「みんなおはよ~」
チャイムの音と同時にガラガラと教室の扉を開けて入ってきたのは担任のタマキ先生だ。
ゆるゆるとした声は相変わらずである。
この女教師は見た目もそうだが話し方もおっとりふんわりしていてなんだか教師という雰囲気を醸し出せていない。
強いて言えばちょっと歳の離れたお姉さん的なポジションだ。
だからかこのくせのあるクラスメイトたちにも好かれている。
かくいう俺も教師の中では断トツの好感度を誇る先生だなと思っている。
「みんなそろってるかなぁ?」
クラスの出席名簿と照らし合わせながらみんなの顔を見ていく先生。
だけどその顔はどこか寂しそうだった。
そりゃそうだろうな…クラスの半数以上がリタイアだもんな…
と、俺の目にふと一つの空席が目についた。
それはイツキの席だった。
(あいつ、まだ病院なのか…)
あの戦いで何とか生き残った彼女だが帰還したと同時にばたりと倒れてしまったのだ。
そしてそのまま病院へ搬送、緊急手術を受けてそのまま集中治療室へと運ばれた。
みんなでお見舞いに行ったのだが面会謝絶、たとえそれが双子の妹であるキラでさえ会うことができなかったのだ。
結局彼女がどうなったのかわからず今に至るわけだが…
と、俺がそんな考えを巡らせていると不意に教室の扉が開いた。
「先生!遅れてすいません…どうにもこれになれなくて…」
唐突に開かれた扉から入ってきたのは、イツキだった。
だけど彼女は車いすに乗っていた。
「んしょ…んしょ…」
一生懸命に車椅子を自分で押し進めてイツキは自分の席へと付いた。
「ごめんね、みんな…私のせいで授業中断しちゃったでしょ?」
「いや、そんなことはないけど…お前こそ大丈夫なのか?ずっと病院で、それに面会謝絶って…」
よっぽど深刻な症状だったんじゃないのかと思ったけどイツキは予想外にあっけらかんとこう答えた。
「この足の傷からばい菌が入ったみたいで2日前まで高熱がひかなかったんだ…けど今は熱も下がって元気だから何も心配しなくていいよ、センパイ!」
俺はほっと胸をなでおろしたがどうやら彼女は限界だったみたいだ。
さっきからプルプルと震えていた彼女、キラは我慢の限界といわんばかりに姉に抱きついた。
「うぅ…お姉ちゃぁん!」
「もう…キラったら…心配しなくてもいいって言ったのに…」
「だって…だってぇ…!急に車いすに乗ってくるんだもん…ビックリしちゃったじゃん…」
「ごめんね、キラ…でも仕方ないの…私、もう歩けないから…」
そう言って寂しそうに自分の足をさすったイツキ。
「あの時むちゃしすぎたせいかな…もう治らないって…だからキラ、お世話してくれる?」
けどキラを心配させるわけにはいかないというお姉ちゃんの配慮はまさにイツキらしい…
(あの時、俺がイツキを助けられていれば…)
今更後悔しても遅いのはわかってる、わかっているが…
「あの~…みんな~授業始めたいんだけど~…」
「あ、ごめんなさい先生!ほら、キラ…先生が授業できないって困ってるよ?ちゃんと席に戻って、ね?」
「うん…」
不服そうだったが大好きな姉の頼みじゃ仕方ないという風にキラはゆっくりと自分の席へと戻った。
「さて…みんなに嬉しいニュースがありま~す!それは…明後日からバカンスですよ!」
授業終わり、突然担任から告げられたことに俺たちはぽかんとするしかなかった。
突然バカンスといわれましても…
「あれれ?みんなうれしくないの?」
「いや、嬉しくない訳じゃないんだけど…何で急に?」
「ほら、もう夏だから」
いや、夏だからって理由は浅すぎるだろ…
「先生!おやつは…!おやつは何円までですか!?」
「バナナはおやつに入るの!?リンゴは!?イチゴは!?」
不審に思ってる俺とは対照的にケントとウサギはノリノリであった。
てかその質問はテンプレ過ぎてもう飽きたぞ…
「お前ら!そんなことより重要なことがあるんじゃあないのかい?」
「な、なんかナイトが真剣です…ちょっとキモいです…」
「な!?お、俺がキモいって…いや、それはあとでいい。そんなことより重要なのは…行き先だ!バカンスといってもこの国にはそんなところはないんじゃないか!?」
結局ナイトもノリノリであった…
「みんなには青の国に行ってもらいま~す!」
瞬間皆の顔に緊張が走る。
バカンスという名の戦いに行かないといけないんじゃないか…!?
「あ、大丈夫!みんなが思ってるようなことはしないから!ホントに遊びに行ってもらうだけ!…ただちょ~っとあっちの国の事情を探ってもらうだけだから」
「事情?」
「そう、青の国が戦いをおこしたのは国民を人質にされたから、っていう理由はみんな知ってるよね?その戦争を起こした首謀者が次は何を起こすか、想像できるよね?そう、次は戦いをやめた国への報復、だから私たちはその監視と対応策をたてること。あ、でもそれもほとんどしなくていいからね、あっちには先遣隊で憲兵を送っておいたから」
なるほど…俺たちは遊びという名目でカモフラージュされた憲兵、というわけか…
それに相手にとっては俺たちも計画を壊した憎むべき相手だもんな…
「結局私達はエサとして送り込まれるわけね…」
「もう…そんな言い方しないでよ、サクヤさん。ちゃんとボディガード兼現地ガイドも雇ってるから心配しないで、ね?」
なんだかんだで、俺たちの青の国バカンス作戦は決行されることとなった。