※ 突然のメリモの杖 エールちゃんはシスコン 容姿・茶エールちゃん想定
エール一行は国際共同都市シャングリラまで来ていた。
リセットがランスの姿を見て嬉しそうにするがランスの方はそっけなく、パステルとやろうとして喧嘩しはじめたり。
昔の女に会いに行って無理矢理やろうとして騒ぎを起こしたり。
待ちゆく美女に声をかけては、あわや国際問題になりかけたり。
ともあれそんなシャングリラの日々を過ごしていたある日の話。
エールの元に彼女の大好きな姉であるリセットが会いに来てくれていた。
現在、ここシャングリラでは盛大な国家間交流として盛大な祭りが催されている。
「このお祭りはシャングリラの自慢なの。色んな種族の人たちがみーんな仲良くしてるでしょ?」
リセットが窓から祭りの様子を見下ろしつつ得意気に語った。
長田君がハニー向けのお店まであると喜んでいたし、本当に種族が問わず楽しめるすごい祭りなのだろう。
エールも称賛しつつ、せっかくだからリセットとお祭りに行きたい、と言った。
「ごめんね。私も行きたいけど、顔が知られてるから下手に町に出ちゃうと人だかり出来ちゃってお祭り楽しんでる人たちのお邪魔になっちゃうから。それに何かトラブルもあったとき私が必要になるかもしれないしね。視察って名目ならいいかもしれないけどそれだとお仕事になっちゃうし……」
ただでさえシャングリラで人望と人気のあったリセットは魔王の脅威を取り除いたという偉業も重なりますますファンが増えているようだった。
まさにシャングリラの顔にしてアイドルである。
「エールちゃん達はいっぱい楽しんできてね」
エールにはそう言って笑うリセットが少し寂しそうに見えた。
変装していけばいいのではないか?と提案してみる。
「変装っていってもお姉ちゃん、小さいからすぐにバレちゃうよ……探偵の時もすぐにばれちゃってたみたいだし」
あれはそもそも隠す気があったのだろうか?とエールは首を傾げる。
こんなこともあろうかと。
エールはナギからこっそりと預かっていたとあるアイテムを思い出し、リセットを自分の部屋に引っ張っていった。
「な、なんだか、恥ずかしいね」
リセットはメリモの杖で変身していた。
身長はエールより少し大きくなり、豊満な胸元にくびれた腰でスタイル抜群、カラーの中でも絶世の美女と呼べるリセットの姿にエールは目を丸くし感嘆するばかりだった。
服もちゃんと大人用を用意したのだがそれの露出度が少し高いため、美しさの中にもエロスを感じさせる佇まい。
これが闘神都市でシュリさんに見せた姿だというが、エールは女ながらも思わずその美しさに見とれてしまい、そりゃシュリさんもベタ褒めするわけだと納得してぐっと親指を立てる。
「うぅ、褒めすぎだよー……」
そう言って照れて微笑む姉の美しさは後光がさすレベルで、父のレベル神であるクエルプランや魔人の姫ホーネットをも凌ぐだろうとエールは思った。
これがリセットの未来の姿だと思うと今からでも男が群がってくるのが見えるようで、別な意味で外に出て大丈夫だろうかと心配になってしまう。
父や兄がそのままでいてほしいと願う気持ちがよく分かる。
「ふふふ。せっかくだからエールちゃんも変身してみよっか?」
そう言って、リセットはメリモの杖をエールに渡した。
エールは首を振ったが、リセットは自分だけがこうなるのは不公平だと譲らないため、エールもその杖を使ってみることにした。
「わー、エールちゃんとっても綺麗だよー!」
鏡を見たエールは自分でも驚いた。
顔立ちが母に似た落ち着いた美人になっていて、スタイルもコンプレックスだった貧しい胸も豊かに膨らみ、ブラウスを窮屈そうに押し上げていた。
「服借りてくるからちょっと待っててね」
そのままリセットを待っていると部屋の扉がノックされる。
「おーい、エール。シャングリラの祭りで貝が売って、ってうぉ!?」
部屋に入ってきた長田君がびっくりしている。
「ど、どちら様? あれ、俺部屋間違いました!?」
