「どうだマリナ?いたか?」
あれからかれこれ30分。
クラスの暇な人材を集めての捜索を開始したものの一向に見つかることはなかった。
「本当にここにいるですか?」
ユラ曰く迷子になったらこの公園に絶対に来るはずだと言っていたが今はそれさえ疑わしいぐらいだ。
本当ならケントと二人きりの時間だったはずなのにこんなことを…。
(いや…裏を返せばこれも二人きりです…?)
そんな考えが頭をよぎる。
そしてその考えは次第に膨張しワタシを飲み込む。
(ケントにアピールするには今しかないですっ!)
「ねぇケント…」
私はとびっきり甘い声を出しケントを呼ぶ。
「ん?どうしたマリナ」
「マリナ疲れたです、だからおんぶ…」
「あっ!どうでした、そっちにいましたか?」
私の言葉を遮り別の声がかかる。
ふわふわしたその声の主はミンだった。
「いや、こっちはいないみたいだ」
ケントは私の次の言葉を待たずにミンと会話を始める。
「そっかー、ケント君の方にもいなかったのかぁ…どこかほかに心当たりとかはないかなぁ?」
相変わらずふわふわゆるゆるとした調子で話すネコミミ少女。
普段の私であれば何も感じない、むしろ癒されるぐらいだが今はそれに怒りさえ覚えた。
(マリナちゃんのおねだりの途中で横入りなんてずるいです…!)
私の気も知らないでミンと話すケント。
その姿にさらに怒りを覚えケントの腹を殴った。
「はぁ…何でいいところで邪魔が入るですか…」
他の場所を探すと言ってあの後すぐにその場を離れたミン。
ケントはミンが去っていく背中に笑顔で手を振っていた。
その姿にまたいらいらしたがケントに当たっても仕方がないと思い必死にガマンをした。
「で、マリナさっき俺に何を言おうとしたんだ?」
ケントは律儀にそう尋ねてくる。
元々ケントは他人のことをあまり厳かにしない人物だ。
なのでこの言葉も自然と口から出たんだろうが私にとってはとてもうれしいことだった。
「え~と…疲れちゃったからおん…」
PiPiPi...
その時急にケントのズボンのポケットから機械音が鳴り響く。
「あぁゴメン、ちょっとでるな」
ケントはポケットから携帯端末を取り出し耳に当てる。
(またタイミングが悪いです!なんて日なんですか!?)
神さまが本当にいるんだったら今すぐひっぱたきたいところだ。
それぐらい私の怒りは頂点に達していた。
(落ち着くですマリナ…こんなことで怒ってたらダメです…)
私は必死に自分に暗示をかける。
そうでもしないと耐えきれなかった。
「えっ!?本当かサクヤ!」
暗示の海へと落ちかけている私をケントの大声が目覚めさせた。
ケントの電話の相手はどうやらサクヤだったらしい。
いや、今はそんなことどうでもいいか。
それよりケントの驚き具合が尋常じゃない。
「おう、わかった!今からそこに向かう!」
ケントは通話を終え端末をポケットにしまう。
そして私に向き直りこう口を開いた。
「今からサクヤの所に向かうぞ」
「サクヤの所ですか!?それは、ちょっと…いやです」
私はサクヤとの関係はあまりよくないと自覚している。
この前の戦いでケントを傷つけられて以来余計敵視しているほどだ。
(なんであんな奴の所に行かなくちゃいけないです!)
