あの後事態を収拾させるまでに数分かかり今に至る。
「はぁ、もうキョウヤは昔はこんなんじゃなかったのに…」
呆れ顔でそう言うユキ。
「本当に申し訳ありませんでした」
その言葉に対してキョウヤは謝るしかできなかった。
「そ、そうだセンパイ。そろそろご飯時ですよ!ごはん食べましょう!」
イツキの一言により場の空気が一変する。
皆さっきまでの様子とうって変わり一瞬で和やかになった。
ご飯のチカラ、恐るべし…!
「そういやイツキ、オマエ1回戦終わった後も飯食ってなかったか?」
「いいの!今さっきの戦いでおなか空いちゃったんだから」
そう言ってイツキは大きなお弁当箱を出す。
「イツキのお弁当大きいねぇ。ワタシもちょっと欲しいなぁ」
横からウサギが顔をのぞかせてそう言う。
「いいよ、好きなだけ食べてよ」
「ありがと!」
ウサギの目が期待によって輝きだした。
「中身は何なの?すっごく期待してるんだけど!」
ウサギは子供のようにお弁当のふたが開くのを待っている。
その姿が愛らしくキョウヤの頬は自然とゆるんだ。
しかしそれをユキは見逃さなかった。
「キョウヤ~。何かエロいことでも考えてるのかなぁ?」
そう言って頬をつねってくる。
「痛いって…!てかエロいことなんて何も考えてないって!」
「ほんとかなぁ?まぁ今回は特別にこれだけで許してあげましょう」
「はぁ…」
キョウヤはヒリヒリと痛む頬を撫でながらため息をついた。
元々は自分のしたことなのだがこうまで徹底されているとうんざりした。
「うわぁ、お肉ばっかり!」
ユキとそうこうしているうちにどうやらお弁当が開帳したらしい。
ウサギは口の端からよだれをたらしまてをされた犬のようにぐっとこらえている。
「ね、ねぇ?食べていいのかな?」
「もちろん!好きなだけどうぞ」
「いただきます!」
ウサギはイツキのお弁当にがっつく。
その姿は本当に動物の様であった。
「センパイもどうぞ」
そう言ってイツキは唐揚げをキョウヤの口に放り込む。
口に入れた瞬間肉汁が溢れキョウヤの口の中を満たす。
「うん、うまいよ、これ!」
「へへ、アリガト」
キョウヤは無意識のうちにイツキの頭を撫でていた。
本当にそうすることが自然だとでも言うように。
「あーんされて食べさせてもらったり、おいしかったら頭撫でて褒めてもらったり…新婚のバカ夫婦みたいだね、キョウヤとイツキ」
「はぁ!?」
キョウヤはウサギの一言により盛大に口の中の物を噴出した。
「キョウヤ汚い」
ウサギが顔をしかめてキョウヤを見る。
ウサギとしてはあの一言は自然に、何気なく言ったものだったのであろうがキョウヤにとっては一大事になるセリフだった。
しかしそう考えていたのはキョウヤだけではなかった。
ユキだ。
「キョ、キョウヤがイツキとし、しし新婚なんて…ば、バカ言わないでよ!」
動揺して噛みまくっているイツキ。
慌てふためき最早我を忘れているよだった。
「イツキ、こいつ貰うぜ」
キョウヤはさっとイツキのお弁当の具材からから揚げを一つつまみあげユキの口に放り込む。
「むぐ!?…もぐもぐ…うん、おいしい!」
ユキはそれを口にした途端一気に落ち着いた。
やはり食の力は侮ってはいけないなと痛感したキョウヤだった。
「そうだ、イツキ。お前にお返しをしてやるよ」
「いや、そんなのいいって」
遠慮するイツキをよそにキョウヤはカバンから自分の作ってきたお弁当を取り出しそこから一つのおかずを取る。
「ほら、魚のフライだ。お前魚好きだったろ?」
瞬間イツキの顔が青ざめる。
こちらを見たくないとでも言うように顔を背け歯をがちがちと鳴らす。
「い、いや…今日は魚って気分じゃ…」
キョウヤはそこで違和感を感じた。
肉より魚大好きっ娘のイツキが魚料理を拒絶したからだ。
(そんなことがあり得るのか?いや、あり得ない)
キョウヤはそう自問自答を繰り返した。
(それに今日のイツキはなんだかいつものイツキとは様子が違ってた…もしかすると…)
「なぁ、イツキ?」
「え?な、なんですか、センパイ…?」
「お前…イツキじゃないだろ」
瞬間その場にいた全員がきょとんとした顔でキョウヤを見る。
ただ一人、イツキを除いては。
