ランスとエールの冒険 +まとめSS   作:RuiCa

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医療都市シヴァイツァーでの話

 父に会って欲しい人がいる。

 

 自由都市に暮らしているので寄って欲しい、ランス達一行が冒険中エールがそんなこと言いだした。

 

「自由都市というとコパンドンか? 会いに行ってもいいが、先に連絡して盛大な歓迎の用意をさせておけよ。もちろんハーレムのな、100人は用意させろ」

 コパンドン・ドット。エールたちが魔王討伐でもお世話になり、闘神大会で実況兼スポンサーもしていた世界有数の金持ちだ。

「100人て。そんな頑張れるんすか?」

「俺様なら余裕だぞ」

 マジか、みたいな顔を長田君がするがそれにはどことなく羨望の眼差しも含まれていた。

 確かに会って欲しくもあるがコパンドンさんではない、とエールは横に首を振った。

「ならば、カチューシャか? セラクロラスの力で若くしたがあれからまたムチムチに育ってるのだろうなぁ……ぐふふ」

 ランスは鼻の下を伸ばした。

 聞き覚えのない名前であったのでエールは首を傾げている。

「ウズメの母ちゃんの見当かなみさんだろ? 今、ロックアースにいんのかね。ランスさんにすっげー会いたがってたもんなー」

 前回の旅でエールのことをランスとウズメを助けた恩人だと、泣くほど感謝していた優しそうな人だ。

 確かにウズメ共々会って欲しいがそれも違う、エールはまた首を横に振った。

 

「ならば誰だ?俺様に会いたい女なんぞ心当たりがありすぎて分からんぞ。ちなみに男やブス、ばばあなら会わんからな。ポランチョだかペランチョにも行かんし、AL教の連中にも興味はないぞ」

 ポランチョだからペランチョだかは知らないが、AL教というのはカイズのことだろうか。

 どちらにしろ今回はそのどちらでもない。

 父に会いたがっているのは世界でも指折りの天才美少女だ、とエールは言った。

「ほう、世界でも指折りの美少女……」

 だが、あのエールがそんなことを言い出すのを不自然に感じランスは警戒した。

「待て、そいつの名前は何だ?」

 彼女はミルキー・ティーと名乗っていることを伝える。

 ランスの頭の中で女性の名前が検索されたが、聞いたことのない名前だった。

「ミルキー・ティー……聞いたことない名前だが間違いなく可愛い子なんだろうな?」

 誰が見ても可愛い。

 本来なら中々会うことができない人だがすでに会えるように手紙は出してある、とエールは自信を持って答えた。

「ほほう、お前にしては用意がいいな。そのミルキーちゃんは俺様のファンか? よしよし、俺様は優しいからな、会いに行ってやろう!」

 ランスはすっかり警戒を解き、上機嫌になっている。

 エールも笑顔を浮かべてランスの袖を引っ張って案内していった。

 一方、長田君はその名前に聞き覚えがあったのだが、ちらりと視線を合わせたエールが人差し指を口に当てるとそのまま口をつぐんだ。

 

 

 そうしてエールたち一行は医療都市シヴァイツァーに到着した。

 

 

「なんかえらく辛気臭い場所だな。景気の悪い面した連中ばっかりだし、薬品臭いし、本当にこんなところに美少女がいるのか?」

 ランスの言う通り、町の雰囲気は決して明るくはなかった。薬品の匂いが風に乗って流れてきて思わず顔をしかめる。

 エールは気にせずずんずんと進んで町一番の大きな建物に案内した。

「ここはやたらでかいが、病院か。俺様には縁のない場所だ」

 ここにその会って欲しい人がいる、エールはランスの袖を引っ張りながら中に入っていった。

 怪我人や病人が多く出入りしており、中では看護婦があわただしく働いているのが見えた。

「ほほう、ミルキーちゃんはさては看護婦だな? それとも女医さん、いや大きな病院だから病弱で儚げな美少女と言う線もあり得るか。うん、きっとそうだ」

 ランスは鼻の下を伸ばすばかりである。

 

