パートナーカップに颯爽と現れ、優勝をさらっていった神崎美月と夏樹みくるのユニット、ダブルエム。
彼女らが次に目をつけたのは、活動休止中ながらも高い人気を誇る3人組のアイドルユニット、ソレイユ。
彼女らとの対決ライブを通して、更なる高みに上り詰めようとするダブルエムであるが…事の成り行きは、次第に曇りがかってゆく…。
果たして対決ライブの行方は…!?

=====

ねんれいせいげんのないさくひんですので、おこさまでもあんしんしておよみいただけます。
 
=====
 
神崎美月のファンの方々には申し訳ないことをしたと思う。だが、私は謝らない…!

1 / 1
アイカツ! ~対決ライブはゴーヤフレーバー☆

 ◆ ◆ ◆

 

 「神崎美月さん…ですか?」

 大空あかりは雑誌記者からの質問を耳にした途端、戸惑ったように眉根を曇らせながら聞き返した。

 すると記者は、うんうん、と首を縦に振って肯定しつつ、改めて質問を口にする。

 「そうそう、今や知らない人なんていない、トップアイドルの神崎美月ちゃんだよ。

 あかりちゃんが尊敬している星宮いちごちゃんも、彼女の影響を受けてアイドルを目指したって言うのは有名な話でしょう?

 だから、あかりちゃんも美月ちゃんに対して、何か特別な思い入れがあるんじゃないかなー、って思ったんだ。

 そこのところ、実際はどうなのかな?」

 

 日本を騒がせたアイドル達の一大イベント、パートナーカップが終了して2日後のこと。大空あかりは、アイドル関係の雑誌からのインタビューの仕事を受けていた。

 あかりは正直、アイドルとしての技量はさほど高くなく、本来であれば取り立てて注目を受けるような人物ではない。しかし、新入生オーディショオンキャラバンで、当時のトップアイドルである星宮いちごによって推された事実によって、彼女は有名新人として名を馳せるようになったである。

 だから彼女はこうして、雑誌記者からのインタビューをちょくちょおく受けることがあった。

 

 さて、インタビュアーからの質問に対して、あかりは困ったような笑みを浮かべながら、言葉を慎重に選ぶゆっくりとした口調で答える。

 「一時期は…憧れていましたよ。星宮先輩が憧れていたから…と言うのも、勿論、理由の1つでしたし…。スターライト学園に入学してから、美月さんが中学1年生から3年間、ずっとスターライトクイーンの座に在り続けていた…という事実も、凄いと思いましたし…」

 この返答に、インタビュアーは色の薄いサングラス越しに、記者特有の鋭い観察眼が光る。

 「今、"憧れていました"って、過去形で話していたよね?

 ということは…今は、そうじゃないってこと?」

 この質問に対して、あかりは困ったような笑みを張り付けたまま、しばし(もだ)す。彼女は頭の中で、うまい返答を構築しようとあれこれと思考していたようだが…。

 やがて、観念したように嘆息を漏らすと、赤裸々で率直な返答を口にする。

 「正直…今は、美月さんのことは好きになれません。むしろ…嫌い、です」

 この言葉に、インタビュアーは面白い事を聞けたとばかりに目を丸くしながら、口角を吊り上げる。

 「日本全国の女の子の憧れである美月ちゃんのことを、はっきり"嫌い"って言う女の子を、僕は初めて見たよ!

 うーん、面白いねー、興味深いねー!

 どうして嫌いなのか、その理由を詳しく聴かせてもらっても良いかな?」

 あかりは特に首を縦に振らなかったが、相変わらずのゆっくりとした口調でインタビュアーに答える。

 「美月さんって…実際にお目にかかったことがないのに、こんな事を言うのは失礼だと思うんですけど…とても、独り善がりですよね。

 学園の先輩たちは、美月さんは美月さんなりに、日本のアイドル業界のことを考えてるんだって、言いますけど…。

 私から言わせてもらえば、何様のつもりなの? って感じです」

 あかりの台詞を耳にしたインタビュアーは、腕を組んで「うーん」と唸る。

 「僕ら芸能関係者からすれば、色眼鏡で見ているからかも知れないけど、そんなに気になることはないんだけど…。

 具体的に、美月ちゃんのどんなところが独り善がりって感じるのかな?」

 「まず…トライスターのメンバーの選定オーディションですね。私はあれをテレビで見たんですけど…あれで私は、美月さんのことが大嫌いになりました」

 あかりはこれまでのようなゆっくりした口調ではなく、キッパリとした口調で断言する。

 対してインタビュアーは、ペンの尻で頭を掻きながら、ハハハ、と軽く嗤う。

 「あれは見てる分には面白かったけど、やらされる側の立場に立って考えれば、確かにたまったモンじゃなかっただろうね。

 でもさ、アイドルがあんなアスレチックに挑戦するようなバラエティ番組だってあるじゃない? あかりちゃんとしては、アイドルがそういう番組に出演することには否定的だってことなのかな?」

 「いえ。もしもあのオーディションが純粋にバラエティを目的したものだったとしたら、私もそれほど気にしなかったと思います。

 でも、あれがガチンコのアイドルユニットの選定方法だった、というのが凄く気に障るんです」

 インタビュアーは、ふむふむ、と頷きながら手帳に内容を書き留めつつ、身振りで"そのまま続けて"と訴える。あかりはそれに従って、歯に衣を着せぬ辛辣な美月批判を口にする。

 「もしもトライスターがアスリートなスタイルを売りにするユニットだとしたら、あのオーディションは正解だと思いますし、私の気にも障りません。

 でも、トライスターは実際のところ、歌とダンスを主体にした典型的なアイドルユニットです。それなのに、あんなオーディションで(ふるい)を掛ける必要があるんでしょうか?

 あんなの、オリンピックの出場選手の選考会にしか見えないじゃないですか。

 そんな場違いなオーディションの最中、美月さんは始終、上から目線で出場者のことを見下していました。"こんなものなの?"なんて看板まで出して、ダメ出しまでしてましたよね?

 ああやって、出場者に発破をかける意味って、どこにあったんでしょうか?

 私には、美月さんが自分を目指して汗水流してもがく出場者の有様を見て、楽しんでいたようにしか思えません」

 「言われて見れば確かに、トライスターは結成後、精力的なライブ活動を展開してはいたけど、アスレチック系のバラエティ番組に出たことは一度もなかったね。

 ハードなスケジュールをこなす体力は必要とされていたかも知れないけど、オーバーハングの崖を素手で登攀(とうはん)出来るような能力は必要なかっただろうね」

 インタビュアーが同意の言葉を口にすると。それが潤滑剤になったかのように、あかりは矢継ぎ早に美月批判を続ける。

 「アスレチック後のライブパフォーマンスオーディションでの美月さんの態度も、どうかと思います。

 あの最終選考に残ったのは、星宮先輩たち1年生3人と、美月さんと同じ3年生の3人でしたよね。

 年長者である美月さんが、後輩である星宮先輩に対して大きな態度を取るのは、ある程度は仕方ないのかな、とは思います。

 でも、同じ立場に居るはずの3年生3人に対しても、始終上から目線で接していました。

 確かに、あの3人の先輩たちは、美月さんに比べると人気は劣るのかも知れません。でも、同じ学園の生徒として、貴賤(きせん)の差はないじゃないですか。なのに、美月さんときたら、まるで王女様が街娘に接するような態度でしたよ。

 …私がああいう態度を取られたとしたら、腹が立ちます」

 「あー、なるほどねー。

 実際、美月ちゃんのあの態度はアイドルとしての前に人としてどうなんだ、って話はチラホラ出てたんだよね。

 一般からこっちの業界に入ったあかりちゃんの目にも、そう映っていたワケか」

 「さらに言えば、トライスターの解散に関しても、美月さんのことが気に食わないですね」

 あかりは調子が出てきたようで、スラスラと言葉を次ぐ。

 「あそこまで厳しい選定をして立ち上げておきながら、メンバーにほとんど何も言わずに、スターライト学園から出奔して、トライスターを空中分解させたじゃないですか。

 メンバーだった藤堂先輩や一ノ瀬先輩は勿論、選定オーディションに出場していた全ての先輩方に対して、すごく失礼な話ですよね。あんなに苦労させられた時間と労力は、一体なんだったんだろうって、頭に来るじゃないですか。

