「ママ、お墓のお手入れすんだよ」
「ご苦労様、スシヌ」
ゼス王家の秘密の墓所、都会の喧騒から外れた静かな場所にそれはある。
そこにはマジックの母、そして父であるラグナロックアーク・スーパー・ガンジーが眠っている。
マジック母娘はそっと手を合わせた。
「私も会ってみたかったわ。スシヌのお爺ちゃんに」
ふわふわと浮かんだ幽霊、ゼスの健国王パセリも共に手を合わせながら言った。
会うことは出来なかったが、正義に燃え前線に立ち王宮で働く全ての人や多くのゼス国民から慕われていたガンジーの話は色々と聞いている。
特に男に基本興味がないスシヌの父と二人で酒を酌み交わすほどの仲だったと聞いた時は大変驚いたものだ。
そんなスシヌの祖父であるガンジー王が亡くなったのは、魔人戦争でのこと。
ゼスを襲った魔人メディウサに、ガンジーとその護衛だった二人は惨殺された。そのあまりに惨たらしい光景はゼス国中に放映され、15年と言う時が流れてもなおゼス国民の心に爪跡を残している。
その時ガンジー共に殺された護衛の一人、カオル・クインシー・神楽もここで眠っている。
本来であれば王家の墓所に王家の人間ではないカオルが入ることは出来ない。
しかし最後まで共にあった彼女のガンジーへの深い想いを汲み、マジックが特別に計らって共に埋葬したのだった。
そしてもう一人、カオルと同じく最後までガンジーの護衛でありマジックの友人でもあったウィチタも共に埋葬しようとしたが、彼女の遺体はあらゆる手を尽くしても発見出来なかった。
今から10年前の勇者災害の際、彼女の姿を見たと言う情報もあったが生きているなどありえないことだった。
父やカオルの死体が転がる中、惨たらしく嬲られていた友人の姿をを思い出しマジックが小さく身震いした。
「ママ、大丈夫……?」
スシヌが心配そうにマジックをのぞき込む。まだ赤ん坊だったスシヌにその時の記憶がないのがマジックにとっては救いだった。
「大丈夫よ。 今日はスシヌが、孫が魔王を倒したんだって最高の報告をしにきたんだからね」
ここに来ると悪い記憶が蘇るばかりだったが今回は違う。
「親父も向こうで泣きながら喜んでるわ」
マジックはそう言いながら、今度は目に入れても痛くないとばかりにデレデレと赤ん坊のスシヌを可愛がっていたガンジーを思い出して笑みを浮かべた。
ランスと出会ったころ孫が欲しいと言っていた父ガンジーの願いは叶えてあげられた。
そして現在、ゼスでは魔法が使えない市民が政治面でも多く活躍出来るほど差別がなくなり、すぐ横にある魔物界は魔王から解放された元魔人のホーネット達が魔物をまとめるということもあって人間界に対する大規模な襲撃はなくなったと言っていいだろう。
心配事はまだまだあれど、とりあえずゼスの未来は明るい。
いつも疲れた顔をしているマジックが浮かべた心からの笑みに、スシヌもつられるように笑った。
「魔王討伐に行くなんて事になって、スシヌは気が弱いからすごく心配だったけど……見事にやり遂げた。あなたは私の自慢の娘だわ」
マジックがそう言ってスシヌの頭を優しく撫でる。
「わ、私がやったわけじゃないよ。お兄ちゃんにお姉ちゃんに…それに」
「スシヌの気になる人のおかげよね~」
パセリが目を輝かせながら言うと、マジックが驚いた表情になった。
「なっ! あなたまさかリーザスの……」
「ザンスちゃんじゃないよ!?」
スシヌは思わずそう言ってしまい、顔を真っ赤にした。
「ふふふ、他に気になる人が出来ちゃったのよね~」
きゃーきゃーとはしゃぐパセリを見てマジックは驚くが軽く咳ばらいをして冷静に言った。
「コホン。 いつかスシヌにもそういう日が来るって思ってたけど、相手はどんな人? その人にはあなたと一緒にゼスを継いで欲しいのだけど… ううん、せめて私と同じ轍は踏まないで欲しいぐらいかしらね」
マジックは軽く首を振った。
「でもママはパパのこと大好きなんでしょ?」
「うんうん、マジックはランスさん一筋だものね。やっぱり愛があるのが一番よ」
スシヌとパセリの言葉に今度はマジックが顔を赤くした。
「そ、それはそうだけど! 私が苦労したからスシヌには結婚とかして、ずっと側にいて支えてくれるような人が良いって言いたいんです」
「ランスさんはいっぱい愛のある人だったものね。でも私にはその気持ち分かるなぁ、ハーレムっていうか恋人がいっぱいいるのも良いものよ。逆にその中の一人になっても……」
「分からないでください! あとスシヌに変な事教えるのはやめて下さい!」
マジックはパセリに語気を強めたが、パセリの方はどこ吹く風できゃーきゃーと言っている。
それを聞いたスシヌは顔を真っ赤にしていた。
「と、とにかくスシヌも自信をつけてきたようだし、これからはいつか私の後を継げるように頑張って貰わないとね」
マジックは強引に話を切った。
「う、うん! 頑張る!」
スシヌは杖をぎゅっと握って気合を入れる。
「気になる人にも振り向いてもらえるように頑張らなくっちゃね」
「スシヌの気になる子か……せめて将軍の、クラウン家の子ぐらいしっかりした子であって欲しいわ」
「スシヌは年下OKだものね。恋人いっぱい作っても良いのよ?」
「おばあちゃん、何言ってるの!」
パセリの言葉にスシヌが焦り、またマジックが怒りつつ、三人は少し騒がしく墓所を後にする。
その時のマジックにはよもやスシヌの気になる人が女の子であることなど想像もついてなかった。
「んじゃ親父、また来年」
墓所を出る際、マジックが振り返って小さく手を振ると、嬉しそうに笑っている父の姿が見えたような気がした。
ゼス女王マジックが赤毛の友人、そしてかつての勇者と呼ばれた男とも再会するのはそう遠くない話である。