 受付に話しを通してもらい、エールたちは大きな部屋の前までやって来た。

 

 エールが天才美少女医師にお客様を連れてきた、と言って扉をノックすると中から声が聞こえる。

「あんた、その呼び方はやめろって言ったでしょーが!」

 苛立ってはいるが、可愛い声が聞こえる。

 

「はぁ……扉開いてるわよ。あによ、どうしても会いたい用事って。病気じゃないとは書いてあったけど」

 お邪魔します、と言って扉を開ける。

 そこには黒いゴスロリ意匠に白衣を羽織った可愛い女の子……

 エールの姉であるミックスが書類の積み上げられた大きな机の奥に座っていた。

 

 ミックスはエールの後ろにいる口の大きい緑の男に注目した。

「あれ、お父さん?」

 思ってもみなかった客にミックスは目を見開いている。

 ランスの方もエールより小柄なその少女ミックスをまじまじと見つめ、二人の目が合った。

「エール、まさかお前の美少女というのは」

 エールはじゃじゃーんと効果音を口にしながらミックスの方を手で仰いで見せた。

 長田君も何となくタンバリンを叩いている。

「二人ともうっさい」

 エールと長田君は黙った。

 

「だーまさーれたー!!」

 

 ランスは叫びだした。

 騙してはいない、どうみても美少女である、とエールは親指をぐっと立てる。

「いくら美少女でも娘ではヤれんではないか! 病弱で儚げな病弱美少女かかエロエロな診療をしてくれる看護婦で俺様のファンというミルキー・ティーちゃんはどこいったんだ!」

 ランスの頭の中で一体どうしてそういうミルキー像が生まれたのかはエールの知るところではないが、とりあえず世界でも有数の天才美少女医師だ、と自信を持って言い切った。

「ミルキー・ティーはあたしの偽名よ。トー家の名前は面倒だし、お父さんの子だってバレるのも面倒くさいし。 んで、一体何しに来たの」

 ミックスが少し不機嫌そうな顔でそういうので、エールは口をとがらせて拗ねた。

「ああ、エールってばあたしの約束覚えててくれたのね。前に会った時に私がお父さんに会いたいって言ってたやつ」

 

 エールは前の冒険でここシヴァイツァーに来た時、とある理由からミックスが父であるランスに会いたいと話していたのを覚えていた。

 父に娘が会いたがっていると言っても素直に来てはくれないだろうと思い、このような形ではあるが何とか連れてきたのである。

 

 ミックスが自分に会いたがっていたと言われるとガーガーと喚いていたランスは少し機嫌を直したようだ。

「ほほう、俺様にそんなに会いたがっていたとは。 前は生意気言っていたが可愛いところもあるではないか」

 そう言ってミックスの頭をわしわしと撫でる父ランスはなんだか嬉しそうで……

 エールはよく分からないがその光景が何故かほんの少し面白くなかった。

 

「ランス、さん?」

 桃色の髪を結んだ看護婦さんが部屋に入ってきて驚いた表情をしていた。

「む、これはなかなかの美人看護婦ちゃん。俺様を知ってるのかな、そう俺様は英雄――」

 早速鼻の下を伸ばすランスにその看護婦はぱたぱたと近づいてその手をぎゅっと握った。

 ランス以外の全員が近づくと危ないと思ったのだが、その看護婦からでた言葉は懐かしさに溢れたものだった。

「私のこと覚えていませんか? キャロリです。キャロリ・メイト。昔ランスさん緑化病を治してもらって、助けていただいた……」

 ランスもその姿をじっと見つめる。

「お、おおお? キャロリちゃんか! 覚えてるぞ! ぐっーと大人になったなー!」

 