 それに…星宮先輩から聞いたんですけど、藤堂先輩はトライスターの空中分解をとても気にしていて、先日のパートナーカップの出場に際してもとても苦しんでいたそうなんです。

 美月さんはそんなことなんて露ほども気に掛けず、新しいパートナーとのうのうと参加していましたよね。あれ、とっても許せないです。

 人の心に深い傷まで負わせておいて、謝罪の気持ちの欠片もないんですから。

 あの人にとっては、自分以外のすべての人間は、自分の知名度を更に引き上げるための踏み台としか思ってないんじゃないでしょうか」

 ここまで言い切って初めて、あかりは一息吐くと。インタビュアーは事細かに内容をメモしつつ、「ハッ…」と戸惑ったように鼻で笑い、首を左右に傾げる。

 「すっごく辛辣だねぇ、あかりちゃん…。

 でも、美月ちゃんに対して、ここまで素直に批判した(アイドル)って居なかったからさ、とても面白いとも思うよ。

 …だけどねぇ…こりゃあ、オフレコにした方が良さそうかなぁ」

 あかりはキョトンとして数度瞬きしてから、「どうしてですか?」と尋ねる。

 するとインタビュアーは、苦笑いを浮かべたまま、嘆息とも鼻息ともつかぬ吐息を交えながら答える。

 「美月ちゃんは今、日本では知らぬ者いないと言われるほどの人気を持つトップアイドルだからね。

 そんな美月ちゃんを、評論家じゃなくて同じアイドルが痛烈に批判するって言うのはさ…(はた)から見ると、嫉妬しているだけのようにも見えちゃうからね…。

 あかりちゃんにも、悪い影響を与えちゃいそうだからさ…」

 ゴシップを好むはずの雑誌関係者にしては、あまりにも意外な気遣いである。彼個人が大空あかり、または神崎美月を応援しているためなのか。それとも、下手な記事を書いてスターライト学園との関係が(こじ)れることを危惧してのことなのだろうか。

 何にせよ、アイドルとして前途洋々である大空あかりにとって、このように気遣われることは大いに有り難いことである。

 しかし…。

 「あの…気遣って頂いたのに申し訳ないんですけど…。今回の話、出来ることなら、是非記事として公開してほしいんです」

 あかりは敢えて、インタビュアーの好意をふいにするような要望を伝えたのである。

 陰の部分を見せないように必死になる芸能人を数多く見てきたインタビュアーにとって、あかりの反応は未曾有にして興味深い。

 彼がサングラスの位置を直しながら笑みを消したのは、不評も(いと)わない厳然たる覚悟を、あかりの真摯で真っ直ぐな眼差しを感じたが故だ。

 そしてインタビュアーは、それまでの軽い口調を封印し、素の生真面目さを表に出して尋ねる。

 「どうして、そんなことをお願いするんだい? さっき話した通り、君にとってデメリットになるかも知れないのに?」

 するとあかりは、眼に輝く覚悟の光を消さずに、ハキハキと、一片の気後れもなく答える。

 「私は…まだまだアイドルとして駆け出しで、経験も全然ないひよっこの身で、こんな事を言える立場じゃないですけど…でも、これからの後輩たちには、美月さんを目標にして欲しくないんです。

 私は、このスターライト学園の入学して、多くの先生方や先輩方、友達と接して来て、分かったんです。アイドルにとって一番大切なのは、自分がいかに輝けるかを考えることじゃない。自分を支えてくれる多くの皆さんに、感謝の気持ちを持つことだということ。この感謝の気持ちこそが、私たちアイドルのエネルギーになって、アイカツという形で皆さんへ恩返しが出来る…そう思うんです。

 だから後輩たちには、美月さんのように、トップという立場に甘んじて独り善がりに浸りたいがためにアイドルを目指すようにはなって欲しくない。そんなのは本当のアイドルじゃないと思うんです。

 私は、どうせ運が良くて入学できたような身の上です。こんな話をしたと云うことで、人から嫌味を言われても構いません。

 これからのアイドル業界が、皆さんに感謝と元気を与えるものではなく、身勝手な自己満足で溢れてしまうのなら、私一人が悪役になる方が断然マシです」

 凛々しいとさえ形容できる、あかりの毅然とした姿は、インタビュアーの目には漆黒の闇の中に気高く輝く明星のように映った。

 その輝きに当てられたインタビュアーは、コクリ、と(うなづ)く以外にあかりの態度に応えられる行動が考えつかなかった。

 「…あかりちゃんの覚悟、よく分かったよ。

 雑誌に掲載する際には、編集や検閲も入るからね、君の話を必ず公表するとは約束できないけど…出来る限り公表できるように、努力するよ」

 「ありがとうございます」

 あかりは尊敬する星宮いちごのように、非常に礼儀正しく、深々とお辞儀をして丁寧な感謝を述べる。

 インタビュアーはそんなあかりの態度に多大な好感を覚え、思わず顔を(ほころ)ばせると、満足げに数度頭を縦に振るのであった。

 この表情の綻びで口火を切ったように、インタビュアーは再び軽快な態度を取ると、話題を変えて質問を続ける。

 「そうだ、スターライトクイーン繋がりで訊いてみたいんだけどね。

 現スターライトクイーンである、有栖川おとめちゃんのことは、どう思ってるのかな?」

 「有栖川先輩ですか?

 とっても良い先輩だと思います。誰にでも分け隔てなく、楽しく優しく接してくれますし、それに…。

 こういう事言うと失礼かと思いますけど…単に天然な可愛らしさを持っているだけでなく、私たち後輩を初め、学園のことを考えて、自ら率先して行動を起こしてくれます。そんな先輩の姿は、私たち後輩のとても良いお手本です。

 私は、美月さんがスターライトクイーンの地位に居座っている時代に入学しなくて、本当に良かったなぁって思います。そういう意味でも、私は幸運です」

 「…ホント、あかりちゃんは美月ちゃんには辛辣だねぇ…。まぁ、それは置いといて。

 おとめちゃんと言えば、彼女が中心になって立ち上げた自主アイドルユニット、ぽわぽわプリリンがあるけれども…」

 ――こうして、あかりのインタビューは続いていく――。

 

 さて、インタビュアーの記事が雑誌編集長の目に通る時が来た。

 その結果…インタビュアーの懸念に反して、あかりの赤裸々な意見は編集長を多大に満足させたのであった。

 「パートナーカップが終わって、神崎美月旋風で湧く世の中に、敢えて批判的に切り込んでいく新人アイドルの率直な意見! 面白いじゃないか!」

 編集長のお墨付きを得た記事は、世間へ公開されるまで秒読みという段階となった――のだが。

 最終チェックとしてスターライト学園の学園長、光石織姫の目に原稿が通された途端。彼女はヒステリックな拒絶の怒声を上げた。

 「何なの、これは! アイドル業界を背負う美月に対して、これは冒涜以外の何物でもないわ!

 例え、うちの大空あかりが本当に自分の意志で公開を望んだとしても! こんなふざけた記事を衆目に晒すなんて、絶対に認められないわ!

