本編とは全く関係がないようなあるような…
とにかく皆さんメリークリスマス!
雪が降る夜に
冷たい夜風が俺の頬を刺すようにかすめていく。
俺はきゅっと首をすぼめてダウンジャケットのポケットに手を突っ込む。
「はぁ…遅いな…」
白い息が口から洩れそれが夜の闇の中に消えていく。
今俺ことアケボシキョウヤはここ、クロノスタウンの繁華街にある大きなクリスマスツリーの下で待ち合わせをしていた。
このツリーは待ち合わせスポットには最適なようでさっきからひっきりなしに人が訪れては楽しそうにどこかへと去っていく。
俺がこっちに来てから初めてのクリスマスが訪れようとしていた。
「お待たせ、お兄ちゃん!ちょっと用意に手間取っちゃって…えへへ」
あちらの方からかわいらしいツインテを揺らしながらやってくる少女、ユキだ。
俺の待ち合わせの相手でもある。
「ごめんね、お兄ちゃん、待ったかな?」
そう言って俺の顔を下からうかがうユキに俺はどきりとした。
「い、いや…そんなに待ってない…」
実際には30分以上待っていたとは言えないな。
「そう。…じゃあお兄ちゃん、デートしよっか」
楽しそうにそう言ったユキはその場でひらりと背中を向ける。
綺麗な金髪が彼女の来ている白いロングコートにベストマッチしていて俺は思わず見惚れてしまう。
「ん?お兄ちゃん、どうしたの?」
「あ、あぁ悪い、今日のユキスゲェ可愛いなぁって…」
無意識にそんな言葉をついていた俺ははっと我に返り頬を赤く染める。
しかしユキの方も頬を赤く染めて俺のことを見ていた。
「もぅ…嬉しいこと言ってくれるじゃん…でも、褒めたってなにもでないんだからね!」
そう言ったユキは手袋に包まれた右手を俺へと差し伸べてくる。
「ん?なんだユキ?」
「お兄ちゃん男の子なんでしょ!だったら女の子をエスコートしなきゃ!」
意図を理解した俺はその手を掴む。
「わかりましたよ、お嬢様」
俺はそう言ってユキの手を取る。
口の端からは笑みがこぼれてならなかった。
「うわぁ…これ可愛いよ、お兄ちゃん!」
「うん、そうだな。お、これも結構いいんじゃないかな?」
正直に言おう、俺にエスコートなんてできるはずがなかった。
このあたりの地理もあまり覚えていない俺は途中からユキに振り回されるという形になってしまった。
いや、それはそれで楽しいんだが…
今は小さな雑貨屋の店先で嬉しそうにペンダントを眺めていた。
「うん、お兄ちゃんにしてはなかなかのセンスだよね。でも、やっぱり女の子が気に入るのはこっちじゃないかな」
ユキはそう言って控えめな装飾の星形のペンダントを指差す。
「こんなのがいいのか?俺はてっきりもっと派手なモノがいいって思ってたけど…」
「お兄ちゃん、今はシンプルが流行ってるんだよ。知らないの?」
正直女子の流行についていけない。
それは多分世の中の男子諸君の宿命ではないだろうか。
「はぁ…これ欲しいなぁ…って高っ!?桁一つ間違ってるんじゃないの!?」
ユキが値札を見て驚愕する。
俺もそれを横目でちらりとみやる。
そこには贅沢にも6ケタの数字が並んでいた。
「な、何でこんなに…!?」
よくよく観察してみると意外にもこいつには結構値が張る鉱石が使われていることが分かった。
ユキはさっきからずっとこのペンダントにくぎ付けになっている。
ここは良いお兄ちゃんの出番だろう。
「ユキ、ちょっと待ってろ。野暮用を済ませてくる」
俺はユキに何をするのか悟られないようにそう言うと店内へと入る。
店内は暖房が効いているようで外の寒さが嘘のように暖かかった。
「いらっしゃいませ、何かお探しでしょうか?」
俺が店内に入るや否や気のよさそうな男性が店の奥から出てくる。
