『愚者』と巡る、大いなる旅路   作:K氏

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特異点F【1】

『……で、その結果そこの彼が召喚された、と?』

 

 カルデアの医療部門トップ、ロマニ・アーキマン、通称Dr.ロマンは頭を抱えていた。

 原因は当然、少し前にあなたが召喚したサーヴァント、自称アルターエゴのオルフェウス(仮名)である。

 

『あー、御身が如何なる由来の英霊なのか――』

「畏まる必要はないよ。実際のところ、僕は生前マスターと同じぐらいの年齢だったし」

 

 当の本人はどこ吹く風。混沌としたこの特異点にあっても、穏やかな姿勢をまるで崩さない。

 ……一部に関しては彼が混沌の中心地ではあるのだが。

 

『え、えーと、それじゃあ遠慮なく。君は、一体何者なんだ? その、服装から察そうにも……』

「うん。普通はわからないし、わかるわけがないよね。だって俺、紛れもなく日本生まれの高校生だったわけだし」

「こ、高校生、ですか」

 

 思わずあなたは、マシュと顔を見合わせる。

 英雄についての知識が薄いあなたとしては、「そういう事もあるのか」で済むかもしれないが、流石に本人の口から「自分は元現代人だ」と言われてしまっては、首を傾げるしかない。

 

「……あり得ないわよ普通! 魔術は存在しても、この文明が発達した現代に英雄が生まれるような環境、そうそうある筈がない! ましてや、今の日本で!」

「うん。君のその反応は最もだ。でも現に、俺という例外がいるんだよ」

 

 見るからに常識とかに囚われるタイプであろう所長は相変わらず激しい剣幕を見せるが、オルフェウスはこれをあっさりと受け止め、流す。

 どういう事なのかとあなたがマシュに聞いてみれば、簡単に言えば英霊として座と呼ばれる場所に登録される為には、相応の信仰、つまりどれだけ知られているかが重要なのだという。

 無論、現代を生きる人間であっても、その人物が為した事と内容によっては英霊にもなり得る。事実――昔の人間ではあるが――その知名度によって有名な劇作家がサーヴァントとして召喚される事もあるそうだ。だから、現代人が英霊になる事も、一概にあり得ないとは言い切れない。

 

「ま、俺自身の知名度なんて、港区周りぐらいしかないけどね。オマケに俺の持つ力に関しては、知ってる人間は更に限られてくるし」

 

 しかし、本人がこう言うのだ。一体どのようにして英霊になったかは分からないが、あなたにも普通は日本の高校生が英雄と肩を並べる存在になるなどあり得ないのではないか、という事ぐらい分かる。

 加えて、識者曰く「アルターエゴというクラス自体はデータにあるが、実際に現出したという記録は確認されていないエクストラクラス」らしい。それ自体も便宜上のクラスなのだから、本当は一体何のクラスのサーヴァントなのやら。

 

「でもって、俺の場合は知名度を抜きにしても()()()()()()()()()()。だからイレギュラー中のイレギュラーってわけ」

『……ちなみに、どこの高校に通ってたんだい?』

「港区にある私立月光館学園、高等部二年。それが俺の最終学歴になるのかな」

 

 極め付けに、これだ。カルデアの面々が揃って閉口する。

 曰く、英霊がサーヴァントとして召喚されると、その英霊の全盛期の姿になって召喚されるのだという。

 そして、オルフェウスの口ぶりから察するに、恐らく彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その事実が、余計に一同を混乱させていた。

 

「……彼が一体何者なのかは、一旦保留にします。そうしないと先に進めない気がするわ」

「私もそう思います……」

 

 あなたも所長と同意見だった。これはどう考えても混乱しか招かない。ましてやいつ敵が襲ってくるかも分からない状況では、後回しにした方が都合がいい。

 そういうわけで、彼らは次の話に移る事にした。

 

「それで、彼のステータスはどうなの?」

 

――……? 何故こっちを?