 もしもあなた方が強硬的にこの記事を掲載するのだとしたら、スターライト学園はあなた方とは今後一切の関係を持たないようにさせていただきます!」

 インタビュアーが活動するアイドル情報雑誌では、スターライト学園の記事が目玉としている。そして、それ故に読者から多大な支持を受けている事実がある。そんな雑誌が、目玉を失ってしまうリスクを冒せるワケがなかった。

 ――結局、編集長は渋々と記事を、織姫の目の前でシュレッダーに掛けたのである。

 

 こうして、大空あかりの意志は尊重されることなく、業界の闇の中に葬られたのだった…。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 神崎美月。国民的トップアイドルとして知られる彼女は、芸能関係者の間で陰から"壊し屋"と呼ばれることがしばしばある。

 その理由として幾つかあるが、先に大空あかりが言及したトライスターの件は代表的な一例と言える。

 その他にも、彼女を今の地位に押し上げてくれた母校を裏切り、母校の対抗勢力として台頭してきたドリームアカデミーでアドバイザーとして暗躍してみたり。そのアドバイザーの役目も突如放棄して、アイドル教育のノウハウを美月に依存していたドリームアカデミーを一時的な体制危機に陥らせたり(この件については、幸運にも、学生間の交流を通じて良好な関係を築いていたスターライト学園からノウハウを学ぶことで、なんとか収拾をつけていた)。

 そして最近では、どのアイドル育成組織も裏切った挙げ句に、完全独立な第三勢力としてパートナーカップに参戦した件が話題に上る。

 このイベントが始まる前から、美月が優勝した場合に、アイドル業界を引っ張ってきたスターライト学園およびドリームアカデミーの存在意義が揺るがされ、存続自体が危ぶまれるのでは? と云う事態を芸能関係者から危惧されていた。そして終わってみれば、両校にとって非常に不本意なことに、美月はどこの馬の骨とも知らぬ花屋の娘、夏樹みくると共に優勝を()(さら)ってしまったのである。

 しかし、不幸中の幸いであったのは、優勝できなかったとは言え、両校が互いの枠を越えて協力し合った姿が、世間に好意的に捉えられたことだ。このために、両校の存在意義が疑問視されるような事態が発生することはなく、両校の関係者はホッと胸を撫で下ろしたと共に、パートナーカップで健闘した生徒達に多大な感謝を伝えたのであった。

 ――と、神崎美月が動くところでは、その代償とでも云うかのように、誰かしらが、そして何かしらが、大きな打撃を受けるのだ。

 「狙ってやってるとすれば、かなり悪質な話だね。

 とは言え、世間は美月贔屓(びいき)だから、大きい声では言えないけどさ」

 大空あかりでなくとも、そんな事を痛感し、コッソリと呟く者はチラホラと存在する。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 さて――パートナーカップから約一週間が経過した頃のこと。

 授業の合間の時間を、普段のようにスターライト学園のロビーホールで過ごしていた、星宮いちごと霧矢あおい、そして紫吹蘭の3人。彼女らはアイドル情報雑誌を囲んで、談笑している。

 …しかし、"談笑"とは言え、その笑いには時折苦々しいものが混じることがある。

 「やっぱり、今じゃどこでもダブルエムのことばかり騒いでるね」

 何気なくパラリと開いたページから、見開きで飛び込んできたダブルエム――神崎美月と夏樹みくるのアイドルユニットである――の特集。これを目にしたいちごが、そう話題を振る。

 「ホント…穏やかじゃなさ過ぎるわよね」

 いつもの口癖を交えて返事するあおいの態度は、ウンザリとした嫌気が露骨に現れている。

 「うちの学園とドリームアカデミーとの関係も両校になってきて、せっかく楽しくなってきたのに…台風が戻ってきたって感じだわ」

 「ああ、全くだ」

 蘭も表情を堅くして、腕組みをした状態で首を縦に振る。そして、ふぅ、と嘆息を吐きながら、あおいと同様のウンザリした表情へと面持ちを崩す。

 「あの人、本当に他の人の事情なんてお構いなしに、好き勝手気ままに振り回すからな…。

 パートナーカップを優勝しちゃったし、良い気になってさ、スターライト学園、それにドリアカにも口出しして来そうだよな…無関係者のくせに、さ」

 「そうなったら、ホント迷惑だな~。

 特に私たち、美月さんにやたらと目を付けられてからさ…無茶な事振られそうな、穏やかじゃない気配がするのよね…」

 あおいはそう言ってから、ノロノロとした視線でいちごの方を見やる。

 「でも、いちごは嬉しいんじゃないの? 美月さんがまた、表舞台に出てきたこと。

 いちご、あの人のこと尊敬してたじゃない」

 「それは、あおいだって同じでしょ?」

 いちごは、アハハ、と明るく笑いながら突っ込む。

 「まぁ、そんな時期も確かにあったけどね…。時間が経つと、人の考えって変わるものよ」

 「それは、私だって同じだよ」

 あくまでにこやかに、底抜けな明るさを保ったまま答えるいちごに、あおいは頭上に疑問符を浮かべる。

 「同じって…どっちの意味?

 いちごも時間が経てば考えが変わるってこと? それとも、美月さんについてのこと?」

 「うーんとね」

 いちごは唇に人差し指を当てて、少しじらしてから、答えを口にする。

 「両方の意味で、だね」

 「えっ、そうなのか。意外だな」

 蘭は純粋にビックリしたらしく、目を丸くして驚く。

 「いちごの事だから、また美月さんとアイカツが出来て嬉しい、とか言うと思ってたんだけどな」

 するといちごは、アハハ、と無邪気に笑いながら、ヒラヒラと手のひらを左右に振る。そして、可愛らしいイチゴのショートケーキを思わせるような無垢な語り口で、辛辣なことをサラリと述べる。

 「ないない、そんなのあり得ないって。

 この学園に入りたての頃の私なら、確かに、そう言ったかも知れないけどね。

 今はもう、無理だよ。あの人の…ええっと、なんていうんだけ…おツボダイ?」

 「…もしかして、お(つぼね)様、って言いたいの?」

 「うんうん、それそれ!」

 指摘するあおいに向けて、ピンと立てた人差し指を振ってはしゃぎながら、いちごは同意する。

 「そう、お局様!

 あおいや蘭は、そんな感じしない?

 あの人の、如何にも"アテクシはトップアイドルサマですわよ"って感じの雰囲気とか、人の事を妙に見下したようあ態度とか」

 「あー、分かる、分かるわ!」

 あおいが何度か首を縦に振って同意する。

 「頼んでいないのに、人のことをズケズケとチェックして口を出して来たりするところとかね!

 正直、ウザく思ってたのよねー!」

 「それにさ、あの人の髪型!」

 あおいの語り口に同調するように、蘭も美月への辛辣な苦言を活き活きと吐き出す。

 「あの人自身は、ボリューム出して可愛らしくしてるつもりなんだろうけどさ…ハッキリ言って、ダサ過ぎるんだよな。

 私が一緒に仕事するスタイリストの皆さんも言ってたんだ。あの人の髪型って、加齢で痛んだ髪を無理にボリューミーにしてる、オバサン演歌歌手みたいだって」

 「その言い方は、酷いよー!」

 急にいちごが、生真面目に頬を膨らませて反論する。さすがにちょっと言い過ぎたかと、蘭が反省した矢先。次いでいちごの口から飛び出したのは、蘭よりも凄絶な発言である。

 「そんな言い方、一生懸命演カツしている歌手の先輩方に失礼だよー!」

 そう、いちごが気遣ったのは美月ではなく、引き合いに出された演歌歌手の方であったのだ。

 同時にいちごは、美月をドブネズミかゴキブリでもあるかのような、比肩しては失礼極まりない底辺の存在として扱ったことになる。

 この切り返しに、あおいと蘭は大笑い。目尻に涙が滲むほどの大爆笑が、ロビー中に響き渡る。もしかすると、学園全体をも揺るがしたかも知れない…そう思えるほどの、バカ笑いであった。

 そしていちごも、2人につられて自分の言葉で大笑いを上げるのであった。

 

 愉快ながらも苦味の混じる時間が訪れていた、その時。

 「ハーイ、ご機嫌だなぁ、ハニー達!」

 エセ外人のような気取った言い方をしながら、クルクルと踊りながら会話の中に乱入してくる一人の男が現れる。

 ウェーブがかった長い髪に、センスの良い服装に身を包んだ、バランスの良い引き締まった体をした成人男性――彼こそ、スターライト学園が誇る教師であり、いちご達のクラスの担任でもあるジョニー・別府だ。

 「あ、ジョニー先生!」

 いちごの言葉を口火に、3人は行儀良く席から立ち上がると、揃って礼をして挨拶する。

 「こんにちわ」

 「ハッハッハ、相変わらず礼儀正しいな、ハニー達は! アイドルにとって印象はとても大事だ、その点に関しては、ハニー達に言うことは何もないな!」

 「ありがとうございます」

 ジョニーの褒め言葉に対して、3人は改めて深々と頭を下げる。ジョニーも言及していた通り、実際3人は学園内でも屈指の素行の良さを持つことで知られている。

 「ハニー達があんなに盛り上がるなんて、一体どんな話題を話してたんだい?」

 「いえ…大した話じゃないんですけど、妙にツボに入っちゃっただけです」

 あおいがサラリと当たり障りのない答えを口にする。…勿論、美月のことをボロクソに言って楽しんでいたなどは、間違っても口にしない。

 そして、ジョニーもまた、それ以上3人の話題について詮索はしない。

 「ああ、そうなのか。まぁ、それはともかく、だ!