そう言って部屋を出入りする長田君をエールはじーっと見つめる。
「お、おお、すごい美人さんだけど。お部屋間違えてますよ?」
おずおずと話す長田君にエールは気が付いてもらえないことで少し口をとがらせると、その頭をぺしぺしと叩いてみた。
「なんだよーってん…?あれ、もしかしてエール!?どうしたんだよ、大きくなってるー!」
メリモの杖というもので変身していると言って、エールは全身を見せるようにくるくると回ってみた。
「おーおーーー!すっげーいいけど、その胸とかちょっと盛りすぎじゃね?」
エールは豊満になった胸を長田君の上に乗っけてみる。
「あんっ!」
長田君が粉々になった。
ことあるごとに貧乳だと言ってくる長田君に胸を押し付けて割るのはエールの目標の一つ。杖で叶えたことなのが残念とはいえ、エールとしてはその反応に大満足であった。
「こらこら、エールちゃん。ナギちゃんみたいな事しないの」
リセットが部屋に入ってきていた。
「おおお、こっちもすごい。けど、こっちがエールってことは、もしかしてリセットさん?」
リセットが笑顔でそうだよーと返すと長田君は嬉しそうにはしゃいでいる。
「思い描いたような巨乳スレンダー美人! うわー、リセットさんってこんなすごい美人になるんだなー! いやエールもだけど超ビックリだわー!」
わーわーとはしゃぐ長田君にリセットの中身に見た目が追い付いたらたぶんこんな感じだろう、とエールは言った。
「えへへ、ありがとう。なんか照れるなぁ」
一旦、長田君に外に出て貰ってリセットが持ってきた服に着替える。
露出度は控えめの白いワンピース、おそらくカラーの服だろう。
着替えたエールを長田君が見ると
「おー、すげー! エールじゃないみたいだ。まあ、中身代わってないから実際はアレだけどこのまま黙って大人しくしてたらいいとこのお嬢さんぽくなるんじゃね?」
そんなことを言う長田君に二人でお祭り行ってくる、エールが少し拗ねながら言った。
「えー! 俺はー?」
今日は姉妹仲良く、リセットとデート。ハニ飯でも見つけたらお土産に買ってくるから、と言って長田君は日光さんと一緒に家で留守番して貰うことにした。
「私が行くとバレてしまいそうですしね。ふふ、お二人ともお気をつけて楽しんできてください」
「うー、残念だけど。気を付けて行けよー」
明日一緒に行こうと長田君に言いながら、エールはリセットの手を引っ張っていった。
シャングリラの中央広場。
祭り中ということもあって人の出入りが一段と多く賑やかを通り越して騒がしいほどである。
エールとリセットは手を繋ぎながら仲良く祭りを楽しんでいた。
「なんかいつもより視線が高くて新鮮。エールちゃんの顔が横にあるよー」
リセットはとても嬉しそうだった。
種族や国を問わず行き交う人々はリセットとエールを見て思わず振り返る。
「なんか注目されちゃってるけど、ばれてないよねぇ……」
そう不安がっているが、リセットがすごい美人だから振り返ってるだけだろう、とエールが言うと
「もう、エールちゃんはまたそんなこと言うんだから。本当にエールちゃんが男の子だったらモテモテだったかもねぇ」
いつものように優しく笑う姉は美しかった。
エールとしては自慢の姉の美人ぶりを周りにおすそ分けという優越感と、その姉と手を繋いでいるということが誇らしくとにかく得意げな表情を浮かべていた。
たまに姉に声をかけようとする男を視線で殺せそうなレベルでギロリと睨んで退散させるのも忘れていない。
「あ、見て見て。これJAPANからの輸入品だって。乱義ちゃんたち元気にしてるかな?」
「こっちはゼスの魔法の道具だね。そういえばスシヌちゃん、マジックさんの後を継いで女王様になるお勉強し始めたんだってー」
各地域の特産品などを見ながら兄弟や姉妹のことを思いだしているのが、面倒見の良い姉らしいなとエールは思いながらいつの間にか自分がリセットに手を引っ張られる側になっていた。
