終焉ペレストロイカ   作:如月ライト

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お菓子作りは突然に

「おはよ~」

俺はそう言って教室に入った。

朝の教室はいつも通り人がまばらだ。

俺は特に早い部類に入るらしくその時間帯に来る奴らは少ないのだ。

「ケントさん!」

すたすたと俺めがけてくる人影、あれは…ヨウか?

「どうですか?あれ、できましたか?」

あれ…というのは昨日のパーカーの事だ。

「もちろん!直ったに決まってるだろ」

そう言って俺はパーカーを取り出してヨウに渡してやる。

「本当にありがとうございます!これ大事なパーカーで…」

そう言って本当に大事そうにパーカーを抱えるヨウ。

「そのパーカー、そんなに大事なモノなのか?」

「はい、これは姉さんが僕の誕生日に作ってくれたものです。姉さん、裁縫なんかできないのに僕のために一生懸命作ってくれて…」

そうだったのか…それは何かすまないことをしたかもしれないな…

「ごめん、ヨウ…!それには…」

俺がとっさに謝るも時すでに遅し。

ヨウは俺の修正したフードのアレを見て固まった。

「これは何ですか、ケントさん?」

ヨウが少し声のトーンを落として俺に尋ねてくる。

そうなるのも無理はない、なんせ俺は怒られて当然のことをしたからだ。

そう、フードの部分の裂け目がどうやっても元に戻らないということで発想を変えて繋ぎ合わせるんじゃなくて他の代替品を挟んで繋げるという選択をしたのだ。

その代替品、それがアレなのだ。

「なんですか、この羊の角みたいなものは…!」

羊の角、それがオレの選んだ代替品だ。

角と言っても本物ではない、もちろん俺が縫って作った。

ヨウと羊をかけて羊の角を選んでしまった、これがすべての元凶かと俺は悟った。

「これ…すごくかわいいじゃないですか!ぼく、これ気に入りました!」

「え…?」

何だこの反応は…!?

俺が思っていたのと斜め上をいっている…!

「なんで僕が羊が好きって知ってたんですか?」

「いや、まぁクラスメイトの好みを知るのも俺の大事な役目かなぁ…なんて」

その時の俺の表情は多分ひきつった笑顔を貼りつけ目が盛大に泳いでいたことだろう。

「とりあえず着てみます!」

そう言ってヨウは俺の直したパーカーを羽織る。

そしていつものようにフードをかぶる。

「どうですか、ケントさん?」

ヤベェ…スゲェ可愛い…!

いや、どうした俺…!そんなことをいったら白い眼で見られるのは確かだ…。

「あ、あぁ、結構似合ってるぞ…」

まぁこれも嘘じゃないんだし、大丈夫だよね…

「おはよーです!…ってヨウ、どうしたですか、そのパーカーは!?」

教室内に入ってきたマリナ様は開口一番そう叫んだのであった。

まぁ無理もないだろう、昨日まで何の飾り気のないパーカーを着ていたのに今日には飾り気の可愛いパーカーを着ていれば誰でもそうなる。

「これは昨日の奴だよ、ケントさんになおしてもらったらこうなったんだ」

「へぇ、結構可愛いです!ケントのくせにセンスだけはいいんですから!」

ま、マリナ様に褒めていただけた…!?

「ははぁ、マリナ様!ありがたきお褒めの言葉、我が胸の底に一生残しておきますぞ!」

「朝から相変わらず気持ち悪いです、ケントは!ちょっと褒めただけで調子にのるなです!」

バシン!

その音と共に俺の頬に痛みが走る。

マリナ様にぶってもらえた…!

それが理解できるか否や即座にその痛みは快感へと変わる。

「あぁ、マリナ様…もっと私をぶってください…!」

「お、おーい…ケントさん、大丈夫ですかー…?」

はっ…!?俺は何をしていたんだ…!?

またも快楽におぼれるところだった…。

最近は危ういところでように助けられっぱなしだな。

「ね、ねぇ…ケント…」

後ろから新たな声が聞こえたので俺はそちらを振り向く。

そこには少し小柄なツインテールの少女、ユキが立っていた。

「なんだ、ユキ?お前も何か直してほしい服とかあるのか?どんとこいだぞ」

「いや、そう言う事じゃなくてね…え~と…」

ユキは赤い顔をしてもじもじしながら言うかどうかをためらっているようだ。

その姿がやけに可愛く俺の目に映る。

そうか、キョウヤはこの可愛さにやられたんだな…

「笑わないできいてくれるかな…?」

「もちろんだとも」

そのまま上目づかいでそう言われると断わらない男が何処にいる。

恥じらいながらの上目遣いは反則行為だろ!

「あのね、ケントってそんなに家庭的だけど、料理とかって…できるかな?」

「料理か?」

料理、それは俺の一番の得意分野だ。

まだここに来ていない時は家ではずっと家族の食を任されてきた俺だ、料理が苦手な筈がない。

「もちろん得意だぞ!それがどうした?」

ユキは少しほっとしたように表情を緩めた。

ホント表情がころころ変わるよな、この娘は。

「じゃあお菓子って作れるかな?」

お菓子、それはまたも俺が得意なモノじゃないか。

種類によって苦手なものはあるがほとんどのお菓子なら作れる。

昔母さんの働いていたお菓子屋を手伝った時にお菓子作りの楽しさに目覚めてそれ以来ずっと今までやめられないでいたっけ。

「クッキーって作れるかな…?」

「おう!俺の得意なお菓子だな、余裕で作れるぞ」

「だったら作り方を教えてほしいなぁ…私も一回作ってみたんだけどどうにもうまくいかなくて…」

クッキーづくりで失敗…?

