悪夢
「え?ホントに倒しちゃったんですの…?あのアインを…?」
いまだにイリヤは信じられないといった風に目をぱちくりとさせている。
氷像をコンコンと叩いたりして確認して納得するとへにゃへにゃとその場に座り込んだ。
よっぽど緊張していたのだろうか、その肩はまだ小刻みに震えている。
「はぁ…これで…わたくしも自由…これもお兄様たちのおかげですわ…ありがとう…ですの…」
俺達は顔を見合わせて笑った。
どうやらこの少女根っからの悪人というわけではないようだ。
俺達はそんな事実を改めて知った。
「そういや…ケントたちどうしてるんだ?」
イリヤ操る人形のドラゴン相手に戦っていたケントとマリナが帰ってこない。
とっくに人形は無力化したはずなのに…。
「まぁケントセンパイの事だしマリナちゃんと遊んでるんじゃない?」
「いや、さすがにアイツらでも…いや、あり得るな、それは…」
俺はキラとバカみたいな想像をたてて笑いあった。
そういやキラが俺を信じてくれたからこの結果があるんだよな…。
今日一日のことを思い返す。
粉塵爆発の時に頑張ってくれたり、絶妙なタイミングでアイギスを使ったり…思い出していくときりがないな。
唐突に姉を失ったというのに…。
その瞬間俺ははっとする。
今までのキラは姉を失った悲しみを隠すためにこんなにもがんばっていたのではないか?
戦っている瞬間だけでも姉のことを忘れたかったんじゃないのか?
目の前で楽しそうに笑う少女の内心がどうなっているのかはわからない。
しかし今見えている表情とは明らかに違うということはわかる。
「なぁ…キラ…」
無理しなくていいんだぞ…。
そんな言葉をかけようとした矢先
噂をしていたアイツらが姿を現した。
「おーい!無事かー!?」
二人は声を張り上げてこちらに走り向かってくる。
俺達は手をぶんぶんと振りそれに応える。
それにしても…なんだか様子がおかしい。
走っている…いや、焦っている!?
ケントたちの今の様子にはそんな言葉がぴったりだった。
次第にその場にいる全員も何かを察したようで…。
「おいケント!どうした!」
俺は声を張り上げてケントに尋ねてみた。
「死神だ!死神がくるぞ!」
それは…どういうことだ?
死神?それはさっきやったこいつの事じゃ…。
俺は氷像に目を向ける。
そこには確かに氷像があった。
「ねぇお兄ちゃん…あれ中身が…ないよ?」
信じられないといった声音でユキは俺にそう言ってくる。
俺は目を凝らして氷像を見る。
見事なまでに人型の氷。
しかしその中にあるべき姿は見つからなかった。
「残念だったね…気付くのが遅すぎだ!」
その声に背筋がゾクゾクと震える。
身体に恐怖が渦巻き嫌な汗が垂れるのが分かった。
「キラ!後ろ!後ろだ!」
唐突にケントの叫び声。
キラは反射的にその場を離れる。
しかし…
「ぐっ…!…い、痛…」
背中からは少し血が噴き出すのが分かった。
「ざ~んねん。次は今抱いてるその子もろとも殺っちゃうからね?」
キラはいまだに気を失っているウサギをかばうようにして逃げる。
(ってウサギの奴…まだ寝てたのかよ…)
「お兄ちゃん!早く助けないと!」
「お、おう…そうだった…」
俺は耳を澄ます。
確かに死んだはずのアインの足音が聞こえる。
姿が見えないのはどうしてかわからない。
だが行動を予測するには耳を頼りにするほかなかった。
ざくざくと土を蹴り上げながら走る音…これはキラのモノか…。
その後ろ…音はかすかにしか聞こえないが確かにもう一つの足音があった。
今アインはキラの後ろに完全にくっついている。
多分まだ鎌の射程圏内ではないから攻撃していないモノの入ればすぐにでも殺す勢いなのは音だけでわかった。
「お兄様!今度はわたくしがやりますわよ!」
今まで座り込んでいたイリヤがだっと爆発的な勢いで俺の横をかすめていった。
手には二つの人形が握られている。
「さぁ…行って!」
そしてその人形をキラの少し後方に投げ込む。
すると人形は意思を持ったように自ら動き回り目に見えない相手を攻撃しようとする。
しかしその攻撃も全て虚しく空を切るのみだった。
「そんな人形風情で俺を殺せるかよ!」
そんな声とともに人形が一瞬にしてバラバラにされる。
作戦失敗か…そう思った俺に反してイリヤはにやりと笑っていた。
「そこですわ!似非妹!頼みましたの!」
「言われなくても!」
勢いよく飛び出したユキは人形が消えたポイントに氷槍を突き刺した。
「ぐっ…」
小さなうめき声と共に何もない空間から赤が飛び散る。
そしてその赤を中心として黒がだんだんとあらわれてくる。
アインだ。
「お前ら…!」
憎々しげに二人を見上げてそうこぼすアインだが口元からは血がにじんでいる。
「お前を止めるには場所を突き止める必要がありましたの…」
「ほぅ…だからわざと人形を捨てたのか…俺が攻撃するかどうかもわからないのに、か…はは、さすがだよこのお嬢様は」
アインは愉快といわんばかりに顔を歪める。
その顔は見ているすべてを不快にさせるような下卑たモノだった。
「しかし…お兄様とはなんだ?お前の兄は死んだんだろ?」
「!?」
一瞬だがイリヤが動揺したのが分かった。
相手もそれをわかったようで底を徹底的についてくる。
「なぁどういうことだ?あの裏切り者は死んだんだろ?もしかして…アイツがそうなのか?」
アインは俺を指差してまた下卑た笑いを浮かべる。
ここでばれると俺はどうなる?