その中でもエールがふと足を止めたのはハニーグッズのあるお店。
「エールちゃんは本当にハニーさんが好きだねぇ。あ、好きなのは長田君か」
そういってからかう様に言った姉をエールはぺしぺしと叩く。
「いつものお返しだよー」
エールはリセットとのデートを心行くまで楽しんでいた。
………
ひとしきり祭りを回った後、噴水のある広場のベンチに二人で腰を掛けクレープを食べていた。
「えへへ、楽しいね。こうやって羽を伸ばすのもシャングリラの町を普通に回るのも久しぶりだよ。ありがとう、エールちゃん!」
満足しおうな表情で綺麗に笑うリセットに、エールも満面の笑みを返した。
エールが飲み物を買ってくる、といってリセットのそばから離れると遠巻きに見ていたガラの悪い男が素早く寄ってきてリセットに声をかけた。
「お嬢さん、俺たちとデートしない?」
妙に鼻の下を伸ばした男たち。
その視線は胸元に向いているのが分かり、露骨にいやらしい視線を向けている。
「妹と一緒なので……」
「いやいや、その妹ちゃんも一緒でいいよ?」
リセットは困ったように断るが、男たちは強引にリセットに手を伸ばそうとして…
<ドカッ>
思い切り蹴られて吹き飛んでいった。
「雑魚が俺様が目につけた女に話しかけてんじゃねー!」
男達は突然割り込んできた緑色の男に驚いて殴りかかろうとするが、反対に叩きのめされ情けない声を上げて逃げて行った。
リセットはその光景を目を丸くして見ている。
「がはは、大丈夫か、お嬢さん。危ないところだったなー」
そう言って振りかえった男は、リセットの姿を上から下まで嘗め回す様にじろじろと眺めはじめた。
「うーむ、近くで見ると更に可愛い。顔もだがスタイルも……これは俺様が会ってきた中でもトップクラス。性格も優しそう素直そうで実にグッドだ。しかもこれだけの可愛さでクリスタルが赤い! 100点満点だな」
思ったことをすべて口に出している。
「あはは。助けてくれてありがとう、おと―――」
そう言いかけたリセットの台詞をすべて聞く前に、その男の背中にやたらキレの良い蹴りが突き刺さった。
「何をするかー!」
前のめりに転がった男が剣を構えて立ち上がると、そこには手に二つ飲み物を持ったエールが立っていた。
片方をリセットに渡すと、リセットを守る様に間に立ちふさがる。
「むむむ、こっちも中々可愛いではないか……俺様はナンパしてたわけじゃないぞ。むしろ君の友達が悪い男にナンパされそうになっていたので助けていたのだ」
いつものエールがこんなことをしたらげんこつの一つでも飛んでくるところだが、この姿のせいかその男……二人の父親であるランスはエールの方も嘗め回すように見てニヤニヤ見ているだけだった。
「俺様はランス。英雄ランス様だ。君もカラーなら聞いたことがあるだろう」
どうやら目の前にいる父・ランスは目の前にいるのが娘二人だという事に気が付いていないようだった。
「ありがとうございました、ランス、さん」
リセットが改めてお礼を言い、エールも蹴りを入れたことを謝った。
「俺様は寛大だから許してやろう。ところで君達の名前は?」
気が付いていないのか、エールはちょっと呆れて名前を名乗ろうとしたが。
するとリセットがエールの袖をそっと引っ張って目くばせのウインクをした。エールはその仕草にちょっとドキドキした。
「私の名前はえっとリ、リ、リリーです」
何故か本名を名乗らなかったリセットに合わせエールもルーエです、とものすごく適当な偽名を名乗ってみた。
「リリーちゃんにルーエちゃんか、名前まで可愛いじゃないか。しかし、君達みたいな可愛い子が無防備に歩いていちゃ、ああいういやらしい男たちが鼻の下伸ばして寄ってきて危ないだろう。そこでこの俺様が入れば安心!君達を守ってやるぞー」
その鼻の下を伸ばしているいやらしくて危険な男の代表格が今目の前にいる、とエールは思った。
お姉ちゃん、どうする?とエールが聞いてみる。
「え?」