「お父さんとキャロリが知り合いって本当だったのね」

「ミルキー先生こそ、本当にランスさんのお子さんだったんですね。ふふ、ミラクルさんにもランスさんにも似てないからあまり信じてませんでした」

「私の親はお婆ちゃんとお爺ちゃんだから」

 ミックスが答える。

 破天荒なミラクルではあるが、その両親はいたって普通の人であったらしい。

「そうか? 俺様には似てないかもしれんがこいつの顔とか雰囲気とかミラクルそっくりだぞ」

「あ?」

 ミックスは不機嫌そうな顔になった。

「なんていうか、ミックスは根がすごく良い人っぽいとことかミラクルさんそっくりだよなー、あと服の趣味とか?」

 闘神大会でパートナーにした長田君が言うと妙な説得力がある。

「全然似てない! 失礼なこと言わないで!」

 ランスと長田君はミックスを怒らせていた。

 こんなことを言っているがエールがクルックーを愛しているように、ミックスも母であるミラクルのことが大好きであることをエールは知っている。

 闘神都市でミラクルをママと呼んで恥ずかしがっていミックスは可愛かったな、というのを思い出しエールはくすくすと笑った。

「あに、笑ってるのよ? ……何か失礼なこと考えてない?」

 エールは首を横に振った。

 

「しかし、なんでキャロリちゃんがここに?」

「キャロリはあたしの助手よ。冒険中、病院任せてたの」

 ミックスはこの町ではトップの地位にいる存在だ。

 そのミックスと敬語ながら気さくに話すキャロリは、年こそ離れているがただの助手ではなく相棒や親友のように信頼の置ける存在なのだろう、とエールは思った。

「すいません。私じゃミルキー先生の代わりになれず、先生が帰ってきてずっと大変そうで……」

「あなたは本当に頑張ってくれたわ。指示通り動いてくれて患者さんたちも安心できたみたいだしね」

 元々ほぼ休みなく働いていたと聞いていた。

 冒険の間は病院に帰れなかったので大変だっただろう。

 冒険のリーダーとしてミックスを巻き込んでしまったエールは少しばつが悪そうな顔をした。

「でもあたしも兄弟間でコネ出来たおかげで薬の材料とか物品とかの調達が楽になったから悪いもんでもなかったわ。魔王の子の一人って顔を知られたのが面倒と言えば面倒かもね」

 エールの様子を察知し、ミックスがフォローを入れる。

 魔王の子と知られたせいで東ヘルマンあたりに変な事されてないか、とエールは聞いてみた。

「あたしのとこは大丈夫よ。あっちも体面ってのがあるせいか病院に手を出すような外道な事はしないのかもね、まぁこっちが偽名だから気づいてないだけなのかもしれないけど」

 そんなに甘い相手だとは思わないが、エールは胸をなでおろした。

 ミックスがタイガー将軍を倒した時に治療したということもあるのかもしれない。

 

 ミックスはエールと話している間もキャロリとランスが懐かしそうに話しているのを見つめていた。

「二人の出会いの事聞いてはいたけどつまりあれは本当の話だったのね……はぁ」

 キャロリとランスの出会いは娘としてはあまり信じたくないものだった。

 結果的にそれがキャロリの命を救ったのだとしても、である。

「エールは知らなくていいのよ」

 事情を聞こうとしたエールを先んじてミックスが制した。

 

「しかしキャロリちゃんはあれから緑化病の再発なんかはしてないのか?もしそうなら今夜俺様が――」

「ランスさんがいなくなってしまっていつ再発するか長い間びくびくして暮らしてたんですけど、今のところは何とか大丈夫です」

 ランスが言い切る前にキャロリが言った。

「でもいつ再発するか怖くて、また昔みたいになってしまうんじゃないかって……緑化病持ちだって知られるのも怖くて……ゼスで引きこもって生活してたんですがそこにミルキー先生が来て言ってくれたんです。私の近くで助手やりながらなら何かあった時も安心だって。不治の病だろうが何だろうが何があっても見捨てないって」

