俺たちストレンジナイフの面子は全員寮の作戦会議室に呼び出された。
皆一様に不安と絶望に満ちた顔つきをしていた。
そんななか部屋に備え付けてある巨大なスピーカーから声が漏れた。
「全員そろっているな…では、ブリーフィングを始める」
その声とともにその場の皆は顔を引き締める。
ここから先の現実はとても残酷なモノだ。
しかし俺たちは生き抜かなくてはならない。
生きて必ずまた全員で笑いあう平穏を手に入れる…。
皆の顔からはそんな思いが読み取れた。
「知っていると思うが青、緑の連合国が宣戦布告をしてきた」
ごくりと喉が鳴る。
ガタガタと足が震えて変な汗が体をつつぅと流れた。
「お兄ちゃん…」
隣にいたユキが心配そうに俺の顔を覗き込む。
大丈夫、そう言おうとして気がついた。
彼女の頬に一筋の線が走っているのを。
その線は目尻から垂れ落ちていた。
そうだよな…怖くて不安なのはみんな同じだ…泣きたいのだってみんな一緒なんだ…。
「…お兄ちゃん?」
妹の顔を見たままかたまっていた俺に不安げに声をかけてくれた。
俺は無理やり作った笑顔を返す。
今はこれしかできることはなかった。
「大丈夫だから…絶対に…だからお兄ちゃん…」
ポツリと俺にだけ聞こえる声でユキはそう言った。
そして小さな手を俺の手に絡めた。
冷たくて小さな手、しかし不思議とその手にはぬくもりがあった。
これが…家族のぬくもり…俺の安心できるぬくもり…。
目頭がカッと熱くなるのを感じたが今はそんな時ではない。
俺は力強く、そのぬくもりを離すまいと手を握り返した。
「もう相手国は我々の国に向かって進撃をつづけている。今回の任務だがこのクラスを二つに分けて青、緑の国を落とせ、というものだ」
「あの…ちょっといいですか?」
と、ケントが控えめに手を挙げた。
珍しいな、あいつがそんなことをするなんて…。
「敵が攻めてきているのに自分たちは国を落とすというのは不可能ではないでしょうか?」
ケントの言うことはもっともだ。
もし攻め落とそうと俺たちが奮闘したところで進撃をつづけている敵の軍勢とは必ずどこかでぶつかり戦わなければならない。
もしその死線を潜り抜けて相手国に入ったとしても消耗したこちらに勝ち目はほぼないだろう。
その場のみんながざわめきだす。
中には絶望に潰されてその場で泣き喚く者さえいる。
「それなら問題ない。我々は独自のルートを渡り戦闘を回避する。まずこの地図を見てくれ」
部屋の壁に埋め込まれた巨大モニターに地図が映し出された。
「まず相手の軍勢だがどちらも陸、それも平地を通って攻めてきているようだ。なので我々は海を渡り青に、森を経由し緑に責めていこうと思う」
確かに地図上に記された敵の進軍経路はどちらも陸だが…。
海、森を使うのはどうかと思う。
青の国は海に面しているのでそこから攻めるというのは得策だろうが…。
問題はオシリスに航海技術があまり普及されていないことだ。
船などはあるモノのあまり長距離航海には向いていないのだ。
せいぜい近隣の海に漁へ行って帰ってくるぐらいの燃料しか詰み込めない船ではどう考えても青の国には到達できそうにもない。
それに森を経由して緑の国というのも問題がある。
森には危険なモンスターが潜んでいる可能性が高い。
もし凶悪なモンスターと遭遇した場合などを考えるとリスクは高かった。
「この決定は絶対だ、覆ることはない」
そして無情にもそう告げるスピーカー越しの声。
繋いだ手に力がこめられたのが分かる。
見るとユキは悔しそうにぎりっと奥歯を噛みしめていた。
「これじゃ私たちに死んでこいって言ってるようなもんじゃん…」
ポツリと…本当に小さな声でそうユキは言ったのだった…。
そしてあんまりにも理不尽なブリーフィングが終わり組み分けが決定された。
俺は青の国へ攻めに行くことが決定された。
さらにユキ、ケントを始め俺と仲がいい奴はみんなこちら側だ。
それに編入生も皆こちら側。
何か作為的なモノを感じるが今は気にしている暇はなかった。
「さて…それじゃあどうやって海を渡るかだが…」
