幼女くらいしす
キョウヤは今二人の少女を脇に侍(はべ)らせて歩いている。
はたから見れば羨ましくもある光景だが中を覗けばそうではない。
「ねぇお兄ちゃん!私アイス食べたいなぁ。ね、買いに行こうよ!」
そう言ってキョウヤの右手を引く金髪ツインテールの少女、ユキ。
つい先日妹宣言をしてからはキョウヤにべったりな少女である。
「ヒカリもアイス食べたい!」
そう言って左手を引くのはヒカリ。
子供特有の大きく愛らしい瞳に活発さがにじみ出ているショートカットの髪型の幼女だ。
ここクロノスタウンで迷子になっているところを発見して保護している状態だ。
二人はキョウヤの手を取りアイスを買いに行こうとせびる。
「はぁ…お前たちまた俺のおごりか…?ヒカリはいいとしてもユキはお金持ってるだろ…」
そう、キョウヤはさっきからこの二人に対しておごりっぱなしであったのだ。
発端はユキにジュースを渡した事だった。
それを見たヒカリは自分も飲みたいと言い出したので買ってやったらこのザマだ。
この二人、他人のお金だからって遠慮のひとカケラもしていないのだ。
「だってお兄ちゃんは妹が欲しいものは何でも買ってあげるっていう鉄のおきてがあるでしょ!」
全国の兄に謝れという発言をすらっと言ってのけるユキ。
それはほんのごく一部のシスコン兄貴たちのおきてだろう。
かくいうキョウヤも相当なシスコンっプリだと自覚してきたもののここまで何でも買ってやろうという気にはなれなかった。
主に金銭的に。
「あのなぁ…俺はもうお金残ってねぇよ!」
そう言うと二人は驚愕の表情を見せた。
「えっ…?お兄ちゃん、もうお金無いの…?」
「じゃあもうヒカリにアイス買ってくれないの…?」
(おい、ヒカリ、本心が漏れてるぞ…)
キョウヤの中ではある葛藤が行われていた。
最後のお金を全部使いきってこの二人にアイスを買ってやるか、心を鬼にして二人にガマンをさせるか、だ。
心底悲しそうな表情でキョウヤを見つめる二人。
「ったく…二人してそんな顔すんじゃねぇよ、買ってやるけどこれが最後だからな?」
なけなしのお金をはたくことを決意したキョウヤ。
極度の甘々な奴だなとキョウヤは心の中で笑った。
「お兄ちゃん、アリガト!さ、いこ、ヒカリちゃん」
「お姉ちゃん、待ってよー!」
二人は満面の笑みを浮かべ店内をかけていく。
この笑顔が見れるなら安いものかとキョウヤは思い頬を緩める。
「走ってこけるなよ。あとアイスはおごってやるけどダブルとかは無しだからな!」
「わかってるよお兄ちゃん!」
「おいしいね、ヒカリちゃん!」
「うん、サイコーだよ!」
無事アイスを買い終わり笑顔でそれを頬張る二人。
(こう見てると本当の姉妹みたいだなぁ…)
こんなくだらないことを考えるキョウヤ。
しかしその視線は二人の持っているアイスに集中していた。
(あいつら本当にうまそうに食うよなぁ…おかげで俺も食べたくなっちまった…)
二人があまりにもおいしそうにアイスを食べるものだから自分も欲しくなってしまったのだ。
しかしキョウヤの財布のライフは0なのだ。
二人分のアイス代で昇天してしまったのである。
「ん?お兄ちゃん何ずっとアイス見てるの?もしかして食べたくなっちゃったとか?」
笑いながらそう言うユキ。
しかしその発言は明らかに的をついていた。
「まぁそうだな。お前たちがあまりにも旨そうに食べるから…」
「ちょっと食べる?」
「え!?マジでいいの!?」
なんともありがたい救いがやってきた。
「ほらお兄ちゃん、あーん…」
そう言ってアイスをキョウヤの口元まで近づける。
キョウヤは何の抵抗もなく口を開けそれにかぶりつく。
口の中にミントの香りが漂い、あとからチョコの甘さが追いかけてくる。
「うん、おいしいよ、ユキ」
「でしょ!ここのアイスは絶品だって評判があるからね」
「お兄ちゃんたし、やっぱりきんしんそーかんだったんだ。イチャイチャしすぎだよ」