「あぁ、ちょっとききたいんだがあの店先においてあったペンダントって安くならないかな?」
「ペンダント・・・ですか…」
男は少し戸惑いがちに考える素振りを見せた。
少し考えたのち店主に聞いてくるといい店の奥へと消えていった。
残された俺は少し店内を物色しようと適当にうろつく。
「あれ?キョウヤさんじゃないですか?」
「ん?…あぁ、ヨウか。どうしたこんなとこで?」
声をかけられたのは同じクラスの少年、ヨウであった。
格好はいつもと同じ羊パーカーに俺は少し不安をおぼえる。
ジャケットを羽織るとかはないのかと俺は考えてしまう。
「僕は姉さんの買い物にね…」
ヨウは目線を店の奥ではしゃいでいる少女に向ける。
そこにはモコモコのダウンジャケットを着て耳あてを付けた少女の姿があった。
多分変装をしているのだろうがいつものようにあっている俺にとってはバレバレであった。
「それよりキョウヤさんこそ、こんなところに来るなんて珍しいですね?」
「あぁ、ちょっと野暮用でな」
俺はそう適当に濁す。
しばらくヨウと適当な話をしていると店の奥から店主らしき男が出てきた。
「クリスマス割引で値下げしてもこれ以上は…」
そう言って店主が指示した額は6ケタをギリギリきるような値段だった。
「なぁ、もうちょっと安くできないかな?」
「いや、しかし…」
店主はうんうんとうなっている。
客の要望には応えてあげたいのだろうがやはり売り手としては結構厳しいのであろう。
「あのキョウヤさんが値切り…フフ」
隣でヨウがかすかに笑った。
「笑うなっての!」
「いや、ゴメンなさい…ちょっと僕に任せてもらえませんか?」
ヨウはそう言って店主の方へと歩み寄る。
「あの…ボクの姉さんが店先で歌って客寄せしますからもう少し安くなりませんか?」
店の奥で俺たちの事にも全く気付かずにはしゃいでいるネムに指を向けるヨウ。
「ですがお客様のお姉さまが歌われたとしても宣伝効果には…」
ヨウはにやりとして店主の方へと近寄る。
「僕の姉さんはね…」
そう言ったのちヨウははっとした表情を浮かべて俺の方へと向く。
「…キョウヤさん、僕を持ち上げてくれませんか?…ボクの身長じゃこの人の耳元に届かなくって…」
俺は噴き出しそうになるのを必死にこらえてヨウを抱きかかえる。
実際肩車でもしてやろうかと思ったのだがそれだと後でヨウからどんなことを言われるか。
「ありがとうございます、キョウヤさん…それでは…」
ヨウはすっと息を吸うと店主の耳元へとささやきかける。
「僕の姉さんはあの咲神ネムなんですよ?」
すると店主は顔色を変えて驚く。
「え!?あ、あの咲が…」
「しっ…今姉さんはオフなんだよ、あんまり大声出さないで」
ヨウは口元へと指を持ってきて子供を黙らせる風な素振りを見せる。
「もしここで僕の姉さんがこの店の宣伝の為に歌えば…どうなるかわかるよね?」
「し、しかしあなたのお姉さまがあのネムちゃんだとは…」
この店主はかなり疑り深いようだ。
「あいつは本当のネムだぜ。俺が保証するよ」
店の奥からそんな声とともに黒髪の少年が姿を現す。
「え?ナイト?お前どうしてここに?」
そいつは俺たちのクラスメイトの焔ナイトだった。
「よっ、キョウヤ、それにヨウも。この店には結構思い入れがあってな…クリスマス前には忙しくなるから手伝いに来てるんだけど…今年はさっぱりだな…」
ナイトは店内を見渡してから肩をすくめてみせる。
「だからネムに歌ってもらうのは俺は結構いいと思うんだけど…どうかな店長?」
「うぅん…ナイト君がそう言うなら…」
ナイトとヨウはそこで小さなガッツポーズを作ってみせる。
「ではお客様…この件も含めた割引価格はこれでよろしいでしょうか?」