俺たちに課された一番の試練は海を渡ることだ。
上からは海上を渡る手段は自分たちで見つけろという何とも横暴な命令が下された。
「理不尽です!マリナこんな作戦嫌なのです!」
「僕も…いや…助けて…お姉ちゃん…」
「うぅ…さすがのウサギちゃんもこれだけはだめかもぉ…」
「はぁ…俺、ボイコットしようかな…」
「ケントセンパイ、そんなことしたら死ぬより辛いことが待ってるって噂ですよ?」
「私アイドルなのに…みんなに希望を与えるアイドルなのに…」
皆一様に沈んでいた。
これは幸先が不安だな…。
いや、絶望的といった方が正しいかもしれないな…。
「お兄ちゃん…どうしよ…」
「さすがにこれはなぁ…」
しかしそんな中…
「燃えてきたッス!これ以上ないぐらいに燃えるっす!」
軍服野郎はこの上なく暑苦しい。
流星にとってこれほどの絶望は逆に燃えるらしい。
正直俺には理解できない…。
「そうですわねぇ…はぁ…どれだけ殺せるのでしょうかぁ」
そしてこの着物娘も目をキラキラと輝かせている。
それ以上品に口元を抑えて笑みを漏らしている。
マヨさん…正直俺はあなたが怖いですよ…。
意気揚々としている二人とは別にイリヤは何やら考え事をしているようで…。
「どうした、イリヤ?」
「お兄様…わたくし名案がありますの…」
「え!?」
「たぶん…海、渡れると思いますの」
『マジで!?』
このとき皆の声がリンクした。
それほどまでに衝撃な事だった。
イリヤは深く力強く頷くと俺たちをある場所へと連れていった。
「マリナの解説コーナーの時間です!今日は青の国、緑の国についてです!」
「へぇ、やっぱり宣戦布告してきたからちゃんと知っておかないとだな」
「じゃあまずは緑から行くです!」
「この流れだと青からの気が…」
「そこは気にするなです!…まず緑の国は緑といわれているだけあって森が多いです」
「そうらしいな…確か不帰(かえらず)の森…なんてものもあるらしいし…」
「とっても恐ろしいところです…マリナちゃんはそんなとこ死んでも行きたくないです!」
「あぁ…同じくだな…」
「緑の国の主な特徴はそれだけじゃないです。なんと人口の6割以上をエルフが占めてるんです!もうエルフの国といっても過言じゃないです」
「ほう…エルフ耳の国、と…」
「一瞬目が輝いていたような気もしたです…でも気のせいにしとくです。で、そんな過酷な環境に育ったエルフは厄介です!森の中に追い込まれてそこから連携攻撃で嬲り殺されるのです!」
「嬲りころされるのはマジ勘弁だな…」
「そんなのマリナちゃんも一緒です!…で、次は青の国にいくですが…」
「え?緑もう終わり?これだけ?」
「はいです。あんまり他国の情報が出回ってないから仕方ないのです」
「なんか不服だけど…まぁいいや、じゃあ次だな」
「青の国は唯一領土が海に面している国です!」
「え!?そうなの!?他の国ってうみないの!?」
「はいです。まぁ領土内にはってことですけど…」
「ん?どういうこと?」
「実はオシリスは海を所有してるのです!どこの国にも属していないグレーゾーンがあるですがそこがオシリスの海と暗黙の了解で定められたのです」
「う~ん…要するに誰の領土でもないところを勝手に使ってるってことか?」
「言い方は悪いけどそういうところです!ケントのくせになかなかです…」
「伊達にこのコーナー続けてないからな、いやでもこういうのはわかってくるぜ」
「じゃあ続きいくですが…青の国はドラゴンの発生地としても有名です」
「ドラゴンの!?」
「はいです。もちろん噂の範疇ですが…けど青の国には世界の約8割のドラゴンがいるって言われてるです。それだけのドラゴン国家なのです!」
「エルフの次はドラゴンか…相手にしたくないなぁ…」
「そんなこと言ってもいられないですよ。マリナ達は絶対に勝たないといけないです、そんな弱気じゃ勝てないです!」
「そ、そうだよな…俺頑張るよ!」
「はいです!マリナもがんばるですよ~!…さて、今回はこれぐらいです。青の国についてはこれからもっと解明していくですよ~」
「じゃあまたね~!」