「くしゅん! あー…まただ」
「どうした、サチコ。風邪でも引いたかい?」
「なんか最近、変なくしゃみが出るんですよねぇ……」
「誰かが噂でもしてんのかもな」
その頃、エールは今はパン屋さんをやっている近所お姉さんにして師匠と呼べる存在のことを冒険中色々な人に話していた。
現役のテンプルナイトリーダーの娘で魔人戦争でも活躍し、それ以前から法王ムーララルーを立派に守っていた元テンプルナイトの女性。
実際にサチコを知る人間は首をかしげるばかりだが、幼いころからエールの世話していたというその存在はさぞかしすごい人物なのだろうと各国で噂になっていた。
「お父さんかな? エールちゃん預かってた頃からずっと孫が欲しがって結婚しろーってうるさかったし」
「父親の部下っていうかテンプルナイツ仲間だったってやつに言い寄られたって話どうなった?」
「なんか結婚とかあんまり興味ない……そういうアルカネーゼさんはどうなんです?美人だしモデルだしモテモテなんじゃないんですか?女の人からもですけど」
「そりゃ、いまだにラブレター貰うけどさ。男の方はアニキの事考えるとどうも理想が高くなっちゃってね」
「えー、ランスさん以上ならいっぱいいると思うけど……」
サチコは首を傾げる。アルカネーゼとは長い付き合いだが、ランスへの思いはあまり理解できなかった。
「そういやあのエールが魔王を倒したって話は本当かい?」
「村に帰ってきた時に魔王やっつけたって嬉しそうに話してましたね」
二人はクルックーからそのことを聞いていたのだがそれがどれだけの偉業なのかピンと来ていなかった。
ここは魔王の脅威もほとんど影響がなかったトリダシタ村。
ただサチコは父親であるBSがそれを聞いて感涙してたので、エールがすごく頑張ったんだろうなぐらいは理解できていた。
「そうそう、その時うちのパンいっぱい買っていきましたよ。村に帰ってきたら絶対食べたかったって」
おまけをつけてあげたら満面の笑みを浮かべたエールを思い出し、サチコは少し得意げに笑った。
「そりゃサチコも嬉しいな。 しかしあのエールが立派になったもんだねぇ。よく肩車ねだられてたのがついこの間の事みたいだ」
「アルカネーゼさんに会ったらまたねだられると思いますけど。私もお勉強とかちょっとしたガードの技とか剣とか教えてあげたりしましたけど、役に立ったんでしょうか」
サチコにガードや剣の才能はないが、クルックーに頼まれてテンプルナイトとして培った基本中の基本をエールに教えていた。
「教えるの大変でしたねぇ…」
訓練中、何度もボールをぶつけられたりいたずらで盾のヒロシ君を壊されかけたりしたのをサチコは思い出していた。
おてんばと言えば聞こえがいいが、エールはどうも行動が読めないところがある。
横で見ていたクルックーにエールは度々叱られつつも勉強はともかく剣は楽しかったのか飲み込みが早くあっという間に教えられることはなくなってしまった。
それはしっかりとエールの戦闘スタイルの基盤になっている。
「将来、テンプルナイトになるって言ってたんだっけ」
「エールちゃんはクルックーさんのこと大好きですからね。クルックーさんがピクルス入りサンドイッチ好きだからってエールちゃんも頑張って覚えて」
「あはは、懐かしいな。 アタイみたいなスタイルになりたいとか言ってたっけ」
「それは今でも気にしてると思います」
「あー… エールも大きくなったらこうなるって軽く言ったのマズかったかな」
少しずつ大きくなっていたエールは自身のスタイルがあまり変化ないことを心配していた。
「ちょっと嬉しいよな。アタイらも」
「エールちゃん、また冒険に出て行っちゃいましたけどもう心配もいらないですよね」
立派に育ったエールを嬉しく、少し寂しくも感じる二人。
これはエールにとって憧れのお姉さんである二人の話。