 ハニー達に、とーんだビッグニュースが飛び込んで来たんだぜ!」

 「ビッグニュース…ですか?」

 3人は、大きな疑問符を浮かべながらお互いに視線を交わし合う。心当たりなど、全くない。

 戸惑う3人にジョニーはアイカツフォンスマートで、現在生放送中の番組を見るように促す。3人はそれに従うと、いちごのアイカツフォンスマートで指定された番組の視聴を始める。

 

 宙空に描画されたホログラムディスプレイに映ったのは…ダブルエムによる記者会見の様子であった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 巨大なディスプレイを背にして並ぶ、神崎美月と夏樹みくる。両者共に等しくマイクを手にしていたが、会見では美月ばかりが発言しているのが目立つ。

 みくるは芸歴が非常に浅いため、会見の場に慣れていないだけとも取れるが…。自身が勤める花屋で人見知りすることなく元気に声がけしている姿を知るいちご達からすれば、不慣れという理由は相応しくないように思える。

 単に、美月が出しゃばっているだけのように見えるのだ。

 「私たちダブルエムは、いろいろなアイドルと競い合うことでもっと輝けると思い、今回はこのようなステージを用意しました」

 美月の場慣れし切った、淀みのない言葉が途切れると。ダブルエムのロゴをデカデカと映すだけだったディスプレイの映像が切り替わった。

 そこには、右半分にダブルエムの2人の写真が、そして左半分には大きなクエスチョンマークが表示されている。そして、中央には"VS"という文字がクッキリと映えていた。

 どうやら、どこぞのアイドル――おそらくはアイドルユニットだろう――と、対決ライブを行うつもりらしい。

 

 「…さっすが美月さん。相変わらずの対決脳ね…」

 あおいがボソリと呟いた言葉は、幸いにも、ジョニーの耳には届かなかったようだ。

 

 「対戦相手が空欄ですが、」

 会見現場では、記者の1人が質問を挟んでいる。

 「まだ未定ということでしょうか?」

 これに答えるのは、勿論、美月である。…実は、みくるがマイクを口元に持って行こうとしていたのだが、それを叩き潰すような勢いで、美月が動いていた。

 「いえ、私たちの中では、すでに決まっています」

 ここで美月は、満を持して対決相手を公表すべく、タメを作ったのだが…。そこにすかさずみくるが言葉を挟み込む。

 「本人たちには、まだ言ってないんですけどね」

 ようやく発言できたことが嬉しいのか、みくるはヒマワリのようなニコニコとした笑みを浮かべる。

 

 この時、番組のカメラは発言者であるみくるにフォーカスを当てており、美月は画面の端に映るだけであったが…。

 映像を見ていた蘭は、見逃さなかった。美月が肉切り包丁の切っ先のような剣呑にして陰惨な眼差しで、スッとみくるを睨みつけていたことを。

 (うわ…あの人、相変わらず、誰かが自分より目立とうするのを嫌ってるんだな…)

 蘭が苦笑いしながら、胸中で呟く。

 …勿論、ジョニーは美月の様子など気付かず、楽しげな様子で会見の様子に視線を投じているばかりだ。

 

 「コホン」

 美月が、白々しいほどの咳払いをマイクに乗せる。するとカメラが一斉に美月の方へフォーカスした。この様子を見た美月は至極満足げに笑むと、蘭が見逃さなかった冷徹な態度を微塵も感じさせぬ、上品で明るい弾む声を上げる。

 「私たちダブルエムが対戦相手に指定するのは…!」

 美月の声にあわせて、ディスプレイの左半分が切り替わる。巨大なクエスチョンマークがフェードアウトし、そして現れたのは…

 「ソレイユ!」

 そう、そこにはライブ衣装をバッチリ決め、人の心を(とろ)かせるような元気なスマイルを浮かべた、いちご・あおい・蘭の3人の姿が現れたのだ!

 これによって、記者会見会場は期待と興奮のどよめきに包まれたのである。

 

 一方、スターライト学園のロビーでは…。

 「え…!」

 「なにそれ…!」

 「はぁ!?」

 いちご達3人は、それぞれが叫びを上げる。その声音には驚きの色も勿論混ざっていたが…それ以上に、戸惑いや、不快の色すら混ざっていたのだ。

 「あの、先生!」

 いちごが(きら)めく金髪を振り乱して、ジョニーへ向き直って叫ぶ。

 「ダブルエムが私たちのことを指名するって、事前に知ってたんですよね! なんで今まで黙ってたんですか!」

 温厚ないちごらしからぬ、眉を怒らせて噛みつくよう激しい勢いの問い。これをぶつけられたジョニーは、いちごの様子への驚愕や困惑を抱えながら、両の手のひらをブンブンを回して答える。

 「いやいや、黙ってたワケじゃないんだぜ…!

 事前って言っても、この会見が始まるほんのちょっと前に、美月ハニーから突然連絡が来て、それで知っただけなんだ…!」

 ジョニーの言い分は、いちごの怒気を少しだけ(なだ)めたものの、眉の怒りは収まらない。

 そんないちごに代わって、蘭が『美しき刃』の異名そのものの、酷く鋭く尖った視線でジョニーをギロリと睨みつけながら問う。

 「それじゃあ、学園長は? 織姫学園長はどうなんです? あの人なら知ってたんじゃありませんか?」

 ジョニーは手をブンブンを振ったまま、蘭の方に向き直ると、頭もブンブンと左右に振って否定する。

 「ノー、ノー! …いや、学園マザーの口から聞いたワケじゃないが、恐らくは、ノーだ!

 オレは朝に学園マザーと会ったが、対決ライブのことは一言も言ってなかった!

 勿論、オレにもシークレットにしてたって可能性は考えられるが、そこまでして隠し通す理由が分からない! 学園マザーならむしろ、ハニー達のモチベーションやスケジュールを考慮して、なるべく早く声を掛けるはずだ!」

 「…確かに、ジョニー先生の言葉は一理あるわ」

 激情に駆られる2人とは対照的に、あおいがあくまでも冷静に、あごに手を置いて頷く。

 「学園長は今までも、お仕事の話をいつまでも隠すような無駄で迷惑な事はやってこなかったわ。

 自分もアイドルだった経験があるんだもの、自分がやられて苦しい想いをするような事を生徒の私たちに押しつけることはないとはず」

 「となると、今回の話は…美月さんたちの、完全なアポなしってことか…」

 蘭は怒りを消した代わりに、眉を曇らせて肩を落とすと、ハァ~、と深い溜息を吐く。

 3人の間に漂う、非常に怪しい雲行き。それを目にするジョニーの顔が、ギクリとした罪悪感に染まる。自分の持って来た話で、いつもパワフルでポジティブな3人に、酷く暗い陰が降りたのだから。

 「…なぁ、ハニー達、どうしたって言うんだ?」

 だからジョニーは、3人のテンションを取り戻そうと、何か声をかけずにはいられなかった。

 「3人とも、美月ハニーのことを、ダブルエムのことをリスペクトとして、そしてライバル視して来ただろう?

 そのダブルエムから、ハニー達を指名しての挑戦状が来たんだぜ?