店主は俺に値引きした額を提示してくる。
俺はそれを見て驚愕した、なんせさっきの半分以下になっていたからだ。
「こ、こんなに値引いてもらっていいんですか!?」
俺としてはこんなうれしいことはないのだがやはり店側に迷惑をかけると思ってしまう。
「大丈夫ですよ、たぶんこれ以上の売り上げが期待できそうですから。それに売り上げがあまり伸びなかった時はナイト君の給料からひかせてもらいますから」
店主は笑いながらナイトの肩を叩いてみせる。
「ちょっと店長!?何勝手に決めてんすか!?」
俺はそんな二人を横目で見ながらヨウにお礼を言った。
「いえいえ、僕は何も…あ、姉さんよんでこないと」
ヨウは少し照れくさそうにしながらネムの元へと歩み寄ってしまった。
「お待たせ、ユキ」
「遅いよお兄ちゃん!何してたの!?」
「ごめんごめん、ちょっとな…」
ユキは頬を膨らませて俺に怒ってくる。
そのしぐさがとても可愛らしく俺は頬がにやけてしまう。
「もぅお兄ちゃん!何ニヤニヤしてるの!」
「ははは、ごめんごめん…」
あのペンダントは無事に買えた。
後はユキに渡すだけだがここで渡してしまってはムードに欠ける。
俺はそれっぽいムードを醸し出す場所へとユキを連れていこうと手を取ろうとした。
「つめたっ!?…これは…雪?」
「ん?何か呼んで?お兄ちゃん?」
俺の頬へと冷たいものが当たり上を見上げる。
「いや、お前のユキじゃなくてさ、上見てみろよ」
頭上からは白い雪がぱらぱらと降り落ちてくる。
最初は少しだったそれはだんだんと量を増してきて空一面を白く染め上げる。
街灯のイルミネーションの光に反射して雪の一つ一つがキラめきを見せた気がした。
「ほんとだ…初雪がホワイトクリスマスなんて…すっごくラッキーだね、お兄ちゃん」
ユキは上をぼぉっと見上げながらそうつぶやく。
俺はチャンスだと思いユキの手を取り一気に駆け出す。
「え!?お兄ちゃん、ちょっとどこ行くの!?」
「いいところだ!楽しみにしてろよ!」
雪の冷たさを感じさせないぐらいに俺の体は火照っていた。
「ここって…最初に待ち合わせしてた…」
そう、ここは俺が待ち合わせをしていたツリーの下だ。
しかし俺たちがであった時と今とでは明らかにツリーに変化が見られた。
ツリーのイルミネーションが点灯していたのだ。
このツリーはある時間から点灯する仕掛けになっている。
俺はそれを狙ってこの場所に連れてきた。
「ユキ…ほら、これプレゼントだ」
俺はそう言ってさっき買ったペンダントを取り出してユキに渡す。
ユキは目をぱちくりさせて俺とそのペンダントを交互に見る。
そして目を輝かせて満面の笑みで微笑んだ。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
こんな笑顔が見れたのだから奮発して買ったかいがあるというものだ。
「ねぇ、お兄ちゃん…これ、付けてくれないかな?」
そのペンダントは首にかけるネックレス式だ。
俺はペンダントをユキの首にかけるべく腰を少し落とす。
ふと前を見るとユキの視線と混ざりドキドキと鼓動が高まる。
一瞬のすきが生まれた俺にユキが一気に距離を詰めてくる。
そしてその刹那唇に温かい感覚が一つ。
「ちゅ…」
ユキの唇で俺の唇がふさがれる。
時間にしてみれば一瞬の出来事だったが俺にとっては何分、何時間という長い間キスをしていた感覚がした。
ユキは唇を離し俺に向き直り無邪気に笑って舌を出す。
「こんな手に引っかかるなんてお兄ちゃんもまだまだだね…ざまぁみろ!」
ユキはそんな捨て台詞を残して走り去っていった。
最後にちらりとうかがえたその顔は真っ赤に染まっていた気がした。