 

「決まってるでしょう!? サーヴァントのステータスを見れるのは、マスターのアナタなのよ!?」

 

 ……怒られてしまった。そこで、マシュからやり方を教わり、あなたはオルフェウスのステータスを閲覧する。

 どうやらさっき言っていた偽装とやらはちゃんと出来ているらしく、彼の名乗った通りクラス名は『アルターエゴ』、真名は『オルフェウス』という風になっていた。最も、あなたは素人だから騙されているという可能性も無くはないが。

 そして、分かる限りのステータスをそのまま所長に伝えると――

 

「……はぁ!? なによそのステータス!? 微妙! 微妙過ぎる! 下手したら今のマシュの方がマシじゃない!」

 

 どうなの!? と詰め寄られるが、あなたにも何が何だか分からない。

 後でマシュに聞いたのだが――本当にマシュには頭が上がらない――、どうも彼のステータスはかなり低い方らしい。それこそ、七騎のサーヴァントクラスで最弱と称されるキャスターのサーヴァントと遜色ない程に。

 だが、あなたにはそれよりも、気になる事があった。

 

「えっ、宝具がない、ですか?」

 

 マシュの驚きの声に、あなたは頷く。宝具とは、サーヴァントの持つ切り札にして、その真名に辿り着く大きな手掛かりだ。アーサー王ならエクスカリバー、ジークフリートならバルムンク、といったように。

 だが、今閲覧した中に、それらしい名のある武器がないのだ。あると言えば、ショートソードや槍、弓と、ごく普通の無銘の武器ばかり。

 あったのは――

 

『ペルソナ……ユング心理学の心の仮面? ってわけでもなさそうだけど……どういうスキルなんだ?』

 

 ――『心象具現・疑似降魔(ペルソナ)』。そう書かれたスキル。

 奇妙な事だが、明確な記述があるのはこのスキルぐらいで、他は持っている武器のように特に目立った記述がないか、もしくは文字化けして閲覧できないものばかりだった。

 内容は、『己の覚悟によって具現化する事の出来る、心の底に潜む「もう一人の自分」。心の仮面にして、同時に困難に立ち向かう為の人格の鎧。その姿は集合的無意識を介し、世界中の神や悪魔、英雄の形をとって現れる』というもの。

 どうやらロマンの言うユング心理学のそれとは似て非なる、超能力や異能力に近いものらしい。だが、その実態は未だに掴めない。とどのつまり、実際に見なければなんとも言えなかった。

 

「……はぁ。もしかして、外れサーヴァントを掴まされたのかしら」

 

 思わずネガティブな本音を漏らす所長。だが、オルフェウスは相変わらず、怒りや悲しみといった感情を見せない。

 

「あ、そうです! 確か種火というアイテムを使えば、霊基の強化が……」

 

 種火とは、カルデア式で召喚されたサーヴァントの欠陥を補う為に消費されるもので、使用すればサーヴァントの性能を上げ、元々のステータスへ戻す事も、更に成長させる事も出来るのだという。

 だが、彼は首を横に振った。

 

「生憎だけど、俺はそれで強化出来ない」

「ちょ、ちょっと! それじゃあ余計ダメじゃない!」

「……勘違いしないでもらいたいんだけど、何も今の状態から強化出来ないとは言ってないさ。ただ、俺の場合はマスターである彼の成長次第ってだけでね」

 

 どういう事だ? とあなたは問いかける。

 

「我は汝、汝は我。君の成長は、俺の成長でもあるのさ」

「それは、一体?」

「……彼は、0から旅を始めたばかりの旅人。さっきのカードが示した通りの『愚者』だ」

 

 愚者。ストレートに取ると、文字通りの愚か者という意味になるが……。

 

「確かに、愚者は無知を表すアルカナだけれど、その真意は別にある。愚者は全ての始まりのカード。つまり、何にでもなれる可能性を秘めているんだ。トランプの道化師(ジョーカー)が、ポーカーではワイルドカード(なんでもアリ)を意味するように。チェスや将棋で歩兵が成り上がるように」

 

――つまり?

