目的地であるカスタムに到着。
ランス達はさっそく志津香達のいる家に向かった。
もしかしたら冒険に出ているかもしれないが、志津香達が暮らす家からはちゃんと人の気配がする。
ランスはノックもせずにいきなり家の扉を開けた
「久しぶりだな、志津香!」
「……っ!なんであんたがここに」
本当に突然の訪問に驚き、一瞬魔法を構えて明らかに嫌そうな顔を浮かべる志津香。
「え、ええええ? ラ、ランスー!? ランスじゃーん!!」
それとは対照的にナギは驚きながらも嬉しそうに叫びながら思いっきりランスに抱きついた。
エールはがランスに押し付けられ形が変わるナギの大きな胸を見て実に柔らかそうだと思い、長田君も羨ましそうな視線を向けている。
エールはなんとなく自分の胸のあたりをさすってみるが、悲しい気持ちになるのであまり考えないでおくことにした。
「ぐふふ、ナギは相変わらずエロい体をしてるな」
「ランスのためにばいんばいんのむちむちになったんだもん。昔約束した通りでしょ? 昔はリセットと同じぐらいだったのにねえ」
そこのところを詳しく、とエールが身を乗り出そうとした矢先に志津香が話に割って入ってきた。
「何しに来たのよ」
一見不機嫌そうに見えるが、どこか恥ずかしそうな気配をエールは感じた。
「そういえばお前らが俺の子みたいなもんって話は本当か?」
「え、そ、それは……!」
その言葉を聞いたナギは急に慌てだした。ついでに事情を知らなかった長田君も驚いている。
「で、でも子供って言っても私もお姉様も昔からランスのこと知ってて、記憶だってあって、体も分け合ったはずだし」
「ええ、そうよ。私のお腹にいた子供と私とナギであの時に魂を分け合ったの。知られるのは面倒だし、あんたの魔王化を抑えるのに色々する必要だっていうから黙ってたけどね」
慌てふためくナギとは反対に、冷静に志津香が事情を説明する。
「別に今更どうも思わん。俺様が俺様の女だと言ったら俺様の女だ。ナギなんかは元から俺の娘みたいなところがあったから大して変わらんしな」
そうランスが答えるとナギはギザギザの歯を見せて笑った。
「……うん!へへー、お父さんって呼んでた時期もあったもんね」
「待てよ、子供のころから育て俺様好みの女にした、これはリセットで出来なかったいわゆる光源氏計画! 大成功だな!」
「あんたがいつナギを育てたってのよ」
がははと笑うランスを志津香が睨みつける。
エールと長田君は後ろで感動の再会らしきものを見つめていた。
「エールも久しぶりね。なんでこいつと一緒なのか分からないけど」
「長田君も一緒か。ふふふ、ランスの前だから今日は乗せて割ってあげないよ、ごめんねー!」
長田君は本当に残念そうに悲しそうにしたのでエールが代わりとばかりに長田君を叩き割った。
「エール、さっきの件はあなたが話したの?」
子供は抱けないって言ったのがおかしいなと思ったので、とエールは素直に頷いた。
「はぁ……エールってそういうとこあるわよね」
エールが深く考えず、悪意もなく話したというのを志津香にははっきりと分かる。
迷惑をかけたやろうとか、困らせようとか、そんな考えが出来るような子ではない。
志津香は呆れるようなしぐさをした後、
「ランス、言っておくけどエールに手は出しちゃだめよ。その子は本当にあんたの子供なんだから」
「知っとるわ。だからお前ら二人俺様と一緒に来い。冒険中すぐ抱ける女がいなくては不便だからな。世話なんかはエールにやらせればいいが、そっちはどうもできん」
「シィルちゃんはどうしたのよ」
「……あいつは留守番だ、留守番」
シィルさんはお腹に子供がいるのでうちの村で療養中です、というとランスはエールをぽかっと叩いた。
それを聞いて姉妹は驚いた表情をランスに向けた。
「へー、おめでとう! えへへ、また妹か弟が増えるんだね」
ナギは驚いたがすぐに満面の笑みを浮かべて祝福の言葉を述べた。
