「いや、今はいいや。それより今はお前ともっといたい気分なんだ」
「は、恥ずかしいこと言わないでよセンパイ!」
キラは頬を赤らめてそっぽを向く。
しかしその顔はどこか嬉しそうだった。
「あ、そうだ!私欲しいものあるんだ!付いてきてよ」
そして照れ隠しのためか俺はキラに手を引かれてとある店まで足を運んだ。
「なぁ、ホントにこんなのが欲しかったのか?」
俺はキラが持っている紙袋を指差す。
その中身はキラが欲しがっていたモノであり俺がおごってやったものだ。
「うん、いいの!センパイにはこれの良さが分かんないだろうなぁ…」
「あぁ、さっぱりだよ」
キラはガサゴソと紙袋をあさり買ったものを取り出す。
「でさ、何で首輪なんだ?」
キラが欲しがったものはネックレスとかではなく首輪だ。
言っておくがペットにするようなやつじゃないぞ。
しかしそれでも首輪を買うとはおかしなやつだった。
「いいの!欲しかったんだから!」
キラは器用に自分の首に首輪をはめた。
黒の首輪をつけたキラはそれだけで煽情的な背徳的な香りを醸し出していた。
案外首輪というモノもいいかもしれないと思ってしまった。
「ん?なぁに先輩?もしかして見惚れてる?」
「そ、そんなこと…!」
本心を見透かされた俺は少し慌ててしまった。
そんな俺を見たキラはハハハと元気に笑った。
しかしその一瞬の後、キラの顔から表情が消えた。
「キラ?おい、キラ」
俺はキラに声をかけるも返事がない。
仕方ないので肩を揺さぶり声をかけた。
「あ、センパイ!どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもねぇよ!お前、なんかおかしいぞ?」
「え?そうですか…?」
キラは力なくそう言った。
どうやら自覚はあるようだ。
「なぁ教えてくれよ…何があったんだよ?」
「イツキが…イツキがいなくなった日から私はおかしくなって…」
イツキというのはキラの双子の姉だ。
現在は行方不明だ。
キラは少しずつ言葉を紡いでいく。
その言葉の端々からは涙の音が聞き取れた。
「それで…イツキはいないんだって思うと…もう、私…」
どうやらずっと一緒に育ってきたイツキがいなくなってどうにも不安定な状態らしい。
普段のその言動からはそんなことを微塵と感じないのに…。
「センパイ…こんな時にごめんだけど…」
キラはそう言ったのち衝撃の言葉を放った。
「私、ううん…イツキもセンパイが好き…大好きなんだ…!もちろん男の子として…」
それは俺の耳から脳内へともぐりすさまじい刺激を与えた。
頭が疼いて動悸も激しくなる。
これはキラと、そしてイツキの告白だ。
俺はキラの方を見る。
鋭い視線で俺の方を見ていた。
その姿には姉のイツキの姿が重なって見えていた。
「センパイは初めて私たちが双子って見抜いて…それにやさしくって頼りになって…私たちの編入も提案してくれたし…センパイが私たちにやさしくしてくれるたびにだんだんと好きになってきちゃったんだよ!」
目に涙をためてキラは思いのたけをぶちまける。
今はいない姉の気持ちと共に。
俺はその気持ちにどう答えたらいいかわからなかった。
「センパイ…キス、して…それで全部忘れさせて…」
「え?」
「私、センパイに好きな人が居るって知ってるんだ…それが私たちじゃないってことも…だからさ、忘れさせてほしいの、この思いを…王子様のキスで恋の眠りから覚まして…」
俺は自然とキラの肩に手を置いていた。
そして顔を近づけていく。
これは同情とかそういうのを含まないキスだ。
キラが望むなら…キラがそれでいいというなら俺は王子様にでも何でもなってやろうと思った。
「んっ…」
キラの柔らかな唇に俺の唇が触れる。
甘酸っぱい味が唇を通じて俺の脳内をしびれさせる。
クセになってしまいそうな味わい。
しかし俺はそう長く味わうことができなかった。
長ければ長いほどキラの想いが壊れてしまいそうだったから…。
「ありがと…センパイ…大好きでした…」
そういってキラは俺に背を向けて走り去った。
後に残るは地面についたキラの涙の小さなシミだった…。
翌日キラは元のキラに戻っていた。
もうキラの顔から表情が消えることはなかった。
しかし俺を好きだったキラは昨日に死んだのだった。
もうあの恋をしていたキラを見ることは俺にはできなくなっていた。
あのキラは地面の染みと同じように消えてなくなっていた…。