(おい…どういうことだ…俺…さっきから鼓動が早い…おかしい…あの女を見てから…心が滅茶苦茶にされたみたいだ…)
扉の隙間からあの女を観察する。
ロングの黒髪、どこか気だるげだけど色っぽい顔立ち、すらっとした長身に白衣姿というのが印象的だ。
年齢的には20代半ばだろうか…
さらに口元でたばこをくゆらせながら何か行き詰ったのだろうか、頭をポリポリと掻く仕草がまた何ともたまらない…
さっきからあの女に目を奪われてしまっている。
(なんなんだアイツは…今まであったことあるどの女の子よりも…魅力的だ…)
今まで様々な可愛い女の子と出会ってきた(ゲームでだが)俺だがあんなに魅力的な子は今まであったことが無かった。
「俺…一目惚れ…しちゃったのか…?」
まさかこんなところで出会った女に恋をするのか?
でも恋というのは突然訪れるってこの前やったゲームで言ってたな…
これまでも女の子が好きになったことはあったけど今ここで受けた衝撃が本当の恋なんだと自覚した。
俺の初恋は、一目惚れで、それも見ず知らずの女だったのだ…
あまりにも見惚れてしまい俺は自分がへまをしていたのに気付かなかった。
もっと見たいという一心で無自覚に扉の隙間を広げていたのだ。
「誰だ?」
「え…?そ、その…」
今までPCに向かっていた彼女がこちらを向いた。
初めて見た正面からの彼女の顔、整った顔立ちに少しクマのある瞳が俺をとらえた。
俺は射抜かれたようにその場に固まるしかなかった。
「あぁ、見回りの兵士さんか。ご苦労様」
よかった…兵士と勘違いしてくれたらしい…
「そうだ、少し私の話し相手になってくれないかな?ちょうどいま作業がひと段落してね…」
イスから立ち上がって伸びをする彼女。
そんな彼女の動作一つ一つに俺は心を奪われてしまっているのが分かった。
「え…?でも…」
「遠慮してるのかい?」
「いや、遠慮じゃないけど…」
「わかった、緊張してるのかな?」
「き、緊張なんて…!」
「はは、キミはわかりやすいな。今声が裏返ったぞ?」
「あっ…」
俺は思わず口元を抑えた。
「フフ…面白いな、キミは。ますます話したくなった」
(これってよく考えたらチャンスなんじゃないか…?)
ここで何を作っているのかをうまく聞き出せる絶好の機会だ。
これを逃すともう訪れないような気がする。
「それじゃあ…少しだけ…」
「あぁ、適当なところに腰掛けてくれたまえ」
今まで彼女の事しか見ていなくて部屋の中をあまり見ていなかった。
部屋の中にはたくさんのモニター、まぁモニタールームだから当然か。
だけどそれは監視用というよりはPCの画面のようだった。
部屋の真ん中には大きなソファと小さなテーブル、その上にはコーヒーメーカーがおかれていた。
それに部屋の隅には小さな冷蔵庫があった。
まるでここで生活しているみたいだ。
俺はゆっくりと部屋を見渡してソファに腰掛けた。
ふんわりとした座り心地だ。
「ちょっと待ってよ…コーヒーを用意するからな」
その女はどこからかコーヒーカップを取り出してきた。
そしてコーヒーを入れて手渡してきた。
「ブラックでいいかな?生憎私はブラックしか飲まないんでね、この部屋にはミルクも砂糖もないんだよ」
「あ、いいですよ。俺ブラック好きですし」
受け取ったコーヒーを少し喉に流し込む。
温かなコーヒーの苦みとコクが体に染み渡る。
「そういえば自己紹介がまだだったね。私は榊原鶫(さかきばらつぐみ)だ」
「榊原、さん…?」
「いや、ツグミでいいよ。榊原って名前、あんまり好きじゃないんでね」
「それじゃあツグミ…さん」
「あぁ、なんだい、侵入者君?」
「え…!?」
さっきなんて…
「なに驚いた顔してるんだい侵入者君?」
さも愉快そうにツグミは笑顔を浮かべていた。
その笑顔は意地悪な子供みたいな感じだった。
「あれ?私が気付いてないとでも思ったのかい?私はね、記憶力だけはいいんだ。それでここにいる人たちの顔は全部覚えてるんだけどね、キミの顔は記憶になくてね…」
俺は懐のナイフの場所を確認する。
「あぁ、いや、別に私はキミを通報しようとかどうしようかと思ってないの」
「ウソ、じゃないのか…?」
俺は気を抜かずに彼女に視線を送る。
けれどツグミはあっけらかんと笑っていた。
「だって君を捕まえるのが目的ならそのコーヒーに毒でも仕組んでいたはずだよ?」
そう言って俺が口をつけたコーヒーをごくりと飲み込んだ。
あまりにも突然な事だったのに俺はどきりとする。
「ほら、毒なんて入ってないでしょ?それが証拠。私はただお話がしたかっただけなの」
「そ、そう…か…」
俺はようやく気を抜いて深くソファに腰掛けた。
敵地の真ん中で気を抜くなんて考えられないことだなと内心で苦笑した。
「さぁ、キミの名前を教えてくれないかな?」
「え~と…俺は焔ナイトって言います」
「焔…ナイト君、か…カッコいい名前だね」
カッコいい、その言葉が俺の中でぐるぐるとまわりまるで麻酔みたいに頭を痺れさせた。
「あれ?どうしたのナイト君?さっきからぼぉっとしてるよ?」
ツグミの心配そうな顔がグイッと俺の顔に近づいた。
彼女の呼吸が感じられそうなほど近づく顔に俺の心臓の高鳴りは止まらなかった。
まるで顔から火が出て爆発してしまうのではないかと思うぐらいに熱い…
もしかすると俺ってこのまま心臓の高鳴りが抑えられずに死んじゃうんじゃないかと思った。
(これが…恋の…力…!)