「あたし、そんなこと言ったっけ?」

「私、すごく救われたんですよ」

 ミックスは何でもない顔をしているが、笑顔で言うキャロリからは感謝の気持ちが溢れていた、

「緑化病が根絶できたわけじゃないですし、まだ差別もありますけど緑の里に強制隔離されることはなくなりました。人目は避けますがここシヴァイツァーに来ればいいんですから。ミルキー先生のおかげで希望が見えるようになったんですよ」

「医者が病人見捨てるなんてするわけないでしょ」

 さらりと言うミックスは頼もしい。

 冒険中も医療面サポートはすべてこなしてくれていたし、遭難したときの治療もしてくれた。ミックスの凄さは良く知っている。

 

 さすが自慢の姉の一人だとエールは誇らしく思った。

 

「そう緑化病、それなのよ。お父さん」

「なんだ?」

 あまり興味がなさそうに今までの話を聞いていたランスがミックスの方に振り向いた。

「時間もないし手早く済ませないとね」

「すませるって何がだ?」

 

「体調べさせて貰うわ。あと血液と精液の採取をさせてちょうだい」

 ミックスが特に恥ずかしがらずにそう言った。

「……は?」

「キャロリから聞いたんだけどお父さんの精液で緑化病を治療出来たんでしょ? ずっと良い医療のサンプルになると思ってたの、うまくいけば緑化病の特効薬作れそうだから」

「なんだと……」

 娘から突然そんな言葉を聞いて事情が呑み込めないというような顔をしている。

 

 エールと長田君も医療サンプルに良さそうとは聞いていたが、詳しい事情は知らなかったので驚いている。

 

「あと他にも才能限界を上げるとかいう話も聞いてるわ。いやそもそも才能限界がないっていうのがおかしいし、詳しく調べたかったのよね」

 呆気に取られているランスの方に歩き出してその体をぺたぺたとさわり始めた。

「本当は解剖したいって気持ちはあるけど何も取って食おうってわけじゃないの、そこまではしないから安心して。さすがに魔王の時じゃこういうの頼めなかったから助かるわ。元魔王で色々特別なお父さん以上のサンプルなんてそうはないだろうし、これで医療がどれほど捗るか」

 ミックスはかつてエールをサンプルにしたいと言った時のように目を輝かせていた。

 あの時は嘘か冗談だったようだが、今の目を見るとあながち冗談でなかったような気がしてエールは少し身震いする。

「ああ、お父さんを調べてる間だけどエールには……そうね。薬草の採取とか頼もうかと」

 

「とりあえず父さんのこと捕まえてくれる?」

 分かった、といってエールはその場から逃げようとしていたランスの足元に粘着地面をおみまいした。

「何をするかー!」

 志津香さんがスシヌに教えた粘着地面を自分も習っておいた、上手く出来て良かったとエールは得意げに言った。

「そういうことをいっとるんじゃない! 離せー! きゃ、キャロリちゃん、助けてくれー!」

「ご、ごめんなさい。ランスさんが頑張ってくれれば色んな人が助かるので、だからご協力お願いします!」

 キャロリは申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「待て、お前!」

 連れていかれた一室でランスは裸にされ実験台のような斜め向きの寝台にベルトで固定されていた。

 ミックスは手早く、血液を採取したりランスの体を隅々まで調べたりしてはカルテに何事かを書き込んでいる。

「体温は普通ね。うーん、普通の人より陰茎がかなり大きいって以外は特に変わった部分はないかしら」

「せめて、キャロリちゃん! キャロリちゃんを所望するー!」

「キャロリにそんなことさせられないわよ。 ほらさっさと出して」

 ミックスは特に恥ずかしがる気配もなく、むき出しになったランスのハイパー兵器を医療の薄手の手袋をした手でしごいている。

 しかし全く大きくなる気配はなかった。

「全然大きくならないわね」

「娘に触られて大きくなるかー!」

「困ったわ。これじゃ採取できないじゃない」

 萎えたままのハイパー兵器を一瞥して言った。

 

