アヤカシ探偵物語   作:イサシ
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宜しくお願いします!


第三話 逃げ出せるはずもなく

 

 

「え?辞退ですか?この直前に?」

 

 次の日、登校し、玄関で靴を履き替えていると、担任かつ我らが顧問の設楽先生に呼び止められ、指導室に連れて行かれる。何事かと不安におもっていると、どうやら文化祭で店を出す団体が中止を申し出てきたということだった。

 

「ああ、全く困ったものだよ。しかもその団体がバスケ部ときたもんだ」

 

「バスケ部って、女子ですか?」

 

「ああ、全く、どうしたもんかね」設楽先生は困ったように髪をかく。そんな仕草でも綺麗に見えてしまうの

だから美人は得だ。

 

 うちの学校の女子バスケ部は全国でも有数の強豪校で、文化祭でもバスケ部の出す出し物目当てにやってくる人がたくさんおり、うちの文化祭の目玉の一つでもあった。

 

「何かあったんですか?」

 

「いや、わからん。昨日、キャプテンの田島から突然、電話がかかってきてな。理由も言わず、辞退すると言ってきたんだ。」

 

「そうなんですか」何があったのだろうか。この直前に辞退するなんて、正直言って普通ではない。しかも他の学生ならともかく、女子バスケ部だ。彼女らも自分の立場はよくわかっているはずだ。

 

「まあ、とりあえず今日話してみるが、あの調子だと何も話してはくれないだろうな」

 

「それでなんで俺にそれを報告するんですか?確かに俺は文化祭実行委員会ですけど、何の役職も付いてないですよ」

 

 そういうのを報告するなら委員長か生徒会長辺りに連絡すべきだろう。

 

「まあ、そうなんだが、ちょっと今立て込んでてな。あいつらも他のことで手一杯なんだ」

 

「そりゃ、大変ですね」

 

「ああ、大変なんだよ」

 

「それじゃ、頑張ってください」

 

 嫌な予感がして、さっさとお暇しようと、立ち上がりドアに向かう。

 

「まあ、待ちたまえ、岩戸。まだ、朝礼には時間がある」

 

 だが、後ろから肩を捕まれ、再び無理やり座らせられる。いや、男一人を力任せに座らせるってどんな力だよ・・・

 

「ハァ、何をしろって言うんですか?」

 

 設楽先生に頼まれた用事を断り切れたことがないので、あきらめて話を聞くことにした。

 

「ふむ。なんだ妙に素直じゃないか」

 

「どうせ、断ってもやらせるでしょうが」

 

「ハハハッ!!よく、わかっているじゃないか。なに、簡単なことさ。私がいきなり話を聞くと、構えられてしまうからな。田島にはお前からまず軽く話を聞いてきてくれないか?」

 

「いや、どこが簡単なんですか!滅茶苦茶難題ですよ!そもそも俺、田島さんと話したことないんですけど・・・」

 

 学校のスターである田島さんと自分では月とスッポンだと言われても何も言い返すことができない自信がある。

 

「ならチャンスじゃないか、いやぁ、教え子に青春のチャンスを設けてあげるとは良い教師だなぁ、私って」

 

「はは、そうですね」めんどくさい状態の先生に適当に相槌を打ち、話を戻す。

 

「でも、なんでそれを俺に頼むんですか?もっと適任がいるでしょうに」

 

「いや、だって暇だろ?」

 

「・・・・・・」

 

 いや、暇ですけど。もう、文化祭まで学校以外何の用事もないですけれど。でもだからって、先生がそんな気軽に生徒に仕事押し付けるなよ・・・

 

「まあ、それは冗談として、お前、こういうの得意だろ?調査みたいなやつ。私はどうもこういうのは苦手でな。うだうだ言われると殴ってしまうかもしれん」

 

「・・・よく教師になれましたね。でも、買ってくれるのはありがたいですけれど、俺だって、別に得意な訳で

は・・・」

 

「またまた、聞いたぞ?江戸川から。浮気調査、猫探しなんでもござれらしいじゃないか」

 

「いや、それ真っ赤な嘘ですからね!何で一介の高校生の俺がそんなことしなくちゃいけないんですか!?」

 