「そう……良かったわね、ランス。やっとシィルちゃんとの約束果たせるんじゃない」
魔王討伐の冒険でランスのことを好きだったと言っていた志津香も優しくそう言った。その笑顔は温かく綺麗なものである。
「ふん。奴隷のことなんぞどうでもいい。腹にガキがいる間は使い辛くて不便と言うぐらいだ」
「へへ、これは照れてるんすよー。なんやかんやで奥さんの事すげー心配しててさ。エールに安産のお守り買い占めさせたって聞いて」
ランスが長田君を叩き割った。
「なるほどねー、しばらく冒険に連れ出せないからその代わりをエールがやってるのか。うんうん、偉い偉い」
ナギはエールの頭を撫でた。
「エールも肝心のセックスはできんから役に立たんし代わりにもならんぞ。そこでお前らの出番と言うわけだ」
ランスが来るのは当然とばかりに話をしはじめた。
「いやよ」
志津香がはっきりと言った。
「なんだとー!」
「前にも話したけど、私はあんたの魔王化を止めるために抱かれていただけ。それがすんだのならもう抱かれる必要はないもの。こっちは魔王の情婦とか愛人とか散々言われて迷惑していたのよ?」
そういえば前の冒険にカスタムに来た時、ランスが既にカスタムの町を訪ねていたと言う話をエールは聞いていた。
「あんた、ついこの間マリアの工房で暴れてランにカスタム叩きだされたでしょう。それでよくまた来る気になれたわね」
「ランもマリアも俺様の女だぞ」
「マリアはダークランスの恋人だからもう手を出すのはやめなさい。あんたに酷いこと言われたマリアがあの時本当にどれだけ落ち込んでたか……」
おそらく前に来た時も言いあったであろうことを志津香は話し始める。
「そういえばミルがいないな。あれからずいぶん時間が経ったんだ、初めて会った時ぐらいムチムチに」
「そうやって話を反らそうとしても無駄よ」
「ぐぬぬ……ならナギはどうだ!」
「お姉様が行かないなら私も行かない。ここで生活するためにラン……都市長からもらってる仕事もあるから離れられないしね」
少し残念そうだが、ナギも同じように断った。
「もう抱いてやらんぞー!」
「バカ言ってないで、とにかくダークランスと鉢合わせる前に、ランがあんたを見つける来る前にカスタムから出ていきなさい。一緒にいるエールにはちょっと悪いけどね」
「ダークランスはエールがランスと一緒に旅なんてめちゃくちゃ心配するだろうね。ふっふー、ちょっと会わせてみたいかも」
「えー! 二人とも来ないんすかー!? せっかくの旅の潤いがー! あれ、もしかしてランスさんって意外とモテないんじゃ」
長田君はまた割られている。
「そうだ、お前たちが来ないならエールに手を出してしまうかもしれんぞ!」
そのランスの言葉にちょっとその場の空気の温度が下がった。
「さすがにそれは儂でも引くわー」
「本当に最低ですね」
「それは冗談でもきついっす……」
本気ではないのだろうが、カオス・日光・長田君も思わず引くような一言である。
「……あんた、言っていいことと悪いことの区別もつかないの?」
志津香の切れ長の目がランスを鋭く睨みつけた。
「ランスはエールの教育に悪そうだねぇ」
それが冗談だとわかっているナギは余裕の表情である。
だしにされたエールはというと、おもむろにランスの手を取って
ふにゅん…
自分の胸に手を当てさせた。
その行動に周りがさらに凍り付いたのだが、
「ぎゃー!」
大声で叫んだのは他でもないランスだった。
「お前! エール! 俺様の娘が、女の子が! はしたない真似するんじゃない!」
ボカン!とエールの頭が叩かれる。
おそらく過去一番強い叩き方でエールは頭を抱えてうずくまり、そっとヒーリングをかけた。
「エール! あんた、またそんな変なことしない! 本当に襲われたらどうするのよ!」
「誰がするか―ーーー!」
「あはは、エールはランスといても変わんないかー!」
二人がギャーギャー騒ぎ、その様子を見てナギは笑っていた。
