「ネム!ちょっと待てよ!」
俺は気付けばネムを呼び止めていた。
ネムは俺の言葉にピクリと反応したがすぐに歩みを進めてしまう。
俺はキラをおいてネムの後を追う。
俺が早く歩くとネムも早足になる。
しかし男の俺の方が足は速い。
ちょっとした追いかけっこののち俺はネムの手首を握っていた。
「待てよ…お前、どうした?」
「うっ…うぅ…うわぁん…」
「え?ちょ?泣くことは…」
瞬間ネムの瞳からは涙があふれていた。
まるで子供のようにネムは声をあげながら泣き喚く。
どうしてそうなってしまったのか俺にもよくわからない。
とりあえずネムが泣き止むまで待っていることに。
数分後、ネムは十分に泣いておとなしくなった。
綺麗なブルーの瞳はまだ涙にぬれていたが。
「大丈夫か?急に泣き出したりして…」
「うん…ちょっとね…」
「なぁ…俺に話してくれないか?何があったのかをさ…」
ネムは少し考えたのち途切れ途切れに俺に話してくれた。
ヨウがいなくなってから笑顔が出来なくなったことなど…。
とにかくヨウがいなくなってからはネムはおかしくなっていたのだった。
「うぅ…ヨウ…逢いたいよぉ…」
ネムは親とはぐれた子供のように小さく不安げな声をあげていた。
「なぁ…何でお前はそこまで…」
「ヨウはね…私のとっても大切な人…昔から私を支えてくれて…甘えさせてくれて…」
そしてネムはアイドルになった経緯も教えてくれた。
その陰には用の支えがあったということが初めて分かった。
この姉弟にはそれほどまでに繋がっているのだとも思った。
「私…ヨウがいないとだめ、かも…上手く笑えない…もうアイドルなんてできないよぉ…」
「バカ言うなよ!」
俺は声を荒げていた。
「お前は誰のおかげでアイドルになれた?ヨウのおかげだろ?ヨウが支えてくれたんだろ?アイドルはお前だけの夢じゃない、ヨウの夢でもあるんだ!」
口から自然と言葉が溢れてきていた。
言葉が脳を経由せずにすぐに口から漏れだしてきていた。
「もしヨウが帰ってきてお前がアイドルしてなかったらどう思う?きっと悲しむぞ…」
ネムは俺の言葉をきいてはっとしたように俺の方を見た。
大きなブルーの瞳の奥に意思の炎みたいなものを感じた。
「そうだったね…私、バカだったよ…今までヨウがいなくなったことしか考えてなかった…ヨウの想いなんて考えてなかったんだ…」
ネムの口から笑い声が漏れる。
「フフ…ヨウ…お姉ちゃん、頑張るからね…」
そう言って顔をあげたネムの顔はとても輝いた笑顔だった。
「ありがとね、キョウヤ…君のおかげでなんだか元気でた…」
恥ずかしそうに頬を染めながらネムはそんなことを言ってくる。
頬についた涙の筋をぬぐってからネムは俺の方を向いてこういった。
「キョウヤにも私の名前、教えてあげる…」
ネムの名前…?
そういやヨウがネムというのは本名じゃないと言っていた。
てか何で俺にそういうことを言うんだ?
「私を助けてくれたキョウヤにだけ特別…私の名前を知ってるのってヨウぐらいしかいないんだから!ありがたく思いなさいよ!」
そしてネムは俺に耳打ちした。
自分の本名を…。
「私の名前は―」
その日以来ネムは見違えたように輝きを増した。
全ての人がネムの笑顔を見て笑顔になっていた。
そしてネムの曲は皆に夢をばらまいていた。
あの後俺はネムの名前の由来もきいていた。
夢を届ける音で音夢(ネム)、か…。
よく考えられた名前だ。
でもなネム、お前の本名でも十分に夢を届けられると思うんだ。
なぁ…夢子(ゆめこ)―。