 確かに、神島への借金を返すためにここ二ヶ月程、いろいろ手伝ったが、それは最終的にはヤツらに行き着くものばかりだった。

 

「なんだそうなのか、だが、仮にそうだとしても、私はお前に頼むつもりだったよ」

 

 先生は少女のようににこやかに微笑み、こちらを見る。その笑顔は男ならば、心臓を掴まれる事間違い無しと思えるくらいには魅力的だった。

 

「な、何で、ですか?」ドギマギしたせいで声が震えているのが自分でわかる。先生はそんな俺の動揺を知ってか知らずか余裕を持った笑みを浮かべ、机に二つ並べられていたペットボトルのうちの一つをこちらに放り投げ、机に残ったもう一つの方を飲み始める。

 

「まあ、あれだ。言葉にすると難しいがお前は何か違う気がするんだよ」

 

 一息、入れたところで先生が話を再開する。

 

「違う?」一瞬、見えることがばれたのかと、ドキリとする。だが、それはないと直ぐに思い直す。それを知っているのは自分と神島だけだし、神島がそんな不用心に俺の性質を言いふらすはずがないと思ったからだ。

 

「ああ、何というか、お前は時折、別のものが見えているような感じがするんだよ」

 

「は、ははっ、な、何を言っているんですか。べ、別に何も見えやしないですよ・・・」

 

(ばれてるじゃないか!!!)

 

 どこでだ?どこで漏れた?疑問は膨らみ、背中に汗が伝う。

 

「いや、本当になんとなくなんだが・・・、ん?どうした?」

 

「い、いや、何でもないです」

 

 動揺が表情に出ていたのか目ざとく指摘され慌てて取り繕う(つもり)。

 

(怖!先生、怖!これが女の勘というやつか!)

 

「そうか、ならいいんだが、ってもうこんな時間か。悪いな、付き合わせてしまって」

 

 時計を見ると時間はすでに朝礼の5分前の8時20分を指していた。

 

「あ、いえ、いいですよ、それは。じゃあ、俺は失礼しますね。アディオス!」

 

「お前は何人だ」

 

 これ幸いとばかりに逃げ出す俺に突っ込みをいれる先生の言葉を背中越しに聞き、指導室から出る。

 

(ふぅ、危なかった)

 

 それにしても、勘というものは恐ろしいものだ。ほぼこちらの秘密を当ててしまうとは・・・これからは先生の目の前で妙な行動をしないようにしないとな。そう思って、自分の教室に行こうとすると、ふと、思い出した。

 

「・・・あ、頼み、断るの、忘れてた」

 

 

 というわけで、昼休み。俺は田島さんに会うべく、隣の2−3の前にいた。

 

「どうしたもんか・・・・」

 

 たたでさえ、学校のスターに話しかけるだけでも、難易度が高いというのに、それに文化祭辞退の事情を聞くという触れづらい事情まで重なっている。下手に触れて、怒らせようなものなら、これからの学生生活、気まずいものになるのは明白だった。

 

「ここで突っ立っていても仕方ないか」

 

 そう思い、勇気を持って教室へと入る。クラスにはクラスの色がある。2−3はどちらかというと開放的な部類で他所のクラスの生徒もおり、俺が入っていっても特に変な目で見られることはなかった。

 

(田島さんは・・・と)

 

 教室を見回すと、奥の方に探し人を見つける。癖っ毛の茶髪、優しげなな印象を与える目下、そして、夏服の上に羽織った、クリーム色のカーディガンが彼女の印象を明るく見せていた。彼女は友達と弁当を食べて、話に興じており、あの空間に入るのは憚られた。

 

「あの、田島さんだよね?」立ち往生しているわけにもいかず、勇気を持って彼女に話しかける。

 

「え、うん、そうだけど。えっと、確か岩戸くんだっけ?」

 

「え、俺のこと知ってるの?」

 

「そりゃ、学年同じだしね」いや、その理屈だとクラスの半分の名前も思い出せない自分はなんなんだろうか。

 

「そ、そうか。それで、今、ちょっと、大丈夫かな?設楽先生から伝言があるんだけど」

 

 設楽先生の名前を出した瞬間、彼女の表情が一瞬険しいものへと変わる。だが、すぐに取り繕うと、彼女は友達へごめんね、と言い、椅子から立ち上がる。バスケ部だからか彼女の身長はかなり高く、175センチある自分と同じくらいの身長はあった。