ヒカリにそう指摘され今の一連の行為を思い出す。
改めて冷静に思い出してみるととても恥ずかしいものであった。
(しかも今日ユキから何か食べさせてもらったのって2回目じゃん…)
「熱すぎてヒカリのアイスとけちゃうよ」
そんな冗談か本気かわからない発言をするヒカリ。
その言葉はハッキリと二人の胸に突き刺さった。
「私お兄ちゃんと、恋人みたいにあんなこと…どうしよ…」
ユキは赤い顔でうつむきながらそんなことをつぶやいていた。
今日何度目かのトリップに入ってしまった。
一方キョウヤはというといたたまれなくなり視線を宙に彷徨わす。
しかしその視線がある人物をとらえた瞬間今までの恥じらいがすっと消えていった。
「なぁヒカリ、ここでユキと待っていてくれるか?俺はちょっとやることが見つかった」
「うん、わかったよ」
ヒカリの返答をききキョウヤはその人物を目指し走った。
「おい、ナイト」
「ん?なんだ?」
その人物、すなわちナイトだ。
キョウヤにはいろいろと言うべきことがあったのだ。
「なんだ?じゃねぇよ!お前なんてものを俺に買いに行かせたんだよ!」
キョウヤは即刻今一番言いたかったことをはいた。
そう、ナイトはキョウヤにエロゲを買いに行かせていたのだ。
「別にいいじゃねぇかそれぐらい」
「それぐらいのことじゃねぇよ!俺がどんな目に遇ったかも知らねぇで!」
ユキに自分がエロゲを買いに来ていたと誤解された。
ナイトのせいで自分の評価が下がった。
本当にさんざんだった。
「その点は謝る、すまなかった。お詫びと言っちゃなんだがそのゲーム一番にプレイさせてやるよ」
「別にそんなことはしなくてもいい。オレはお前が誠心誠意謝ってくれればいいんだよ」
「お、俺が泣く泣く一番初めのプレイを譲ってやってるのにお前はそんなこと扱いで切り捨てやがって…!」
ナイトは怒りをあらわにしてキョウヤを見る。
今にも食って掛かりそうな感じである。
「一番プレイを冒涜した罪、思い知らせてやるぜ!」
「あっ、ナイトこんなところにいたんだ」
ナイトからの制裁が下る寸前ある一言がナイトの背後を付く。
「あぁ、ウサギか。どうした?」
「どうしたじゃないよ!まったく…早く会場行って場所とってこないとだめじゃない!」
その声の主はウサギだった。
身長は幼女のくせに胸はそれに見合わないぐらいの大きさのアンバランス少女だ。
「ウサギ!?なんでここにいるんだよ!」
そう、ウサギはなぜかここにいる。
キョウヤにケーキを買ってこいと頼んだのだからてっきり別の場所にいると思っていたのだ。
「ヤッホーキョウヤ。ケーキ買えた?」
「あぁ、買えたよ。ってか今はそんな話じゃねぇよ!」
そう、そんなことは別にどうでもいいのだ。
キョウヤとしては早くこの胸の蟠りを解消したかった。
「私がここにいる理由、それはね…」
そこで一拍溜めるウサギ。
その溜めに何の意味があるのかと思ったキョウヤだったがここで話を捻じ曲げるわけにはいかないと判断した。
「なんとここでネムのコンサートがあるからなのだ!」
ネム、ストレンジ・ナイフに所属している少女でアイドルをやっている。
「ほら、早く行かないといい場所とれないよ!」
「俺はまだいくって言ったわけじゃ…」
「いいからいいから!」
そう言ってキョウヤの背を押すウサギ。
それには有無を言わさぬ力が込められていた。
「とりあえずユキもいるから連れてこないと…」
「ユキもいるの!?ねぇ、どこどこ?」
それを聞いた瞬間ウサギは嬉々とした表情を見せてせわしなく周りを見渡す。
「連れていくから押すなっての」
「ごめんごめん、じゃあナイト、いい場所とっておいて。ワタシはキョウヤ達と一緒に行くから」
「りょうかい」
そう言ってないとは会場があるであろう方向へと足を進める。
「ナイト、今日の晩俺の部屋に来い、そこで続きだ」
去り際にナイトに耳打ちしたキョウヤはウサギを連れてユキの元へと向かった。