ランスとエールの冒険 +まとめSS   作:RuiCa

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※ 大分前に書き始めた物なので公式設定と齟齬がある可能性があります。


ランスとエールの冒険 続き
翔竜山をもう一度登る話 前編


「翔竜山へ行くぞ!」

 

 ランスが突然そんなことを言いだしたのでエールと長田君は驚いた。

 

 翔竜山は標高12000メートルと言われた世界で一番高い山。

 魔王だったランスがアメージング城を作っていた場所でもある。

 懐かしくなったの?とエールは聞くがランスはそのまま話を続けた。

「前から探していたカーマちゃんが翔竜山へ登って行ったらしい。だから追いかける」

「カーマちゃん? もしかしてエールの前のカオスオーナーっすか?」

「そーそー、儂の前のオーナーのカーマちゃん。可愛い子よ~」

 

 エールは前にゼスに訪れた際に訪ねた孤児院で聞いた話を思い出した。

 カオスに選ばれて鬼畜王戦争に参加、最後の戦いでカオスを失ってしまいその後色々あって今はどこにいるかわからない、という。

 確か剣を扱う才能はなかったと聞いた、とエールはカオスに尋ねてみた。

「そうなの。何とか儂を使おうと頑張って努力はしててそれがまた健気でなー。儂と深くつながれば扱いが上手くなるぞーって言えばいくらでもエロいことさせてくれた」

 おそらくそんなのは嘘なのだろう、いやらしい顔をしているカオスにエールは眉根を寄せた。

「カオス、あなたまさかそんな事をするために……」

 日光は自分を使っていたアームズと違ってレベルも才能も決して最前線に出るようなものではないカーマのことを心配していた。

 カーマは協力的だったが、もしカオスが好みだからというだけであの鬼畜王戦争に巻き込んだのであればそれは許せないことである。

「前にも話したがそれは違う。カーマちゃんが儂の事ひょいっと持ちあげて驚いたのはこっちじゃよ。長い間持ってても儂に呑まれることもなかったし相性バッチリじゃった。 ……お前さんとあの武器マニアの女戦士と違ってな」

 カオスは日光を真剣な目を向ける。

「あれだけの魔人相手、相性の悪いお前さん達だけじゃどうにもならんかったろうが」

 日光は押し黙った。

 日光とアームズの相性はお世辞にも良くはなかった。

 カーマがカオスを使えなければ鬼畜王戦争で魔王を正気に戻すまでいけなかっただろう。

「それにカーマちゃんは剣の方はからっきしじゃったがとにかく身軽な子でな。どうやら人間だった頃の儂に似た才能があったようでそっちの動きやなんやらは教えられることが多かった。おかげで魔人の無敵結界を破るぐらいは出来たんじゃよ」

 エールはふむふむと頷きながら話を聞いていたが、カオスに呑まれるとは何の事だろう、と尋ねる。

「相性が悪いのに儂の事ずーーっと持っとると正気を失ってしまうんじゃ。前に儂、盗まれたことがあって盗んだ子がおかしくなった。心の友がボコって元に戻したがの」

「そんなことあったか?」

 ランスはカオスを盗んだマチルダの事が全く思い出せなかった。

「あれ、もしかしてカオスさんってけっこうやべー感じなの? あんまそういうイメージないけど」

 魔人の無敵結界を解除できること以外はただのセクハラエロ魔剣だと思っていた、とエールが長田君の言葉に頷く。

「ひっど! 儂、すごい魔剣なんだってば」

「でもエールは長い間持ってても大丈夫だったよな。いやホントにへーき?」

 途中でダークランスに預けたというのもあるが、エールはカオスを持っても問題なくぴんぴんしている。

「嬢ちゃんはそもそも儂、持ち主と認めてすらおらんわい。……とにかくカーマちゃんには儂を上手く扱うには儂にえっちな事されるのが必要ーとか言っておったんじゃ。結局、リセットの嬢ちゃんにバラされちまったが世話になったから怒ってないんだと。本当に良い子じゃったなぁ~」