偽名で呼ぶとリセットと呼んでしまいそうなので、あまり呼ばないお姉ちゃんと呼んでみたのだがリセットは久々のその呼び方が嬉しかったのか、頬を緩ませてエールの頭を撫でた。
エールとしてはお姉ちゃんと呼ぶのはお願い事がある時、甘えたい時、リセットの笑顔が見たい時等の特別でとっておきの呼び方なのであまり使いたくはないのだが。
「えへへー、お姉ちゃんって言われるの嬉しいなぁ」
いつもより視線が高い美しい姉に頭を撫でられてエールも自然と口元が緩む。
「二人は随分仲が良さそうだが……お姉ちゃんだと?」
エールは自分たちのことを気が付かれたかと思ったが…
「むむむ、まさかあれか。女同士で姉妹の絆がプティスール……いやいや、同性愛はいかんぞ。君達みたいな可愛い子が勿体ない」
ランスは見当違いな勘違いをしていただけだった。
「いえ、私達は本当の姉妹で……」
「だがリリーちゃんはカラー、ルーエちゃんは人間だろう?」
父親が一緒、とエールが言うとそれを聞いたランスは憤慨した。
「なにぃ!? カラーと人間両方を嫁にした男がいるのか!?」
「えっと、結婚はしてないかな。父はその、とても自由な人なので」
世界でも類を見ない女好きという言葉を、自由な人とだけで表現するのが無理があるのではないかとエールは思った。
「娘が美人ということは母親もさぞ……ぐぬぬ、全く責任も取れんとは君たちの父親は最悪だな!」
不機嫌そうにいうランスに本当にその通りです、とエールが笑いをこらえながら答える。
「そ、そんなことないよー……お父さんにも良い所いっぱいあるんだから」
肩を震わせているエールになんとかフォローを入れる。
「ぐぬぬ……まあ。俺様以外の男は基本的にそんなクズばかりだ。しかし君たちは幸運だ、俺様が本当に良い男と言うのを教えてやるからこれからデートをしよう! もちろん二人まとめてだぞ」
さっきナンパではないと言ったのも忘れてランスはリセット達を誘った。
その目は誰が見てもどうみてもいやらしいことを考えているのがまるわかりでエールはどうするのかと、リセットの方を改めて見る。
「いいですよ。一緒にお祭り回りましょう。エ…ルーエちゃんもいいよね?」
そう笑って答えたので、エールもそれに合わせて頷いた。
もしかしたらリセットは父親と一緒にお祭りを回ってみたかったのかもしれない。
エールも父ではない姿のランスには少し興味があった。
ランスはまさかここまですんなりとナンパが成功するとは思ってなかったのかかなり驚いた表情をしたが、直後にがはははーと笑って喜んんでいる。
「えー!? 心の友のナンパが成功するとかそんなバカな! お嬢さん達趣味わっるー」
ランスの脇から汚いおっさんみたいな声がした。
「ええい、黙れ。エロ駄剣め。俺様のかっこよさにかかればこれぐらい当然だ!」
「今日だけで三回逃げられてるくせにのー。そうそう儂様、魔剣カオス。超すごい剣だけど知ってる? お嬢さんたちムチムチプリンで良い体しとるのー、二人いるんだからせっかくだから片方でも味見させて……」
「俺様が手を出してないもんに手を出すんじゃない。そうでなくてもこの世の美女はすべて俺様のもの、お前の分などないがな」
ランスはカオスを持ち歩いていたようだ。
エールは何となくカオスを持ち上げて胸にぎゅっと抱きしめてみる。
「おやー、お嬢さんひょっとして儂様好み? うっひょー、良い乳しとるのーう」
エールはカオスと出会った時に後、数年後出直せと言われランスとの冒険中にも貧相な体とか言われていたのを忘れていなかった。
でれでれといやらしい顔になるカオスに、エールは勝ち誇った気分になってから口元にニヤリと笑みを浮かべる。
「あれ儂の事なんで持ててるのん?」
カオスは疑問に思い、その表情を少し不思議に思ったものの柔らかい感触にごまかされた。
「ルーエちゃん、そんな駄剣ポイしなさい、ポイ」
エールは二人はよく似ている、と言いながらポイはせずランスの脇にちゃんと剣を返した。
カオスもランスも、お互い似ていると言われてちょっと不満げである。