「そ、そんなことあるはずないでしょ…?」
「そうだよ、何言ってるのキョウヤ」
イツキのしどろもどろのごまかしをユキは笑いながら冗談だという。
(イツキが嘘ついてることに気付かないなんて、こいつらバカじゃ…)
確実にイツキは嘘を吐いている。
こんなに動揺していればそれは確定だ。
「ねぇ、キョウヤ。今さっき私のことをバカだって思ったでしょ?」
ウサギがキョウヤの心を見透かしたようにそう言ってきた。
「ま、まさかお前エスパーか!?」
「私はバカじゃないんだからっ!それだけは間違えないで!」
「まぁそんなことはどうでもいい」
横でウサギが騒いでいるが無視して話を進めることにした。
「正確に言うとそいつはイツキであってイツキではない」
「どういうこと、キョウヤ?」
ユキはまだきょとんとした顔でそう言ってくる。
一方イツキはというと顔を青く染めてこちらを見据えている。
「その証拠はあるの?証拠なくそんなこと言うのはいくら先輩でもやめてほしいなぁ」
「証拠ならある。まず一つ目、イツキが魚料理を拒絶したことだ。あいつは重度の魚好きなのに今日のお前は魚を見せたとたん顔色を変えて拒絶した」
「そんなの今日の気分だって…」
「たとえ気分だとしても顔色を変えて拒絶することはないだろ」
「ぐ…」
「それに戦いの時もそうだ、いつもの温厚なイツキがあれほど豹変するはずがない。例え戦いの時だけそうなると言われてもいまいち説得性に欠ける」
そう、今日のイツキはやけに血気盛んだったのだ。
「そして最後に、イツキはいつも相手にちゃんを付けて呼ぶのに、戦いに集中していた時のお前は付けていなかった」
「それはたまたま…」
「いつも読んでる呼び名なのにたまたまなんて言い訳できると思うか?無理だろ。さぁ、お前は本当は何者なんだ?」
「もういいよ、これ以上はごまかさなくてもいいから」
そんな声が皆の耳に届きその瞬間部屋のドアが開け放たれる。
そこにはイツキが立っていたのだ。
「姉さん!」
その場にいる全員何が起こっているのかさっぱりわからないでいた。
唐突のキョウヤの言葉、イツキと同じ容姿の人物の乱入、そして姉さんという言葉。
これだけのことが一気に起こればだれでも頭が混乱するのは当たり前だろう。
「今までだましていてごめんなさい、私達実は双子なんです」
『はぁ!?』
皆して一斉に声を上げる。
「私がイツキ、そっちにいるのは輝良(キラ)」
「え?じゃあ何?今まで一緒に闘ってきたのがキラで、昨日一緒に買い物に行ったのがイツキ?」
「そうですよ。本当にだますつもりなんてみじんもなかったんだけど…」
「実は私たち一日ごとに交代してたんだよ。それと戦いの時もね。姉さんは戦いが苦手だから…」
キラと呼ばれた少女は申し訳なさそうにそう俯きながら言った。
「ねぇ、このことは秘密にしてて。これがばれたら私たち…」
イツキが困った顔をして頭を下げる。
本当に言ってほしくないという感じだ。
「いや、それはダメだ」
キョウヤは厳しくそう言い放った。
その途端イツキが泣きそうな顔をしキョウヤを見つめる。
「俺はこのことをみんなに言ってお前たち二人を一緒に生活できるようにしてやる。交代なんてする必要を無くしてやる」
周りのみんなもキョウヤのその言葉を聞き安心したように顔を上げた。
「そうだね、それがいいよ!キョウヤ、ナイスアイデアだね!イツキもキラも、これからは一緒だからね」
ユキは笑顔で二人に手を差し伸べる。
その笑顔は屈託のないとても輝いたものだった。
「本当にいいの?私戦えないよ?」
イツキは不安げにそう尋ねる。
「うん、戦えないなら私たちが守ってあげる」
「本当にいいの?私姉さんみたいに優しくないよ?」
キラは不安げにそう尋ねる。
「うん、お姉さん…イツキみたいに接しなくていいよ、キラはキラなんだから」
二人はユキの手を取り泣きじゃくる。
自分たちの存在をやっと認知してくれた喜び、そして自分たちを認めてくれた喜びによってだ。
「イツキ、キラ。これから仲良くしようぜ」
「そうだよ、これからはみんな一緒なんだから!」
キョウヤもウサギも笑みを浮かべて二人を歓迎したのだった。