エールは頭をさすりながら志津香に近づいて、父が来て嬉しくなかった?と小首を傾げながらそっと聞いてみた。
「……嬉しいわけないでしょ」
言葉とは違い志津香が少し照れているように見え、エールはそのままじっと見つめる。
「何よ?」
志津香さんが相手しないと父が暴れてとても困る、とエールはわがままを言う様に口を尖らせる。
「もしかして、エールに当たられたら私のせいになるって言いたいの?」
エールはうんうんと頷いた。
「ああ、お姉様ってばエールにこんなに気を使わせちゃってー」
そんなことを話すナギを志津香はぺしっと指で叩いた。
「はぁ……全くしょうがない、今日だけあんたの相手してあげるわ。明日には出ていきなさいよ」
「わーい、ランスとお姉様と一緒だー!えへへ、久しぶりだ!」
ごゆっくりどうぞ、とエールは長田君の手を引いてその場を離れる。
「エールもちょっと合わないうちに少し大人になったね。最初に会った時は本当にあぶなっかしい感じでさ」
「変なことするのは相変わらずだけどね」
「ランスはその頃のことあんまり知らないんじゃない? あとで話してあげる」
二人は"姉"として少し成長した"妹"を見て嬉しそうに話した。
「ふん、どうでもいいわ。生意気だし、色気も胸もないし、変なことはするしぜーんぜんガキではないか。俺様の娘なら……俺様に似ればもっとこう女らしくて可愛くなるはずだ。変な所がクルックーに似たな」
エールは素早く戻ってきてランスのすねに一発蹴りを入れ、走って逃げて行った。
「貴様、何をするかー!」
「追いかけるなら私は戻るわよ……似てないと思ってたけどあんたたちそっくりね」
憤慨している父であり恋人でもあるランス、呆れている大好きな姉の志津香、走っていく妹のような存在であるエール。
ナギはその光景に家族の幸せを感じながら、ランスの手を強く引っ張って家の中へと招くのだった。
………
「さて、俺らはどーするよ? 町ブラブラする? それともマリアさんとこ行く?」
エールは当然のようにマリアの工房へ向かっていた。
マリアの工房は現在、世界各地からの注文が入るようになり大きな会社のようになっている。
ダークランスはマリアがいるカスタムを実質拠点にお供に天使のヌークを連れて各地に出かけているとエールは聞いていた。
「まぁ、そうだよな。ダークランスさんと会わせるとまずいってのは俺にも分かるわー、マリアさんの工房で喧嘩になって色々吹っ飛ばしたんだっけ?」
それは以前マリアに挨拶に来た時に聞いたことだった。
もし来ていたら面倒だからダークランスと会わせないようにしたい、あと前回もお世話になったよしみで宿代を浮くかもしれない、とエールは言った。
「お前、まさかそっちが目的じゃないだろうな?」
「そっか。シィルちゃんに子供が出来たんだ。出産祝い考えておかなきゃね」
エールはマリアに会い、ランスとカスタムに来ていることを告げた。
シィルがいないということを疑問に思われたので事情を素直に答えるとマリアは優しく笑った。
「ダークランスも妹か弟が増えて喜びそう。ランスと会わせると喧嘩になりそうだから私から伝えておくね」
「この大人の雰囲気、巨乳、眼鏡!やっぱマリアさんはいいなー」
エールは長田君を蹴り飛ばした。
マリアは忙しい中、応接室にエールたちを通し、お茶とお菓子を振舞ってくれた。
その机の上には新型チューリップの模型がデデンと置かれているのが気になったが、マリアにとってはオブジェのようなものなのだろう。
「あっ、それ気になる?ちょっと小さいでしょ?これはね、威力は低いんだけど量産型でヒララ鉱石を従来の70%程度で作れてコスト面が優秀なの。
他にもポピンズのからくりを参考にした駆動とヘルマンで見つけた新種のヒララ鉱石で新しい機構を開発中で――」
マリアは目を輝かせながらチューリップ談議をはじめた。こうなってしまうととにかく長いのがマリアである。