 現在のトップアイドルユニットと競える、絶好の機会じゃないか! 勝てればパートナーカップの雪辱を果たせるし、例え負けたとしても、ハニー達が対決を通して学べるものも多いと想うんだがね!」

 「確かに、良い機会ではあるんですけど…」

 蘭が苦笑いを浮かべながら返答すると、その言葉を続きはいちごが継ぐ。

 「中学部の頃の私たちなら、飛びついて受けたかも知れません。

 だけど、今の私たちは、個人での仕事がとても多いんです。突然、対決ライブをしようと言われても、今のスケジュールに対決ライブへのレッスンを組み込むのは、とても難しいです…。

 特に、授業以外で3人揃ってレッスンするなんて…時間が取れません」

 「た、確かに…ハニー達にもスケジュールの都合があるな…」

 ジョニーは決して、いちごの言葉を強引にでも吹き飛ばして説き伏せるマネはできなかった。アイドル育成機関の教師として、アイドルが既存のスケジュールを放棄することで生まれてしまう、信頼を損なうといった大きなリスクに目を(つぶ)ることはできなかったからだ。

 しかし…彼は未練がましく、ポツリと呟く。

 「これは、オレの個人的なホープだけどな…。ハニー達3人が再び、ソレイユとして輝くところが見てみたかったんだ。

 もしかすると、オレだけでなく…全国のソレイユファンも、同じことを考えているかも知れない。

 そんなホープに、答えて欲しい…という気持ちはある」

 「ソレイユ、ですか…」

 いちごは瞼を閉じてゆっくりと、活動中止中の自分たちのユニットの名を唇に乗せる。

 「確かに…ファンの皆さんから、キラキラッターとかを通して、活動の再開を望む声は聞いています。

 そういう風に心底望んでくれることを、私たちはとても嬉しく想います」

 「…だったら…!」

 ジョニーは、期待に毛を膨らませる子猫のような態度を見せるが…彼の願いも虚しく、いちとは首を左右に振る。

 「だからこを…望んでくださるからこそ、ハンパな状態で活動を再開したくないんです。

 中には、活動再開しただけでも、私たちのことを評価してくれるファンも居るとは思います。

 でも、期待通りでないパフォーマンスでファンの皆さんをガッカリさせてしまうのは、私たちにとってマイナスになるだけでなく、ファンの皆さんにもとても申し訳ないことです。

 活動再開するなら、キチンとした形でやり遂げたいんです。

 …ですから、今回みたいに、あまりに唐突に引っ張り出されるのは…」

 いちごの正論に、ジョニーはもはや、説得のための言葉が見つからない。

 ただそれでも、諦め悪くと言うべきか、ジョニーはこう言葉を残す。

 「この対決を引き受けるかどうか、学園マザーに伝えるのは、今日中で良い。

 その時まで、ジックリ考えてみてくれ。

 オレ個人としては…色の良い返事を期待してる」

 いつものテンションを失ったジョニーは、トボトボした足取りでその場から離れて行った。

 

 寂しそうなジョニーの背中を、3人は申し訳ない気持ちを一杯にした瞳で見送るばかりである。

 3人にとってジョニーは、自分たちを贔屓(ひいき)して、レッスンは勿論、多くの大切なことを教えてくれた大恩人である。そんな彼の願望をへし折ってしまったのだから、決して良い気分ではいられない。

 …本当なら、彼の個人的な願望であろうとも、答えてあげたい気持ちはある。…しかし。

 「ジョニー先生には本当に悪いことをしたけど…今回だけは、無理よ…」

 ジョニーに対する謝罪のようにポツリと漏らしたあおいの言葉に、蘭が嘆息混じりで同調する。

 「ああ…。本当に、今回の勝手な対決ライブは、迷惑な話だよ。

 あの人のミズキズムには、困ったもんだよな…」

 "ミズキズム"…それは、独裁を意味するファシズムに美月の名前を合わせて作られた造語だ。この言葉をはじめに使い出したのは誰なのかは知らないが、美月の横暴とも言える身勝手な振る舞いに嫌気が差した生徒たちが、陰でコッソリと口走っている雑言である。

 「ホントだよね…」

 あおいが頷いて蘭に同意し、彼女もまた嘆息を漏らす。

 「あの人は、ダブルエムとして活動を再開したばかりだからさ…。他の…例えば、個人活動のスケジュールとか考えなくても良いんだろうけど。

 私たちは、そういうワケにはいかないってこと、()んでくれないのかな…。

 出奔したとは言え、元はうちの学校の生徒だったんだし、その辺りの事情はしっかり把握してるはずなのに…」

 「例え把握してても、あの人が他の人の都合に気を遣うなんてこと、絶対に有り得ないって」

 蘭が手を肩の位置に上げて首を振り、虚脱感を訴える。

 「あの人には、自分だけが…自分の都合こそが全てなんだからさ」

 蘭が呆れた物言いをした、その直後。あおいがふと、いちごを見つめて声をかける。

 「…ねえ、いちご。

 さっきから、ずっと黙ってるけど、何を考えてるの…?

 まさか、私たちが美月さんのことを悪く言ってるのが、気になってたり…?」

 そんな風に話題を振られたいちごは、ハッと夢から現実に帰ったように一瞬目を丸くすると、パタパタと両手を振る。

 「ううん、違うよ。私だってあおいや蘭と同じ、美月さんの身勝手には困ってるからね、擁護するつもりなんかないよ。

 …考えてたのはね、美月さんのことなんかじゃなくて…ソレイユのことなんだ」

 「ソレイユのこと?」

 聞き返すあおいに、いちごはコクリと大きく頷く。

 「私ね…実は、近いうちにソレイユの活動を再開したいと思ってたんだ。

 アメリカから帰って来て、こうしてあおいや蘭と一緒にまたアイカツしてだもん。せっかく立ち上げたソレイユを活動休止のままにしておくのは、勿体ないなって思っててね」

 「…私たちだって、いちごが帰って来てからずーっと、ソレイユのことを考えてたよ」

 あおいが蘭と視線を交わしながら答える。

 「個人の仕事も楽しいけど、私はやっぱりいちごと蘭の3人でステージに上がって、思いっきりライブをするのが一番好き!

 だから、タイミングを見計らって、いちご達と再開の話をしたかったのよ」

 「ああ。

 いちごがアメリカに行ってる間も、2人で話し合ってたんだ。いちごが帰ってきたら、絶対にもう一度ソレイユをやろうってさ!」

 あおいと蘭が同じ気持ちだったことに嬉しさを隠せないいちごは、フフッヒ、と笑う。

 「良かった、2人も同じ気持ちで!

 そして、2人も簡単に再開のことを切り出さなかったってことは、その辺りも私と同じ気持ちだったのかな?」

 「いちごは、どうして切り出さなかったの?」

 あおいの問いに、いちごはゆっくりと瞼を閉じると、伏し目がちに眼を開いて静かに語る。

 「さっき、ジョニー先生にも言った通りだよ。3人揃ったからってだけの、体裁が整っただけの中身の伴わない再開だけは、絶対にやりたくなかったんだ。

 私たちアイドルは、自分たちが楽しむためだけに活動するんじゃない。ファンの皆さん、そして、これからファンになってくれる皆さんを楽しませるために活動するんだ。

 お客さんをガッカリさせるパフォーマンスしか出来ないソレイユを再開させるなら、皆さんの中で惜しまれ続けるソレイユでいる方がずっとずっとマシなんだって、思うんだ…」

 「うん、やっぱりだ。私もそれに同感だよ」

 「ああ、私もだ」

 あおいも蘭も首を縦に振ると、いちごはまたも嬉しそうにフフッヒと笑う。

 が、その直後。いちごは眉根を曇らせて、重くて堅い口調で言葉を紡ぐ。

 「だからこそ、今回みたいに他の都合で無理矢理引っ張り出されのは、とっても嫌。

 ソレイユは、私のユニットなんだもん。他の人がどうこう決めるものじゃなくて、私たち自身がキチンとこれからのことを決めていきたい。

 だから…」

 見開いた、いちごの瞳。そこには、堅くて熱い、決意の炎が灯っている。

 その炎を見て取ったあおいと蘭は、いちごの無言の中に込められた意志に応えて、頷き返す。

 

 そして3人は、キビキビした足取りで学園長室へと向かうのであった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 「え…今回の対決ライブを、辞退する…ですって!?」

 学園長室に、光石織姫の驚愕の声が響き渡る。

 彼女がデスク越しに相対しているのは、勿論、星宮いちごに霧矢あおい、そして紫吹蘭の3人である。

 「はい。今回のお話は、あまりに急すぎて、スケジュール調整が取れません。

 辞退させていただきます」

 いちごがソレイユのリーダーっぽく、視線を泳がせることなく真っ直ぐ織姫を見つめて、キッチリと3人で同意した意志を伝える。

 すると織姫は、"冗談でしょう?"とでも言うように空笑いを浮かべて、タジタジと言葉を返す。

 「だって…あの美月と、ダブルエムと折角、肩を並べて競演できるのよ? あなた達なら、絶対に引き受けてくれると確信していたのよ…?