 

「ここじゃなんだし、屋上にでも行こうか?」

 

 口調自体は疑問系だが、そこには有無も言わせぬ迫力があった。彼女はそのまま教室のドアへと向かってしまう。

 

「お、おう」

 

 それを慌てて追いかける情けない俺に教室にいる生徒の視線が突き刺さる。それを気にしていないふりをして、早足に教室を出る。

 

「で、先生からの話って文化祭のだよね?」屋上に着くなり、田島さんは単刀直入に聞いてきた。屋上には曇りとそれに強風ということもあり、田島さんと俺以外誰もいなかった。

 

「何で、岩戸くんが伝言を頼まれているかは知らないけど、理由は部内のことだから言えないって言ったはずだけど」

 

 田島さんは首にぶら下げているペンダントを握りながら、こちらを睨みつける。

 

「それで先生が納得できると思ってんのか?」

 

「ううん、全く」

 

「じゃあ、何で、」

 

 そう言おうとして、言葉を口にするのを止める。

 

「言えるわけないじゃない・・・」彼女は小さく呟き、震えていた。何かを耐えるように。

 

「お、おい、大丈夫か?」

 

 とっさに彼女に駆け寄ろうとすると、彼女は自分が震えているのに気づいたのか、取り繕うかのような先ほどまでの強気な態度はどこへやら、弱々しい笑みを浮かべる。

 

「大丈夫だよ。そうだよね、それで先生が納得するわけないよね。なんかごめんね、岩戸くんにまで迷惑かけちゃって。先生には私から言っとくよ」

 

(どこが大丈夫なんだよ.....)

 

 彼女が何か隠しているのは明白だった。彼女の様子からしてここで問い詰めれば、理由を言ってくれるかもしれない。だが、そこまでを俺がやる権利があるとは思わなかった。

 

「じゃあ、私、行くね」

 

 田島さんが屋上のドアへと向かう。その時、急に強く風が吹く。そのせいで、油断していた彼女のスカートが捲れあがる。咄嗟に目を逸らそうと努力する。だが、その努力は徒労に終わる。名誉のために言っておくが、決して彼女のスカートの中身に魅了されたわけではない。

 

 目を奪われたのはその下。彼女の太ももの付け根部分。そこに跡があった。何かで縛られたような。記憶が正しければ、昨日、介抱した男と同じ跡だった。

 

(蛇!!)

 

 まさか、田島さんが昨日の女子高生?そう思い、咄嗟に頭によぎったのは昨日の光景だった。十数人もの男が薄がりの街灯の中でのたうちまわる光景。それを作り出した張本人が今、目の前にいるのか!

 

 ゆっくりと視線を上げ、彼女の顔を見る。彼女の表情は下着を見られたことへの羞恥など欠片も存在しなかった。そこには絶対に知られたくない秘密を知られたという絶望と怯えが入り混じった表情があった。目は今にも涙があふれだしそうになっており、見ていられなかった。

 

「田島さん、それって、あっ、おい!」彼女に話しかけようとすると、彼女はそのまま走り出して、屋上を出ていってしまった。

 

 追いかけようとしたところで踏み留まる。刺激した拍子に、昨日のようなことが起きてはどうにもならないからだ。一人、屋上に残され、どんよりとした空を見る。今にも雨が降り出しそうで、これから始まることを決定づけるかのようだった。

 

 

 

幕間

 

 

 どうして、こんな事になってしまったんだろう。ペンンダントの中に入っている写真を見る度に泣きたくなる。

 

 私は彼女を見捨てたんだ。あんなに仲良かったのに、罪悪感から連絡することもできない。

 

 あの時、私がちゃんとしていれば、彼女はああならずに済んだのに。後悔で心が一杯になる。

 

 誰か私を裁いてください。そんな時だ、蛇が私の目の前に現れたのは。

 

痛い、苦しい、苦しい、苦しい、痛い、痛い....

 

 でも、これは私への罰だ。

 

 あの娘を見捨てた私への罰だ。なら、私は受け入れよう。この痛みを、この苦しみを。こんな痛み、彼女の痛みに比べたら大したものじゃない。

 




読んでいただきありがとうございました!






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