俺が殺される?
いや、違うな…俺だけでなくオシリスの連中まで巻き込んでしまう…。
それはなんとしても避けたいところだった。
しかし今の俺には証拠も何もない。
せめて記憶さえ戻れば…。
「ふふふ…何とか言ったらどうだ?なぁお嬢様…あの男が…ごふっ…!?」
言葉の途中で口から血が溢れだした。
それだけではない、胸からキラキラと銀色に輝く物が赤い液体を纏って突き出ていた。
「お前ウゼェよ。とっとと失せろよ」
その声の主にして刃の持ち主、ケントは冷ややかにそういうと剣を抜き取った。
ぶしゃっと血が辺りに飛び散る。
まるで血のシャワーだと思ってしまった。
「さっすがケントです!グッドタイミング!」
「だろ?俺かっこよかったろ?」
「調子にのるなです!」
横からひょっこりと出てきたマリナといつものようにバカな掛け合いを繰り返すケントに俺はほっとした。
なんだかあいつがいるだけでいつもの日常に戻った感じがする。
しかしそれもほんのつかの間だった。
ケントの目の前で血を噴き出していたそれは突然むくりと起き出した。
まるでゾンビのように。
「ケント!そこから離れろ!」
一瞬の事だった。
さっきまでケントがいたところに大きな鎌が横なぎに振られる。
空気を裂くほどの威力、もしそこにケントがいたらと思うとぞっとする。
しかし…これはどういうことだ?
倒したはずのアイツが復活するなんて…。
「トリックは簡単だよ」
血をぼたぼたと流すそれからではなく別の所からアインの声が聞こえる。
「今からそのトリックを教えてやろう」
また違うところから人を嘲笑うような声が。
俺達は辺りをぐるりと見渡す。
そしてそれを見て息をのんだ。
『これがそのトリックだよ!』
辺り一面にアインがいてその全てが同じ声を出す。
そのどれもが同じ容姿、同じ笑い方、それに同じ鎌を持ち合わせている。
ざっと20人は軽いだろう。
もはや悪夢のような光景だった。
「俺の異能は影から自分を複製すること…死んだ影は俺の影に戻ってきてまた復活する…どうだ?いい能力だろ?」
影から自分を複製…。
しかも死んだ影は自分に戻りまた無傷の状態で復活する、か。
それならさっきの事も納得できるな。
氷漬けにされたアイツは本体に戻りまた俺たちに近づいてきた。
それならケントが俺たちと合流した時に言った言葉も納得できる。
死神が来た
たぶんアイツの所にもその影が現れていたのだろう。
しかし…影か…。
「ねぇお兄ちゃん?」
「ん?なんだ?」
俺が考えを巡らせているとユキが近づいてきて俺に耳打ちをする。
「あいつらの中に一つだけ影がある奴がいる。たぶんアイツが本体。あれをやっつけたら全部消えるんじゃない?」
俺はユキが指したそれを見る。
それには他のとは違い確かに影が存在していた。
アインはそれに気付いているのかいないのかはわからないが狙うならそこしかなかった。
(あれ…?でもあいつの影って俺たちのより色が薄い…?)