 

「俺の霊基のステータスは、君がこれからの旅で何を学び、そしてどう自らの糧にしていくかによって変化していく。俺と君は、心で――より正確に言うと、集合的無意識で――繋がっている。君がこれからの旅で成長すれば、俺は()()()()()()()を取り戻せるかもしれないし、もしかするともっと強くなるかもしれない、ってことさ」

 

 全てを理解できたわけではないが、何となくイメージは掴めた。とはいえ、成長といっても具体的にどういう事なのかまでは分からない。

 後であなたはその事を問いかけてみたが、「その時がくればわかるさ」とはぐらかされてしまった。

 

 

 

 

 オルフェウスの能力確認を()()終えたあなた達は、この冬木の街の異常を調査すべく再び移動を始めたのだが、その矢先に、異形の槍を携えた女性――シャドウサーヴァント・ランサーに襲われてしまう。

 

「やああ!」

 

 向上した身体能力で盾を振るうマシュ。だが、戦いとは無縁の生活を送っていたあなたの目から見ても、その動きはぎこちない。

 敵のランサーからはまるで見下すかのような視線が向けられているが、それでも諦めるわけにはいかない。だが、同時にあなたもマシュと同様に経験が足りない。

 的確な指示を出せ、と言われても、何が正しく、何が間違っているのか、その判別がつかないのだ。

 

「……仕方ない、か」

 

 そこに助け舟を出したのは、ランサーと一緒に襲撃してきたアサシンのシャドウサーヴァントを、ショートソード片手に相手をしていたオルフェウスだった。ちなみに今の彼はマシュよりも身体能力で劣ってはいるが、生前の戦いの経験を活かしうまく立ち回っていた。が、それでもかなり辛そうだ。

 

「……今回だけは、()()()()()()()()()()()()()()。君は、それを見て参考にするといい」

「は、はぁ!? ……って、そういえばスキルにカリスマがあるって言ってたわね」

 

 一瞬所長が動揺するが、彼がカリスマのスキルを持っているという事実を思い出して立ち直る。簡単に言えば、王や将軍のように誰かの上に立ったりするような者に与えられるスキルだ。

 例に挙げたような立場の英霊が持つそれと比べると、そのランクは劣るらしいが、それでもこうした少人数での戦闘では十分な効果を発揮するらしい。

 そんなスキルを持っているのは、彼曰く「鍛えた結果」、だそうだ。……これも成長というやつなのだろうか。

 

「マシュ。この戦闘では俺の指示に従ってほしい」

「りょ、了解です!」

「……それと、そこに隠れてる人も」

「え?」

 

 唐突にオルフェウスが明後日の方向を見て何事かを言い出し、マシュが首を傾げるが、その答えはすぐに現れた。

 

「へっ。なんだ、気づいてやがったか」

「何となく、誰かが見てるなぁって。戦えるかどうかについては勘だけど」

「そりゃ、いい勘持ってるぜお前さん。俺ぁ今でこそキャスターのサーヴァントだが、戦うのは好きでね」

 

 そう言いながらオルフェウスの視線の先の物陰から現れたのは、水色を基調とした独特な服装の男。フードを被り、大きな木製の杖を握っている事から、本人の申告通り魔術師(キャスター)のサーヴァントなのだろう。

 

「貴様、我ラト相対スルツモリカ!」

「そりゃそうだろ。元々敵同士なんだからよ。……で、兄ちゃん。顔合わせは初めてだが、指示とか出せんのか?」

「何が出来るかは、戦いながら知ればいいさ。後はどうにでもなる」

 

 「そうかい!」と、フードの下から見える口元に獰猛な笑みを浮かべたキャスターは、杖をまるで槍のように構える。

 

「おっと、つい癖で構えちまった。……ま、いいか」

 

 癖で? キャスターが妙な事を口走ったのを、あなたは聞き逃さなかった。だが、今は関係ない事だ。あなたが今すべきなのは、戦いについて学ぶ事。

 

「さぁ……やろうか」

 

 オルフェウスを先頭に、その両脇を固めるようにマシュとキャスターが並び立つ。

 キャスターが味方についた事で、2対2だったのが3対2。

 練度の問題で一方的な戦いとはならないが、それでもこちら側がかなり優位にある。

 

「チィ!」

 

 だが、相手も黙ってやられるつもりはないらしい。

 ランサーが穂先の曲がった奇妙な槍……鎌? を振りかざし、周囲に鎖を飛ばす。

 その鎖が絡み合い、簡易的なリングが形成されたかと思うと、アサシンが目にも留まらぬ素早い動きで三人に迫る。

 

「マシュ、前に出て防御!」

「は、はい!」

 

 それに合わせるように、オルフェウスが後ろに下がると、入れ替わるようにマシュが前に飛び出し、盾を構える。

 瞬間、アサシンの得物である黒い短剣が突き立てられるが、マシュの盾にあっさりと弾かれる。

 

