残された者
「はい、こっち見て~」
そんな声と共に私にカメラがこちらに向けられる。
私はその方向を向き笑顔を作る。
「いいよ~、じゃあ次はポーズを作ってみようか」
周りには10人ほどの人。
皆一様にスーツをびしっと決めている。
そしてさまざまな面持ちで私を見つめている。
嬉しそうに目を細めるもの、緊張したように顔をこわばらせているもの、様々だ。
それに色々な機材が私を囲んでいる。
詳しい名前とかはよくわからないが銀色の反射板のようなものや電灯に囲まれていた。
そして私のバックには真っ白な壁が。
そう、ここは撮影現場である。
「ネムちゃんいいね~、でももうちょっと楽しそうな表情作ってみようか」
私を撮影していた人はそう言った。
少し小柄でぽっちゃりしていて顔もどこか冴えない感じの人、しかしそんな容姿でも凄腕のカメラマンだという事なのだから驚きである。
私はポーズを作り務めて楽しそうな笑顔を向けた。
しかし…
「ダメだダメだ!今みたいな憂いでる感じの表情もいいけどやっぱりネムは笑顔じゃないと!」
痺れを切らしたように怒りの声をあらわにして撮影を見守っていた人たちの中から一人現れた。
だいたい30~40代だろうか、顔からはそう判断できるが身体はとても筋肉質でスーツの上からでもそれが判断できた。
その人、編集長は私にそんなことを言ってきた。
(私…そんな変な表情してたかな…?)
自分の中では笑顔を作っていた気がする。
しかしどうにも最近うまく笑顔が作れていないらしい。
「もっと笑って撮られろよ!何か楽しい事でも思い浮かべてさ」
楽しいこと…か。
どうにも今の私には楽しい事なんて思い浮かべることができなかった。
あの日から、ヨウがいなくなったあの日から私はおかしくなってしまっていた。
表向きはうまくふるまっているが一人になると泣いてしまうし精神も落ち着かない。
そして笑顔も失われていた。
「ちゃんとしてくれよ!こっちは遊びでやってるんじゃないんだから!」
編集長は声を荒げて私にそう怒鳴った。
笑顔を見せない私に嫌気がさしたのだろう。
「うるさいな!私だって好きでこうなったんじゃない!」
知らず知らずのうちに私も声を荒げていた。
そして気付けばその場から駆け出していた。
後ろから私を止める声が聞こえる。
しかしそんなことを気にしている余裕はない。
私はただ走る、走る…。
目的もなく、ただこの現実から目を背けるために…。
Kyoya's View
「ったく…アイツら人使い荒いんだよ…何で俺が買いモノなんて…」
俺は街をぶらつきながらそうぼやいた。
現在ストレンジ・ナイフは絶賛休学中。
この前の任務から帰ってきた後1週間の休学が言い渡されたのだ。
どうにもその1週間の間にいろいろと調整することがあるらしい。
が、学生の俺たちには詳しく知ることも出来ず…。
仕方ないので俺たちは休みを満喫することにしたのだが…。
「はぁ…休み初日から使いっパシリとはな…」
ユキとウサギ、それにケント、マリナからケーキを買ってくるように頼まれてしまったのだ。
俺は断ったんだが皆、有無を言わさぬ形相で追い詰めてきたので仕方なく行ってくることにした。
適当にぶらついていると遠くから走ってくる女性の人影が。
その人はおしゃれな恰好をしていた。
しかしおしゃれとはいうモノのとても動きやすそうな衣装だった。
(最近のおしゃれのブームってあんなの何だな…)
だんだんとその人影が俺に近づいてくる。
それに伴って顔もはっきりとわかってくる。
(…あれって…ネム…?)
トップアイドルのネムがどうしてこんなところに、しかも走っているのだろうか?
「あ、キョウヤ!」
と、相手もこちらに気付いたようでそう声を上げた。
しかし走るのはやめなかった。
「ちょっと一緒に来て!」
「え?ちょっと…!」
横をすり抜ける瞬間俺は手首を掴まれて連れていかれた。
ネムの力は思ったよりも強く振りほどくのも困難だった。
仕方ないので俺はそのままネムと一緒に走った。
ふと振り向くとスーツ姿の男が数人は知ってきているのが見えた。
もしかして追われているのだろうか?
トップアイドルだしストーカー被害とかも多いのかな…。
「こっち、とりあえず路地裏を通って」
俺はそうネムに指示をする。
ネムは俺の言うとおり路地裏の方へ入っていく。
そして数分後…
後ろを振り向いても追手などはいない。
どうやら完全に撒いたようだ。
「はぁはぁ…ありがと、キョウヤ」
肩ではぁはぁと息をしながらもネムはこちらを向いて感謝をしてくる。
大きなブルーの瞳に俺がうつっていた。
その瞳はすべての者を魅了し惹きこんでしまう、そんな魅力があった。
「でさ、これからどうするんだ?」
大きな瞳から目を逸らして俺はそんなことを言った。
あのまま見ていれば引き込まれてしまいそうな錯覚に陥ったからだ。
「う~ん…どうしよ?とりあえず遊びに行っちゃう?」
そうしてオレとネムは二人で街を見て回った。
服屋さんや雑貨屋さん、それにカフェなどにも立ち寄った。
ネムは楽しそうにそれらの店を見て回っていた。
しかしどの店でもネムの笑顔を見ることはできなかった。
「ふぅ…次はどこにいこっか?」
俺は時計を見る。
時刻は昼の1時を少し過ぎたところだった。
そう言えばケーキ買って帰らないと…。
「ちょっとケーキ屋に寄って…」
よっていかないか?俺がそう言おうとした瞬間俺の目に一人の女の子がうつる。
あれは…
「お~いキラ!」
俺に名前を呼ばれた少女はオレンジの髪をふぁさりとはためかせてこちらを振り向いた。
「あ、センパイ!それにネム先輩も!」
そしてトコトコとこちらに歩み寄ってくる。
「今からケーキ屋に行くんだけど一緒にどうだ?ネムもいいよな?」
「うん、いいよ!キラもいるならなお良し!」
「いいよ、キョウヤセンパイがケーキおごってくれるならね」
イタズラっぽくそう微笑んでキラも俺たちについてくることに。
そして3人になった俺たちはそのあと遊びまくった。
ゲームセンターなんかにも足を運んだしもうほとんどの遊びスポットを抑えてしまったという感じだ。
時刻はあれから3時間過ぎたところをさしていた。
「楽しかったぁ…さて、そろそろ帰ろっかな」
ネムは唐突にそんなことを言い出した。
そして俺たちの返答も待たずに背を向けて歩を進めた。
その背中はどこか憂いに満ちていた。
「センパイ、行ってあげなくていいんですか?」
キラはそう言って俺を促す。
しかし俺にはこいつにも気がかりなことを感じていた。
それは遊んでいる最中のことだ。
ふとキラに目を向けるとどこかぼぉっとした風にその場に突っ立っていることが多かった。
俺が数回名前を呼んでも返事をしないことも多かった。
こいつの事もよく知っておいた方がいいと思うしネムの事も気がかりだ。
俺は…
A.キラと一緒にいる
B.ネムを追いかける