終焉ペレストロイカ   作:如月ライト

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No Memory Soldier

目を覚ますとそこは白一色で統一された部屋だった。

周りに人が見えるがずいぶん慌てている様子で部屋を出て行った。

「どこなんだここは…?」

誰もいないのに少年は尋ねた。 少年は深く考え込むが頭に靄がかかったように何も出てこない。

しばしの間少年が自問自答を続けていると勢いよく部屋のドアが開き綺麗なブロンドの髪を二つに結った少女が飛びついてきた。

「よかった~!」

そう言って少女は少年を強く抱きしめる。

「なんだ!?…って痛い痛い!」

少年は辛そうな表情をし、叫んだ。

「ごめんごめん、つい嬉しくってさ」

そう言って少女は頬を染め舌を出す。 その動作が酷く可愛く少年はドキッとした。

「なぁ、ここはどこだ?それに君は?俺は何者なんだ…?」

と、少年が恥ずかしさをごまかすように尋ねた。

「そんなにいっきに質問しないでよ、私だって君に聞きたいことがいっぱいあるんだから!」

と、少女は少し怒った感じでこういった。

 

「まぁとりあえず自己紹介から始めようか、私はユキ、ツクヨミ ユキ。 君は?」

と、ユキと名乗った少女が言った。 少年は少し考える素振りを見せながらこう答えた。

「オレは鏡夜、明星 鏡夜(アケボシ キョウヤ)だ…たぶん」

「えっ?キョウヤ…?って多分って何?」

ユキは一瞬喜んだ顔をしたがすぐにキョウヤの返答の違和感に気付き顔をしかめた。

「オレ、自分の名前以外よくわからないんだ、この名前だって自分の名前だっていう自信はないんだ、ゴメンな」

と、キョウヤは儚げに笑いながら謝った。 それはとても自虐的な笑みなんじゃないかとユキは思ってしまった。

「記憶がない…ないのは記憶だけ?知識はちゃんとあるのよね?」

と、ユキは不安げにそう尋ねた。 知識がないと、こうも自然に会話が成立するはずはないと思いながらもユキは念のために尋ねたのだ。

「いや、知識はちゃんとあると思う。君が数学の問題を出しても答えれる自信はある」

と、キョウヤは答えた。 

ユキはその返答を聞いて少し笑った。 その返答がユキを笑わせるためにわざと発したのか本当に素で言っているのかわからなかったがユキはどちらでもいいやと思った。

「で、ここはどこなんだ?」

と、キョウヤは尋ねる。

「ここはオシリスっていう国なの、わかるわよね国の名前とかは?」

「それは当然だ、それぐらいわかって当然だ」

と、キョウヤは少し不機嫌そうに答えたが、ユキとしては初歩の初歩から説明する手間が省けたと少し安心した。

「それでここはオシリスにある異能訓練校[クロノス]の医務室なの。 なんでキョウヤがここにいるかっていうとね、実はね…」

と、ユキは説明した。

 

「そうか、川岸に打ち上げられていた俺をキミが…じゃあキミは俺の命の恩人だな、感謝しねぇといけないかな」

それを聞いたユキは少し顔を赤くし

「なっ!?命の恩人って、別に大したことしてないじゃない。 で、でもその感謝の気持ちはありがたく貰っておくね」

少しの間うつむいていたが急に何かを思いついたみたいな感じで頭を上げた。

「ってキョウヤ!なんでずっと私のことキミって呼ぶの!?私が親切にキョウヤキョウヤって呼んであげてるのに…!」

そう言いユキはキョウヤに掴みかかった。

「ご、ゴメンって。なぁ許してくれよ。 ユ、ユ…ユキ…」

「うん、よろしい、今度からはちゃんとユキって呼ぶんだよ」

と、幼子に言い聞かせるようにキョウヤに言ったユキは、話がそれたと少し咳払いをし説明を再開した。

「で、このクロノスでは毎年多数の卒業生がオシリスが誇る騎士団[ディスティニー・ローズ]に配属されるの」

「ディスティニー・ローズって…?」

と、申し訳なさげにキョウヤは尋ねた。

「多くの強者がそろっててね、戦場に出て敵国を侵略したり、オシリスの国の守りをしたり…まぁいろいろしてるんだ、私も実はあんまりよくわかってないんだけどね」

と、ユキは舌を出す。 キョウヤはこの動作がユキの癖なんじゃないかと思った。

「で、説明を続けるけどディスティニー・ローズに入るために訓練をする学校がここ、クロノス! 私は実はクロノスの学生なのだ!」

と、ユキは誇らしげにそういった。

「へぇ、そうなのか」

と、キョウヤは答えたがどうやらユキはもっと大きなリアクションを求めていたらしくすごく不機嫌になった。

「はぁ、こんな大袈裟に説明した私がバカみたいじゃない…」

と、ユキはあきれてそういった。

 