俺達の影は濃い黒、しかしアイツの影は本当に薄いグレーみたいな色だ。
明らかにおかしい。
しかし今はそんなことを気にしている暇はない。
すぐに決めないと…。
「おっと…もういったい出すのを忘れていたぜ」
本物(オリジナル)のアインは思い出したようにそう言う。
すると影の中からまたアイツが出てきた。
さらに驚くべきことにオリジナルの影が消えている。
「影がある奴を狙えば…なんて思ってたようだが無駄だったようだぞ」
まるで俺たちの考えをよんでいたかのような口ぶりだ。
とことんこちらをイラつかせるのが上手いようだ。
「センパイ…もしかしてアイツって影に戻して即復活ってことはできないんじゃないかな?」
急にキラが俺にそんなことを言ってくる。
「そうだとしてもそれが何か…」
「だからさ…いったいでもあの影を潰せばアイツは影の中に自分を戻すはず…その時に影ができると思うんだ」
そうか…。
多分今さっき出てきた奴は氷漬けにされた奴だ。
まだケントに刺されたアイツは残っているからな。
回復時間はおよそ5分程度といったところか…。
「よし…なら全員で同じ奴を狙うぞ…行くぞ!」
そして俺たちは攻撃を開始した。
だがこれは一筋縄ではいかないことだった。
俺達は7人、そのうちの1人は完全にお荷物だが…に対して相手は20以上。
完全に分が悪い。
一人ずつに攻撃を仕掛けようとしても必ずどこかから湧き出てくる。
こんなモノ勝負でも何でもない、ただの負け戦だ。
今はギリギリ均衡を保っているがこちらのスタミナが切れればすぐに負ける。
「くっ…ごめんセンパイ…私もう無理…」
「はぁはぁ…俺も…キョウヤ、あとは任せた…」
キラとケントはもう音をあげている。
ウサギを抱えながら戦うキラにはかなりの負担がかかる。
それに片腕だけで戦うケントもさすがにきついだろう。
この調子だともう数分と持たないかもしれない。
かくいう俺も全身汗びっしょりで肩で息をつくほどだ。
他の奴らも疲れが隠し切れていない。
「どうした?まだ俺はやれるぞ?少し早いがこれで終わりにしてやる!」
アインの猛攻。
それに耐えるすべはなく俺たちは一気に吹き飛ばされてしまう。
今更ながら今日一日の疲れが全身に現れる。
もうこれ以上は体が言うことを聞かない。
さすがに今回ばかりは完全にチェックメイトだ。
他の奴らも動けないでいるし…助けも…。
諦めかけていた俺の耳に地響きのような音が聞こえてくる。
地震かと思ったが少し違う。
何かが大勢で迫ってくるような…そんな音だった。
「な、なんだ…あれは…!?」
アインはある一点を見て大きく目を見開く。
何があるのか…俺もつられてそこに目を向ける。
「みんな!大丈夫!?もう私が来たから安心して!」
何かが大量に迫ってくる。
まるで百鬼夜行の群れの様にも見える。
そしてその一番前、そこにいるのはなじみ深いアイツだった。
「ネム…?」
そう、一番の大技を披露するとか何とかで一度は俺たちと行動を別にしたネムが、大量の軍勢を引き連れてやってきたのだ。
「あ、あれは…わたくしの人形たち…ですの?」
その軍勢、それはイリヤの使っていた人形だった。
どうやら大技は成功したようだ。
俺はほっと息をつく。
ネムが生きていたこと、それにあの軍勢ならアインに太刀打ちできること。
「みんな、行ってー!」
耳に音楽が聞こえる。
どこから聞こえてくるかわからないが心を突き動かされる音だ。
それに心が休まる…。
俺の心を心地よい音が支配する。
俺はその音に身を任せて瞼を閉じた…。
「マリナの解説コーナー!」
「いえーい!」
「というわけで今回もケントとマリナではじめちゃうですよ」
「おうよ!で、今回は何を解説する?」
「今回は…この物語の舞台を事細かに解説していっちゃうです!」
「おぉ!」
「さて…ケントは今いる大陸の名前は知ってるです?」
「それぐらいわかるぞ、大陸ガランド。ちなみに俺たちがいるオシリスはガランドの南あたりに位置している」
「そんな誰でもわかることをドヤ顔で言うなです!…まぁあってるからいいですけど」
「で、その大陸をどう解説してくれるんだ?」
「解説しようと思ったけど本編でもあまり触れられてないからカットなのです!」
「マジかよ…」
「次は国家です!今マリナ達がいるのはオシリス、無色の国とも呼ばれてるです」
「それぞれの国はイメージカラーみたいなのを決めてるからそれで呼ばれることもある…そうだろ?」
「むっ…ケントごときがマリナちゃんのセリフを取るなです!」
「いたっ!…ご、ごめんごめん…」
「さて…オシリスの特徴、それは学生にとって住みやすいところ、です!」
「学生にとって…?どういうこと?」
「簡単に説明するとクロノスみたいな学校が他にもいっぱいあるってことです」
「へぇ…」
「それに学校の周辺には必ずそこに通う学生たちが満足いくような施設が作られているです。たとえばデパートや映画館ですね」
「クロノスタウンみたいなのがほかにもあるってことか…」
「そう!クロノスタウンを例にとって考えてみるです!」
「確かアソコって…でっかいデパートみたいなのもあるしライブ会場なんてのもあったな…」
「そうです!すべては学生を楽しませる為です!」
「でもなんで…?」
「残念なことにオシリスの人口の約6割近くが学生なのです…」
「え?なんで…?」
「それは追々本編で放されるです、今はいいです!」
「そうか…気になるなぁ…」
「おっと…もう尺も残ってないです!次の告知をするです!」
「は?告知?そんなの今までしてなかったのに…」
「そんなことはいいです!」
「うぶほっ…!ちょ…きゅうに腹殴るな…」
「次はクロノスタウンから実際にお届けするです!その次の回は特別編も組んでもらえるみたいですよ?感謝感謝です!」
「へぇ…そうか…また突拍子もない…」
「じゃあ次までバイバイです~!」