「じゃあ、三人でデートするんだよね?」
その様子を苦笑しながら見ていたリセットが改めてそう言った。
「ああ、欲しいものがあったら何でも言っていいぞ。俺様が買ってやろう」
そういうのにお金使わないでほしい、とエールがつぶやく。
「君は倹約家というやつか。良い子だが、俺様は金持ちだから気にすることはないぞ」
がはは、と笑っているがエールは内心気が気ではない。
そのお金は今後もエールたちが冒険に使う資金であり、真面目に仕事を受けていないのもあってそんなに多くの持ち合わせはないのだ。
お金が無くならないように節約するのはエールと長田君の役目であり、ランスは冒険途中で料理などの材料が減ると容赦なく文句を言ってくる。
「お買い物しなくても、お祭りの催し物とか見て回るだけで楽しいよ。私はシャングリラのお祭りのことはとてもよく知ってるから案内するね」
金銭面での苦労をなんとなくそれを察したのか、上手くフォローする。
エールは心の中で姉に感謝した。
「それじゃ行こう、行こーう」
そう言ってリセットは嬉しそうにランスの右腕に抱きつくと、むにゅりと柔らかい感触がランスの腕に当たる。
「おほー……ん、うん?」
ランスが一瞬喜んだが、すぐに不思議そうな顔をしている。
「どうかしたの?」
「いや、リリーちゃん、実は男なんてことはないよな?」
お姉ちゃんになんてこと言うんだ、とエールが抗議する。
「すごく良い感触なんだか、なんかこう……俺様のハイパー兵器が反応しない?」
続いてエールもランスの左腕に抱きついてみる。
「むむむ。ルーエちゃんにも反応しないだと……」
ランスは美人姉妹に腕を掴まれている。
普段ならこのまま夜にする予定の姉妹丼の妄想にでも浸るところだが、ランス自慢のハイパー兵器が全く反応しない。
「いやいや、さすがにカラーが男であるはずはない。俺様は大人の男だからたまには下半身抜きに口説き落としたいとかたぶんそういうのだ。気にせず行くぞー」
不思議に思ったが、デートしていればそのうち反応するだろう。
むしろ反応しないことで警戒を解かせてから、と考えることにし二人を連れて歩き出した。
ランスは美女二人を両脇に連れてそのまま祭りを歩きまわる。
それに通りすがる人々は度々振り返り、遠巻きからも視線を送られ自然と注目を集めていた。
「ぐふふ、これは気分がいいな。男どもがみーんな羨ましそうな目で見てるわ、さすが俺様!」
ランスは大笑いして上機嫌である。
「あれ、ランスさんだよな……」
「あの二人可哀相、すごい美人なのに一体どんな弱みを握られて……」
それは別に羨望の目というだけではなかった。
しばらく歩いていると、リセットが一つの店を指さした。
「ルーエちゃん、あっちに貝とか売ってるお店があるよー」
「ほほう、ルーエちゃんも貝が好きなのか。いい趣味だな」
エールとランスはその貝を並べている店に足早に寄っていく。
「いらっしゃい」
しかし、エールがその並べられた貝達を見るとその顔はあまり嬉しそうな表情にはならなかった。
「どうしたの?貝好きだよね?」
リセットがどうしたのかとエールの顔をのぞき込むと、エールがその中からそっと赤い丸の入った貝を持ち上げる。
「それは日本貝といってJAPANで発見されたレアものですぜ!」
店番の男が揉み手をしながらそう言った。
エールは眉を寄せてその貝を眺めていると、さっとランスが横からその貝をひったくった。
「これは偽物、普通の貝に赤い丸が書いてあるだけだ。よく見ると他のもしょぼい偽物ばっかりだな」
リセットは驚いたがやっぱり貝の気品が足りないと思った、とエールは納得した。
「な、なにを証拠に?」
「俺様は全部本物を持ってるからな。こんなしょぼい偽物に騙されたりせんわ」
さらりと答えるランスに、エールははじめて父を純粋に憧れの目を向けた。
「え、ええ? 偽物の販売は犯罪ですよ」
リセットがシャングリラの代表の一人として咎めようとしたが
「うるせぇ!」
