カスタムを出発した一行。
ランスはカスタムで一夜をすごしその日は満足したようだったがそれから数日たってとある夜のキャンプの事。
「全くあいつは素直じゃない……」
ランスは毎日のようにぶつくさと愚痴を言うようになっていた。
志津香さん達来れなくて残念だったね、とエールが声をかける。
「ふん、別に俺様の女はあいつらだけじゃないわ」
そう言ってランスは不機嫌そうに夕食にかじりついている。
「しかしハーレムに入れる女探しの旅だと言うのに俺様の冒険史上、過去最低に色気のないパーティだ。これはいかんぞ」
「え、この旅の目的ってそんなんだったん?」
長田君が驚いている。
エールも初耳であったがそういえば最初に会った時にもハーレムを作るとか言ってたな、と思い出していた。
色気が欲しいならボクが脱ごうか、とエールが言った。
「何言い出すんだ。そもそもお前が脱いだところで何の足しにもならん」
「そーそー、脱げばいいっていう発想がそもそもお子様っつーか?」
エールはおもむろに服を脱ごうとしたが
「エールさん、はしたない真似してはいけません」
日光がエールを窘めると、エールは素直に服を着なおした。
思いつきやその場のノリと勢いで突飛な行動をとるエールだが、日光は厳しい母親のような存在であり、何より冒険中世話になっている大事な愛刀ということもあり怒らせたくはなかった。
「……こいつのこういうところ、最初に会ったころのクルックーに似てるな」
エールは詳しく聞きたいと思ったのだが、ランスははっと気が付いたような顔をした。
「そーだそーだ、日光さんがいるじゃないか!」
「お断りします」
エールが返答する前に何を言われるのか察知した日光がぴしゃっと言った。
「日光さんはすごい美女だからな。久しぶりにあの体で」
「やめて下さい」
「あの時は相性抜群であへあへのとろとろだったではないか」
「エールさんの前でその話をするなら本気で怒りますよ」
エールは父とも契約の儀式をしたのか、と聞いた。
「……やむを得ない事情があって断れなかったもので」
「あー、そういえばお前も日光さんと持ってるってことはやったってことか。アームズも持っていたが、日光さんはレズだったのか?」
同性愛はいかんぞ……、とつぶやく。
日光はそれに何も答えなかったが、おそらくランスを睨みつけているだろう。その様子にエールは日光をぎゅっと抱きしめる。
「日光を怒らせん方がいいぞ。堅物日光がこんな子供に手を出すはずないじゃろ。この嬢ちゃん、何でか儂も使えるしなー」
「なんだと?」
「よっぽど波長があっとったのか、まさか日光と儂の正式オーナーが出る日が来るとはのー……そーいや、無理矢理だったが心の友もか。その娘ならさもありなーん」
「そうか、お前もカオスが使えるなら交換ができるな。エール、カオスと日光さんを交換」
そんな下品な剣いらない、とランスの言葉は遮られた。
そもそも魔人退治ならともかく普通の冒険になぜそんなセクハラ魔剣を大事に使っているのか、とエールはランスに聞いてみる。
「ひっど!」
「そういえばそうだな。こんな汚い声の下ネタ駄剣持ち歩いていた俺様まで同じと思われるではないか。どっかで捨てるか」
「言いたい放題! ちょっとー儂、魔人いっぱい殺してるすごい剣ですよ?」
「殺ったのは英雄である俺様だろうが」
そう言いあっているランスとカオスをエールは何か言いたげに交互に見つめた。
「魔剣カオスはランスさんにお似合いっすよー、てかそっくりっす」
割られる長田君を見てエールは口に出さなくて良かった、と思った。
「そういえばカオス、お前エールに何かしとらんだろうな?」
カオスはエールをちらっと見て、はぁーっと長いため息をついた。
「ぜーんぜん! そんな色気のない貧相ボディじゃ儂の心のちんちんは元気にならんよ。小さいし、胸もないし、せめてあと五年? そこでぼいんぼいんになってやっと食指が動くかどうかじゃな。あの可愛かったカーマちゃんの次がこーんなのなんて儂、超がっかりよー」
「カーマって前のカオスオーナーっすよね? 有名だから名前は知ってるけど、どんな人だったんすか?」
長田君が興味津々にカオスに尋ねる。
「素直で性格も流されやすいというか人を疑わないと言うか。適当な事言って人類の為と言えばなーんでもさせてくれてな、オーナーだったときはそりゃもう毎晩色々と……何よりむちむちのプリンプリン!」
「カオスさんもやっぱ女はおっぱい派すか? やっぱ女は乳っすよね!」
