「疲れたぁ…!なんか冷たい飲み物くれよぉ!」
「あ!私も!」
存分に海ではしゃいでいたケント、ウサギを筆頭にみんなが帰ってくる。
もう日も傾いてきて熱気も収まってきたころだ。
空もだんだんオレンジに染まりもうすぐ夜の帳が降りる頃だ。
「センパイ、そこに冷やしたジュース入れてるからみんなに持って行ってあげて」
「はいよ~」
大きな水槽のようなケースに水と氷が張ってある。
その中に缶ジュースが大量に入れられていた。
お祭りなどでよく見かけるあれである。
律儀にも台車に載せてくれていたので運ぶのは楽だった。
「俺コーラ!…うひょぉ!冷たい水が焼けた肌に染みるぜぇ…」
真っ先にケントが水の中に手を突っ込み缶を取った。
「あぁ…ありがてぇ…キンッキンに冷えてやがる…!ごく…ごく…ぷはぁ!ウマすぎる!犯罪的だ!」
まるで地下労働の果てに久しぶりにビールを飲んだ人のようなリアクションだ…
それだけ喉が渇いていたということだろうか?
「おにぎりもいっぱい作ったから食べてね!」
レイヤに車いすを押されながらイツキが大皿いっぱいにのせられたおにぎりを持ってくる。
「わーい!お腹空いてたんだぁ。お兄ちゃんも食べよ?」
「あ、あぁ…」
実のところ少しつまみ食いさせてもらってあまりお腹が空いていないというのは言えないな…
だんだんとテラスにざわつきが増える。
みんなの顔に笑顔が咲いていた。
「これはバーベキュー用のお肉ね」
「お、肉まで用意してくれてるとは有り難いな…早く焼こうぜ!」
ナイトが率先して肉を焼いてみんながそれを食べる。
冷たい飲み物においしいお肉、これこそ夏だよな!
「お兄様、ちょっといいですか?」
「ん?なんだイリヤ?」
「イツキの事なんですの…あれから発作を起こしてないからとりあえずは安心ですの」
「ならいいんじゃないか?」
「ええ…ですがもうちょっと様子を見ないとわかりませんの」
「あぁ、なら頼んだぞ」
一応今のところ安心ということで俺はほっと胸をなでおろした。
イツキもああやって楽しくやってることだしムリしているようには見えない。
俺の思い過ごしだといいんだけどな…
「ふはぁ…食った食ったぁ…」
「ケントは食べすぎです!マリナのお肉まで食べちゃったです…」
「ははは、ごめんって」
「許せないです!お肉の恨みは重いのです!」
お腹いっぱいになったみんなは個々それぞれ思い思いの時間を過ごしていた。
俺も大きくなったおなかをさすりながらテラスの一角に陣取り海を眺めていた。
もうすでに空は暗く染まり星がキラキラと輝きだしていた。
夜空に輝く星々が海面にも映ってとても綺麗だ。
「お兄ちゃん、どうしたの?海ばっかり眺めて」
「いや…綺麗だなぁって思ってさ」
「そっか…」
ユキも隣に来て二人でぼぉっと海を眺める。
ざざぁと波の音が心地よいBGMとして俺の耳に流れ込んでくる。
「お兄ちゃん、花火、しよっか?」
「二人でか?」
「お兄ちゃんと二人っきりのほうが…なんだかロマンチックな気がするの…」
「そ、そうか…」
そしてユキから花火を受け取り火をつける。
ぱちぱちと燃えるそれは線香花火だった。
「もうちょっと派手なのじゃないのか?」
「う~ん…派手なのも好きなんだけどさ、こっちの方が好きなんだ。儚いけど、必死に頑張ってるところが可愛くって好き…」
ぱちぱちと小さな火花をあげながら儚げな光を放っていく。
一瞬強くなったかと思ったら次の瞬間にはぽとりと地面に落ちて消えてなくなった。
「お兄ちゃんへたくそだなぁ」
二人で笑いながら次々と線香花火に火をともしていく。
「ねぇお兄ちゃん…」
「ん…?」
小さな線香花火の光に照らされたユキの横顔をちらりと見た。
「私ね、お兄ちゃんが好き…」
「なんだ、改まって…」
「だって…好きって言えるのはこうして幸せな時だけなんだもん…いつ大好きな人がいなくなるかわかんないんだよ?だったら今こうしてるときにさ、ちゃんと好きってことを伝えようと思ったの…大事な人に好きって伝えられずに死んじゃったみんなの分もさ…」
ポトリ、と火花が落ちて真っ暗になる。
今ユキがどういう顔をしているのかは暗くてわからない。
頬を染めているのか、それとも少し泣きそうな顔をしているのか…
だけれどそんなのどちらでもよかった。
俺の心臓はバクバクと高鳴りユキがとても愛おしい存在に見えてくる。
「ユキ…俺も、好きだ…」
「うん、知ってる…けど、嬉しい…」
ぎゅっと何か柔らかいものが抱き着いてきた。
それがユキだと把握するのに数刻の間もいらなかった。
柔らかで少しほっそりとしたユキの身体からドクンドクンと心臓の鼓動が聞こえる。
それが俺と同じような周波でドクンドクンと脈打っていた…