私はそう思っていたがケントのこの慌て具合から見て何か大変なことが起きているのはわかった。
この場合私情を挟むのはあまりいい選択とは言えないだろう。
なので私は湧き上がる嫌悪を抑えてこう言った。
「むぅ…サクヤは我慢するです…でもそこに言ってもしくだらない事だったらすぐに帰るですよ!」
「落ち着いて聞けよ、マリナ」
「その前にケントが落ち着くです」
落ち着けと言っているケントだがその様子は誰が見ても全然落ち着いていなかった。
「さらわれたかもしれないんだ」
「え?」
「だからさらわれたかもしれないって」
いや、言葉の意味は分かっているのだ。
しかしこれが本当なら大変なことになる、ユラの妹ではなく誘拐犯が。
あのユラを敵に回したのだ、明らかに命の保証はない。
「何か根拠はあるです?」
「あぁ今さっきのサクヤからの電話で聞いた話なんだが…」
その話を要約するとこうだ。
サクヤが公園に向かう途中路地裏で少女がさらわれているのを目撃したらしい。
それをつかまえようと追いかけていったらそこに今は使用されていない倉庫があったらしい。
中を覗くと多数の少年少女が縛られておりその周りには武装した集団が取り囲んでいた、とのことだった。
もしかするとこの中にユラの妹がいるかもしれない、そういう意図だろう。
「わかったです、でも、ひとつ質問があるです」
「ん?なんだ?」
「なんでサクヤ一人で助けにいかないです?」
そう、サクヤの実力があれば私たちを呼ばなくても十分に勝てる相手だろう。
それに武器も持たない私たちを呼んでも意味はないと思う。
「相手の数が多すぎるんだってさ。人質さえいなければ勝てるって言ってたけどな」
私はその瞬間全てを理解した。
どうやらサクヤは戦っている間に人質に何かあってはならないとして私たちをよんだのだろう。
さしずめ人出は多い方がいいっていうところだろう。
「じゃあさっそく行くぞ!」
ケントのその合図で私たちは駆け出した。
約20分後、私達は例の倉庫の近くに集まった。
その場に集まったのは私とケントを含め5人。
サクヤ、ユラ、ネムだ。
「もう遅いよケント!私この後ライブあるんだから早く来てよね!」
ネムは怒りながらそう言った。
しかしその顔を一瞬で引き締めて倉庫に目をやる。
「まぁ怒るのはこれが終わった後でもいいか。まずは役割を確認するよ」
なぜかネムが仕切る形になっていたが私もケントも文句を言わずそれに従う。
配役としてはサクヤとユラが最初に切り込み敵を倒す、次にネムが異能を使って遠距離の敵を倒す、そして私とケントがその隙に人質を解放する。
私は余裕があれば異能を使えとの事だがたぶん無理そうだ。
私の異能は発動中は動けないため多数の敵と戦う時には不向きだ。
「さぁ早く行くよ。入るタイミングはユラ達に任せるよ」
私達はそうこの前に臨戦態勢を取り立った。
「いくぞ!」
ユラの合図とともに扉が斬り落とされる。
そこからは一瞬だった。
突然の侵入者に慌てた誘拐犯たちは慌てふためきパニックに陥る。
それを見逃すことなくユラとサクヤは一気に敵を倒す。
ネムの活躍がほとんどなくなるほどに速攻を決めた二人。
私はそれを唖然として見つめるしかなかった。
「この中にはいないな…」
ユラはそう言って肩を落とす。
あの後犯人連中をとらえ人質の解放をしたがそこにユラの妹の姿はなかった。
どうやらさらわれてはいなかったようだ。
「もう!なんで私をよんでおいて出番が無しっていうの!?」
ネムは自分の活躍が無かったことに腹を立てているようだ。
無理もない。
ライブが控えているというのに呼び出されあんな作戦まで考えたのにそれを必要としないほどあっけない終わりを迎えたからだ。
「私が目立てないんだったらもういい!私ライブ行ってくる!」
子供のようにすねたネムはそう言ってすたすたとどこかに行ってしまう。
しかしその足は彼女の端末の着信音によって止められる。
「あ、ヨウ?どうしたの?…ホント!?…分かった、ありがとう!」
どうやらヨウからの着信だったようだ。
ネムは踵を返してこちらまで近づきこう言い放った。
「ヨウが言うには私のライブ会場にヒカリちゃんいるんだって、キョウヤたちと一緒らしいよ」
それを聞いてそこにいる一同はほっと胸をなでおろす。
ユラの妹が見つかった安堵感からか皆顔が緩む。
「キョウヤ達と一緒ならなおさら安心するな」
「じゃあ俺行ってくるよ。手伝ってくれてありがとな」
ユラはそう言いその場を去る。
(ユラが感謝の言葉を言うなんて初めて聞いたです…)
珍しいこともあるモノだと私は驚いた。
「じゃあ私もライブいってきまーす」
「私もそろそろ帰ろうかな」
ついでネム、サクヤもその場から去った。
後に残るは私とケントだ。
「どうする?帰るか?」
このまま帰っていいのだろうか?その疑問が胸の中で渦巻く。
このままではだめだと私の中の何かが騒ぐ。
そうだ、今日はまだ終わっていない。
諦めるにはまだ早いのだ。
「もっと遊ぶですケント!マリナ行きたいところがあるのです!」
そう言って私はケントの手を引き目的地まで向かった。