私達は今この公園にある高台にやってきている。
時刻は17時30分。
空はオレンジに染まり私達も赤く染まる。
「どうですケント!この景色は!」
私は自慢するようにバックの背景を指す。
「うん、すごく綺麗だよ…こんなところにこんないい景色が見れるところがあるなんて…」
ケントはその美しい光景にあっけにとられているようだ。
今しかない。
心の奥底の私がそう告げる。
今を逃せばもう今日は絶対にチャンスなんて巡ってこないぞ。
私の中で葛藤が始まる。
今しかないとわかっていても勇気が足りない。
私は諦める、そう選択肢その場を後にしようとする。
しかしケントはそれを遮るように私の腕を取った。
「なぁマリナ、ここ電波もいいみたいだしさちょっとネムのライブの様子だけ見ていこうぜ」
何を言い出すかと思えばそう言う事か。
私は頷きケントの持っている端末へと目を落とす。
「へぇ凄い盛り上がってるんだなぁ」
「当然です、だって今人気ナンバー1のアイドルなんですから!」
改めてネムがステージで歌っている姿を見ているとアイドルなんだと思わせられる。
彼女のその姿から様々なことがうかがえるからだ。
今までの努力やそれに次ぐ才能、その他沢山のモノが今のカノジョを支えているんだと思う。
「じゃあ次は新曲いっちゃうよ!これは来週発売なんだけど特別にお前らに聞かせてあげる!」
画面の中のネムはそう高らかに宣言し声を張る。
「勇気が出ないみんなに送るこの歌、Brave Dream!」
私はネムのそのフレーズをきき画面により一層注目する。
「新曲だってマリナ!」
「うるさいですケント、集中させてほしいです」
ケントは新曲というところでテンションが上がっていた。
しかし今の私はケントとそんなことを楽しく話す余裕はなかった。
「♪ワタシの思い伝えられない いつも不安に思ってるの 思いを告げられずにこのままお別れにならないか ねぇ神さま 私の願いを聞いてるなら今すぐ叶えてよ もうどうだって もうどうだって そんな言葉が口の端から漏れる 本当に言いたい言葉は「キミが好き」なのに キミを見る度心が痛む 臆病な私は今日も伝えられない」
「♪今日は夢を見たの 君が出てくる夢だったの 思いを告げられずこのままお別れしちゃった ねぇ神さま 私の願いが聞こえてるなら返事ぐらいしてよ もうイヤだ もうイヤだ こんな関係断ち切りたいよ 本当に言いたい言葉は「キミが好き」なのに 君と会う度心が痛む 臆病な私は今日も同じだ」
「♪ねぇ神さま もうあなたのことは信用しない 今日も君と別れる夢を見た こんなことになる前に伝えてみせる 「キミが好き」 こんな私でも言えたよ 本当に言いたい言葉の「キミが好き」 君は頬染め小さくうなずく 臆病な私は今日でサヨナラ」
曲が終わり会場が一気にわく。
画面の前の二人も例外ではなかった。
「ネムちゃんの新曲は今回も名曲だ!なぁマリナ!」
「うん、そうだね」
私はそれしか返せなかった。
返すほど感情の余裕がなかった。
これをきいて私の中で一つの覚悟が生まれたのだ。
今日、そして今しかない。
私は覚悟を決めてケントに向き合う。
「ねぇケント…こっち向いてしゃがんでくれるです?」
心臓の鼓動が高まる。
返事を待つまでの時間が永遠のように長く感じられた。
「おう、いいぜ」
ケントは何も疑いもせずにその場にしゃがみ込む。
「はむっ…んっ…」
ケントがしゃがんだ瞬間私はケントの唇を塞ぐ。
時が止まったかのように長い時間が流れる。
いや、実際にはほんの少しの時間だったかもしれないが私には分かるはずがなかった。
「んっ…はぁ…」
長くもありしかし短くもある唇の触れ合いを離す。
もどかしいぐらいの沈黙がその場に流れる。
お互いの心臓の高鳴りが聞こえそうなほどの無言。
それを断ち切り言葉を発したのはケントの方だった。
「な、何でこんな…」
それは戸惑いの言葉だった。
誰でもこういう状況だと戸惑うものだろう。
それを承知で私はキスをしたんだから。
「それはね…」
心臓が高鳴り、壊れそうだった。
私は少し間をおいてからこう答えた。
「ケントのことが好きだからです、いや、大好きだからです…」
私はそう言い放った。
ケントの次の一手を待つ間にも心臓が破裂しそうなほど高鳴る。
そしてケントはもう一度口を開いた。
「でも…」
それは私が求めていた言葉じゃなかった。
まだケントは迷っているのだ。
「マリナのこと…キライですか?」
「いいや、マリナの事は嫌いじゃないよ…むしろ大好きな位だ。でもマリナはまだ子供だ、だからこういうことはもっとよく考えて…」
「考えたです!マリナは考えて考えてこうやって答えを出したのです!ケントが子供がいやだっていうならケントぐらいまで大きくなってもう一回言ってやるです!だから…」
「マリナ…」
「それに…マリナちゃんの初キスをささげたんですよ?それぐらい大好きなのです、愛してるのです…」
もう一度無言の静寂が二人を包む。
私の中はもうぐちゃぐちゃだった。
ケントがどういう反応を示すか、ケントに嫌われないか…。
さまざまな感情がごちゃ混ぜになってのしかかってくる。
私は少しでも耐えるためにケントの顔をしっかりと見つめる。
数秒の空白の後ケントは諦めたように息を吐いた。
「はは、そうだよな。俺初キスもらちゃったんだもんな。いいよ、マリナ。お前の気持ち伝わったよ」
「それじゃぁ!」
「あぁ、俺もマリナが大好きだ!この世界の中で一番好きだ!」
私は顔がほころぶのを抑えられなかった。
同時にケントに抱きつきたいという衝動も抑えきれなかった。
「嬉しいですケント!」
私は思いっきりケントに抱きつく。
ケントはそれを拒もうともせずに受け止める。
そして自然な流れでキスを交わす。
「んっ…はぁ…これで2回目だな」
ケントは茶化すようにそう言う。
それが照れ隠しだと私はすぐにわかったがそれを指摘することはなかった。
「こんなことになるなんて全く想像できなかったぞ?マリナはいつから俺が好きだったんだ?」
いつから好きだったのだろう。
気付いたら好きになっていた感覚だ。
「う~ん…分からないです。でもそんなことはどうでもいいです!」
「まぁどうでもいいよな、そうだよな」
ケントは笑ってそう返した。
夕焼けの街を背にし二人は強く抱きしめあいそして唇を交わしたのだった。