 ミックスは悩んだが、突然何かを思いついた表情になった

「そういえばこういうの得意な知り合いがいるわ。確かお父さんのことも知ってたはずだしちょっと呼ぶから大人しく待っててね。麻酔薬とか麻痺毒とか入れたくないし」

 そう言ってランスを置いて外に出て行ってしまった。

「エールはそこで見張っておいてね。誰も入れちゃダメだから」

 部屋の扉の前で待機しているエールは大きく頷いた。

「エール、そこにいるんだろう! これをほどかんかー! ほどかんとあとでお仕置きだぞー!」

 ギャーギャーと騒いでいるランスの声をエールは聞こえないふりを決め込んだ。

「お前ちょっと酷くね?」

 エールの横にいる長田君は娘二人に捕まって精液を絞られるという状況にさすがに同情していた。

 こういう時シィルさんならどうするんだろうな、とエールはぼんやり考えながら全ては医療の発展の為だから仕方ないんだ、と特に感情をこめずに言った。

「うぅ……ランスさんあとで怖いぞ……」

 

 その時はその時である。

 

 ミックスに出してもらったお茶は少し苦い。

 お茶菓子とかないのかな、とエールはのんびり呟いた。

………

 

 そうこうしているとミックスが一人の女性を連れて戻ってきた。

 

 紫のロングヘアー、ちらりと空いた胸元がセクシーな人である。

「うぉー、今の人すっげー巨乳じゃなかった!? 美人じゃなかったー!?」

 急にテンションを上げている長田君をエールは叩き割った。

 

 「ランスー! 本当にランスだー!」

 

 その紫色の髪のセクシーな女性は固定されているランスに抱きついた。

「うぉ、実に柔らかい……ぐふふ」

「あはは、これでどういう状況なの? そういうプレイなの?」

 抱きつかれてむにゅりと形を変える大きな胸の感触にランスは遠慮なくいやらしい視線を飛ばした。

「ランス、私が誰か分かる?」

「ん……どっかで見たことある」

 ランスはまじまじとその女性を上から下までじっくり眺めた。

 

「実に良いスタイル、ってお前、ミルか!?」

「へっへー久しぶり! 私の事、覚えててくれたんだ!」

「当然だ! おー、初めて会った時を思い出すじゃないか!」

 ランスが久しぶりに再会したミルは初めて会ったときのような大人の姿となっていた。

 

「ミル、お父さんと知り合いだったわよね。前にうっすら聞いただけだけど」

「そうだよ。私の初めての人!」

「そう……キャロリもだったし。今更だけどどんだけなのよ」

 ミックスは呆れてため息をついている。

「そういえばミルキーちゃんってランスの子供だったんだっけ。なんか言われてもピンとこなかったけど」

「ミルキーちゃん言うな」

 

 ミックスが気を取り直してミルの方を向いた。

「それで依頼なんだけどお父さんの精液絞り出してくれる? 他にできそうな子がいないし、あたしがやっても勃たないみたいで」

「わぁ。ミルキーちゃんはお医者さんだからそういうことに抵抗ないんだろうけど、普通ならすごいインモラル」

 ミルは目を見開くが、すぐ舌なめずりをする。

「そういう事ならこのミルお姉さんに任せて、ランスのなら喜んでやっちゃう」

 昔のミリなら子供っぽさで怖さも何もなかったが、大人になったミリの姿ではまるで肉食獣のような獲物を狙う瞳で妖艶さを漂わせる表情になっていた。

 ミルがランスのハイパー兵器を握るとすぐにびくびくと持ち上がり臨戦態勢になる。

 

