俺達は今黒の軍勢を高台の上から眺め見ている。
ちょうどいいポイントに高台があったのでそこで相手の様子をうかがうことにしたのだ。
のはいいんだが…
「おい、お前ら…」
「ん?何、センパイ?…あ、もしかしてやっぱりセンパイも食べたくなったの?」
「いや、いいや…ってかもっと緊張感ってのをなぁ…」
今ここは小さなピクニック状態に陥っていた。
なぜか急にみんなここでご飯を食べるということになったのだ。
俺はその現状に全くついていけなかった。
「もうダメだよ、センパイ。ちゃんとたらふく食べないとおなか空いて倒れちゃうよ?」
「そうだよ、それにヨウも言ってたんだから。ご飯を残しちゃ作ってくれた人に可哀想って」
いや、それはここで使う意味じゃないと思うが、ネムさんよ…
「もぅお兄ちゃんってば硬いんだからぁ…もっと柔軟にいこうよ。ほら、ご飯食べながら作戦会議してるって思えばいいんだよ」
俺はついにその場に腰を下ろし大きな重箱に詰まっているおにぎりを口へと運ぶ。
これ以上俺が言ってもこいつらには通じないし俺にもやっぱりそういう応用力があった方がいいと思ったからだ。
「でさ、ネムちゃん?やっぱりあれってイリヤの引き連れてる軍勢?」
ユキは口いっぱいに頬張ったおにぎりをお茶で流し込みネムにそう尋ねる。
「うん、そうだよ。あれは絶対イリヤが引き連れてるね。だってあんなに人形を用意して…」
黒の軍勢を見た時俺は正直驚いた。
何故ならネムが言うように人形がたくさんあったからだ。
いや、ほとんど人形だったといった方がいいだろう、それぐらい多くの人形の軍勢であった。
人の形をしたもの、悪魔の形をしたもの、ケモノの形をしたもの、果てはドラゴン型なんてものもあった。
そのどれもが一様に違う姿形をしたもの、しかもどれもファンシーだった。
そんなものが大量に歩いてくる様は気持ち悪いとさえ思えるものだった。
「普通の人形遣いは基本3~5体ぐらいを操るのがやっとなんだけど、イリヤの場合はそれが無限にあるって思った方がいいかも」
「ってことはあの人形全部をイリヤが操ってるってことだね」
ユキは人形の軍勢を見ながらそうつぶやく。
あのすべてを一人の少女が操ってるっていうのだから相当な実力の持ち主だ、イリヤは。
そう思いながら俺は重箱のから揚げを箸にさして口に運ぶ。
「あ!センパイ!それ私のから揚げ!」
キラが目を見開いて俺の口の中へと消えた唐揚げを残念そうに見つめる。
「え?そうだったの?ごめんごめん」
「うぅ…最後の一個…ずっと狙ってたのに…」
「狙ってただけかよ!」
キラは今にも泣きだしそうな表情をしている。
そういやこいつ、姉のイツキと違って肉大好きだったっけ。
「ったく、それぐらいで泣きそうになってんじゃねぇよ…帰ったらから揚げおごってやるから」
「え!?ホント!?」
それを聞いた瞬間キラは一瞬で立ち直る。
「約束だよ!約束だからね!?指切りげんまんだよ!」
キラは目を輝かせながら小指を差し出してくる。
俺は少し気恥ずかしながらもそれに自分の小指を絡める。
「よぉ~し!みなぎってきたぁ!さぁいこー!」
キラは重箱に残っていたモノを全て口に入れてから一瞬のうちに飲み込んだ。
「ほら、みんな!もうご飯は終わりだよ!さぁいくよぉ!」
その場にいるみんな、俺を含めてはキラの早食いに目をぱちくりとさせながら放心するしかできなかった。
「かっらあげー!かっらあげー!♪」
キラは意気揚揚にそんなことを口ずさみながら高台を降りていった。
「お、おい!こいつら、しなねぇぞ!?」
俺は必死に剣を振りながらそう叫ぶ。
あの後すぐに戦闘に入った俺たちだったが人形の軍勢を甘く見ていた。
腕を飛ばしても頭を飛ばしても胴と足を引きちぎってもアイツらは動き続けた。
「お兄ちゃん!凍らせて!この人形たち、私の能力で凍らせたら動かなくなった!」
すぐ隣でユキがそう叫ぶ。
俺は異能を発動させるべく集中する。
が、この前見たく異能が発動できるわけも無く俺の集中力は霧散した。
「お、お兄ちゃんどうしたの!?この前は使えたのに…」
「わ、わかんねぇ…何か、何かが足りないんだ…でもそれがワカンネぇんだ!」
俺は異能が使えない理由が分からない怒りを人形どもにぶつける。
「お兄ちゃん!後ろ!」
「え…?」
いつもなら対応できていたであろう後ろからの攻撃も頭に血が昇っていた今ではかわしきれなくなっていた。
(はは…俺、もうここで終わるのかよ…)
なぜか口元からはかわいた笑みが漏れ出ていた。
「アイギス!」
目の前に光の盾が形成される。
人形の攻撃はそれに遮られて大きく後方へ吹き飛ぶ。
「センパイ!まだあきらめるのは早いですよ!もっと粘らないと!」
「そうだな…俺、ちょっと油断してたよ…」
抗いもせずに死を覚悟したさっきの自分を思い出し自己嫌悪に陥る。
「どうしようもないときは呼んでください、絶対駆けつけます…だって、仲間でしょ?」
キラは照れ臭そうにそう言ったのち逃げるようにその場を去ってしまう。
「仲間・・・か」
俺はその言葉を噛みしめるようにつぶやく。
その時俺の中で何かが爆ぜるのが分かった。
それが何かは俺には分からなかったが気付いたときには俺は駆け出していた。