 しみじみとカーマを思い出すカオス。

「へー、性格も良いんすね! 確かカオスさんが前にすっごい巨乳でうはうはって言ってたし、うおー、マジ会ってみてー!」

「そりゃもうむちむちのぷりんぷりんで反応も良くて素直で優しくて……」

 カオスがいやらしい顔をした後、エールの方に視線をちらっと向けてはぁーーーっと大きなため息をついた。

 エールはランスからカオスを奪い取ってガンガンと床に叩きつけて、ついでに長田君を割った。

「儂、何にも言ってないのにー!」

 

 カーマ・アトランジャー。

 鬼畜王戦争に参加し、魔人撃退の立役者になった前カオスオーナーの英雄。

 さらにランスにカオス、日光までお墨付きのむちむちでぷりんぷりんのお姉さんとあってはエールも興味津々だった。

 

 エールは冒険の最中、色んな人や魔人、妖怪まで巨乳に触らせてもらいご利益を貰って来た。

 もちろんご利益の為にどうにかこうにか触らせて貰おうと考えている。

 

「カーマちゃんも俺様の作るハーレムに入れてやろうと思ってたのだが中々捕まらなかったのだ」

 そういえば前にもそんなことを聞いていた。

 カーマもお父さんの女の一人なんだね、とエールが聞く。

「当然だ。だが……実は初めてやった時にな。ちょーーーーーっと乱暴にしてしまってな。次会ったら優しくセックスしてやろうと思っていたのだ」

 

 鬼畜王戦争。

 それはランスにとって忘れたい過去である。

 忘れたいというのは危険な魔人を作り、世界を混乱させ、人類を危機に陥れた後悔の念などではない。

 

 最凶生物SBR。

 人類の切り札となったそれは魔王になってもなおランスの魂の奥に刻みこまれていた最も恐ろしくおぞましい存在だった。 

 目の前に突然あらわれた"それ"は陰影を思い出すだけで吐き気とめまいがし、顔を少しでも思い出そうとすれば心臓が止まりそうになる。

 

 突然、息を荒くして顔を青くさせはじめたランスにエールは急いでヒーリングをかけた。

 最上位のヒーリングでも震えが治まらないただならぬ様子の父にエールは大丈夫?と心配そうに顔をのぞき込む。

 

「ぜぇぜぇ……とにかく俺様はカーマちゃんともう一度やらんといかんのだ」

 

 リセットのビンタによって心臓の動きと正気を戻された後、ランスはカーマと再会した。

 

 魔王になってもなお自分を信じている憧れの存在だと、健気にも自分の為に処女を取っておいたと言っていた美しく成長していたカーマ。

 当然ムードも高まって良い雰囲気となってそのまま抱くことになったが、直前のSBRの影がどうしても頭をよぎってしまい、それを振りほどこうとしたためにかなり乱暴にやってしまった。

 憧れは幻想だった、とカーマにはかなり失望した目で見られてしまったのをランスはものすごく後悔している。

 

「エロマスターである俺様が下手くそで乱暴だなどと勘違いさせたままなのはいかん。俺様のスーパーテクであへあへいわせるためにも、もう一度会ってセックスせねば」

「カーマちゃんは儂のテクニックにめろめろだったからの。心の友じゃ満足できんぞー、きっと」

「あの時は俺様にベタぼれだったのだ。ちゃんと抱けばすぐにめろめろになるわ」

 

 仲良くエロ話をしている父と剣を仲良さそうだな、と思いながらエールは二人を見つめていた。

 似た者同士である。

 

 しかし翔竜山といえば人が簡単に登れる山ではない。

 カーマは何をしに行ったのだろう、エールは首を傾げる。

「それはもちろん俺様の事が忘れられなかったのだ。あそこはカーマちゃんと感動の再会をした場所。俺様を思い出して泣いているに違いない。そこでもう一度運命の再会を演出すればむこうから抱いて欲しいと言ってくるだろう」

