「…て…起きて…センパイ、起きて…」
闇の中に沈んでいた意識の中そんな声が聞こえる。
だんだんとはっきりしてきた意識がそれを俺を呼ぶ声だと認識する。
そして重い瞼をゆっくりと開く。
「んっ…あ、キラおはよ…」
「おはよ…じゃないよ!もぅセンパイ!心配したんだから!」
まだ頭の中に靄がかかった感じだ。
俺はそれを振り払うように頭を振る。
「え~と…確か俺…殴られたんだよな…」
妹に殴られて気絶するなんてダサいにもほどがあるだろ、俺…
「で、俺どれぐらい気絶してた?」
「う~ん…10分ぐらい…?」
俺は慌てて辺りを見渡す。
と、視界の端にお目当てのモノが見つかった。
「まだ喧嘩してたのか…」
そこにはまだ言い争っているユキ、イリヤ、ウサギの姿があった。
「うん…ずっとあんな感じ…」
キラはあきれるようにそうつぶやく。
俺はため息を一つこぼす。
「センパイ、大丈夫?」
「あ、あぁ。なんだかあいつら見てるとな…」
あきれのような羨ましいような変な感情が渦巻く。
しかし俺の頬は嬉しさに少し吊り上っていた。
「で、あれ、止めた方がいいよな?」
「うん、センパイお願い。私じゃ無理っぽい」
俺は少し重い体を起こすと3人の元へと歩いていく。
「おいお前ら…俺を抜きに変な事言い合ってんじゃねぇぞ」
俺に気付いたのか3人は一斉にこちらを見る。
「あ、お兄ちゃん…ゴメンね、殴っちゃったりして…」
「そ、その…わたくしも…ごめんなさい、ですの…」
ユキにつられてイリヤも俺に頭を下げてくる。
なんだ、イリヤもいい奴じゃないか。
「あぁ、それならもういいよ。ほら、ぴんぴんしてるし」
そう言って俺は自分が元気な所をアピール。
二人とも俺のそんな姿を見てほっと胸をなでおろした。
「で、ウサギさん?」
俺は諸悪の根源へと顔を向ける。
「キョ、キョウヤ…顔が、怖いよ?」
そりゃ顔だって怖くはなるさ。
さんざん今まで好きかって言ってくれたぶんどうしようかと悩んでいた時だった。
ふとイリヤが俺に声をかける。
「お兄様。私たち、そろそろはっきりさせようと思いますの」
「は?何を?」
俺は頭に疑問符を浮かべながらイリヤに尋ねる。
「私たちはみなお兄様を思ってますしお兄様を他人に譲りたくない」
俺のことを思っているし譲りたくないのはさっきの会話から嫌というほどわかったけど…でもみんなベクトルが違いすぎるだろ。
ユキは俺を兄として恋人として独占したいみたいだし、イリヤは最愛の兄として、ウサギは…なんだろ?恋人?
「こんなおバカな自称妹と幼女と話してたらわたくしにもバカがうつってしまいますわ」
「もう!さっきからさんざんバカバカいって!バカって言った方が…」
俺は憤慨するユキの言葉を遮る。
そしてイリヤの次の言葉を待つ。
「なのでわたくし、実力でお兄様を奪ってみることにいたしますわ」
そういったイリヤは例の龍をもう一度自分の元へと引き寄せる。
「さぁ、私のお兄様、こんなおバカな奴らなんてすぐに蹴散らしてさしあげますから、一緒に帰りましょう」
人形の龍がおたけびをあげて俺たちの方へと向かってくる。
その大きな体のどこにそんな原動力があると疑問になるほどの速度で、だ。
あっという間に俺たちとの距離を詰めたドラゴンはまたしても炎を吐き出す。
「ウサギ、危ないぞ!」
標的はウサギ。
ウサギは呆気にとられてその場を動くことができないでいた。
「キラ、頼む!」
キラはこくりと頷くとアイギスを展開させる。
盾が炎を遮っている間に俺はウサギを抱え上げて逃げる。
まだぼぅっとしているウサギを俺は揺さぶる。
「おい、ウサギ!起きろって!」
ウサギは俺の呼びかけにはっとしたように目を見開く。
「キョウヤ…」
そうつぶやいたと思った瞬間いきなり俺の胸の中に飛び込んできて泣きじゃくった。
「え?う、ウサギ…?」
俺は何が起こったのか全く分からずにいた。
助けたウサギが急に泣き出した、もうわけがわからない。
「ひぐっ…うえぇぇ…怖かったよぉ…怖かったよ、キョウヤぁ…ひぐっ…グスっ…」
今のウサギはまるでお化けを怖がる子供のような感じだ。