「今!」

「応! アンサズ!」

 

 そこに、オルフェウスのたった一声で何をすべきかを理解したらしいキャスターが、詠唱と共に杖を振るう。

 振るわれた杖が、いつの間にか空中に描かれていた文字のようなもの――ルーン文字というらしい――をなぞると、それらが一瞬にして燃え上がり、三つの火球となってアサシンに襲い掛かる。

 たまらずアサシンが避けようとするが――

 

「マシュ!!」

「了解です!」

 

 攻撃を防いだ後、指示に従ってすぐにアサシンの背後に回り込んだマシュによって、退路を断たれてしまう。

 

「グゥオォ!? ……クソッ、ランサー!」

「ワカッテイル!」

 

 その身を包む黒いボロ切れのようなマントで炎を防ぐアサシンだが、しかしダメージは入っているようだ。火球の熱に苦悶の声を上げたアサシンだったが、劣化した存在とはいえ、彼もまたサーヴァント。すぐに立ち直ると、ランサーに援護を要請する――

 

「させないよ」

 

 ――が、それを阻むようにオルフェウスがショートソードを振るう。

 その切先が、ランサーの腕を掠める。

 

「ッ、生意気ナ!」

 

 掠めた箇所から血が漏れるが、ランサーは逆に手にした歪な槍を振るって反撃に出る。

 対するオルフェウスはその場で屈み、紙一重でそれを回避。

 その体勢から立ち上がりながら剣を振り、槍を跳ね上げようとする。

 

「舐メルナァ!」

 

 だが、ランサーの筋力の方が上なのか、オルフェウスは思うように槍を跳ね除けられない。それどころか、逆に上から押し込まれそうになっていた。

 思わず、あっ、と声を上げてしまいそうになるあなたと所長。

 

「コノママ、潰シテ……!」

「――そうはいかねぇな」

 

 だが、そこへキャスターのルーン魔術の炎が襲い掛かり、ランサーは避ける間も無く直撃。

 意識外からの不意の一撃だった為か、ランサーはそのまま体勢を崩す。

 

「これで、倒れて!」

「ヌゥゥ!?」

 

 一方で、アサシンをなんとか抑えていたらしいマシュも、隙をついた連撃でアサシンを怯ませた。

 

「よし、今だ! 畳みかける!」

「よっしゃ、そうこなくっちゃな! 遅れんなよ、盾の嬢ちゃん!」

「はっ、はい!」

 

 それを見計らったように、オルフェウスが号令をかけ、真っ先にキャスターが飛び出し、それに少し遅れるようにマシュも飛び出した。

 

 それから程なくして、勢いの乗った彼らの総攻撃により、ランサー、アサシンともに霊核――サーヴァントの体を構成する文字通りの核――を破壊され、勝敗は決した。

 

――これが、サーヴァント同士の戦い。

 

 あなたはそう呟きながら、ごくりと唾を飲み込む。

 正直、圧倒されていた。映画で見るような戦いよりも、もっと迫力があって、もっと目まぐるしくて。

 簡単には言い表せないそれに、あなたは自然と気圧される。

 

 自分なんかが、本当にマスターとしてちゃんと指示を出せるのかと。

 

 そんな不安そうなあなたを気遣ってか、先程マシュのお尻を触って所長に怒られていたキャスターがにんまりと笑みを浮かべて、あなたの肩をポンポンと叩いた。

 

「なぁに。これから学んでいきゃいいんだよ。見たところズブの素人みてぇだからな」

 

(……兄貴)

 

 直後に「ま、今のはほんの序の口程度だがな」と付け加えられたりしなければ、あなたはこの初対面の筈のサーヴァントをそう呼んでいたところだろう。何故そこで逆に追い詰めて来るのか、これがわからない。

 




 はい。お気づきでしょうが、今作のキタロー君はサーヴァントとして召喚されたのに全盛期ではありません。一応それっぽい理由は考えてありますが。

 現状でのキタロー君のスペックはマシュ以下、作家系キャスターとどっこいどっこいな低スぺです。主人公はニューゲームで始めてるからね、仕方ないね。
 ……が、読者の方なら大体お分かりでしょうが、キタロー君にはアレがあります。そして、戦闘中にぐだおはステータスを確認していません。
 つまり、そういう事です。
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