「ああ、そうだ。唾液そういう別な体液は入れないでね。もちろん薬も使わないでお願い出来る?」

「りょーかい。医療サンプルにするんだもんね。んじゃ、おっぱいですればいいかな?」

 そう言って服をはだけると手にも余りそうな豊かなバストが露わになった。

 ランスもそれを見て思わず感嘆の声をあげる。

「うおおおう……ミルもすっかり良い女になったな。胸だけではなくあそこでもお願いしたい……」

「ふふふ、それは後でたっぷりと。でも流石のランスも実の子相手じゃ無理なんだね」

「うるさいわ、娘じゃなくてもガキ相手に勃つか!」

 ミルはそう言いながらもハイパー兵器を手で愛撫している。

 

 その気持ちよさにランスも全て任せてしまおうと思ったのだが……

「ミックス、その前にお前ちょっと出ていけ」

 カルテを手に持ったミックス見てハイパー兵器はしおしおと萎えてしまった。

「駄目よ。別なの入ってないか見ないといけないし。別に減るもんでもないでしょ」

「お前がいると勃つもんも勃たんわー!」

 引かないミックスに怒鳴るランス。

 ミルがその様子を見て諭すようにミックスに向けて笑顔を向けた。

「さすがに父親としては娘に見られるの嫌なんじゃないかな。変なもの入れないって約束するからミルキーちゃんはちょっと出て上げてくれる? こう見えて父親のメンツってものがあるのよ、きっと」

「だからミルキーちゃん言うなってば。 はぁ……分かったわよ。その瓶いっぱいにしてね」

「はいはい。任せて」

 ミックスが部屋を出ると、ミルは妖艶な表情をランスに向けた。

「これは前哨戦ってやつだからね…… 今夜が楽しみだなー」

 

………

 

「ミルキー先生、それにエールちゃん、あと長田君でしたっけ。改めてお茶とお菓子の用意をしましたので少し休んでください」

 

「ありがと、キャロリ。こんなにのんびりするのは久しぶりね」

 そういうミックスは机の上に置かれた書類に次から次に目を通していて、エールの目には全然のんびりしているようには見えなかった。

「エールもちょっと来なさい」

 一通りカルテや書類を見終えると今度はついでとばかりにエールを診始めた。

 手早く血液を採取し、聴診器を当て、口の中をのぞき、触診をする。

 エールはミックスに触られて少し気持ちが良かった。

「はい、エールも健康そのもの。身長伸びたみたいね」

 エールはその言葉を聞いてちょっと嬉しくなった。

 

「うーん、お父さんの体ってどれだけ特別なのかと思ったけど見ただけじゃ普通の人と違いがわからないわね。精液が特別とか、抱くとか近くにずっといるとその人の才能限界が上がるとか不思議なことだらけなのに……そういうのもあたし達にも受け継がれてたりするのかしら? いや、そもそも才能限界ないって何なの。そんなの他に見たことない、本当に分からないことだらけだわ。神はレベルが存在しないし違うわよね。もっと詳しく調べたいわ」

 ミックスがカルテを見つつ悩んでいる。

 このままではランスを解剖しかねない雰囲気だ。そうなったら流石に止めようとエールは思った。

 

 しばらくしてランスが解放されたのか部屋に入ってきた。

 

「ミルキーちゃん、採取終わったよ。ああ、ミックスちゃんって呼んだ方がいい?」

「お疲れ様、ミル。偽名の方でお願いするけどそもそもちゃん付けはやめろってば……」

 ランスはミルに抱きつかれていた。

「えらい目にあった……しかし、むふふ。これも役得か」

 どうなることかと思ったが気持ち良かったんだろうか、表情は満足げである。

 お疲れ様、と言ってエールは父にピンクウニューンを差し出した。

 

<ポカン!>

 

