「パンドラズ・アクターはいるか?」
扉から入ってきたのはモモンガさんだった。ここからは見えないが、後ろに美女を3人ほど従わせているのが見える。もしかして誰もいないからってNPCを侍らせて遊んでいたのだろうか。チッ、羨ましい…って文句は言えないか。ログインしていなかった分際でそんなことを言う資格はない。
「パンドラズアクターよ、いるなら返事を…って、えっ…?」
なんてことを考えていると、どうやらモモンガさんが俺に気づいたようだ。同様に後ろの3人も気づいたようで、パンドラズ・アクター同様跪いていた。NPCってギルドメンバーに会ったら跪くのがデフォなのかもしれない。
「ぴ、ピサロさんっ!なぜここにっ⁉︎……チッ、抑制されたか」
骸骨が喜びながらこっちに向かってくる。普通に考えたら卒倒ものだが、ここではこれが普通である。逆に人間がいた方が異質であるとも言える。なぜなら、アインズ・ウール・ゴウンは異業種のみが存在するギルドだからだ。
「久しいな、モモンガよ。1年ぶりか?盟友であるそなたに会えて嬉しいぞ」
久しぶりにモモンガさんに会った俺であったが、ギルドメンバーに対して魔王プレイは忘れていない。こんなかっこいい姿で敬語とか使ってたらいい笑い者だ。
「久しぶりでも魔王プレイは忘れないんですね…。色々話したいことがありますが、今は少し大変な状況なんで歩きながら話しましょう。アルベドよ、ユリ、シズとともにここで待て。私はピサロさんと今後について少し話し合う。そうだな…気は乗らないが、ここでパンドラズ・アクターと話でもしておくと良い。こいつはナザリックの中でも頭脳がデミウルゴス同様トップクラスだからな」
俺の魔王プレイに感動しているモモンガさんであったが、すぐに後ろにいる3人へと声をかけた。よく見たらあの3人って守護者統括のアルベドとプレアデスのユリとシズじゃないか。プレアデスって言えば、ソリュシャンもまだいるのであろうか。プレアデスの中では俺の一番のお気に入りだ。だってスライムだからね。ソリュシャンを作成したヘロヘロさんには感謝してもし足りない。
「かしこまりました、アインズ様」
俺がかつての仲間たちについて思いを馳せていると跪いているアルベドが初めて声を発した。やっぱりNPCにはアップデートが入ったんだなぁ。あいつにも声が付いていてくれると嬉しいがどうであろうか。
あとアルベドがアインズ様って言ってたけど、それってモモンガさんのことだよな…?色々疑問に思うことはあるが、とりあえず俺とモモンガさんは宝物殿の奥へと足を進めた。
***
よくわからないが、急いでいたようなのでモモンガさんとともに宝物殿の奥へと歩いていた俺だったが、色々気になっていたので素で声をかけた。
「いやぁ、驚きましたよモモンガさん。こんなすごいアップデート入ってたなんて。もしかして全てのNPCに声がついていたりするんですか?」
「声?あぁ、そういうことですか。……ピサロさん、驚かないで聞いてくださいね?」
その後俺はモモンガさんから全ての事情、現在の状況を聞いた。その後の第一声が、
「………まじすか?」
「まじです」
いや、言葉が出ないとはこのことをいうのであろう。すごいことだらけで、何から理解すればいいのか分からないが、どうやら俺はどこか違う世界へ転移してしまったらしい。それもナザリックとともに。そしてここはゲームではないとか。
初めはモモンガさんのことを疑っていたが、コンソールが出ず、GMコールもできないことから告げられたことが現実なんだと思わされた。
「それで現在は転移した世界で、ペロの作ったシャルティアが何者かに精神支配されていて戦う必要があると」
「その通りです」
「なんとなく事情はわかりました。でしたら私がシャルティアを倒してきますね」
「あっ、はい。………って、えっ⁉︎ピサロさん、何言ってるんですか!」
「何って…だってモモンガさんシャルティアを殺すのためらってるんでしょ?負けるとは思ってないけど、相性いいとは言えないし」
何を言っているかって…
そんな辛そうな表情をしている人…いや、骸骨にシャルティアが倒せるとは思わない。シャルティアは俺と同じで遊びのないガチのクラス構成となっている。遊びが入っているモモンガさん、ましてや躊躇っているならなおさらだ。
「そ、そんなこと…」
「あるよね?……こんな感じか?”マホトーン!”」
おっ、使えたな。俺はモモンガさんに一つの呪文をかけた。
その名もマホトーン。ドラゴンクエストシリーズにでてくる相手の呪文を封じるものだ。しかし、この世界では呪文ではなく、魔法を封じることができる。
そこら辺の細かいところは、俺が使ったワールドアイテムに関連しているが、今は割愛しておこう。
「マホトーン⁉︎これって魔法を封じる呪文じゃ…。ちょ、ちょっと待ってくださいピサロさん!話し合いましょう!」
「そんな時間はないんじゃありませんでした?…ンンっ!私は魔剣士ピサロ、魔族の王である!シャルティアなどに遅れは取らん」
俺はモモンガさんのいうことを聞かず、かつて自分が行っていたロールプレイに則って宣言する。くぅ〜!懐かしいなこの感じ!
「だとしても…そうだ!なら二人でっ…!」
「任せろと言ったはずだ。それとも何か?私と今ここでやりあうか?魔法が使えない魔法詠唱者よ」
「(うわぁ…完璧に役になりきってるよ、この人)」
モモンガさんが小さい声でなんか言っていたが、関係ない。
その後も俺たちはロールプレイをしながら、来た道を戻って行った。
***
「お帰りなさいませ、アインズ様、そしてピサロ様」
戻るとアルベドたちが頭を下げながら俺たちを出迎えた。
モモンガさんと話して、今後は支配者っぽい感じでNPCたちに接するってことになったが、如何せん元からゲーム内ではそんな感じだったため、特別何かをどうこうするってのはない。
「ぴ、ピサロさん。待ってくださいって!」
「では行ってくる。”ルーラ!”」
そうして俺は、シャルティアの元へと転移した。
***
「あぁ…行ってしまった」
ピサロがルーラでその場から消えると、アインズはため息を吐くようにそう呟いた。
「あ、アインズ様!ピサロ様はどちらに?」
アルベドの疑問は最もだろう、とアインズは思う。帰って来たと思ったら急に消えたのだから。アインズは少し間を空けてからアルベドたちに告げる。
「………シャルティアの元へ行ったようだ」
「そ、そんなっ⁉︎それでは今すぐ私たちも準備を…」
「よい。我々が行っても邪魔になるだけだ。ピサロさんはワールドアイテムの力によって唯一無二の強さを持っている。それはお前たちも知っておろう?」
「お話だけは存じておりますが…」
「そうだな…では、守護者たちを集めてピサロさんの勇姿でも見るとするか。アルベドよ守護者たちを集めるのだ」
「…かしこまりました」
アインズは思う。アルベドにはああ言ったが、実のところ自分も彼の心配をしているのだと。彼はこの世界に来て、まだ数時間も立っていない。つまり現状の把握すらできていない状況だ。いくら強いとはいえ、そんな状態でシャルティアに勝てるのかと。しかしすでに行ってしまった以上、魔法を封じられた自分に彼を止める術はない。
「無事に帰ってきてくださいね、ピサロさん」
アインズは静かにそう呟いたのだった。