「中々、話の分かるハニーじゃないか。だがおっぱいが大きいだけじゃいかんのだ、触ったら恥ずかしがるような初心さも欲しいとこじゃな。儂、淫乱は好みじゃないの。あときつい感じがない愛嬌ある若いねーちゃんだとなお良し。カーマちゃんは良かったぞーむほほ……」
「うおー、会ってみてー! 俺はそこに眼鏡があれば完璧っすねー!」
露骨にいやらしい顔になってるカオスと楽しそうに話す長田君。
エールもカーマに会ってみたいと思ったが、とりあえず長田君を叩き割ると母から受け取っていたやすりを構えた。
片刃になったら日光さんみたいにまともになるかもしれない、と言いながらカオスをガリガリと削りはじめる。
「忘れてたー!この子、あの法王の子ー!助けて、心の友ー! 削れちゃう、刀になっちゃうー!」
「がはは、ちょっと削れておくといいわ。……そういえばカオスはカーマちゃんと一緒に俺様に会いに来たんだったな。あんま覚えていないが、確かにすごいエロい身体を……あの時まで処女だったんだから俺様に気が合ったのは確実! カーマちゃんも探し出してハーレムに入れてやろう」
カオスをやすりで削り続けているエールを見ながらランスは何かを思いついたように言った。
「……そうだ!俺様は美樹ちゃん達を元に戻してやった。日光さんはその礼を俺様にすべきじゃないのか!?」
ランスはまだ日光を抱くのをあきらめていないようだった。
「ランスさんがお二人を救ってくれたこと、それは本当に感謝しています」
日光が黒髪で大人の和服美女の姿になって、恭しくランスに頭を下げる。
「相変わらず美人だ。その姿になったということはつまりやらせてくれると」
抱き寄せようとしたランスの手を日光が払いのける。
「しかしランスさんは美樹ちゃんに、健太郎君に、本当に酷いことをしました」
美樹ちゃんに健太郎君と言うのは日光の過去の使い手で特別に思い出深い人達だというのはエールも聞いていた。
「魔王継承の時に記憶が元に戻ったようで、お二人は気にしてませんでしたが、私は……」
静かだが大きな怒りを感じさせる声色。
日光がランスを冷たく睨みつけ、その気配に周りの温度が下がったような気がして、なぜか長田君が怯えている。
「うぐ……」
その迫力にランスも思わず言葉に詰まっている。
「私がランスさんに抱かれることはもうありませんよ」
大方、その美樹ちゃんとやらにいつもの通りエロい事でもしたのだろうと思ったのだが、どうやらそれだけではなさそうな雰囲気。
日光の話し辛そうな様子もあってこれは深く聞いてはいけないこと、エールは理解した。
「そうだ、エール。お前がオーナーなら日光さんが俺様に抱かれるように命令しろ」
エールはカオスをやすりで削る手を止め、首を横に振った。
「お父様の命令が聞けないのか!」
ランスはちょっとすごんでみるがエールは首をさらに激しく横に振った。
そしておもむろにカオスを振り回して床にたたきつけた。
「いたっ! やめてっ! なんで儂に当たるの!?」
日光さんは物じゃない、と言ってポイっとカオスをランスの足元に投げつけ軽蔑するような瞳を向ける。
その瞳になんとなくランスは目を逸らすしかなかった。
「エールさん、ありがとうございます」
その様子を見て日光はエールに優しく微笑み、いつもの刀の姿へと戻った。
エールは日光さんとさらに仲良くなれた気がした。……………
ランスはさらに考え始める。
「うーん、女、女が抱きたい……英雄である俺様が何日も女が抱けんなど」
そして思いついたような顔をした。
「ふふん、そういえばエールにもレベル神がついてるんだったな。どんなのだ? 可愛いか? ちょっと呼び出してみろ」
赤いピエロっぽい服を着た男のレベル神様だよ、とエールが答えた。
「なんだ男か。つまらん、大した奴でもなさそうだな」
男というだけですぐに興味がなくなったようだ。
真面目なレベル神様だと思っているが、エールは自分のレベル神と話をしたこともされたこともない。
「お前のレベル神は無愛想なのか?レ ベル神はレベルが上がると服を脱ぎ……いや、男のストリップとか想像しただけで気分が悪くなった」
ストリップってなんのことだろう、とエールは訝しんだがランスは嫌そうな顔をして話を切った。
「まぁ、男なんぞどうでもいい。お前たちに俺様の新しいレベル神を見せてやろう。カモーン、クエルプラン!」
そうランスが叫ぶと神々しい光をキラキラを放つ薄紅色の髪をした美少女が現れた。
「私は第一級神魂管理、ではなく偉大なるレベル神クエルプラン……ランス、レベルアップですか?」
