「…というわけなんだけどさ…どう思う?」
俺は無事仲間の元に戻ってきてさっきの話を伝えた。
けれど皆一様に顔をしかめてう~んと唸っている。
みんな信じられないようだ。
かくいう俺もあまり信じられないでいるのだから。
けれどあのツグミが嘘をつくはずもない。
初対面の女をどこまで信用しているのかといわれるがアイツは嘘をつくようなやつでもなかった。
「わかった…一応連絡しておくよ。ウソかホントかわかんないならさ、それが杞憂でも備えておくのがいいでしょ?」
「そうだな。何か起こってからじゃ遅いからな」
サクヤの言葉にユラも共感する。
この二人が信じてくれることほど心強いことはない。
俺の最高の相棒と、このクラスで背中を預けて安心して闘える唯一の存在の委員長が味方に付いてくれたんだからな。
「で、ナイト。そのホムンクルスは完成しているのか?もし完成してなかったらその博士には悪いが一度破壊させてもらう」
「いや…アイツの口ぶりだとどうにも完成してるらしいんだ…」
作った、とか作り上げたとか過去形口調だったことがそううかがえる。
多分俺がついたときにはもうすでに終わっていたのだろうな。
「くそ…ならどうする?結果だけを報告しに帰るか?」
「いや…破壊もしておいた方がいいと思います…念には念を入れておかないと…」
ヨウがそういうと皆頷いた。
ただでさえクローンという危険なモノを作る工場だ、破壊しておかねば後に何が起こるかわからない。
「じゃあ端末から報告しとくね…あれ?端末が使えない…ううん…違う、これって…電波が入ってこない」
「え?」
皆慌てて自分の携帯端末を取り出して操作をする。
俺も携帯端末のスイッチを入れて捜査してみるけどどうにも電波が入ってきていないのか通信ができない。
それ以外の動作は正常だから故障ではないだろう。
だったら考えられる可能性は一つしかない。
「ジャミング、か…」
「そう考えるのが妥当かもしれません…」
「これじゃキラにメールも出来ないよぉ…」
「たぶんこの工場の周り一体にジャミングの電波が広がってるんだろうな…」
さすがに電波関係のセキュリティは万全ってわけか。
「それじゃどうする?もう破壊工作しちゃう?」
「そうだな…いや、もう少しだけ情報が必要だ。俺はもう一度中に戻るよ」
「え!?そんなの危ないよ!」
「いや、でもあいつが俺のことを待ってるんだ…まだ話していないことがあるのかもしれない…だから…」
「待てよ」
もう一度工場へと向かう俺の背にユラの鋭い声が響いた。
今までにこんな鋭い声、聴いたことが無いぐらいだ。
「お前、どうした?普段のお前なら罠かもしれないとか言って避けるはずだ。なのに何だ今のお前は?」
「おいおいユラ…何言ってるんだよ」
「まさか、洗脳か?伝説がどうとか言って俺たちを惑わせようとしてるのか?おい!」
洗脳、か…
多分、今の俺は彼女に洗脳されているのかもしれない。
恋、という名の洗脳を…
「ゴメンユラ…俺さ、あいつのこと、助けたいんだ」
「は?」
「侵入者である俺にさ、てきかもしれない俺にこんな情報を教えてくれてさ…そんな奴が敵のわけがない。それに、俺にあんな事を言ったのはきっと助けて欲しいからだと思うんだ…助けを待っている女を放っておく男が何処にいるんだよ」
数秒の空白の後ユラが大きなため息をついた。
「はぁ…やっぱりお前はバカだよ。何が女のためだよ、お前はゲームの女の子にそんなこと言ってるのがお似合いだ。ま、けどお前の思いは伝わったよ。助けて来いよ。惚れたんだろ?本気でさ」
さすがに長年の付き合いだから俺の事なんてお見通しか…
ユラの励ましに俺はグッと片手を上げてこたえた。
そしてもう一度、俺の愛しの彼女の元へと、駆けて行った…
「ちっ…またアイツら扉の前にがっちりと…」
さっきは何とか負けたが二度目は通用しないだろう。
もう一度アイツらの前に出れば怪しまれるだけじゃすまないかもしれない。
俺はじっとアイツらの様子をうかがってチャンスを求めた。
「なぁ…昨日のあれ、なんだったんだろうな?」
「でっかいトラックが来て博士の研究を持って行ったことか?」
(昨日のこと?トラック?それじゃあ昨日の時点ではもう完成していたってわけか…)
俺が聞いているなんて知らずに兵士はぺらぺらと話していく。
「あぁ、それもあるんだけどさ、それに積み込んでたものだよ」
「なにを積み込んでたんだ?俺昨日のあの時間帯は見回りでさ…」
「そうか…いや、俺の見間違いって可能性もあるんだけどさ…あぁ…でも絶対見間違いかもぉ…」
「焦らすなよバカ!早く言えって!」
「積み込んでたものがさ、ホルマリン?みたいなものに付けられた黒の皇帝の息子だったんだよ…」
「はぁ!?お前何言ってるんだよ…黒の皇帝の子供ってもう死んだんじゃなかったのか?」
黒の皇帝の息子の話なら俺も知っている。
黒の国の皇帝は軽く300年は生きているという不死身の王だ。
その王に子供が生まれ世間では不死身の子供だと言われていたが10歳にも満たないうちに死んでしまった、確かそれが5,6年前のことだ。
俺自身もニュースで葬儀の光景を見ていた記憶がある。
皇帝は息子の死を悲しみ、死んだ息子をよみがえらせるために尽力を尽くしたという噂だ。
けれどいくら不死身の皇帝でも死んだものを生き返らせることはできなかった…
(まさかツグミが復活させた…?それもあった時に聞いてみないとな…)
「あぁ…だからやっぱり見間違いだよな…うん、見間違い見間違い」
「でもそれがホントだったら…黒の皇帝大歓喜だよ、もしかしてこの研究をした博士に莫大な金が…それで警護した俺たちにも分け前として結構な額が…」
「それはないっての!」
「だよな!ははは!」
(馬鹿笑いしてないで早く退けよ…!)
俺がそう思っているとふと研究所の扉が開いた。
「あぁ、キミたち、お疲れ様。それにしてもずっとここにいておなかとか減らないのかい?もしよかったら食事休憩でもしてきなよ」
「え?いいんですか?」
「あぁ。交代の兵士はもう呼んであるんだ。だから遠慮なく行ってきたまえ」
「ありがとうございます!…はぁ…やっと飯だぁ…」
「博士ありがとうございます!」
「ゆっくりしてきたまえよ~…おい、ナイト君、今のうちだ」
「あ、ありがとうございます…でもどうして?」
兵士が去ったのを確認してから俺は彼女に近づいてそう尋ねた。
「ここの監視カメラを再起動させた。これで君が来たかどうかを確認できるってわけだ」
「なるほど…」
「それじゃ私達もご飯にしようか。ちょうど軽くお腹が空いていたところでね。まぁ入りたまえよ」
そうして俺はまたツグミの研究室へと誘われた…