「お兄様、それでは約束を果たしに行きましょう」
「だからその約束って何だ?生憎俺は記憶がないんでな、教えてもらえれば助かる」
キョウヤはイリヤの元へと歩みより一対一の会話を始めた。
自分の正体を明かすために。
「まさか約束まで忘れているなんて…!仕方ありませんわ、お兄様のためならどんな手間も惜しみませんの」
そう言ってイリヤは話しだした。
「私とお兄様は二人で世界を支配するっていう約束をしていましたの。世界を支配してわたくしたちが望む理想郷に作り替えるんですの」
明らかに馬鹿げた話だった。
しかしそれは最強の暗黒騎士二人の言っていることであると理解すれば途端に現実味を帯びだした。
「あれはわたくしがまだ小さかった時ですの…」
「ちょっと待った。その話は長くなるのか?」
「う~ん…軽く3時間は超えますけど大丈夫ですよね」
「じゃあ止めてくれ…」
3時間も無駄な思い出話を聞く気にキョウヤはなれなかった。
「私とお兄様がそろえばそれは簡単な事だった。私たちの通った後には血の跡しか残らないと言われたほどに高みに上った」
「その約束のためならどんなことでもした、大群を再起不能なまでに潰したり、村を焼き払ったり…少々わたくしたちの理念とは違っていましたが仕方なかったのです」
こんなにも残酷なことを仕方ないでこの少女は済ませてきた。
どれだけの人が苦しみもがき死んだか想像できなかった。
想像しようとしても吐き気が催されるのみだった。
「どうです、お兄様?思い出してきましたか?」
「いいや、まったく…」
イリヤはため息をついてからこう言い放った。
「ではもっと衝撃的な内容についてお話しした方がいいのでしょうか?」
「私たちに逆らう兵士などは片っ端からつぶしていきましたのよ?それもとても残忍な方法で。お兄様は思い出せませんの?あの断末魔を…」
その瞬間キョウヤの脳裏にその光景が流れ込んできた。
その光景は自身が想像しているよりずっと残酷だった。
自分に向かってくる兵士の腕をはね足をもぎ取る。
そんなことを邪悪に顔を歪めながら繰り返している光景だった。
「あぁ…あぁ…」
キョウヤは嘆くしかできなかった。
これが嘘ならどんなによかったことか、思い出せなかったらどれだけよかったことか。
しかし思い出した以上これは真実には変わりなかった。
「思い出せたみたいですね、お兄様。ではもっと過激なモノを…」
「それ以上耳を貸すな、キョウヤ!」
そう言いながらイリヤとキョウヤの間に割り切ってきたのはケントだった。
「ケント…!」
思わぬ助け舟が入った。
まさかケントがここで割り行ってくるとは思いもしなかった。
「おいお前!キョウヤをこれ以上苦しめるとどうなるかわかってるよな?」
「どうなるのです?」
ケントの凄味にもひるまずイリヤは冷たくそう切り返してくる。
ケントは背負っていた刀を引き抜きイリヤに向かって振り下ろす。
「こうするまでだ!」
ケントの刃がイリヤに当たる寸前、その刀は宙を舞った。
「え?」
舞ったのは刀だけではなかった。
刀を持っていた腕ごと切り落とされていたのだ。
それも肩からすっぱりと切り落とされている。
その刀は空中で回転しながら弧を描き地に落ちる。
「うっ…うああぁぁぁぁ!?」
その瞬間ケントは絶叫する。
自分の片腕を抑えて苦痛に顔を歪め涙とよだれで顔を濡らす。
「お、俺の腕…!痛い痛い!ああぁぁぁ!!」
イリヤはというとそこから取り出してきたのかも不明な鎖を持っていた。
その鎖の先には鋭利な刃がつけられていてその刃は血で赤く染まっていた。
「私とお兄様の時間を邪魔しないでくれます?もしこれ以上じゃまをするとなれば…右腕だけでは容赦いたしませんわよ?」
右腕を抑えうずくまるケントにイリヤは冷酷な視線と言葉を吐き捨てた。
「うあぁ…あぁ…」
ケントは呻くことしかできなかった。
「お兄様、これからお話の続きを…と思いましたがそこのごみがうるさいですわね」
イリヤはもう一度ケントに冷ややかな視線を送った後そこに近づきケントの額に指を突き付け何かをつぶやく。
その瞬間ケントは眠るようにその場に崩れ落ちた。
「お前、ケントに何をした!?」
「ちょっと眠ってもらったぐらいですの、それ以外は何も…それよりいいんですの?これ以上放っておいたら彼死んじゃいますのよ?」
そうだった、これ以上おいておいたら失血死する。
キョウヤは急いでミンを呼び出し簡単な治療をするように頼んだ。
「さてお兄様、私思いつきましたの。お兄様には一緒に帰ってきてもらいます」
「え?」
「だからお兄様にはわたくしたちの国、アンラに帰ってきてもらいたいのです。もし拒否でもしたらさっきの彼みたいにお兄様の今のお仲間を一人ずつ制裁していきますわよ?」
自分が犠牲になれば仲間は助かる。
いや、自分を犠牲なんて言葉はおかしい、たぶんあちらの国では丁重にもてなされるのは間違いないだろう。
これはもはや天秤にかける余地もなかった。
キョウヤがアンラに行くことによって仲間も助かる。
それに命があれば隙を見て逃げ出すことも可能だ。
キョウヤは考えることも無く答えを出した。
「あぁ、そうだな。俺はアンラにかえ…」
「ちょっと待って!」
その言葉を遮るように後ろから叫び声が聞こえた。
声の主は何とヒカリであった。