「さて…こんな軽いものしかできないが…いいか?」
すでに机にはいい匂いを漂わせながら待機している食事があった。
ウインナーを小さく切り卵と炒めたモノにカリカリに焼いたパン、そして目玉焼きというなぜか卵がダブってしまっている食事だった。
「卵をバカにしちゃいけないぞ?卵は栄養が豊富でね、それに体の調子を整えてくれるんだ。もしかして目玉焼きは嫌いだったかな?なら卵かけご飯はどうだ?」
「パンにご飯ってミスマッチじゃないですか…それに炭水化物ばかりで…もう少し野菜を取りましょうよ、野菜を」
「むぅ…私は少しばかり野菜が苦手でな…」
少しむっとした表情で俺を睨むツグミ。
少し少女らしいその動作に俺は思わずにやけてしまった。
「はぁ…好き嫌いばっかりしてちゃいけないぞ?」
「いいんだよ。私はこれがあるからね」
そう言って冷蔵庫から取り出してきたのはオレンジ色の飲み物。
「野菜ジュースツグミオリジナルだ。一日に必要な栄養素を計算してぎゅっと凝縮した栄養満点の特性ドリンクだよ。キミも飲んでみたまえ。毎日飲めば私みたいに健康になれるぞ?」
どう見ても不健康そうな体をしているがそこにはツッコまないことにした。
俺はツグミから渡された野菜ジュースを飲む。
「おいしい…」
栄養を凝縮したとか言うから結構なゲテ物かと思っていたが案外まともだ。
かんきつ類の爽やかな味が強くすっと喉を通っていく。
これならいくらでも飲めてしまいそうだ。
「そうだろう?私の黄金配分だ」
そしてふふんと笑うツグミ。
その得意げな顔はやけに幼く見えた。
「さて…冷めないうちに食べてしまおうか」
「あ、あぁ…そうだな」
あまりの可愛らしい顔に見惚れてしまって少しぼぉっとしていたがツグミの言葉にはっとなった。
俺は食事に手を付ける。
まずはウインナーと卵の炒め物だ。
「うん…美味い!」
味付けは塩コショウだけのシンプルなモノ。
けれどウインナーはハーブを練り込んだものを使っているらしくすっとした刺激が食欲をそそった。
次はパンだ。
カリカリのパンはガーリック風味でまた何ともたまらない味わいである。
それを目玉焼きのとろとろの気味でコーティングして食べるとまろやかなコクがつきこれもまたイケる。
少し味の強めの料理にはこのさっぱりとした野菜ジュースが合う。
この料理はおいしく感じるようにすべて計算されているようにも思えた。
「どうだ美味いだろ?」
「あぁ…メッチャ美味い…こんなシンプルなのに…食べ合わせだけでこんなに変わるなんて…」
「これも私の発明のせいかさ」
そう言ってはははと笑ったツグミ。
そして彼女はグイッとジョッキに金色の液体を飲んだ。
「ぷはぁ…!やっぱりビールがよく合うねぇ…!」
鼻の下にビールの泡がついているのも気にせずに豪快な飲みっぷりである。
「おいおい…昼間っからビールかよ…」
「いいじゃないかちょっとぐらい…それに仕事ももう終わったんだし、ご褒美の一つとしてさ」
そう言ってまた彼女はビールをあおった。
「どうだい?君もビール飲むかい?未成年、ではないんだろ?」
「まぁ今年で20になりましたけど…」
「うまいぞぉ…もうたまんなくおいしい…これを知らないでいるのはもったいないと思うんだよねぇ」
彼女は俺の目の前でとてもうまそうにビールを飲む。
そんな彼女につられて俺もごくりと喉が鳴ってしまった。
「じゃ、じゃあ…少し、だけ…」
「よしきた!ナイト君ビールお買い上げ~」
任務中だとかもうそんなこと関係なかった。
俺の頭の中はビールという未知の大人の飲み物のことへの興味でいっぱいだった。
「はいよ、キンキンに冷やしておいたやつ。絶対にうまいよぉ」
そう言って缶ビールを手渡される。
まるで氷みたく冷たく冷えたそれをぎゅっと握りプルタブに手をかけた。
ぷしっという心地よい音が響いてむわっとしたお酒独特のアルコールの匂いが漂ってくる。
「さぁさぁ、グイッといっちゃってよ」
いざ飲むとなるととてもドキドキする。
俺はよくビールのCMで見るように腰に手を当ててグイッとそれをあおった。
「!?」
な、なんだこれ…
今まで味わったことのない味だ…
苦いような辛いような、それでいてコクがあるような…不思議な味わいだ…
この喉を流れるときの爽快感!体にじゅわぁっと染みわたるアルコール分!
なんだこれは…!?美味い…!ウマすぎる…!犯罪的だ…!
このいっぱいのためならどんな犯罪でもするっていうのもうなずける…!
「その顔…お気に召してくれたようで何よりだよ。これでナイト君も大人の仲間入りだ」
「お、俺もう…大人、なんだな…」
「あ、でももう一つ、大人の儀式を忘れてるぞ?これだ…」
そう言って彼女は胸ポケットから四角い箱を取り出した。
赤いその箱を開くとそこに入っていたのは真っ白の筒状のモノ。
そう、タバコだ。
「こいつはいい…少し吸うだけで気分が落ち着いて頭がすっとする…嫌な事も忘れられて最高だよ。タバコは人類に唯一許された麻薬ってやつだね」
彼女はライターを取り出してそれに火をつけてぷかぷかとたしなんだ。
狭い部屋はすぐにタバコの煙でおおわれてしまった。
「ま、軽く吸ってみなよ?」
俺はどうするか迷ったがすぐに吸うと決めた。
彼女と同じものをたしなみたい、そう思ったからだ。
好きになった女と同じ気持ちを共有したい、初めての恋心なりにそう思ってしまったのだ。
「じゃあ…少しだけ…」
俺はライターを使わずに指にポッと小さな火を灯してタバコに火をつけた。
「便利だね、その能力…わざわざライター買わなくてもいいもんね」
火のついたタバコを俺は吸いこんだ。
その瞬間ありえないほどの刺激が口内を、いや、喉奥までを駆け巡って思わずむせ返った。
「ゲホゲホっ…!かはっ…!ごほっ…」
「ハハハ、キミ、もしかして思いっきり吸いこんだだろ?初心者にありがちなミスだなそれは。ゆっくりと、少しずつ吸い込んでいくんだ…味わうようにゆっくりとね…」
焼けつくようにイガイガと痛む喉を抑えて俺はもう一度タバコを吸いこんだ。
今度は彼女の言うとおり、ゆっくりと…
けれどどうにもうまいとは感じられない。
ただ頭がくゆったような感覚に陥って少し心がすっとしたような気がした。
感覚の麻痺がおこったみたいだ。
「どうだい?美味いか?」
「わからないな…美味いとも感じられないが…まずいとも思わないな…」
「それがタバコへの第一歩さ。ここでまずいって感じないのは将来タバコ好きになるぞ?」
「マジかよ…」
嫌な気もしたが、将来彼女と二人でベランダでゆっくりと夜景を眺めながらタバコをふかしている自分を想像して、これも悪くないなと思ってしまったのは内緒だ。
作中タバコをうまいと言っている描写がありますがこれは喫煙を助長するような描写ではありません
飲酒、喫煙は20歳を超えてから、自己責任でお願いします
※作者はタバコも酒も全く駄目です ですので酒、たばこの描写は知人らの感想を基に作成しました
この場を借りて知人らに感謝を