「がははは!お前らに頼らんでも俺様にはいつでもこーんな可愛い子がついているのだ!」
よっぽど自慢したかったのだろうか、豪快に笑っている。
確かに近くで見ると目もくらむばかりの美少女で、可愛いと言われたのが嬉しいのか少し照れているように見えた。
「クエルプランってあの元大怪獣のお姉さんだっけ?レベル神って、確か元はすっごいえらい神様だってミラクルさんが話してなかった?」
エールはミラクルから聞いた話をほぼ忘れていたが、長田君はよく覚えているようだ。
魔王城で襲われて倒した後、小さくなったこの人を抱えて二人で奥の部屋にしけこんでたな、というのだけはエールも覚えていた。
父のレベル神だとは思っていなかったが。
「ぐふふ、この超可愛いレベル神は俺様にめろめろ!というわけで、クエルプランちゃん今夜俺様の相手をするのだー!」
「こ、困ります。私は今はレベル神であって、そういうことは……」
そういいながら体をもじもじとさせる。
その様子はまんざらでもなさそうだ。
「本当に神様とでも見境なしなんすねー」
「魔王、魔人、カラー、天使、悪魔に魔物に神。心の友はやってない種族の方が珍しいからのー」
「ランスさんはやるとなったら手段も問いませんからね」
そういえばランスは松下姫がポピンズ以外には手を出していると言っていたのを思い出していた。
あとハニーともやった記憶はないらしい、ホルスや妖怪はどうなんだろうか。
エールは今度聞いてみようと思った。
ボクもレベル神呼ぼうか?と何となくエールが言ったが
「男なんぞ呼ばんでいい」
あっさりと却下されてしまった。
ランスに呼び出され、嬉しそうにしていたクエルプランはふとランスの傍らにいたエールと目が合った。
エールはこんばんは、と言って挨拶をし何となく拝む様なポーズをとってみた。長田君もそれに気が付いて同じように手を合わせている。
「ランス、この人間は?」
「こいつは俺様の娘。あとそいつにくっついてる陶器。なんだ知り合いか?」
大怪獣だった時に襲われたことがある、とエールは言った。
「あのでかいのとこの可愛い子は別物。お前も小さいこと気にするんじゃない」
ランスの言う通りエールはもう特に気にしていないのだが、クエルプランはやたら神妙な表情でエールをじっと見つめている。
「前にエールってJAPANでクエルプランさん追い払ったことあったよな。そのこと怒ってんじゃねーの?」
ひそひそと長田君がエールに耳打ちした。
しかしエールとしてはあのままでは死ぬところだったのもあって怒られる筋合いはないと、対抗してクエルプランをじーっと見つめ返してみた。
するとクエルプランはすっと目を逸らし、少し身体を震わせる。
「どうした?」
「体を冷たいものが通り抜けていくような感覚がしました。これは一体……」
「夜だからちょっと肌寒いかもしれんな。今から俺様が暖めてやろう」
少し不安げな様子のクエルプランをランスが抱きしめる。
「気温的な寒さとは違うものだと思います……が、あの、ランス、抱きつかれると、今度は胸の辺りが苦しく」
「その苦しさは俺様への愛情!ぐふふ、既に体が熱くなってきてるみたいだな?」
ついでとばかりに尻やら胸やらに手をまわしてデレデレと鼻の下を伸ばしながらランスがそう言った。
「娘さんの前でも堂々としてるなぁ……」
長田君がどこかうらやましそうにその様子を見つめている。
クエルプランは身体を這いまわるランスの手に大きく意識を取られながらも、再度ちらりとエールに目をやった。
エールはその様子を特に気にせず夕食の片づけをしはじめている。
それを見たクエルプランもすでに意識はランスの方へと向いていた。
夢見ごこちとばかりに瞳を蕩けさせると、ランスにひょいっと持ち上げられる。
「ああ、ランス……」
「がはは、グーッド!」
そう言って二人でさっさとテントの中に入っていってしまった。
全身を撫でまわされても全く抵抗しない神を見て父はモテるんだなあ、と思いながらエールはひらひらと手を振った。
「エールのレベル神もあんな美人だったらよかったのになー」
片づけをしながら長田君がそんなことを話す。
修行でもお世話になったボクのレベル神に失礼なこと言わないで欲しい、エールは長田君の頬をむにーっと引っ張った。
何となくエールもレベル神を呼び出そうとしてみるが今はレベルアップ出来ないせいか呼び出せなかった。
エールは自分のレベル神の名前も知らないし、話をしたこともない。
レベル神と親しくしているランスが、少しうらやましいと思った。