終焉ペレストロイカ   作:如月ライト

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第16章「闇の彼方から」
闇に沈む


「…ケント!…ケント!…ント…ト・・・」

だんだん声が遠のいていくのが分かる。

俺の意識が深い闇の奥に飲み込まれていくような錯覚。

(確か俺何してたっけ…)

ふと自分はどうしてこんなことになったのかを思い出してみる。

突如頭に割れるような痛みが走る。

頭が思い出すのを拒んでいるようだった。

「…ケント…!…ト・・・」

声は聞こえている。

だが誰の声で誰を呼ぶ声なのかは今の俺の頭じゃ判別できなかった。

俺の大好きな人の声のような気もするしそうじゃない気もする。

が、今はそんなことどうでもよかった。

この闇の中、沈んでいく自分の意識を保っているのに精一杯だった。

ちょっとした衝撃で自我が崩壊しかねない、俺の精神状態はそんな感じだった。

(声、聞こえなくなったな…)

ずっと闇の中に響いていた声はいつのまにか聞こえなくなっていた。

静寂がやけに耳にずっしりとのしかかってくる。

完全なる闇、無音。

死んだらこんな感じかなと考えている俺の耳にコツコツという音が聞こえた。

(…足音?)

その音は次第に大きく、そして自分へと近づいてくるようだった。

「誰だ!?」

俺は声を張り上げた。

コツコツという音が闇の中に大きく響く。

そしてだんだんと俺の視界の中にその足音の主が姿を現していく。

「…お前は…」

俺はその姿に驚きを隠せないでいた。

「…俺?」

そう、その姿は確かに俺の形を形成していた。

足の先から頭のてっぺんまでまごうことなき自分の姿。

しかし今の俺とは違っているところが一つ、俺には無いはずの右腕が存在していた。

「よぉ」

俺の形をかたどった何かはまるで友達とあいさつするように軽く右腕を上げる。

「…お前、何者だ…」

俺は相手を睨みつけながらそう尋ねる。

「俺か?俺はお前だよ…強いて言うならお前の心の闇、だ」

その瞬間背筋に寒気が走るのが分かった。

俺の全身を恐怖が支配していく。

「どういう事だろうな、お前にいつも抑圧されてる俺がここにいるなんて…もしかしてオレを受け入れてくれるのか?」

俺の闇は俺の声でそう言ってきた。

「…ゴメン、期待しすぎたな。俺とお前は絶対に相容れないもんな」

そう言って苦笑いを浮かべた俺の闇。

こいつが話すとどうにも背中に重いものがのしかかってくる。

まるで言葉一つ一つに重みがあるような。

「お前は…何を言っている?」

俺は恐怖でカラカラになった喉を絞るようにして声を出した。

「ん?あぁ、俺について、だよ。俺が俺を切り離して存在することは知ってるか?」

突然何を言い出すんだ、こいつは。

俺は相手を睨みつけながら話を促す。

「俺は昔から嫌なことがあるともう一人の自分、そう、今ここにいる俺だ、そいつにすべてを押し込んで自分はのうのうと何事もなかったように過ごしていた」

心臓がドクンと大きな音を立てたのが分かった。

まるですべてを見透かされているような感じだ。

いや、あいつには全て解っているのだ、俺のことが。

「わかってるんだろ?俺は俺がいなきゃ生きていけないって。でも、俺はことごとくこの俺を否定し続けた」

そうだ、俺は何か嫌なことがあればどこかへ置いてきて逃げている。

それを思い出さないように記憶に鍵を閉めてまで逃げ続けている。

「もうこんな汚れ役は散々だ…俺は俺を殺す」

一気に相手の声が冷酷なモノになったのが分かった。

俺は俺自身から溢れるただならぬ殺気を感じて逃げた。

闇の中、当てもなく逃げた。

ただ自分から逃げたかった。

どれぐらい走っただろうか、もう俺をつけてくる足音も見られない。

「はぁはぁ…」

俺は膝に手をついて息を整える。

(…心の、闇…)

俺自身の枷、俺の中にいるもう一人の自分。

今までその存在に気付かなかったということはない、むしろ気づいて放置していた。

俺はアイツじゃないと自分に言い聞かせるように。

(…ずっとここで止まっているわけにはいかないよな…)

俺は歩みを進めた。

さっき走ったばかりなので少々足が重かったが気にせずに歩いた。

と、その瞬間闇の中で何かにぶつかった気がした。

アイツだと思い身構えてみるもそれは全く予想もしていない人物だった。

「ヤッホーヤマイ君」

俺のことをヤマイ君と呼ぶ人物、俺は少なくともそいつしか知らなかった。

「…ナミか?」

そう、そこには俺が手にかけた少女の姿があった。

「調子はどう?」

快活にそんなことを聞いてくる少女に苦笑いをしながら俺は首をすくめてみせた。

「あはは、やっぱり?…でさ、ヤマイ君」

俺はそう言った少女をふと見やる。

「ここから出たい?」

少女は今まで見たことないような真剣な表情で俺にそう言ってきた。

俺は小さく頷いた。

「なら、自分の弱さを克服して…これがここから出る一番の条件」

ナミは真剣な表情のまま俺を見据える。

まるで俺を品定めするかのように。

「…でも…」

俺は目線をナミから外す、そして口から出た言葉もそんな言葉だった。

「ヤマイ君ならできるよ…私のことを最後まで思ってくれたヤマイ君なら…」

ドクリと鼓動が大きくはねた。

「…え?」

俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

その俺の声をきいてかナミは苦笑する。

「あのときはゴメンね…あんなこと言っちゃって…でもヤマイ君には感謝してたんだよ?私を精一杯守ってくれようとしてたんだよね?」

俺は力なくうなずいた。

守るって言ったって結果があれじゃ何の意味もなさないではないか。

「…私がキミの足かせになっていた…ヤマイ君を私は開放したいんだ、あの時のお礼に…」

「あの時…?」

「私が死んだ時だ、正直に言うと死にたくなかった…でも、死に方としてはアレで良かったんだと思う…最後まで私のことを思ってくれる人がいて…」

俺は頭の中がこんがらがってきた。

なぜ俺は感謝されてるんだ?

「私のことを思ってくれる人なんて昔からいなくて…親も早く私に死んで来いって…」

なんてひどい親なんだと俺は思った。

子供に死ねという親がこの世にいてたまるかと思った。

「周りからも疎まれて…でも、最後にちゃんと私を思ってくれる人に出会えてよかった…」

ナミは小さく、すぐに壊れてしまいそうな笑みで俺にそう言ってきた。

「だからヤマイ君を助けたい…私の、初めての相手だから…」

「初めての相手ってなぁ…」

「あ、ヤマイ君笑った!ずっとしょんぼりしてたから…」

俺ずっとしょんぼりしてたのか…

内心でそんな俺を一瞥した。

もう俺に迷いはなかった。

俺はこの少女のお礼を精一杯受け取ることにした。

 

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