 それを受け取りながらもエールの頭は強く叩かれた。

「お前は父親を何だと思ってるんだーー!」

「エールはあたしの依頼を聞いただけ。叩かないでやって」

「お前もだ!」

 ランスはミックスの頭も叩いた。

 世界有数の頭脳になにかあったらどうするんだ、とエールが止める。

「まあ、そう怒らなくてもいいじゃない。おかげで私達、再会できたんだから。ランスも気持ち良かったでしょ?」

 エールは父ランスに抱きついているミルに挨拶をした。

 長田君は巨乳に目をやってそわそわしている。

「こんにちは。エールちゃんにミルキーちゃんってどっちもランスの子供ってことは二人は姉妹だよね? お姉ちゃんは大切にしなよ?」

 ミルがエールを見て少し寂しそうに笑った。

 

「しかしまさかミルがこんな辛気臭いところにいるとはな」

「普段からここにいるわけじゃないよ。ランスに会えたのはラッキーだったなー」

 ミルはランスにしなだれかかっている。

「ミルには似合わん場所だ」

「アイム薬屋。薬の知識は豊富だから協力してるの」

 見た目ではわからないが、どうやら薬剤師であるらしい。

「何でお前が?」

「キャロリとは友達だし……それにこの病院があの頃にあったらお姉ちゃん、助かってたのかなってさ」

 ミルはそっと目をつぶった。

 病気で家族を亡くす……エールにとってそんなことは考えるだけでも辛いことだった。

「ゲンフルエンザだったわね。症例が少なくて苦労してるわ。かかる人が少ないのは良いことでもあるけどね」

「ミルキー先生ならいつか治療法を見つけ出せますよ」

 キャロリが前向きにそう話した。

 レリコフの不治の病と言われたものまでミックスは治しているんだものね、とエールは続ける。

「レリコフ、シーラの子供だったな……ふん、俺様の子供ならそれぐらい出来て当然だ」

「ミラクルさんなら余の子であれば当然!とか言いそうだよなー」

「簡単に言ってくれるわ……」

 ミックスは呆れた顔をしている。

 そんな顔をしているが、ミックスが医療に対していつでも全力なことをエールは良く知っていた。本当に自慢の姉である。

 

「よし、そろそろ行くぞミル」

「はいはーい。あ、お父さんのことちょっと借りるね」

「どこ行くんすか?」

 長田君が聞くがそれは野暮である、とエールが止めた。

「もちろんセックスだ! 胸だけとか逆に溜まるわ!」

「瓶いっぱいにしたのに元気だよね。元気じゃなくても私の薬で元気にさせるけど?」

「ミルはそっちが本業なのよね。それさえなければうちの病院の専属スタッフに誘いたいぐらいなんだけど」

「じょーだん! 堅苦しいのは苦手! んじゃねー!」

「がはは、行くぞー!」

 ランスは我慢できないとばかりにミルを抱き上げると部屋から出て行った。

 

 エールはごゆっくり、と言って手を振って見送る。

 

「うおー…あんな巨乳美人と羨ましい! くそー、ランスさんってなんであんなモテるんだ……」

 長田君は羨望の眼差しを送っていた。

 ランスがこれだけモテる理由は娘であるエールやミックスにもよく分からなかった。

 

 その日、エールたちは病院で泊まらせて貰えることになった。

 空いているベッドはないそうで応接室を借りている。ベッドではなくソファーであるが高級そうにふかふかとしているので問題ない。

 運んできてくれた夜ごはんは驚いたことにミックスの手作りであるらしいが非常に美味であった。

 そういえば確かミックスには料理の才能もあったはず、エールたちは料理を感心しながら料理をかき込んでいる。

「あんた、ちょっと落ち着いて食べなさいよ。ちゃんと噛まないと消化に悪いわよ。長田君もね」

 その夜は横にならず、エールとミックスは改めて近況や今までの冒険のことを話しあった。

 

 そしていつの間にか姉妹仲良く眠りに落ちた。

 

………

……

 