 感動だか運命だか知らないがいつでも自信たっぷりなのは父の良い所だ、とエールは前向きに考えることにした。

 

「……鬼畜王戦争ってさ。人類滅亡の危機っつーヤバい戦争じゃなかった?」

 ランスの中では人類の危機より、一人の女。

 こそこそと話しかけてくる長田君に今更だよ、とエールはくすくすと笑った。

 

 

………

……

 

 エール達は翔竜山を登っている。

 

「ひーひー… もうくたくた…… ちょっと休憩させて~……」

「したいなら陶器一人で残れ」

「いやいや、今一人でこんなところに置き去りにされたら死ぬってー!」

 エールは山を登っている間、ずっと懐かしさを感じていた。

 むしろあの時より登りやすくなった気がする。

「マージーでー? 確かあん時はロッキーさんが荷物とか持ってくれたじゃん?」

 ロッキーから魔王がいる土地は人間が住めなくなっていく、というような話を聞いていたのを思い出した。

 魔王が居なくなったから、少しはそれが薄れたのかもしれない。

 エールははじめて父に会いにここに来た時、ドラゴンと戦ってるアームズさんに会ったと思い出話をしてみる。

「アームズか。あいつはどうだ、まだいけそうだったか?」

 逞しくも綺麗なお姉さんで闘神都市や修行なんかでとても世話になった、とエールが少し嬉しそうに話す。

「よしよし。機会があったら娘が世話になった礼をしなければな」

 鼻の下を伸ばす父を見て別に礼じゃなくても襲い掛かりそうだ、と思いながら、

 自分もお父さんとの間に子ども産んでおけば良かったと言ってた、とエールは話す。

「これ以上ガキはいらんな……避妊魔法してれば大丈夫だろ。そうだ、エール。俺様に避妊魔法はちゃんとかけてるだろうな」

 

 エールは頷いた。

 

 エールは長田君と出かけた前の冒険で少し危なかったことがあり、クルックーから避妊魔法を習っている。

 シィルがいない今、避妊魔法をランスにかけるのはエールの仕事だった。

 

 遠くない未来にシィルとランスの間には自分の弟か妹が生まれる。

 家族が増えるのは喜ばしい事だ。

 自分の母であるクルックーの間にももう一人生まれて欲しいとも思っているし、修行で世話になったアームズや謙信、さらに父をずっと慕い続けている香姫やコパンドンといった女性の間にも弟か妹が生まれたらさらに楽しくなりそうだ。

 

 エールが兄弟姉妹がもっと増えると良い、と思っている事をランスは知らない。

 

「そういや、魔人サテラさんとかやべー強くてさー。覚えてる?」

 あの時、魔人サテラに何度も殺すと言われて実際殺されかけている。

 リセットが攫われたりと良い思い出の無い魔人……その後に長田君とでかけた冒険で偶然出会った際にちょっとした復讐をエールはしていた。

「んでんでー、初めて会った時のランスさんめちゃくちゃ怖かったよなー、なんか見ただけで割れそうでさ」

 現れた父は死の恐怖そのもののような恐ろしさで、体が硬直し動けなくなるほどの威圧感だった。

「ちーーっとも覚えとらんな」

 思い出したくないのか、本当に覚えていないのか、ランスは気にせず歩いて行く。

 エールは追いかけながら、今のお父さんの方が良いよ、と楽しそうに声をかけた。

「……ふふん、当然だ。俺様は世界一いい男だからな」

 

 娘の言葉を聞いて少しだけ振り向いたランスは少し上機嫌だった。

 

 

 ランス達はさらに山を登っていく。

 