といっていきなり男が殴り掛かってきた、がそれをランスがざしゅっーと切り裂く。
ギリギリで死んでいなかったらしく、警備兵が呼ばれ、店番の男は偽物販売の罪でしょっぴかれて行った。
「ふん、気分を害した。貝の偽物など冒涜もいいところだ」
リセットは何やらメモを取っている。
おそらくあとで仕事に使うものだろう、こんなところまで真面目である。
そんなことがありながらも三人は祭りを見て回った。
色んな地域の食べ物を食べ比べて、ヘルマンの飯は不味いなと文句をつけてみたり。
ちょっとした路上パフォーマンスを覗いていればランスが足を引っかけて転ばせ大惨事になったり。
射的屋で銃が全く当たらず暴れて警備兵につかまるところだったり。
リセットと肩がぶつかって因縁をつけてきた相手をエールが殺る前に斬ってみたり。
主にランスが遠慮なくやりたい放題して祭りを回り終わって、三人は酒場に行くことになった。
席に着くとエールがピンクウニューンを三人分注文する。
「おっ、ルーエちゃんは気が利くな」
エールがいつもやっていることではあるが、そう褒められると悪い気はしない。
そのまま飲み物を飲みつつ、一緒に晩御飯も食べてしまうことにして料理も注文する。
食事をしながらランスは自分の英雄譚を二人に聞かせていた。それには随分と誇張が入っていて、知っているリセットとエールはやや苦笑しながらも楽しく聞いていた。
「はん、甘いもんばっかり飲んでやがるなー、ガキの集まりか。そこの女共、そんなとこいないでこっちきて酌でも」
酔客に馬鹿にされると、ランスはその酔客を問答無用でぶちのめしてから
「酒だ、酒持ってこい!」
悔しかったのかランスは大量に酒を注文しだした。
「あああ、お酒弱いのに……」
リセットは怒涛の勢いで酒を飲みはじめたランスに慌てている。
エールはというと高いお酒の注文をキャンセルし、出来るだけ安いお酒にしてもらっていた。
「うーん、しかしなんちゅー美人姉妹じゃ。これはこの後、仲良く姉妹丼……いや、処女にはきついか? まず優しく処女を散らしてから姉妹丼のコースと行くかー今夜は最低四発だな」
酔いが回り始めるとランスはもはや建前など気にせずそんなことを言い始める。
「もう、口に出てるんだから……えっちなことはしないよ」
「いや、夜のデートはこれからだからな。安心しろ、俺様は紳士だから無理矢理やったりはせん。ぐふふ……」
そう言っていやらしい顔になりながら、リセットの腰に手を回す。
手に柔らかい感触伝わるのだがランスはやはり怪訝な顔をした。
「……いや、やっぱりおかしい。なんで俺様のハイパー兵器が反応せんのじゃー!」
ランスが急に叫び出したかと思うとひょいっとリセットを担ぎ上げる。
「え、ええ!? ちょっと降ろしてー!」
リセットが手足をばたつかせて抵抗するがその力は強く、そのまま酒場の二階にある宿泊部屋に連れて行かれてしまう。
エールも食べかけていたデザートのうはぁんを急いで完食してからバタバタとその後を追いかけていった。
酒屋と併設された宿の一室。
リセットをベッドに放り投げるとランスはすぱぱーんと裸になった。
「とりあえずリリーちゃんはクリスタルが赤い、つまり処女! 俺様が手取り足取り優しーくはじめてのセックスを教えてやろう!」
「きゃー!」
リセットはもろにそれを見てしまい、反射的に顔を手で覆った。
「ぐふふふ。実に可愛い反応だ。なんでか今日はハイパー兵器の調子が悪いが、そのエロい体。服を脱がせばすぐにでも臨戦態勢――」
<ごすっ!!>
素っ裸で仁王立ちしているランスの背後から、足の間をすり抜けて臨戦態勢の整っていないハイパー兵器にするどい蹴りが突き刺さった。
「ぐはああああ………」
それは見事な金的で、あまりの痛みにランスが悶絶してうずくまる。
その背後にはエールがランスをゴミを見るような目で見下ろしていた。
お姉ちゃんスリープ、とエールが言った。
「うん?あ!そ、そうだね!スリープ!スリープ!」
ぐごー!