 次の日、昼になってランスは満足そうに戻ってきた。

 ミルは仕事があるらしく、すぐに別れてしまったらしい。

「ぐふふ、あの頃まだ未熟だった身体があんなに育つとはな……ナギもそうだがこれは実に楽しいぞ。他に前は未熟で食べ頃じゃなかった子はいたかなー……」

 ランスに新しい野望が芽生えてたようだ。

 エールには何人か心当たりがあるので近くに寄ってしまうことがあるなら逃がすことも考えようと思った、

 

「よし、この辛気臭いとこ出ていく前に今夜はキャロリちゃんだ!」

 そう言ってキャロリを誘っている。

「あに、うちの助手に手出そうとしてんの!」

 困っているキャロリの手を強引に握るランスに、ミックスが怒ってメスを投げていた。

 

「そうそう。あんたたち、冒険者でしょ。ちょっとこれよろしく、急ぎでね」

 ミックスがメモ用紙をエールたちに渡す。

 エールはびくっとした。

 この流れは前にシヴァイツァーに来た時と同じ仕事の依頼、珍しい薬の材料の調達依頼である。

「なんで俺様がそんなことせにゃならんのだ」

 冒険資金を稼がないといけないから、と言って渋っているランスをエールは強引に引っ張っていった。

 

 それからエールたちはミックスの依頼で数日間、薬草や医療材料の採集場所を行ったり来たりすることになった。

 勢いに任せて手伝っていたランスもすぐに駄々をこねて文句を言いまっている。

 

 そこをミックスやキャロリが宥めようとすると

「キャロリちゃんがお礼にやらせてくれるのならやってやる!」

 と言い出していた。

 それが叶ったかどうかは知らないが、ランスは半ばヤケになってミックスからの依頼をこなしていった。

 なんだかんだ娘のお願いとあれば聞いてくれるのかもしれない、とエールは笑顔を浮かべながら仕事をこなしていく。

 

 報酬をまとめてもらう頃にはエールたちは疲れでへろへろになっていた。

 

「お疲れ様。摘むとすぐ鮮度が下がっちゃう薬草とかあるから助かったわ。危険な所にある夜にしか取れない奴とか、腕があって信用できる人じゃないと任せられないしね」

 どういたしまして、エールは若干ぐったりしながら言った。

 

「そうだ。お父さん、もうちょっと精液採取させて――」

「エール! 陶器! さっさとここを出ていくぞ!」

 

 エールたちは挨拶もそこそこにシヴァイツァーを出発した。

 

………

 

「ランスさんたち行っちゃいましたね」

 騒がしい三人が減った応接室、キャロリがしみじみと呟いた。

「そのお薬、ランスさんに協力してもらったって発表するんですか?」

「事実だからね」

 ミックスが新しい薬を手にしている。

 まだ全て完成してはいないが、これが出来れば緑化病はもう全く怖くない病気になるはずだ。

「そうすれば東ヘルマンでしたっけ……そういう魔王だったらランスさんへの風当たりも減るかもしれませんしね」

「あたしは有り余ってる体力を使って貰っただけ」

 ミックスが溜息をつく。

 

 ここシヴァイツァーは世界中から患者がやってくるが、同時に世界中から情報も流れてこんできている。

 エールはミックスを何かされてないか心配と言っていたが、実のところミックスの方こそランスたちの事をずっと心配していた。

 東ヘルマンはいまだ健在、打倒魔王ランスを掲げ、魔王の脅威は消え去ったと各国が表明してもそれを信じていない者たちは多いが、だからといって下手に潰せばテロ組織と化している過激派に火をつけてしまうだろう。

 非常にデリケートな問題だった。

 

 だがミックスはエールやランス達なら大丈夫だろう、と気を取り直して白衣を翻す。

「そろそろ回診の時間ね。行きましょうか」

 

 キャロリだけが気づいたが、そう言ったミックスは笑顔を浮かべていた。


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