 疲れてこけそうになる長田君を支えつつ、そういえば近道とかないの?とエールがランスに聞く。

 あの山に色々と物を持ち込むのは大変そうだ。

「城内に転移魔法陣があったな」

 ならそれを使えばいいのに、とエールが言おうとする前に

「…吹っ飛んだが」

 ランスは短く言って山をずんずんと進んでいく。

 エールは大怪獣クエルプランに突っ込まれ、城が半壊していることを思い出した。

 

「……それでさ、この辺になんか動く死体みたいなのいたよな。ほら、洞窟にさー」

 長田君がなんとかランスの歩調を緩めようと話題を振る。

 勇者ゲイマルク。

 エールが思い出せるのは鎧をまとっているボロボロの動く死体である。

「何度か殺してやったはずだがまだ生きてやがったのか? ……そういやサテラが殺せないとかなんとか言ってたような」

 エールは死なせてくれと言っていたゲイマルクを思い出す。

 

 ……そのボロボロの姿を見て、とても哀れに思った。

 エールがそう思った瞬間、ゲイマルクは光となって消えていった。

 無意識的に神魔法で成仏させてしまったのかもしれない、と今更ながら考えている。

「なんてことをしたんだ。あいつは各地で女を誑かしては人間を殺しまわって、世界各地で俺様の女たちをいじめて回ってたクズ。苦しんでたならそのままで良かったんだぞ」

 ランスがエールに吐き捨てるように言った。

 その言葉には大きな嫌悪が込められている。

「AL教も襲われたと聞いているしな。クルックーもあれに殺されかけたんじゃないのか」

 前にカイズに寄った際、クルックーから勇者ゲイマルクが起こした勇者災害という事件の話を聞いていた。

 そのせいでエールはあの時ゲイマルクを哀れんだことを後悔している。

 もっとも、母であるクルックーはエールが優しく育ったことを嬉しそうにして褒めてくれたのだが。

「前の奴もだが勇者なんてろくなのがいない。英雄である俺様が居ればそもそも勇者なんて必要ないがな」

 かの勇者災害を止めたのは魔王だったランスである、と言う事もクルックーから聞いていた。

 その時のクルックーは優しい表情を浮かべており、でエールはその時の事を思い出して笑みを浮かべる。

 

 あの時、もう一度父と会いたいと思ったのだ。

 

「なんだ、ニヤニヤとして。いや、お前はいつもニヤついいてるが」 

 ランスはにこやかなエールの顔を見た。

 そういえば最初にゲイマルクと会った時に側にいた女か男か分からない小さな子供――異様な圧力だった勇者の従者の事をエールは思い出す。

 あと一年でどうのこうの言っていたが、最後に浮かべていた邪悪な笑みを思い出すと……エールはなぜか胸がムカムカとした。

「ぼーっとするな! さっさと行くぞ!」

 エールはランスに呼ばれて急いで後をついていく。

 

 相変わらずエールや長田君に合わせてゆっくり進むということをランスはしない。

 

 目の前には既に黒く大きな城が見えていた。

 

………

 

「がはははは! さすが俺様の作ったアメージング城、作りかけで終わってしまったのが勿体ない荘厳な出来栄え! ……半分吹っ飛んでるが」

 

 黒を基調にした巨大で荘厳な城であるが、大怪獣クエルプランに突っ込まれ半壊したままの状態である。

 エールとしては黒くてなんかゴテゴテした城であり、洗練されて美しいリーザス城やエキゾチックだが荘厳なゼスの王宮に比べて趣味が悪いと感じていた。

 ついでに名前もダサい。

 ふと脳裏にランス城が思い浮かぶ。今はヒーローの父母が交易都市として使っているがあれもへんてこな見た目だったことを思い出し、エールは思わず苦笑いする。

 