そんなの有り得ないことじゃないのか?

だって生地を作ってそれを形作って焼くだけだぞ?

こんな簡単なことをどうやれば失敗…

「ユキは相変わらず料理できないですね、女の子としてそれはちょっとダメなんじゃないです?」

「で、でも…」

「それに急にお菓子作りなんて…自分で食べる分じゃないことは確かです。そうですね…誰かにあげるとかじゃないです?」

「そ、そそそんなことないって!!」

ユキが急に慌てふためきながら早口でそうまくしたてる。

多分この場にいた奴ら全員俺と同じ考えなんだろうな。

あぁ、誰かにあげるのか。

「で、誰にあげるです?」

マリナ様、さすがです!

すごい攻めです、うらやましいです…!

「べ、別に誰にあげたっていいじゃない…!」

「へぇ誰かにあげるのは確定なんですねぇ」

ユキはその途端しまったという顔をした。

この娘、まさかどじっ娘…!?

「う~ん、誰にあげるのかなぁ…もしかしてキョ…」

「な、何でそこでお兄ちゃんの名前が出てくるの…!」

お兄ちゃん、それは最近ユキがキョウヤを呼ぶときに使っている言葉だ。

何でもキョウヤがユキの兄に似ているからということでそう呼んでいるらしい。

「マリナはキョとしか言ってないのになんでキョウヤが出てくるんですー?もしかして、やっぱりキョウヤだったんですねぇ?」

「~~~!!もぅ分かったよ、言うよ!私はお兄ちゃんに手作りクッキーを渡すの!!」

ユキはマリナ様の攻めに耐えられずとうとう観念したようにそう叫んだ。

「だってお兄ちゃんにはいつもお世話になりっぱなしだし…今思えばお兄ちゃんに何もかえせてないなって思って、だから…」

「まぁ俺に任せておけ!料理が下手なユキでも確実にキョウヤを落とせるクッキーを作ってやるから」

「お、落とす!?いや、べ、別にそんなこと望んでないよ!」

ユキは顔を真っ赤にしながらそう叫んだ。

やっぱりユキはからかい涯があるなぁ。

そして俺たちは家庭科室へと向かったのだ。

 

「で、どうして僕やマリナも一緒なんだ?」

エプロンに着替えすっかり準備万端な俺に同じくエプロン姿に着替えた(無理やり着替えさせた)ヨウが不満をこぼす。

「だってお菓子作りは人数が多いほうが楽しいんだぜ?」

「マリナは楽しそうだから賛成です!」

「ほら、3対1だ。お前も観念して一緒に楽しめ」

ヨウはため息をつきながらも、しかし顔にうきうきとした表情を浮かべていた。

「ったく、仕方ないな、ケントさんは…で、最初はどうするんですか?」

そう言って腕まくりをするヨウ。

多分この中で一番テンションが高いんじゃないんだろうか?

「じゃあまずはこの白い粉の中に砂糖を…」

ユキはそう言いながらボウルいっぱいに入れた粉の中にどこから取り出したかわからない袋から粉末状の物を入れていた。

「おい、俺の指示なしに勝手に進めるなよ!お前料理できないんだろ?」

「いや、でもこれあってるよね?」

「お、おう…分量は違うけど手順は奇跡的にあって…」

そう言って俺はボウルにぶちまけられたものを見る。

いや、よく見るとこの白い粉、小麦粉じゃない!?

これは…薄力粉!?

確かに似ているが…それにこの袋の中身って…

明らかに怪しげな袋に入っているその粉を俺は指ですくいなめとる。

「!?」

な、なんだこれは…!?

し、塩じゃないか!それにこれ普通の塩よりスゲェからいぞ!

「おい、ユキ…なんだこれは…?」

「何って砂糖だよ」

ユキはさも当然というような顔をしてそう答えたのだ。

「じゃあこれはどこからとってきた?」

「ん?理科室」

それが何かと言わんばかりにユキはそう答えた。

「なんで理科室からとってきたんだよ!」

俺には訳が分からなかった、すごく頭が混乱していた。

「だって理科室の砂糖ってこの前授業で実験した時になめてみたんだけど普通の砂糖より甘くておいしかったから、それにクッキー作るんだから甘いほうがいいよね!」

そう、こいつに悪気はないんだ、あるのは天然とドジというスキルだけだ。

一定のドジや天然は許せるが一点を超えるとそれはいらだちすら覚えるものだ。

「お前これが何かなめてみろ」

「え?砂糖に決まってるじゃん、なめなくても…っ!?」

ユキは指を口に含んだまま一瞬静止した。

「な、なにこれ…!?辛い!?この前なめた時は甘かったのに…何で!?」

ユキは訳が分からないという顔をしながら水を求める。

「残念なことにこれは砂糖じゃなくて塩だ、あと使うサトウは理科室にある怪しげなモノじゃなくてちゃんとここにある正規のモノを使え」

精一杯水を喉を鳴らしながら飲むユキだが頷いているのは見て取れた。

「よし、じゃあ気を取り直して始めるか」

「おー!!」

しかしこれが俺たち(ユキ除く)にとってはまだ地獄の一片すら見ていないということにまだ気づいていなかった。

 

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