「ったく…この人形、どんだけわいてくんだよ…!」
左手で起用に刀を操り群がってくる人形を切り刻んでいく。
かつて人形だったものは辺りに綿をまき散らしながら地に落ちる。
その中には可愛い人形なども含まれており俺の良心がきりきりと痛む。
「ケント、そこを動くなです!」
俺の横を小さな炎のたまが通り過ぎる。
そしてそれは俺の後ろに後ろから飛びかからんとしていた犬型の人形に当たり爆発する。
犬人形は赤い炎に包まれる体で少し悶えた後その機能を停止させた。
「ふぅ…ケント!何油断してるです!マリナが助けなかったら危なかったですよ!」
そう言って俺の元へと文句を言いに来る少女、いや幼女マリナ。
「ん?今何か失礼な事考えたです?」
マリナは笑顔で俺を下から覗きこむ。
(目が笑ってねぇ…あぁ、スゲェゾクゾクする…!もっと、もっとその死(視)線を…!)
「ケント、なにニヤけてるです?キモいです」
っと、そうだった。今はこんなことを考えてる余裕なんてなかったのだ。
どうにかしてこの人形の海を突っ切らなければいけなかった。
「普通にこんなの相手にしてたらきりがねぇです!もっといい方法を考えるです、ケント!まったく無い脳みそを絞り出して考えるのです!」
あぁ、またマリナ様が俺を罵倒して…ってそんなこと考えてる暇はないな。
俺は必死に頭をフル回転させる。
ふと視線を落とすとさっき丸焼きにされた犬人形が。
「これだ!マリナ、この前やったみたいに俺のこいつに炎つけてくれよ。多分この刀に炎つけて切ったら…」
「なるほどです。ケントのくせによくやったですよ!ちょっと待つです、魔法組み立てるのです」
そう言ってマリナは目をつぶって何やら集中モードに入る。
俺は今の無防備なマリナを護るためにマリナに近づく敵をなぎ倒す。
(ははっ、今の俺ってさながら王女様を護る騎士?みたいな)
どんどんと飛びかかってくる人形どもを切り捨てる。
マリナのためなら身体の奥底から力が湧き上がってくるような気がした。
「ケント、できたです!」
俺はその声をきいたのち刀を天高く掲げる。
するとそこに渦のような炎が巻き付く。
「サンキューマリナ!よし、いこうか!」
「はいです!」
俺はその刀をめちゃくちゃに振り回しながら敵陣の中央までかける。
振り回すだけで大きめの火の粉を散らす。
その火の粉に当たった人形は燃え上がり隣の人形へと燃え移る。
負の連鎖、この光景にはそんな言葉がお似合いだった。
案外人形の燃える速度の方が俺たちより早く眼の前にはかつての人形の燃えカスがあるだけだ。
そしてその奥に見える人影。
美しい金髪、黒と白のドレスを着た少女、イリヤだ。
俺の腕を奪い忌々しい記憶の枷を俺にはめてきた張本人。
俺は一瞬で体の血が沸き立つのが分かった。
脳の命令がすべてアイツを潰せという命令にシフトされる。
「イリヤァ!」
気が付けば俺は叫びながら金髪少女の元へと走っていた。
少女、イリヤはこちらに気が付きひどくこの場に不格好な笑顔を向けてくる。
「ようこそ、私の元へ…ってあなたなんですね、お兄様がよかったのに…よりにもよってあなたみたいな野蛮な人…」
「野蛮で悪かったな!それよりも…お前、俺の腕を持っていったことは忘れてねぇよなぁ?」
イリヤはクスクスと笑いながら次の言葉を放つ。
「ええ、もちろん覚えていますよ。あれだけゾクゾクする叫び声だったんですもの、忘れるわけないわ。でも、私の算段ではあの後にぐちゃぐちゃに心が潰れてしまう手筈だったのですけど…」
残念そうに肩をすくめるその姿に俺の怒りは沸点に達した。
反射的に動いたその体は刀をイリヤに突き付けながら飛びかかっていた。
「はぁ…あなたと遊んでる暇はないの。あなたはこの子と遊んでなさい」
イリヤはぱちんと指を鳴らす。
その瞬間俺とイリヤのちょうど真ん中に大きな黒い塊が下りてくる。
羽が生えて二足で立つその姿はまるで絵本の中に出てくるドラゴンの様だった。
「ケント!急に走り出していくなんて…マリナちゃんをおいて行ったら…って何です、こいつ?」
ようやく到着したマリナはその大きなドラゴンを見て目を丸くする。
「あら、まだいたのですね。では、そこの方も一緒に遊んであげなさい」
「あれ誰です?なんかユキに似てるですね…」
「そこの幼女。名前が知りたかったらまず自分から名乗るのが普通でしょ?」
あ、こいつ地雷踏んだ。
俺はそう思った。
案の定俺の思った通りで…
「誰が幼女です?」
怒りにより声が震えているマリナ。
声のトーンも少し落ちている気がした。
