作っていた。
俺は指で妹の口周りをぬぐってやった。
少しぬるっとした唾液が指に絡みつく…
ただ妹がたらしたよだれを拭いてあげただけなのに、なんだこの背徳感は…!?
それにユキのよだれ、ちょっとあったかいし…
窓からこぼれ落ちる月の光に照らされた唾液はテラテラと色めかしく輝いていて…
ゴクリ、と喉が鳴る。
俺はゆっくりと自分の指を口元へと近づけ…
「ふぅ…何でここ自動販売機が近くに無いの!?おかげで帰ってくるまでにまた喉かわいちゃったよ!まったくもう…ん?あれ?キョウヤ…?」
不意にあけられたドアから入ってくる騒がしい奴、ウサギにびくりと肩を震わせた。
あ、あぶねぇ…このままこいつが入ってこなかったら妹のよだれを舐める変態野郎に…
「キョウヤぁ!よかったぁ…生きてたぁ…」
「うわ…飛びついてくんな…!」
思いっきりベッドにダイブしてきたウサギ。
彼女はまるでずっとまてをされていた後にじゃれていい許可をもらった犬のように俺の身体に思いっきりじゃれついてきた。
あの…ウサギさん…おっぱい…あたってますよ…
「うわぁん…よかったよぉ…キョウヤぁ…」
「もしかして…俺が眠っている間にけっこう時間たった?」
「うん…4時間くらい…」
「たったの4時間かよ!」
それでここまでの大騒ぎっていうのもなぁ…
まぁでも、あんまり悪い気はしないし、いいか…
結局俺がすべての事実を知ったのは朝になってからだ。
夜はウサギが騒がしすぎてユキも起きてきてまた俺を取り合うことに…
で、朝方になってみんながやってきて全て終わったという話を聞いたんだ。
青の国の王様が停戦要求をのみ(脅迫してだが)戦いが止まったこと、俺が突然豹変したが意識を失ったこと、その治療のため一時的に青の国の病院に診てもらったこと、そして青の国が帰りの船を出してくれること…
(なんか今回俺の出番すくなかったなぁ…)
内心ではこの戦いを最後まで見届けたかったんだが…まぁ解決したし万事オーケイかな?
「ふぅ…もうこの国ともお別れか…」
太陽がギンギンと照らす砂浜、俺は後ろを振り返り今までのことを思い出していた。
「いろんなことがあったよな…」
「うん、そうだね…お兄ちゃんとケンカしたり…そういえばお兄ちゃんとケンカするのってこれが初めてなんだよ」
「え?そうなのか?」
てっきり記憶を失う前の俺と何回か喧嘩してるのかと思ってたんだけど…
「お兄ちゃんって昔っから相当なシスコンだったから私の事が可愛くって怒るに怒れなかったんだと思うよ?」
「あ、わたくしもケンカしたことありませんでしたわ…お兄様は甘々でしたもの。やっぱりシスコンですわね」
昔の俺ってそんなに甘々だったのか…
てかシスコン言うな…
「いろんな出会いがあったよなぁ…」
ケントがレイヤの頭をポンと撫でながらしみじみとそうつぶやいた。
「だなぁ…俺がいない間にいろんな子が増えてて…グヘヘ眼福眼福…ぐえ!」
「ナイトキモいです…ドン引きです…」
「だからって鳩尾はやめろよ…」
悶絶するナイトの横でサクヤがしみじみと呟いた。
「でも、別れもいっぱいあったよね…もう、みんなと会えないんだよね…ユラ…」
「うん…お姉ちゃん…もう一回…逢いたかったよぉ…」
ぐすりと涙を流すキラ…
確かに俺たちは失ったものが多すぎた…
欠けた4人の仲間は俺たちの心に4人分以上の大きな穴をあけていた。
俺は青の国を背に船に乗り込もうとした。
その瞬間、後ろから声がかかった。
「何か忘れてない?センパイ」
「え…?」
今、聞きなれた声が、聞こえた気がした…
俺は隣のキラに顔を向ける。
彼女も声が聞こえたようで不思議そうな顔で俺を覗いていた。
「お~い…聞こえてないの?私だよ~!」
「これって…」
「うん、センパイ…お姉ちゃんの声だよ!」
後ろを振り向くと、そこには死んだはずのイツキがいた…
体中を乾いた血で赤に染めて、痛々しげに足を引きずっているけど、あれは確かにイツキだ…
幽霊かと思い周りの反応をうかがうがどうやらみんな見えているらしく涙にむせぶものや喜びに歓喜するものが見て取れた。
「お姉ちゃん!」
真っ先にイツキに向かっていったのはキラだった。
砂浜に足を取られながらもイツキの元へ走っていったキラはぎゅっと双子の姉に抱きついた。
「お姉ちゃん…!お姉ちゃん…!生きててよかったよぉ…!」
「ごめんねキラ…寂しかったよね…」
「うん…でもお姉ちゃんが帰ってきてくれたから、もう大丈夫だよ…」
感動の再会を果たした双子に俺たちは涙を隠すことができなかった…
「で、何でお前生きてるんだ?あの時喰われたはずじゃ…」
船上、母国オシリスへと帰る途中、俺はイツキに尋ねた。
確かにイツキはエンドに食われたはずだ…
血が吹き飛んでいたことからもそれはわかる。
「うん…私もあの時死んだかなぁって思ったんだけど…どうやら助けてくれた子がいたの」
「誰が?」
「誰っていうか…人じゃないの…私、ペガサスに助けられたみたい」
「は?ペガサス?」
「もしかして、足に包帯が巻いてあった子?」
「え!?なんで知ってるのキラ!?」
「センパイ、あの子だよ…あの子が、お姉ちゃんを助けたんだ…」
王宮へ行く途中森で見つけたペガサスか…
確かにアイツは俺たちに恩を感じてたみたいだけど…
だからって自分の身を挺するなんて…
「お兄様、ペガサスは高潔な生き物なんですの。恩を感じたら自分の身を犠牲にしてでもその恩を返す、それほどまでに心優しく義理堅い生き物なんですの…」
「あ、その子ちゃんと生きてるよ」
『え?』
今の話の流れからだとてっきりかばって死んだのかと思ってたんだけど…
「ギリギリのところで私をかばってくれてね、確かに傷ついていっぱい血が出てきてたけどすぐにその子のお母さん?みたいなペガサスが来て治療してね」
「確かペガサスの血には治癒能力があったはずですの…」
おいおいマジかよ…何でもアリだな…
「で、私もちょっと攻撃を受けて気を失っちゃったんだけどずっと私を守る様に介抱してくれててね、で、さっきここまで送ってもらったの」
「なるほどなぁ…」
まるで夢物語のようにできすぎている気がするが今はそんなのどうでもよかった。
ただイツキが帰ってきてくれたのがうれしかったから…
「でもなんで私助かったんだろ?私ペガサスに恩をうったつもりはないのに…」
「あ、多分それ私かも…」
控えめにキラが手を挙げた。
まさか…
「あの子、私とイツキを間違えたのかも…」
やっぱりかぁ…
確かに初対面だと双子だってわかんないもんなぁ…
まぁそのおかげで助かったんだし…数えきれない偶然と奇蹟の産物に俺は感謝せざるを得なかった…
「お兄ちゃん!もうすぐ着くよ!」
「うえぇぇぇ…早く…早く陸に上がりたいよぉ…」
「う、ウサギ!?ゲロ吐きながらあがってくるなって!」
あれだけの大きな戦いを経た俺たちだったが結局最後の最後まで締まらなかった…
To be continued...