ひたすら何かに怯え恐怖している感じだ。
「ど、どうしたんだよ…お前らしくないぞ…」
「ふえぇぇ…ひぐっ…だって、怖いんだもん…ひぐっ…ドラゴン、怖いんだもん…」
ドラゴンに怯えていたとわかると俺はほっと胸をなでおろす。
「なんだ、そんなことか…あれは本物じゃなくて人形だよ」
俺は子供を諭すような口調でウサギに語りかける。
「ふぇ?…人形…ぐずっ…」
ウサギは涙でぐしゃぐしゃになった顔で俺を見上げる。
「そうだよ、あれは人形だ…ドラゴンの何が怖いか知らないけど、でも大丈夫だから…」
「うん…グスっ…キョウヤが言うんなら、信じるね…ひぐっ…でも、もうちょっとの間ぎゅっとさせてほしいの…まだ、怖いから…」
今まで見たことないぐらいウサギの弱々しい姿。
過去に何があってこうなったのかはわからないけどとにかく今は護っていたかった、この小さくて大きな少女を。
俺がこくりと頷くとウサギは俺の体を思いっきりぎゅっと握りしめてさっきほどではないが泣いた。
俺もウサギをぎゅっと抱きしめて背中をさすってやる。
記憶はないが子供の時こうされると落ち着いたという事だけは感覚的に覚えていた。
「…怖かったな…もう大丈夫だからな…俺がついてるんだから…」
ウサギに聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で俺はそうつぶやいた。
「お兄様?何やってるんですの?私を差し置いてイチャイチャなんて許さないんですのよ?」
ふと背後からイリヤの声。
「お兄ちゃん危ない!」
俺がふりむいたのと同時、イリヤはいつの間にか手に持っていた鎌を振り下ろしてきた。
ウサギだけでも守るべく俺はぎゅっと腕の中の少女を抱きしめる。
もう終わるかもしれない俺の耳にウサギのしゃくりあげる声だけが妙に大きく聞こえたのだった。
「今回の異能解説はアイギスなのです!」
「アイギスかぁ…あれって結構便利だよなぁ…」
「便利って言いますけどどの辺がそうなんですか、ケント?」
「え?そ、それきくの?…え~と…あ、ほら、なんでも守っちゃうところとか!」
「やっぱりケントです…マリナ、がっかりです」
「え?ちょっとマリナ、ここはどう答えたらよかったんだよ?」
「攻撃も防御も出来て凄いってところを答えてほしかったのです」
「え!?アイギスって攻撃も出来たの!?」
「ケントしらないですか?アイギスは攻撃にもなるんですよ?」
「例えば…?」
「キラはいつもグローブにアイギスを施してたです」
「グローブに?でも何のために?」
「ここまで説明しないといけないですか?もぅ…ケントはバカなんですから、しょうがないですねぇ」
「すまんな、バカで…」
「相手を殴った際にアイギスの硬い表面が当たるのです。それはもう痛いどころの騒ぎじゃないのです」
「ごくっ…」
「それにアイギスの防御で自分への反動を無効化するのです。連続攻撃を加えてもこれで手の痛みもなくなって一石二鳥なのです」
「へぇ…そんな使い方が…」
「異能も応用すれば使い方は無限大なのです!防御のアイギスが攻撃に向かないって誰が決めたんです?」
「そ、そうだな…そこらへんは盲点だったよ」
「絶対の盾と呼ばれてるアイギスにも弱点はあるのです」
「あ、それはわかるぞ。アイギス自身への特殊攻撃・・・だったかな?」
「そうです。特殊攻撃といっても凍らせたり燃やしたり、ですけど」
「ユキの異能と相性が悪いんだったね、今のところ」
「はい、そうです!ケントのくせによくやったです!で、そんな賢いケントにプレゼントがあるのです!」
「え?マリナからプレゼント!?何かなぁ?おいしいものかなぁ?それともマリナの手作りのモノとか?」
「残念!プレゼントはさっき言ってたアイギスがかかったグローブと同じぐらいの威力のグローブを作ってもらったのでそれを味わってもらうというものです!」
「え?」
「ケントにとっては最高のご褒美ですよねぇ?」
「ちょ…ま、マリナ…?そ、それたぶんシャレにならないから…いくら俺でも…」
「問答無用なのです!覚悟するのです!」
「あ、あぁあああぁぁぁ!」