ランスは寝た。
素っ裸のまま大の字で床に転がったランスをエールが足でつついてみるが、起きる気配はない。
「あ、ああ。びっくりした。ありがと、エールちゃん……」
リセットはベッドから降りると、ほっと胸をなでおろした。
エールはランスの服から財布を取り出してリセットに渡す。
「えええ、ダメだよ! そんなことしたらすごい怒られるよ?」
盗るわけではなく酒代と宿代払ってきてほしい、とエールが言った。
「あ、ごめん! 払ってくるね」
リセットが部屋から出ていくとエールは床に転がっているランスをむんずと掴んでベッドに放り投げる。重いが運べないほどではない。
その下半身についてるものを臨戦態勢になってなくても大きいなーなどと思いながら、そのまま手足を整えその上に毛布をふわりと掛けた。
ランスは変わらずいびきをかいて寝ており、やっぱり起きる気配はなかった。
今度は服をかき集めて畳んでおこうとしたのだが…
そうするとぞわりとエールは尻が撫でられる感触がした。
驚いていると今度は服の中に手が入れられる。
「心の友が反応せんとかいうからもしかしたら実はついてたり? と、ちょーっと警戒したが」
カオスからオーラの手が伸びて、エールの下着の上から下半身をまさぐる。
「ついとらんなー」
いやらしい顔をしたカオスがオーラの手をしゅるりと何本にも伸ばしては、エールの服のなかに次から次に潜入させて無遠慮にその全身をまさぐりはじめた。
「うひょひょひょ。中々良い反応じゃのー。なーんで心の友は反応せんかったんじゃろー? これはもーっとよく調べんといかんなー」
エールは抗議しようとしたがそのオーラの手は口の中にまで侵入し、言葉を出せなくなっていた。
「……おや? お嬢ちゃん随分具合の良いものを――」
「ちょっと待って、カオスさん! やめてあげて!」
戻ってきたリセットがまさぐられているエールを見て驚き声を上げる。
「まあまあ、そう嫌がることもないぞ。儂なら処女だろうとそうでなかろうとどんな女の子でも気持ちよーく出来るからの、お嬢ちゃんもクリスタルも赤いままでオーケー」
そう言ってリセットの胸にも手を伸ばした。
「ひゃああ……!」
それを見てエールは口に入れられていたオーラの手を思いっきり噛みちぎる様に振りほどく。
「いやー! 儂の心のハイパー兵器が噛み千切られたー! なんかすっごい痛い気がするー!」
それ以上やるとカフェさんや、日光さんに言いつけるとエールが解放された口で怒気を含ませながら言った。
「え?」
その言葉にカオスは一気にオーラの手を消す。
「えー! なんでその名前知ってんの!?」
「もう、お父さんもカオスさんも全然気が付かないんだから。エールちゃん、大丈夫?」
エールはすぐにでもカオスを踏んづけてやろうとしたが全身をまさぐられたせいもあって力が入らなかった。
「お父さんにエールちゃん? お前さん、もしかしてリセットの嬢ちゃんか?」
「そうだよ、もー……」
「んでこっちの姉ちゃんは、なるほどね。ちーっとも気が付かんかったわ!しかし、なんで大人になってんの?」
かくかくしかじか。
メリモの杖で大人になっていた、とリセットは説明した。
「なるほど。しかし心の友は姿が変わっても娘には反応せんのじゃな。ちょーっと危なかったとは思うが」
表面では全くわかっていなかったようだが心のどこかで自分の娘達だというのがわかっていたのかもしれない。
それはリセットもエールも少し嬉しいことであった。
「しかし、嬢ちゃん、なかなかいい反応じゃったな。具合もかなりのもんで――もしかして儂が使えたのって将来エロエロな身体になるって思ってたからだったのかも?」
エールはいやらしい顔をしたカオスをグリグリを踏みつける。
「儂、SM趣味はないからやめてー! しかし、どーすんの? 心の友、このまま起きたらめちゃくちゃ怒ると思うぞい」