 そんな、どうして…辞退なんて…」

 「逆に訊きますけど、学園長」

 蘭が"美しき刃"の異名通りに、鋭く切り込んでゆく。

 「どうして、私たちが辞退しないと確信できたんですか?

 私たちにお仕事を持ってきて下さる学園長なら、私たちのスケジュールの密度も把握しているはずですよね?

 その事を鑑みれば、今回のようなアポ無しの企画への参加は無理だって、自ずと答えが出ると思うんですけど?」

 「…だ、だって、あなた達…」

 織姫は相変わらずタジタジと言葉を続ける、

 「どんな状況でも、自分たちにとってプラスになるような仕事は、いつも引き受けてきたし…。

 今回は、学園中が慕っている先輩である美月からの仕事ですもの、スケジュールに調整をつけてでも引き受けると思ったのだけど…」

 "学園中が慕っている先輩である美月"――この言葉を耳にしたあおいは、思わず顔に浮かび上がりそうになる苦笑いを抑えるのに必死になっている。

 そんなおあいの様子に気付かず、織姫はタジタジとした言葉を口早に次ぐ。

 「そ、それに、今回はあなた方のユニット、ソレイユの活動再開の絶好のきっかけになるでしょう?

 ソレイユに関しては、あなた達自身が並々ならぬ思い入れがあるでしょう? また3人で、楽しく熱いアイカツをしたいと思わない…の?」

 これに対して答えるいちごは、蘭よりも更に磨き抜かれた、視線だけで人肌に血の玉を膨らませるような鋭い真摯な眼差しを織姫に向ける。

 「学園長の言う通り、今のアイドル界のトップを走るダブルエムと競演できるのは貴重な機会だと思いますし、私たちも近いうちにソレイユの活動を再開させたいと思っていました。

 でも…やるからには、勝負の結果がどうあれ、お客さんには満足してもらいたいんです。

 でも、今の私たちのスケジュールでは、対決ライブに向けた十分なレッスンをこなすのは無理です。お客さんに満足してもらえるほどの完成度は実現できません」

 反論を寄せ付けぬような、力強く鋭く断定の拒絶。

 しかし、この凄絶な言葉の刃を向けられてもなお、織姫はタジタジと口早に説得を続ける。

 「ス…スケジュールがネックなら、私から今の仕事の関係者に事情を説明して…」

 「学園長!」

 織姫の言葉が終わり切らぬうちに、眼を怒らせたあおいが激しい言葉を挟む。

 「失礼な物言いをさせてもらいますが、その言葉は、アイドル育成機関の学園長らしかぬ発言ですね!

 私たちアイドルの仕事は、私たちだけで成り立ってるワケじゃありません! 多くのスタッフさんと協力し合って、時には何日もの時間かけて作り上げるものです!

 それを、今回みたいな私たち側の都合を全く考えない、アポ無しの仕事を優先させようとするなんて、関係者の皆さんに失礼だと思います!

 織姫学園長も昔はアイドルだったんですから、この事は十分ご承知のはずです!」

 あおいの言葉は、目上への発言としては確かに失礼であるかも知れない。しかし、内容は正論そのものだ。

 織姫自身、生徒たちにはスタッフをはじめとした関係者のことも考えて仕事に望むよう、教育してきたのだ。そんな自らの言葉を覆すような事を、よりにもよってスターライト学園でもトップクラスのアイドル達に対して通そうとしている。

 …織姫はデスクの上に両肘を乗せて手を組み、オレンジ色のルージュに彩られて唇を一文字にして、苦渋の表情を作る。そうして黙すこと、十数秒…ついに彼女は、あおいの正論を弾き返すことができなかった。

 「…そうね、霧矢の言う通りね。今の仕事を(ないがし)ろにして、アポ無しを優先させるなんて、確かに非常識極まりないわ…。

 分かったわ、今回の対決ライブは見送ること、美月たちには伝えておくわ」

 「よろしくお願いします」

 いちご達3人は、動きを揃えて礼儀正しく深々と頭を下げると、律儀な退室の挨拶を残して学園長室から去っていった。

 

 独り残された織姫は、胸中をモヤモヤと刺激するわだかまりに(さいな)まれていた。

 デスクの上で組んだ指が、まるで石にでもなってしまったかのように(ほぐ)れない。机面を視線を注いだまま(うつむ)く頭が鉛のように重く、顔を上げられない。

 ――星宮たちには、"分かったわ"と了承の意を伝えたはず。そして、彼女らの言い分が正論であることも、十十に理解したはず。

 それなのに、何故今も尚、胸の内の失意の(うず)きは収まるどころか、広がってゆくのだろうか?

 正論はともあれ、今回の対決ライブが3人にとって本当にプラスになると確信しているから? それとも、個人的にも応援し、贔屓(ひいき)にしてきたソレイユの活動再開を、どうしても目にしたかったから? はたまたは、出奔したとは言え、愛弟子であった神崎美月の申し出に答えて上げたいという親心にも似た感情の所為(せい)

 そのいずれかが――むしろ、全てかも知れない――暗雲となって、織姫の心を捉えて離さないのだ。

 (…やっぱり…あの()たちにはああは言ったけど…納得し切れないわ…!

 このチャンスをみすみす棒に振るなんて、私には出来ない…!)

 織姫は、決意を固める。重かった頭がグンッと勢いよく上げ、動かなかった指をパッと解すと、デスクの脇に置いてあるスマートフォンに手を伸ばす。

 (あの()たちを、なんとしても最高のステージに、上がらせてみせる…!)

 織姫はスマートフォンを手慣れた手つきで操作すると、次々と連絡を始める…。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 いちご達3人が対決ライブへの参加を辞退した、その日のうちから…。彼女たちの周りで、やたらとソレイユを推す発言が相次ぐ。

 「美月さんたちの生放送、見ましたよ、いちごたん! ついにソレイユが、活動を再開するんですね! らぶゆ~なのです!」

 有栖川おとめが、ヒマワリのような満面の無邪気な笑みを浮かべて、そう祝ってくれた。

 「ソレイユが活動を再開するというなら、このユリカ様が応援してあげなくもないわよ!」

 藤堂ユリカはウインクをしながら、付け歯の犬歯を光らせて、そう応援してくれた。

 「ソレイユにはとってもエンジョイさせてもらったからね! 活動再開したら、お祝いにウチからお寿司をプレゼントさせてもらうよ!」

 一ノ瀬かえで、ニコニコと笑いながら寿司を握るジェスチャーを交えながら、そう祝ってくれた。

 「わたくしたちぽわぽわプリリンは、いちご様たちのソレイユの背中を見て走ってきました。そのソレイユがまた活動を始められるのは、とても楽しみです!」

 北大路さくらは、話の前後で個性的な『北大路劇場』を交えながら、そう期待してくれた。

 「ソレイユ、私も応援してるよ。私は最近の女優業が忙しくて、ライブ当日は見に行けないかも知れないけど…同じ空の下で、応援してるよ」

 神北しおんが、同じく女優として活動しているあおいの手を取りながら、そう応援してくれた。

 

 ソレイユを支持する動きは、スターライト学園内に留まらなかった。

 良きライバル校であるドリームアカデミーからも、数々のメッセージが届いたのである。

 「ソレイユの歌、すごくビビッて来るよな! そのパワーで、パートナーカップでダブルエムに一歩及ばなかった雪辱を晴らしてほしいな!」

 音城セイラが、親指を立ててウインクしながら、そう応援してくれた。

 「今の3人のソレイユなら、今まで以上にオケオケオッケーな結果が出せるよ! ライブ、楽しみにしてるよ!」

 冴草きいが、ブレインサンダーを一箱差し入れながら、そう期待してくれた。

 「ソレイユは本当に、クルクルキャワワなユニットよね。私、みんなのファッションについてならアドバイス出来ると思うの。是非、手伝わせて欲しいわ」

 風沢そらが、その名の通り澄み渡った蒼天のような上品な笑みを浮かべて、そう応援してくれた。

 「パンパカパーン! ソレイユの活動再開、おめでとう! …で、良いんだよね?

