俺は死を覚悟した。
今日で何回死を覚悟したかわからない。
だが今回は本気で助けがくるとは思わない。
イリヤが俺の首に刃を入れるまでにそう時間はいらないはずだ。
目を閉じ死の瞬間を楽しむ。
心臓がバクバクと残りの生を楽しむように脈打つ。
脳が熱くなり色々な液体が分泌されているような錯覚。
頭の中は今まで出会った人の顔が浮かんでは消えていく。
後悔の念が募ったが死を覚悟した俺にはそんなのちっぽけなモノに過ぎなかった。
モノの数秒のはずなのに何時間も思い出にふけっているような錯覚。
「ひぐっ…グスっ…」
と、俺の頭の中に訊きなれない泣き声が聞こえてくる。
それは俺のすぐ後ろから聞こえてくるものだった。
俺は恐る恐る目を開けてゆっくりと首を回す。
「ふぇ…ひぐっ…えぐっ…」
そこにはユキそっくりの泣き顔をさらしたイリヤの姿があった。
いつもの強気な表情はどこへやら、くしゃくしゃに顔を歪めて大粒の涙が頬を伝う。
「イリ…ヤ…?」
俺がそう声をかけるとイリヤは力が抜けたように手に持っていた鎌を地面に落とした。
鈍い音が俺の耳を刺激した。
と、その音もすぐにイリヤの泣き声に掻き消される。
そして俺の胸元に思いっきりダイブしてくる。
ぎゅむっと俺の胸に柔らかな重みが走る。
「ふえぇぇん…お兄様・・・うぐっ…ひぐっ…お兄様を殺したくない…わたくしの大切なお兄様を殺すなんて…できませんの…」
俺の胸元に縋り付き泣き喚く姿はどこかユキと似ているものがあった。
(ホントこいつって外見だけじゃなくて中身もユキに似てるよな…)
俺はそっとイリヤの頭に手をのせて撫でてやる。
撫でてやるとユキもおとなしくなる、ユキに似ている少女にはそれは効果的ではないのか。
すると案の定今までこらえていたモノをすべて吐き出すようにまた泣き出した。
「お兄様…!ずっと逢いたかったのに・・・ひぐっ…思い出してくれなくて…しかもお兄様と殺しあって…わたくし、とても悲しかったんですよ…大好きなお兄様と…」
あんなに冷酷な事を言っていた主とは思えないほどにこの少女は弱かった。
今まで見栄を張っていたという事か。
完全に強がっているだけで中身は見た目とほぼ変わらない少女なのだ。
「ちょっと!早くお兄ちゃんから離れてよ!私もお兄ちゃんとぎゅっとしたいのにー!」
「誰がお前となんか変わってやるもんですか!おバカ金髪!べぇーだっ」
トテトテと俺のもとにやってきたユキにまだ涙でぬれた顔で思いっきり悪態をつくイリヤ。
その顔には安堵しきった笑みがうかんでいた。