エールはやや頭に入ってこない解説を聞きながら長田君に使ってみたら?と提案する。
「いや、俺、手届かないし……」
旅の途中でヒララ鉱石を見つけたら持ってきてね、とマリアが言った。
過去、いくつかの冒険でランスがどこかしらから拾ってきてくれたことがあるらしい。
ちなみにダークランスも積極的に拾ってきてくれているとのこと。たぶんランスに負けたくないからだろう。
「そうそう、ランスはシィルちゃん以外を冒険に連れて歩くってほとんどないんだよ。シィルちゃんの代わりって言ったら失礼だけど、エールちゃん、気に入られているのね」
シィルさんはポカポカと叩かれているし、ボクもことあるごとに叩かれてる、とエールは言った。
「エールが叩かれるのはけっこーお前自身にも問題があると思うぞー、すっげー今更だけど」
あとセックスできないからシィルさんの代わりにはならない、と言われたことも話す。
「もー、ランスは娘さんになんてこと言うかな! そういうとこ本当に変わってないんだから。ダークランスに言ったらエールちゃんのこと本当に心配しそうね」
マリアは呆れつつも、なんだか楽しそうな様子だった。
エールはマリアをじっと見つめ、そのままなんとなく抱きついてみる。
「あ、お前!どさくさにまぎれてうらやましいことを」
「妹か弟が生まれたらエールちゃんは嬉しい? エールちゃんはお兄ちゃんお姉ちゃんいっぱいだけど下の子はあんまりいないもんね。誰かさんみたいに姉バカになっちゃったりして」
エールにとってマリアも姉のようなもの、優しく頭を撫でてくれる手は優しくとても気持ちが良かった。
そのまま、何となくお腹を触ってみた。
「きゃっ、もしかして太った?えっと、年取ると体重が落ちにくくて……」
妹や弟も嬉しいが甥っ子か姪っ子もいれば楽しそう、とエールは伝えた。
「え!?えええ!?」
「お前、いきなりなんてこと言うんだー!」
ぺしぺしぺしと長田君がエールの足を叩いた。
マリアは驚いてエールを引き離すと、すぐに大人の落ち着きを取り戻した。
「もう、エールちゃんは変なこと言うんだから」
「お前、ちょっと常識っつーか、デリカシーってか! そういうの考えろよな!」
エールにとっては本当に今更な助言である。
「ふふ、今日はうちに泊まっていって大丈夫よ。お客様用の部屋用意するからね」
ありがとうございます、といって一泊させてもらうことにした。
次の日、エールたちがマリアに礼を言って志津香たちのところに向かうとちょうど家から出てくるところだった。
ランスがガーガー騒いで志津香にあしらわれているのが見える。おそらく一緒に来い、断るといったやり取りだろう。
太陽はすでに登りきっており、時間は既にお昼を回っていた。
「シィルちゃんが子供産むんならこっちから訪ねることはあるかもしれないわ。エールの住んでた村なら行ったことあるし」
「ふっふっふ。ランスって出産に立ち会ったことないんだよね。どんな顔するか今から楽しみにしておくよ」
「来るな!」
二人はエールに向きなおる。
「それじゃあ、エール、ランスのことよろしくね」
「暴走しすぎないように縄付けておいてってことよ。こいつの世話も大変でしょうけどまあ、エールならなんとかなるでしょ」
「志津香さんって結構適当っすよねー」
長田君を睨む志津香を後目に、エールは大きく頷いた。
「ふん、エールがどうしてもというから俺様の冒険に連れてってやってるんだぞ。身の回りの世話ぐらいはやって当たり前だ」
「いや、ランスさんが付いてくるって言ったんすよ!?」
別れ際、ナギと志津香が見送ってくれるがそれもまた騒がしい。
エールと長田君は手を振ろうとしたが、ランスがさっさと出て行ってしまったのを見て急いで追いかけて行った。
三人の姿が見えなくなると、志津香は体を大きく伸ばし、表情を緩め優しい笑みを口元に浮かべた。
それは無意識的なものだったのか、そんな姉の表情を見てナギも微笑むのだった。