「いやー、ここくると思い出すよな。色々とさ、ほんっと大冒険だったもんなぁ……」

 到着に安心したのか、魔王討伐の冒険を思い出したのか、涙ぐむ長田君。

 お父さんに殺されかけたこととかものすごい蹴られたこととか、とエールはランス聞こえるように言った。

 あの時は本当に死にかけたのだが、今横にいる父・ランスを見るとあれももう思い出話である。

「別に死んでないのだから小さい事を気にするんじゃない」

 ランスの方は少し気まずそうに言って城に入ろうとしたのだが……

 

 城に近付くと入る前から妙な気配があることに気がついて、エールが止めた。

「カーマちゃんか?」

 エールは首を振って一人や二人ではなく大量にいる、と答える。

 

 そう、妙にたくさんいる。

 とりあえずすぐに入らず隠れて様子を見よう、とエールはランスと長田君を引っ張って物陰に隠れながら城を伺うことにした。

 

 少し離れた場所から門を見てみると数体の魔物が城に出入りしているのが見え、さらに門番らしき魔物までいるのが見える。

「てか、なんか魔物がいっぱいいる? みんな魔物の森に帰ったんじゃないの?」

 魔物は遺跡や廃城、古屋敷など人の気配のなくなった場所に勝手に住み始めることがある。

 しかしそれにしては見張りが立って居たり、見回っている魔物がいたり妙に組織的だ。

「盗賊みたいにリーダーがいるんかね。なんかお互い話とかしてるし、魔物って集まることあるしさ」

 分類上は魔物のハニーである長田君の言う通り、魔物同士で何かを話し合っているのが見える。

 礼をしたりされたりしている様子を見るとばらばらに住み着いているのではなく上下を決めてきっちりと統率されているような雰囲気をエールも感じた。

 

 そこでエールはかつて誰かから聞いた魔物界の話を思い出した。

 父が魔王になってから魔物界は派閥争いが各地で起きていて、勢力が色々と別れているという話だ。

「そうなのか?」

 ランスは興味なさそうに言った。

 それで魔人カミーラが大規模な反乱を起こしたことがあると聞いた、とエールが首を傾げる。

「おー、そうだそうだ! それでとっ捕まえてたっぷりおしおきしてやったんだったな! カミーラが入ったことでやっと念願だった女魔人のハーレムも完成。記念に何日もぶっ続けでヤったからな!」

 ランスは思い出したのか楽しそうに笑った。

「あの時はカミーラとホーネットを重ねてな。口では嫌がっていたが身体はすぐに濡れ濡れ――」

「娘相手でも容赦なくエロ自慢はじめるよな、この人」

「エールさんの教育に悪いです……」

 日光が思わずぼやく。

「儂も魔人はいかんなー、魔人は斬った方が気持ちが良い」

 ランスの話も、カオスの物騒なセリフも興味はあるがそれは後で聞くことにする。

 カミーラ派閥以外にもホーネット達元魔人に従うことのなかった魔物がここを根城にしているんじゃないか、とエールは推測した。

 魔王はいなくなったが、魔物界を統べる次の王になりたがってるやつらは居そうな話だ。

「お、おー! なるほど! さすが俺の相棒! 冴えてるー!」

「私もそう思います。数の多さから考えて自然に集まったとは考えにくいでしょう」

 長田君も何度も頷き、日光もそれに賛同する。

 エールは少し得意げに鼻を鳴らした。

「それが分かったからなんだというんだ」

 ランスの言葉にエールは言葉に詰まったが、そんな魔物の一団がいるなら潰した方がいいんじゃないか、と提案する。

「……面倒くさい。俺様の城を勝手に使ってるのはムカつくが今はカーマちゃんが先。あんな魔物なんぞ相手にしている暇は――」

 ランスが本当に面倒くさそうな顔をしたところで魔物の大声が聞こえてきた。

 

「また人間を捕まえました!」

「そうか、ここ数日妙に人間が多いな」

「いつもの通り牢屋に詰め込んでおけ。オルブライト様に報告するのを忘れるんじゃないぞ」

 