 わたし、ソレイユのこと、大好きなの! わたしだけじゃなく、日本のみんなのことを楽しませてあげてね!」

 姫里マリアが、両手を上げて体一杯に嬉しさを表現して、そう応援してくれた。

 そして、ドリームアカデミーからは学生だけでなく、学園長の夢咲ティアラまでもが3人に直接会いに来て、期待と応援を告げた。

 「ソレイユとダブルエムの対決は、アイカツ界だけじゃなく、日本全国を元気にしてくれる熱いアイカツになるわ! 私も是非、出来る限りのことで協力させてほしいわ!」

 更には、星宮いちご向けには実母星宮りんごからのメッセージも届いた。

 「日本のトップアイドルユニットと対決が出来るなんて、すごいチャンスじゃない!

 胸を借りるつもりなんて思わないで、思いっきりぶつかってみなさいよ。きっと、いちごにとっても、あおいちゃんや蘭ちゃんにとっても、今後のアイカツに良い影響を及ぼすと思うの」

 ――これら全ては、光石織姫が3人の意志をなんとかして変えるべく画策した工作であったが。織姫の呼びかけに応えてくれた生徒やドリームアカデミー関係者たちは、皆喜んで助力してくれたのである。

 彼らは対決ライブを抜きにしても、ソレイユというユニットを心の底から評価し、望んでくれていたのだ。

 決して演技などではない、彼らの真摯な想いを、いちご達3人は無為に出来るワケがなかった。

 

 後日、再び学園長室を訪れた3人は。

 「ダブルエムとの対決ライブ、やっぱり、引き受けます」

 声を揃えてそう、織姫に語る。

 織姫はいたく喜び、普段でさえ美しい顔立ちを、気高く可憐なユリの花のごとき笑顔で爽やかに彩る。

 「そう! 本当に良かったわ! このライブは必ず、今後のあなた達の力になるはずよ!

 気にしていたスケジュールの件は、私に任せて。私が責任を持って、なるべく影響が出ない形で対決ライブのレッスンにも時間が取れるように、手配するわ!」

 

 ――こうして、ソレイユとダブルエムの対決は決定したのである。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 その後、ソレイユの3人は、と言えば…。

 織姫学園長が約束してくれた、スケジュールへの手配については、「やはり、既に決まっている仕事の関係者に申し訳ない」として、一切拒否。従来のスケジュールに一切手を加えず、今回のアポ無しライブに向けてのレッスンを隙間時間に行う、という非常にハードな生活を送っていた。

 そんな彼女らを全面的にバックアップするのは、スターライト学園の名物教師である、ジョニー別府だ。今回の対決ライブの話を真っ先に持ってきたという責任感もあったかも知れないが、とにかく彼は3人からの頼みとあれば一切断らず、レッスンに応じていた。

 レッスンでは、仕事のために途中で抜けるメンバーが出たり、そもそも頭から3人が揃わないこともあった。しかし、レッスンを受けられなかったメンバーも、それぞれの仕事場での待ち時間を利用して、ダンスの振り付けを練習するなどの涙ぐましい努力を重ねていた。

 

 そんなある日。幸運にも、レッスンの始終を3人揃ってこなせた時のことだ。

 「ありがとうございました!」

 3人はジョニーに礼儀正しい深々とした礼を残し、レッスンルームを後にすると脚を揃えて寮へと向かう。

 季節は初夏で、陽が長くなって来た時期だというのに、空は夕焼けの赤よりも宵闇の濃紺が目立つようになっていた。寮へ向かう路の両側では、該当がポツポツと灯りを(とも)している。

 道すがら3人は、ハードなレッスンで疲れた体を軽くストレッチさせて(ほぐ)しながら、和気藹々(あいあい)と語らい合う。

 「レッスンはいつも楽しいけど、今日は最後まで3人一緒だったから、本当に楽しかったよ!」

 いちごがニッコリと笑むと、彼女の両側を囲む2人も同意する。

 「うん、楽しかった!

 …でも、もうクタクタ~! ジョニー先生、気合いの入れ方が普段以上だもんねー」

 「ああ。

 私、明日撮影の仕事あるんだけど…筋肉痛で堅いポーズにならないように、しっかり解しておかないとな…」

 「わたしもクタクタだけど…やっぱり、楽しい方が強いかな!

 なんか、レッスンを受ける度に、一歩ずつ昨日の私より進化してるって実感できる感じ!」

 「…いちごの超人的な体力には、ホント感心するわ」

 あおいがナハハ、と苦笑いして応える。いちごは渡米期間中、ハードさで有名なアイカツブートキャンプをニコヤカにこなしたと云う話を、キャンプの教官の口から直々に聞いたことを思い出す。一見、可憐なばかりのいちごだが、自衛隊にも負けない体力と根性を持ち合わせているのではないか、とあおいは密かに分析している。

 「…これで、ソレイユの活動再開が、もっと本意ある形だったら、本当に最高だったんだけどね…」

 いちごが、浮かべていた笑みに苦々しさを浮かべて、ポツリと呟く。

 「いちごもやっぱり、美月さんに無理矢理引っ張り出されたこと、気にしてたのか」

 蘭が問い返すと、いちごは首を縦に振る。

 「この楽しさのきっかけを作ったのは、結果的に美月さんってことになるワケでしょう?

 なんかそれが、どうにも気持ち悪くて…」

 「美月さん、か…」

 蘭はポツリと漏らしてから、ハッと何か思いついたように顔を上げて、話題を少し変えて言葉を次ぐ。

 「そういえば、今回の対決ライブを私たちに受けさせようと裏で動いてたのって、織姫学園長なんだよな」

 学友を初めとした、多くの人々からのソレイユへの応援や期待。その裏の事情を知ったのは、有栖川おとめが全く他意なく漏らした一言であった。

 「織姫学園長からも、頼まれたのですー! らぶゆ~なソレイユの活動再開を応援してあげて欲しい、って!」

 それから3人は、対決ライブへの三亜は、織姫の意図に沿ったものだと覚っていたが。応援や期待の事実は変わらないので、特に悪い気を抱かずにレッスンに打ち込んではいたのだが…。

 「あの人、美月さん絡みとなると、美月さんの意向を何としても実現させてあげようと必死になるよな。

 学園が出奔した今でも、それは変わらないみたいだし。

 あれって、どうしてなんだろうな。まさか、美月さんに何か弱みを握られているとか?」

 「それが本当なら、穏やかじゃない事実だけど…それは無いと思う。

 美月さんは確かに実力派だけど、別に権力的なバックを持ってるワケじゃないからね。織姫学園長を脅したところで、立場が悪くなるのはむしろ美月さんの方だと思うわ」

 あおいが持ち前の分析力を発揮して、蘭の意見を否定した。

 しかし…。

 「でもね…」

 あおいはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて、言葉を次ぐ。

 「私、学園長と美月さんに関する、穏やかじゃない噂を知ってるの」

 「どんなものなんだ?」

 蘭とて年頃の少女である。スキャンダルへの興味は年相応に強い。噛みつくように、あおいに催促する。

 あおいはコホンと咳払いをして勿体つけると、いちごと蘭に耳を寄せるようにと手招きする。いちご達はあおいの指示に従い、路を前進する足を一度止めると、あおいに詰め寄る。ここに、小さな円陣が出来上がった。

 あおいは意地の悪い笑みを浮かべたまま、コショコショと囁く。

 「私、前にお仕事で一緒になった学園の先輩から聞いたんだけどね…。

 織姫学園長って、レズだって噂がああるのよ!」

 「え、レズって…つまり、女の人が好きってことなのか…!

