「で、お前ってどういうやつなの?自己紹介なくいきなり出発だったからさ」
キョウヤ達は今森の中を馬に乗り疾走している。
つい数分前に宿にもう一人の重要人物文月電子(フミヅキデンシ)がやってきてすぐに出発となったのだ。
そのためお互い名前もよくわからずの状態だったのだ。
「僕のことですか?何を話したらいいのか…」
外見はヒカリと頭半個分ぐらい大きいがまだまだ小さい部類だ。
思わず男と勘違いしてしまいそうになるボーイッシュな服装を着て黒髪もショートにしている。
これで女と言われればさぞ驚くだろう、しかし女だ。
「何でもいいさ。…じゃあお題をやろう」
途端ケントの目がキラめく。
この目は明らかに何か妙な事を考え付いた目だ。
「好きな子っているの?」
やっぱりろくでもないことだった。
周りから白い眼で見られるもお構いなしだ。
ちなみにケントの周りにはキョウヤ、イツキ、ヨウ、ヒカリがいる。
要するに今回の作戦の要の護衛役だ。
「ケントさん…明らかにいまする話じゃないですよね?」
「そうだよ、ケントセンパイ。それにまだ恋するには早い年齢だよ?」
しかしちらりとデンシの顔を覗くと彼女は少しもじもじとし頬を赤らめていた。
(まさか…マジでいるのか…!?)
「べ、別に好きな人なんて…いませんって」
ちらちらとヒカリの方を見ながらそう口にするデンシ。
「へぇ~…そうなんだぁ」
少しにやにやしながら言うケントに対しデンシは心を見透かされたと感じびくびくとする。
「と、とりあえずこんな話題はやめてください!もっと話しやすい話題下さいよ!」
少し声を荒げるデンシ。
「おい、新入りども。話すのはいいが舌だけは噛むなよ!」
前からナイトがそう言ってきた。
「舌なんて噛まないですよ、ナイトさん」
「実はナイトってホントに舌噛んでるからそんなこと言ってるんだよ。確かいつだったかなぁ…?」
横からサクヤがそんなことを言ってくる。
ナイトは慌てふためきサクヤの言葉を遮る。
(よっぽどトラウマなんだな、それ…)
キョウヤは半分呆れながら笑った。
その後談笑をくわえながら馬を走らせ少し開けた場所まで来るとキャンプを組むことにした。
もうすぐ夜になるということも理由の一つだろう。
「さぁてお前ら十分休めよ、休憩なんてあんまり取れないんだからな」
ナイトが皆に向かってそう声をかける。
「なぁナイト、なんか先輩ぶってないか?いつもとちょっと違うキャラで正直ウザいんだけど…」
キョウヤは思っていたことをとうとう口にした。
この作戦が始まってからずっと思っていたことだった。
何かあればすぐにナイトが口を挟み正直もう飽き飽きしていたのだ。
「キョ、キョウヤ…そんな…俺はただみんなの…」
「みんなのじゃなくてここにいる女の子のためだろ?」
ナイトは単純だ。
その行動原理は女の子なのだ。
「そんな事思ってても口にしないのが紳士ってもんだぞ、キョウヤ」
「なら俺は紳士にはなりたくないよ」
最近ナイトのキャラが壊れてきた気がする。
いや、これが素のナイトなのかもしれない。
今まではキョウヤ達が来たことにより猫をかぶっていたのかもしれない。
まぁどちらにしてもこれ以上ナイトと話しても疲れるだけだと判断したキョウヤは適当に話を斬って料理を開始することにした。
(さぁてここで俺の料理の腕を存分に振るってやるぜ!)
「キョウヤお兄ちゃん、お料理するの?ヒカリもお手伝いするー!」
キョウヤが料理を始めるや否やすぐにヒカリが寄ってきて手伝いをせがむ。
キョウヤ自信あまり人に自分の料理を手伝ってほしくないと思っていたのだがそこはヒカリということで許した。
「ありがとうお兄ちゃん!そうだ、ユラ兄ちゃんも一緒にお料理しよ!」
(ユラが料理だと…!?)
ヒカリに呼ばれたユラはゆっくりとこちらに近づき近くにあった包丁を手に取る。
珍しくユラがやる気になっていた。
「キョウヤ、今日は何作るんだ?」
「えっ?…あ、はい。今日はまぁ外で作る料理の代表としてカレーを…」
驚きで声を失っていたキョウヤにユラが声をかけたことにより戸惑うキョウヤ。
しかしユラはそれを気にもせず淡々とカレーに使う食材を切り刻んでいく。
「じゃあ俺は鍋に火を…」
「いや、それも俺がする。キョウヤは何か付け合せでも作っておいてくれ」
「あ、はい…」
キョウヤ提案のカレーはすべてユラに作業を奪われた。
しぶしぶキョウヤはヒカリと一緒にサラダを作るために野菜をひたすら千切った。
「うわっ!?なんだこれ、スゲェ旨い!」
「すごいですヨイザキ先輩!これ高い店の味ですよ!」
料理が出来たのでそれを皆にふるまったがこのザマだ。
ユラの料理が大絶賛されているのだ。
(なにこれ、スゲェ旨いんだけど…もしかしてオレのより…いや、それは無いな、ないと信じたい)
キョウヤでさえうならせる逸品を作った当の本人は褒めちぎられても何食わぬ顔でカレーを食べていた。
「ん?何か味が足りない…もっとスパイスを加えてればよかったかな…」
しかも自分の料理を細かく採点し更にダメ出しをする始末。
身近な所にライバルを発見して敵意を向きだすキョウヤ。
しかしそれを眼中に無いとでも言うヨウにユラは黙々とカレーを食べ進める。
しかし急にその顔をこわばらせたかと思うとおもむろに手に持っていたスプーンを近くの木陰へと投げる。
「どうしたユラ!?」
ユラの近くに座っていたサクヤは声を荒げてそう言った。
「あの木陰に誰かいた。オシリスの人間ではないことは確かだ」
「ちっ…偵察ね。どうする?このままここでお食事ってことはさすがにないよね?」
サクヤは皆の顔を見渡す。
皆一様に不安を隠し切れないようだが眼は据わっていた。
「偵察が来るってことはやっぱりこの近くに何かあるってこと。僕は先へ進むことがいいと思います」
デンシがそう言い皆がその考えに便乗する。
デンシは小さく戦闘など経験したこともなさそうなのに適切な判断を下す。
(こいつ、将来有望な軍師にでもなるんじゃないか?)
一瞬脇にそれた思考をもとに戻しキョウヤは馬にまたがろうとする。
「いや、馬は使わない。こいつは今ここで放す」
そう言ったナイトは馬にくくりつけてあった手綱を外し解放してやる。
「なっ!?そんなことをしたら…」
「こいつは勝手に主人の元へ帰る。だから心配はない、それにこいつが空で帰ってきたら俺たちに危機が近いってことも知らせることが可能だ」
なるほどだった。
全て理屈にとおっていて無駄がない。
「それに馬に乗った状態で敵が来たらどうやって戦う。銃を使うのならまだしも剣同士でやり合うなら確実に不利に近い」
そこまで計算に入れてナイトはウマを放ったのだと思うとやはり歴戦の戦士だと感じる。
「お前ら走るぞ!」
キョウヤ達は必要最低限の荷物を持って森の外を目指して走り出した。