 魔物が何かを抱えて城に入っていく。

「むむむむむ、まさかカーマちゃんか?」

 女性一人より大きそうな気がした、とエールが言う前にランスが剣を抜こうとする。

「ま、待った待った! 突撃すんの!?」

 下手に突っ込むと敵がわんさか来るね、と言いながらもエールも日光を抜いた。

「なんでエールまでやる気になっちゃってんの!?」

 良い経験値になるよ、とエールはやる気に満ちていた。

「ここまで登ってきたのに疲れてないのかよ……じゃなくって! カーマさんが捕まってるかもしれないしもうちょっと慎重にいくべきっしょ!」

「確かにカーマちゃんが人質になる可能性があるか」

 ランスは妙にやる気を出しているエールを見ながら剣を下した。

「それに下手に行くと敵がわんさか集まってくるだろうな。別に倒しても良いが数次第じゃ面倒だ。エール、お前は慎重さが足りん」

 エールは自分が言ったはずの小言を言われて不満そうにランスを見つめる。

「よし、ここはあの秘密の通路を使うか」

 そう言ったランスにエールは日光を鞘に戻しつつ、何か隠し通路みたいなのがあるの?と先ほどとは打って変わって目をキラキラさせた。

「主である俺様しか知らないやつがな。ついてこい」

 

 ランスの案内でエール達は城の正面から裏手に回った。

 

 一見すると何もない城の壁に見えるが、ランスが手をかざすと壁の一部が音を立てて動き内部への通路が現れる。

「ここから中に入るぞ」

 魔法がかけられているようで、かなり厳重に隠されていたようだ。

「城への隠し通路とかなんかロマンあるー!」

 先に進みだしたランスを追いかけながら、エールと長田君は興奮気味にこの仕掛けは何?とランスに尋ねる。

「この辺りには俺様の女たちの部屋がある。この通路はその部屋にそれぞれ繋がっているんだ」

 エールは首を傾げた。

「つまり夜這い用通路だな。女湯の覗き穴もあるぞ」 

 そう言われてエールが穴を除くと、長い事使われていないだろう寂れた温泉のような施設が見える。

 向こうからは分からないだろう絶妙な位置取りだった。

「いやいや、ちょっとちょっと! ランスさんって魔王だったのになんでそんなのが必要なの!? 魔人は魔王に絶対服従っしょ!?」

 確かに魔王が命令すれば夜這いや覗きなんか必要ないはず、とエールも首を傾げる。 

「女風呂もだがそもそも俺様が立ち入り禁止の場所なんてどこにもないぞ。あいつらは命令に従順なのは良いが、普通に呼ぶとしっかり準備してきて面白くない。その点、突然寝込みを襲いに行くと慌てまくって反応が違う。呼んで来させるのと、こっちから行くのとでは趣きが違うのだ。モテない陶器やお子様のエールには分からんだろうがな」 

 やたら得意そうに言うランスに長田君は言い返そうとしたが、それを口に出せる度胸はない。

「……だが何度かやってたら扉や廊下に妙な細工をするやつが出てな。仕方ないからこっそり通路を作らせた。バレないよう色んな魔法がかけられてるんだぞ」

 ランスは得意げに笑っているがせっかくの隠し通路がそんなくだらない事の為に作られてた事を知ってエールは少しがっかりした。

「女用の牢屋やエロ拷問室には誰もいないようだな。ってことはカーマちゃんは別の牢屋か」

 ランスがのぞき込んだそこには怪しげな道具が並んでいる暗い部屋である。

 エールが興味津々にその部屋に入りこれとかどっかで見たような形をしている、と手近にあった張り型を指でつつく。

「こら、女の子がそんなもんを触るんじゃない」

 ランスがエールの首根っこを掴んで部屋から追い出した。

 

 ともあれランス達はアメージング城に潜入した。

 




※設定
・ゲイマルク成仏済み、エールが魔王に最後まで立ち向かうルート
・最凶生物SBR … 伝説のブスLv3、シルバレル。

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