先鋒にレイを送って数時間、俺の予想とは裏腹にあっという間に彼は帰ってきた。
「おい…ここの警備は驚くほどザルだ…」
「マジで?」
「あぁ…警備の人間なんて数えられるぐらいしかいなかった。しかも装備も機関銃を持っている位だ。これなら脅威にもならないんじゃないか?」
レイがニヤリと笑いそう伝える。
「罠という可能性は?」
「いや、罠ではないだろう…罠を仕掛けるとすればこの廃工場自体だと俺は思う」
「なるほどな」
それにこんな回りくどいトラップを仕掛けるメリットも銀の国にはないだろう。
「よし、わかった。で、敵兵の配置は?」
「それも確認済みだ」
レイは懐から紙を取り出した。
どうやらそれは彼のお手製の地図らしい。
移動しながら作ったのだろうか。
「大雑把な見取り図だがな、これで兵士の配置もわかるだろう」
「いや、これだけでも十分助かる」
ありがたいことに兵士の巡回パターンまでしるされているその地図を頭の中に叩き込む。
「それじゃいってくるよ」
「待って、ナイト」
「サクヤ?どうした?」
「何かあればすぐに連絡してね?あなた少し突っ走り過ぎちゃうと気があるから…あと潜入は夜になる前に帰ってくること」
「なんでだ?」
「なんでって…そりゃ私達に報告することもあるでしょう?それに長時間の潜入は見つかりやすくなるわよ?」
サクヤが心配そうにそう言ってくる。
こいつは昔っから心配性だったな。
だけどその心配性があったから俺たちはこうして今まで生き残っているわけだが。
「あぁ、わかった。それじゃ俺が帰ってくるまでに飯作っておいてくれよ、腹ペコで帰ってくるからさ」
「わかった、おいしいご飯用意してるね!」
俺は軽口で返事を返して工場への潜入を試みた。
「おいおい…ほんとにザルじゃねぇか…」
俺は裏口の一角、通気口から潜入して数十分が経過していた。
だけどその間敵にも遭わないし異常が起こることもなかった。
不気味なほどの静寂が薄暗い工場内を包み込んでいる。
壁沿いに歩いてゆっくりと進んでいく。
足音を立てないようにゆっくりとゆっくりと…
「まずは一人確保しておかないとな…」
レイの調査によるとこの先に兵士がいる、しかも一人だ。
俺は壁から顔を出して先を見る。
そこには兵士が一人、つまらなさそうにあくびをしながらうろうろしていた。
俺が潜入していることなど知らないで楽なもんだ…
俺はポケットから手のひらサイズの石を取り出した。
潜入する前に拾っておいたものだ。
それをポイ、と俺の対面上に投げる。
石が工場内の床に落ちてかこん、という音を立てて転がった。
「な、なんだ!?」
気を抜いていた兵士はびくりと肩を震わせて音のした方へ向かってくる。
面白いぐらいに俺の計算通りだ。
だんだんとこちら側に来る兵士、だけどその視線は俺が隠れている壁とは反対方向に向いていた。
(今だ…!)
ちょうど俺が飛びかかれる距離についたとき、グイッと足に力を入れて飛び込んだ。
俺の方など向いてもいなかった兵士は簡単に俺の拘束の前になす術もなくなった。
身体を地面に抑えつけて首元にナイフを突き立てる。
「さぁ…喋ってもらおうか…この工場で何を作っているのかをな…じゃないとお前、死ぬぞ?」
首元のナイフをきらりと反射させて兵士を脅す。
彼はひっと小さな悲鳴を上げて口を開いた。
「お、俺は…何も知らない…」
「本当か?ウソをついても死んでもらうぞ?」
「う、嘘じゃない!本当だ!俺はただ雇われただけなんだ…!」
「雇われた?誰に?」
「そ、それもよくわからないんだ…なんせ依頼主は真っ黒なフードをかぶって顔を隠していたんだからな…素顔なんてわからないし、しかも名乗ってもいなかった」
「そんな怪しい奴の依頼を受けたのか?」
「あぁ…報酬金がよかったからな…ここで一日監視していれば一月は遊んで暮らせるぐらいの金が入るからな」
結局金か…
俺ははぁとため息をついた。
けれど体の力は抜かずに、さらにぎゅっと力を入れて彼をとらえた。
「それじゃ質問を変えよう…この工場で一番重要な場所はどこだ?どうせ雇い主から聞いてるんだろう?ここだけは絶対に守ってくれって言うのをさ…」
「ちゅ、中央の…モニタールームだ!」
「は?モニタールーム?」
「あぁ…だけどモニタールームというのは名前だけだ…今は機能もしていない…だけどあの中では何かが行われているらしいんだ…俺のほかに入った奴がそう言ってた…」
使われていないモニタールームで何が…
だんだんきな臭くなってきたな…
「よし、わかった。ありがとう」
「じゃあ俺は助けて…」
「あぁ、助けてやるとも…けどいったん眠ってな!」
力任せに頭をがんっと殴ると彼は一瞬で伸びてしまった。
力なくぐったりと気絶した彼を引きずって人目のつかないロッカールームに連れていく。
そこで彼の衣服を脱がしてロッカーにぶち込んだ。
「サイズは…うん、ぴったりだ」
俺は奪った衣装を身にまとい今度は堂々と工場内を歩いた。
さっきの兵士の口ぶりからするとここで雇われた兵士はお互いの素性を知らないはずだ。
だからこうして見た目だけを同じにしていればばれることはない。
案の定俺の考えは当たっていたようで廊下で数人の兵士とすれ違ったが何も言われることなく通過することができた。
「さて…例のモニタールームについたが…どうするか…」
モニタールームの少し先に俺は身を潜めてその部屋の入り口を監視する。
入り口には二人の兵士、それをどうやって退かすかだ。
俺は頭の中でいろいろな考えを巡らせて一つの答えを見つけ出した。
「お、おい!侵入者だ!侵入者が現れたぞ!」
「な、何!?」
「ど、どこだ!」
「あっちの宿直寮にあるシャワールームだ!」
「わかった!」
「あれ?お前はいかないのか?」
「いや、俺は他のやつにも報告して回るよ」
「そうか、わかった!報告ありがとう!」
兵士二人は急いでシャワールームへと向かう。
(バカだな…あれが俺の嘘だと知らないで…しかもあそこにはトラップも仕掛けてきてあるんだぜ?)
シャワールームには強力な催眠ガスを発生させるトラップを仕掛けてきた。
たぶんアイツらがその扉を開けるとその瞬間に作動して意識を失ってしまうだろう。
俺は溢れてくる笑いを抑えるのが精いっぱいだった。
「さて…それじゃあ…」
俺は音をたてないようにゆっくりとモニタールームの頑丈そうな引き戸を引いた。
そしてできた小さな隙間から中を覗いた。
「あ、あれは…!」
その中には…
「女…?」
さらりとしたロングの黒髪に少し気だるそうな表情、それにどこか人を引き付ける魅力がある口元に目元が俺の心をくすぐった。
「きれいだ…」
なぜだかさっきから俺の心臓は潜入の緊張以外のモノでドキドキと昂っていた…