「ねぇ、キョウヤ。 クロノスに入って一緒に戦う気はない?」

一連の細かな説明を終えた後ユキがこう尋ねた。

「えっ?なんで俺を?どこの誰だかわからない奴なのにか?」

と、キョウヤは素直に疑問をぶつけてみた。 

キョウヤとしてはずっとここで自分は何者かわからぬまま過ごすより学生として過ごしたいという欲求が大きかったが、自分が何者かわからない以上これは不可能なんじゃないかと思った。

「だって、キョウヤは多分凄腕の剣士だったから…」

「はぁ!?俺が剣士だって!?なんだよ、それ、もしかしてオレの過去を…」

と、キョウヤは勢いまかせに出てきたその言葉を否定した。

今日知り合って自分の名前も知らない少女がそんな事知ってるわけがないと改めて思ったからだ。

「過去は知らないよ、キョウヤってもしかしてちょっと抜けてる?」

と、ユキは笑いながらそう言った。

「たぶんついさっき目覚めたばっかりだからだろうな、頭が働かねぇや」

と、キョウヤはごまかした。 自分はアホキャラじゃないと自分自身に言い聞かせてからユキに続きを求めた。

「なんで凄腕の剣士だったんじゃないかって言ったのはキョウヤが剣を持って倒れていたから」

「剣…? もしかしてベッドの脇に立てかけているこいつのことか?」

と、キョウヤはベッドの脇に置かれている長細い包みを指差した。

「そう、それよ、試しに抜いてみて」

と、ユキはその包みをほどき剣を取り出しキョウヤに渡した。

「すごく手に馴染んでる感じがする、まるで昔から使っていたようだ…」

と、キョウヤは剣を手にし素直な感想を言った。

剣は少し大きく見た目は重い感じだが、自分が一番動かしやすい重さにしたようだと感じた。

自分の身長の半分以上あろう刀身に、何かの宝石だろうか?刀身と柄の間に青白く輝く石がはめ込んである、それに手にすごくなじむ柄、外見だけのみではなく刃は綺麗にそがれていて触れるものを全て切り刻んでしまうほどの鋭利さだ。

「その剣すごく綺麗でしょ?すごく使い込まれてる感じがするのに全く刃毀(はこぼ)れはないし、細かいところの手入れまで行き届いてるみたいなの。 きっとすごい実力者が持ってたんじゃないのかなぁ」

と、ユキはそう言いキョウヤを指差して

「それがキミ、キョウヤじゃないかなぁ?」

「俺がこいつの持ち主で、凄腕の剣士か…悪くはないな」

キョウヤは唇の端をゆがませ、にやっと笑った。

「だからキョウヤをクロノスに誘うわ、きっとすごい戦力になってくれそうなの。どう?悪い話じゃないでしょ?それにクロノスに入れば三食保障されるうえに部屋も保証されるから行く当てのないキョウヤにとってはとってもいいことでしょ?」

食べ物も住む場所も保証されるとなるとキョウヤとしては返事はひとつである。

「あぁ、いいよ。喜んで。それにここに入ったらユキにも恩返しができるしね」

と、微笑むキョウヤにユキは頬を染めて

「か、勝手にすればいいじゃない!」

と、少し怒りながら言った。 しかしその顔は怒りと言うよりは嬉しいという感情の方が勝っているような気がした。

 

「で、どうやって俺はここに入ればいいんだ?入学したいですって言って、はいどうぞようこそクロノスへ、みたいなことはないだろ?」

と、キョウヤは言った。 キョウヤのたとえが面白かったのかユキは笑いながら言った。

「もぅ、そんなことあるわけないじゃん!ちゃんと編入試験があるんだから。 筆記と実技があるけどどれも簡単だから誰でも入れるよ、きっと」

キョウヤはその話に疑問を感じたので尋ねた。

「え?誰でも入れるって?じゃあなんで試験なんか…?」

「それはね、クラス分けのためなの。クロノスにはクラスが分かれてあってね、実力によってクラスを分けるんだよ」

「へぇ、そうなのか。ユキはどのクラスなんだ?」

と、キョウヤが聞くとユキは慌てふためき

「それは入ってからのお楽しみだから教えてあげない!それに私と同じクラスになりたいからっていう理由で手を抜かれてもね…」

と、言った。 まぁそうだろうなとキョウヤは思い話を続けた。

「じゃあその試験っていつあるんだ?」

「う~ん、ちょうど1週間後だったかな」

ユキは少し考える素振りを見せてからそういった。

「1週間だとっ!?」

と、キョウヤは驚きの声を上げたがユキはいたって冷静に

「傷の方は大丈夫だから。だってキョウヤの治療はオシリスが誇る最高の医療機器を使ってるんだからね!」

と、答えた。

(俺が考えてたのはそのことじゃなくて戦闘のことなんだけど・・・まぁいいか)

ユキの笑顔を見ているとそんなことがどうでもよくなってくる気がした。

 

しばらくキョウヤと話していたユキだったが授業があるとのことで別れた。 キョウヤは一人になりふと思った。

「オレはどうして川岸に…それになぜか雪を見ていると頭の奥底が騒ぎ出しやがる…! くそっ!考え始めるときりがねぇ! もういいや、そのうち何か思い出すだろう」

そう言いキョウヤは少し早い眠りについた…。

 

 

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