トリダシタ村を出発した一行。
まずは前の冒険の時のように近場のリーザスで物品の補充をしようか、自由都市にも大きな町が、などとエールと長田君が相談していると
「何を言う、まずはカスタムだ。シィルがいないのだから旅の途中で抱ける女がいない、俺様の女を補充しなければな」
「この人、娘さんの前でいきなりなんてこと言うの!?」
長田君の驚きにすぐに慣れるよ、とエールは返した。
村にいたときは夜シィル、クルックー、アルカネーゼにサチコと誰かしらと一緒に姿が見えなくなっていたのをエールは知っていた。
たまに夜にランスがエールの家に尋ねてくることもある。
「ガキはさっさと寝ろ」
そう言って冷たいが、クルックーが笑顔で手を振るのでエールは親指を立てて返す。
弟か妹ができるかも、といううっすら期待をしているのもあって、そのあたり詮索しないのが親孝行だとエールは思っていた。
ちなみに最近はシィルの体調を非常に気遣ってるようだったが、それをエールがランスに何となく言ったらポカンと叩かれる。
一応、父にもいいところがあるよ、とエールはフォローは入れた。
「一応とはなんだ。俺様は世界最高の男だぞ。そうそう、お前たちと別れた後も破壊神バスワルドだかパスワルドだかとそんなのと戦って世界を救っているしな」
何言ってんだこの人、みたいな顔して長田君がランスを見ている。
「俺様のおかげで被害はアムちゃんが作った汚染人間だけ、俺様の女も無事救出。シィルに聞かなかったのか?」
帰ったらお仕置きだな、とランスがぼやく。
アム…?エールはその名前を聞いて心底嫌そうな顔を浮かべた。
「うおっ……なんだその顔、エールはアムちゃんのこと知ってるのか?」
見たことない顔を浮かべるエールにランスが驚いた。
汚染人間にして過去の法王アム・イスエル。
エールが小さい頃の話である。入ってはいけませんと言われた倉庫にこっそり入ったところ母であるクルックーに封印されているというアムと出会って話をしたことがあった。
話の内容は小さい頃なのでよく覚えていないのだが、足元がふわふわとしてずっと頷き続けてしまったのをうっすらと覚えている。
クルックーがすぐに気が付き、アムをメイスで死ぬんじゃないかと言うほど殴り飛ばして事なきをえたのだが、あの時いつもにこやかで優しい母が見せた怖さはエールの子供心に若干のトラウマを残し、アムという人物はとにかく危険の親玉であるということを否が応にも理解した。
絶対に関わってはいけない、話してはいけない、近付いてはいけないと完全汚染人間の危険性を教えられついでに入っちゃいけない倉庫に入ったことを凄い怒られてしまったのもあってアムに恨みを抱いていた。
「それ怒られたのはエールのせいだろう……」
ちなみにその後、アムはいつの間にやら倉庫からいなくなってしまっていた。
クルックーはそもそもアムをここに持ってきた覚えすらなかったが、いつの間にかいたらしい。
ちょっとしたホラー話である。
「しかし、あの法王クルックーさんにも嫌いな人っているんだな。怖い人みたいだけどどんな人なんすか?」
「可愛いぞ、見た目は。俺様はともかく他の奴だと確かにちょっと危ない……エールなんか特にぼーっとしてるからあっという間にひっかかりそうだ。クルックーの言う通り話さん方がいいだろうな」
ランスはエールを見ながらそう言った。
「そうだそうだ、昔ダークランスがアムちゃんにだな……ぷぷっ……いや、あいつに今度話を聞いて見るといいぞ、詳しくな」
含み笑いをする父は気になるが、エールは今度兄に話を聞いてみようと思った。
話は戻って目的地はカスタムである。
「カスタムってーと、志津香さんにナギさんだよな? 冒険のパーティにはやっぱ美女の潤い! ナギさんおっぱいでかいし志津香さんも色気あるし超楽しみだわ」
「俺様はカスタムを救った英雄だからな。カスタムにいる俺様の女はその二人だけじゃないぞ。都市長のランちゃんやマリア、他にもマリアの助手も全員……あげるとキリがない」
長田君を叩き割りながらそう自慢する父にマリアさんは兄であるダークランスの恋人だ、とエールは言った。
「前に行った時もそんなことを言ってたがあいつは天使と二股かけてるだろう。そのうち振られるに決まってるわ」
ヌークは妹みたいなものだとちゃんと言っていたはず。
昔は色々グレていた時期もあったそうだがエールにとってはダークランスはとても世話になった良い兄である。そんなことはない、と口を尖らせ言い返した。
「ランスさんは二股どころじゃないじゃないっすか」
「俺様はいいのだ。むしろ一人に縛られなんぞしたら世界中の女共が悲しむだろうが」
こんなことを大真面目に言っているのもいつものことだった。
ランスは歩幅のせいなのか歩くのが早く、エールと長田君がこれについていくのは大変だった。
襲ってくる魔物などはあっさりと退治はするものの、当然キャンプの準備を手伝ったりするはずもなく、テントが狭いとか食事が粗末だとか、夜には女がいないとか文句を言いはじめ、しまいには
「エールはちょっとビスケッタさんを見習え」
と、言い出しエールははやくもシィルの苦労がしのばれた。
ランス城で主の帰りを待つと言っていたビスケッタは魔王城でも世話になった本職のメイド、魔王に人間のまま仕えたすごい人である。
今はランス城を保全して、おそらくはランスのやった後始末も色々としているはずだ。
エールからすればそんな存在と比較されてもどうしようもなかった。
長田君も文句をつけたりしたが、もちろん割られるだけである。
エールはランスに晩御飯のスープをランスに差し出しながらじーっと見つめた。
「うーん、お前は顔はともかく、もうちょっと可愛げがあれば……いや、どっちにしろ俺様が抱けないからこのままでもいいか。あんまり成長するんじゃないぞ」
スープは薄いとか具が少ないとか言われた。
冒険をしていくうちにこの父・ランスの良さが分かるだろうか。
もし分からなかったらどっかに置いて行こう、とエールは一人うんうんと頷いた。