「誰って…あなたのことに決まってるじゃありませんか、幼女さん」
「ケント…マリナちゃんにちょっと付き合うです…アイツ、絶対に殺すです」
マリナの周りにゆらゆらと炎が見える。
これは表現ではなく現実で、だ。
本物の炎がマリナの後ろで燃えているのだ。
「私を殺すんですの?まぁ恐ろしい。でも、あなた方はわたくしの可愛いこの子に殺されちゃってください」
イリヤが手を上に掲げる、と同時に人形のドラゴンの口から炎が飛び出す。
(人形なのに炎って…無茶苦茶だろ…)
俺は半分呆れながらその攻撃を見ていた。
どうせ熱くもなんともないんだろうな、と思っていた。
「…これ、熱っ!?ちょっと…おい、なんだよ!?」
ギリギリのところで攻撃をかわすも俺の横をかすめた炎はとても熱かった。
「あぁ、言い忘れてましたけど、このこ口の中に火炎放射器を仕掛けてあるんですの。油断してマルコゲ…なんてことやめてくださいね?あなた方は臓物をまき散らして綺麗な絵画になって死ぬのですから」
俺たちのそんな死にざまを頭に浮かべて吐き気を催す。
どうやらマリナも同じことを考えていたようで同じように顔をしかめる。
「ケント…どうやらこいつ、変態です」
「あぁ、変態だな」
「聞こえていますのよ?私、ちょっと傷つきましたの…」
そう言ってしょぼんとするイリヤ。
その動きに連動するようにドラゴンもしょぼんとうつむいたように見えた。
(これは…チャンスか…!)
俺はその隙を見逃さないように一気にドラゴンの元へと駆けた。
授業できいたことがある、人形師と心を通わせた人形は主のモーションを真似たりすることがあるって。
多分今のがそれであろう。
どうやらその人形遣いの腕が仇となったようだ。
俺はドラゴンの腹に刀を突き刺して思いっきり裂く。
中から白い綿が飛び出す。
すかさずマリナが炎の弾を穴の中へと打ち出す。
裂けたところから炎が広がりあっという間に全身に広がった。
「あれ…?これで終わり?…もっと強いものかと…」
見た目だけだったこいつに少し呆れながらも俺は一気に気を引き締めてイリヤの元へと走りそして突き刺す。
ぐにゃりとしたおかしな感触。
過去に一度味わったことのある人を殺すという感触だ。
(案外あっけなかったな…)
気が抜けた俺はそこで頭を上げる。
そこには俺の刀に貫かれたイリヤの姿が…なかった。
代わりにあるのは酷く歪んだ顔、驚きと恨み、悲しみその全てがごったがえになった表情をした腐敗した死体のみ。
俺はそれに見覚えがあった。
忘れてはいけないかつての友の姿。
「な…み…?」
そう、これは俺の中に残っているトラウマと同じシーン。
「あ…あぁ…お、俺、そんなつもりは…」
気が狂う。
頭の中がざわつく、まるで小さな虫が飛び回っているようだ。
「ケント!何してるです!」
俺の最愛の人が何か言ったような気がした。
「早く戻ってくるのです!またケントがおかしくなっちゃったらマリナ、どうしたらいいのです!」
俺の頭は考えることを放棄した。
全てのことが頭で処理しきれなくなったからだ。
「ケント…今、助けにいくです…!」
「そうはさせないわよ、幼女!私のドラゴンちゃんがあの程度で死ぬと思って?」
炎を全身に纏いながらもそのドラゴンは動いた。
炎ごときでは死なないとでも言うように。
しかしそんなこと、今の俺にとってはどうでもよかった。
もうどうでもいい。
俺の意識は糸が切れたように途切れて闇の中へと落ちていった。
-マリナの異能解説講座-
「マリナだよぉ!今回はマリナちゃんの異能です!」
「お、待ってましたぁ!」
「マリナちゃんの異能、ミラクルマジカル!これはマナから魔法を作ることができるのです!」
「へぇ…魔法とは何か違うの?お手製ってだけ?」
「よくぞきいてくれたです。この魔法は変幻自在!マリナちゃんの思うがままに形が変わるのです!」
「え~と…あの、炎を巻きつける奴みたいな?」
「そうです。あぁいう荒業が出来るのはマリナちゃんだけなんですよ!」
「スゲェなマリナ!」
「すごいことが分かったらケントもちょっと体感してみるですよ!」
「え?」
「じゃあいくですよぉ…ミラクルマジカル!」
「あ、熱っ!?…こ、今度は冷たい!?…ちょ、痛い風がいたい!」
「はは、ケントったらそんなに喜んで!もっとやってやるのです!」
「はい!ありがとうございましゅぅ!熱い…けど気持ちいいよぉ!もっと…もっとやってぇ!」
「もっと鳴くのです!このくそケント!」
※異能は正しい使い方をしましょう…