「私達はこのまま帰るよ。カオスさんはこのままお父さんのことよろしくね」
「でも儂様たぶん話しちゃいますよ?」
魔剣カオスが呆れたように言った。
エールはスーハーと大きく呼吸をすると。
もしお父さんに話したらボクがカオスにえっちな事されて、リセットにも触ったってって言いふらす。日光さんにも言うし、カフェさんにも言うし、お父さんにも言う。お母さんにも言ってAL教に封印してもらう。
一気にそう言い切って、かなり本気でカオスを睨みつけた。
「冗談だって!分かったから、それはやめてくれい。ロリコン魔剣とか言われちゃう」
「私はロリじゃありません!」
リセットが大人の姿のまま怒った。
そうしてランスを寝かせたまま、リセットとエールの二人は家に帰っていった。
………
……
「は? お前に懐くようなカラーがいるわけないじゃろう。しかもそれが人間と姉妹で両方美女であっただと? なんとバカバカしい、妄想もそこまでいけば哀れなものじゃ。寝言は寝て言うのじゃな」
次の日、ランスはパステルにそういうカラーの心当たりを聞いて、当然のように喧嘩を始めていた。
それをサクラやイージスが止めて、ランスは館を叩きだされてしまった。
そして噴水のある広場のベンチに機嫌の悪そうな顔で腰を掛け、祭りを楽しむ人々をつまらなそうに凝視しながら昨日の美女がいないかどうか目を凝らしていた。
そうしているとリセットが押し寄せる人ごみをかき分けてランスの元に歩いてきた。脇にはエールと長田君も一緒である。
「なんだ。リセットにエール、あと陶器までいるのか。何している?」
「今日は視察してるんだ、昨日ちょっと偽物の商品を出していたお店があって一度見ておこうかってなってね。エールちゃんたちにも手伝ってもらってるんだよー」
「つまらんことをしているもんだ」
ランスが興味なさそうに言った。
「お父さんこそ何してるの?」
「うむ。昨日すごい美女二人組に会ってな。俺様の巧みな話術と口説き文句でナンパに成功し、酒場で英雄譚を利かせてメロメロにして、さっそうとベッドに連れ込んでいざセックス!と言うところで記憶が飛んで……ヤれた記憶がないまま朝起きたら二人ともいなくなっていたのだ。照れて逃げてしまったと思ったが、エロ駄剣は知らんと言うし、パステルは妄想だの寝言だの……」
「なら幻覚なんかじゃないすか? シャングリラは日差しが強くて頭もぼーっとしやすく」
ランスが長田君を叩き割った。
「お父さん、一緒にお祭りまわろうよ」
リセットが笑ってランスを誘った。
「いやだ、面倒くさい。俺様は昨日あった女の子を探しているんだ、そんなことに付き合っている暇はない」
その美女二人とやらもここで待ってるより祭りを回った方が会えるんじゃないか、とエールが言うと
「……それもそうだな。ここで待ってても暇だ。お前ら、それっぽい美女見つけたら俺様に知らせろよ。クリスタルの赤い巨乳で美人のカラーとなんか茶髪で色っぽい感じでこれまた巨乳の女の子だ。見落とすんじゃないぞ!」
そう言って立ち上がった。
「ん?あれ、それってー」
長田君が気が付いたようだが、リセットとエールの目くばせを受けて口を閉じる。
ランスの右手をリセットが握り、エールはランスの左腕抱きつく。
「うーむ、同じような状況でも昨日は良い感触だったのに、なんちゅー貧相な……まあ、我慢して行ってやるとするか」
ランスの言葉に娘二人は口をとがらせるが、すぐに嬉しそうな顔になって、足早に歩き出すランスにくっついて行った。
リセットとエールはランスに見えないよう、笑いあった。
ちなみにナギから聞いて後から分かったことだが、メリモの杖は自分のなりたいという願望を形にするものであって将来の姿を見せるものじゃないと知って、リセットエールは大いに落ち込んだのであった。