 そんな、まさか…!」

 蘭が心底驚いて、目を丸く見開いて否定の言葉を述べたのだが…。

 「…いや…案外、あり得るのか…?」

 見開いた眼をスッと細め、口元に手を当てた蘭は、つい一瞬前の自分の言葉を撤回する。

 「考えてみれば…確かに、思い当たることがある気がするな。

 学園長は、伝説のアイドルユニット"マスカレード"のメンバーだけあって、今なお色()せない美貌の持ち主だ。

 あれだけの美人で、名声もある学園長なら、男の人から引く手数多のはず…。

 でも学園長は…こう言うのは失礼だけど…中学生か高校生の母親になってもおかしくない年齢に達した今でも未婚だし、そもそも男性とお付き合いしているって話も全く聞いたことがない…。

 これって、確かに妙な話だよな…」

 「でしょ、でしょ!」

 あおいがピンと立てた人差し指をブンブンと振りながら、興奮気味に語る。

 「学園長職って、責任も重大だし、多忙だとは思うけど、他の学校の校長先生なんかは結婚している人が多いし、未婚で通さなければいけない理由にはならないと思うの。

 …そこで出て来たのが、織姫学園長レズ説よ」

 あおいはそこまで語ると、深く長い一呼吸を置いてから、話を続ける。

 「先輩の話によるとね…学園長はマスカレード時代、同僚のミヤさんの事が好きだったらしいの。

 だけど、ミヤさんはアイドルを止めてしまった。その理由は表沙汰になってないけど、結婚したって説が有力ね。

 こうして、愛する人を失ってしまった学園長だけど、ずっとミヤさんの事を想い続けて、その面影を追っていたみたいなの。

 そこに登場したのが、美月さんよ」

 「…なるほどな…」

 蘭が、うんうん、と(うなづ)く。あおいの言わんとすることをスッカリ覚ったようだ。

 「美月さんは性格はどうあれ、アイドルとしての風格はミヤさんに通じる部分があるな。

 そこに、学園長が思い入れたワケか…」

 あおいが首を縦に振って、肯定する。

 「学園長って、在学中の美月さんのことを、一人の生徒として以上に、学園の共同経営者みたいに重用していたでしょう?

 それって、美月さんと少しでも長く時間を過ごしたかったから、と考えれば説明がつくじゃない?」

 「…なるほどな、一理ある話だな」

 蘭はコクリと頷いて、あおいの話を全面的に受け入れる。

 一方…学園長の話が始まってからというもの、いちごは一言も言葉を挟まず、困ったような笑っているような複雑な笑みを浮かべているだけである。

 そんないちごの様子に気付いたあおいが、すかさず声をかける。

 「ねぇ、いちごはこの話、どう思う? 織姫学園長、怪しいと思わない?」

 「…うーん…私は、織姫学園長はそんな人じゃないと思うなぁ…」

 苦笑いを浮かべたいちごは、そのように織姫を擁護した。

 そうしたくなるのは、至極当然のことかも知れない。マスカレードのミヤとは、何を隠そう、いちごの母である星宮りんごなのだ。自分の母に対して今なお背徳的な感情を抱き続ける人物の存在を示唆されるというのは、例え噂話の中であっても、気持ちの良いものではない。

 とは言え、自分の母がマスカレードのミヤであることは、家族の中だけの秘密だ。あおいや蘭が分かろうはずがなく、いちごへの配慮が欠けてしまうのは仕方がないことだ。

 「それじゃあ、いちごは、織姫学園長はどんな人だと思うワケ?」

 自分の意見を否定されてちょっと気に食わなかったのか、半眼で詰め寄ってくるあおいに対して、いちごは苦笑いを浮かべて答える。

 「あの人は…ただ単に、器が大きいだけだよ。

 そして…」

 いちごは笑みを消し、ゆっくりと瞼を閉じると。再び眼を開いた時には、物寂しげな表情を作る。そして、先の言葉の続きを口にした。

 「大き過ぎるから、穴が開いていても分からないだけなんだよ」

 その意味深な表現に、あおいと蘭は顔を見合わせると、肯定も否定もせずに織姫の話題は流れていった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 時は流れ、遂にソレイユとダブルエムの対決ライブ当日がやってきた。

 

 会場の観客席はギチギチなほどに満員である。当然のことだ、トップアイドルユニットのダブルエムと、長らく活動停止を惜しまれていたソレイユを同時に見ることが出来るのだから。

 観客席には、一般の観客に混じって、いちご達の友人であるスターライト学園およびドリームアカデミーの生徒達の姿もある。また、関係者のみが進入を許可される2階通路の方には、織姫やジョニー、そしてドリームアカデミーの学園長である夢咲ティアラの姿がある。

 会場は、ライブが始まる前から強烈な熱気に包まれていたが。開幕のブザーと共に、ステージの垂れ幕が片付けられてゆく時に湧いた歓声と言ったら、真夏の夕立に轟く雷鳴を軽く凌駕するほどの大音量であった。

 

 対決ライブにおいて、初めにパフォーマンスを見せたのは、ソレイユである。

 活動再開後の初ステージで、彼女らが演じた曲目は、ソレイユの歌の中でも神曲として名高い"ダイヤモンドハッピー"である。

 その歌唱やダンスの完成度、そして盛り上げ振りは、1年以上ものブランクを全く感じさせない…いや、むしろ以前よりパワーアップした印象を観客達に強く植え付けた。少ない時間の中、ハードなレッスンを真摯にこなしてきた努力が遺憾なく結実したのである。

 …いや、ただ1点だけ、よほど目の肥えた人間でなければ分からないミスがあった。コンマ数秒という非常に短い時間の中、星宮いちごがステップでバランスを崩してしまったのである。本番に強いことで知られるいちごにしては、非常に珍しいミスだ。

 しかし、あおいと蘭は、正に"呼吸が合う"という表現がピッタリな迅速且つ的確な行動を取り、すかさずいちごをフォロー。ミスがミスとして見えないようにな絶妙なカバーをしてのけたのである。

 これには見守っていた織姫も舌を巻かずにはいられない。

 「あの3人、本当に成長したわね。

 少ない期間の中、レッスンできる時間も極(わず)かだったでしょうに…。

 チームワークと言い技術と言い、よくここまで完成させたわね…!」

 「全くですね、学園マザー!

 やはりあの3人は、ここぞという時に絶対に期待を裏切らず、それどころか期待以上の成果を我々に見せてくれます」

 「…これは、もしかすると…もしかするかも知れませんね」

 織姫の隣に経っていたティアラが、興奮混じりの笑顔を見せて呟く。

 「私たちは、時代が変わる瞬間を目撃することになるのかも…!」

 「ええ…! 決して、不可能な話ではないわね…!」

 織姫も、そしてジョニーも、興奮を隠せぬ面持ちで、ティアラに同意したのであった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 ソレイユのパフォーマンスが、始終の大歓声を受けたまま、その幕を閉じた…その一方で。

 ダブルエムの控え室では、会場モニターに釘付けになっていた夏樹みくるが、ブルリと体を震わせる。そして、両の拳をギュッと握りしめると、ブルブルと体を震わせたまま身を縮める。その表情には、今にも爆発してしまいそうな興奮が見て取れる。

 「くう~! ソレイユ、やってくれるね! 私、ずーっと体が熱くなりっ放しだったよ!」

 そして、縮んだバネが一気に()ね跳ぶように、"大"の字になって跳び上がる。

 「もぉ~! こんな凄いライブを見せつけられちゃうと、体を動かしてたまんなくなっちゃうなぁ!

 あ、でも…」

 みくるはコロリと表情を変えて苦笑いを浮かべると、自身の体をギュッと抱きしめ、内股を作って語る。

 「やばいなぁ…私、ソレイユに敵わないかも…」

 そう語った途端。ソレイユのパフォーマンスを目にしても一切動じず、沈着冷静そのものの様子でソファに座したまま、みくるに無表情な視線を走らせている美月の存在にハッと気付くと。パタパタと手を振ってフォローする。

 「いやね、美月なら大丈夫だよ。

 でもね…少なくとも、今の私じゃ、ソレイユの3人に届かないかなって、そう思うんだよ…」

 興奮と動揺の狭間に放り込まれ、身じろぎが止まらぬ、みくる。その様子を黙然としばらく見つめていた美月は…やがて、フッ、と余裕のある落ち着いた笑みを浮かべる。

 「みくるは、1人じゃないわ。

 私たちは、2人でダブルエムでしょう?

 大丈夫よ。私たちの今持っているもの、すべてを出し切れば良い。

 結果は、後からついてくるわ」

 嵐の前にも微動だにせぬ巨岩のごとき安定感を眼前にしたみくるは、自身の狼狽(うろた)えぶりが急に恥ずかしくなり、照れ笑いを浮かべて後頭部を掻く。

 「…そうだね。もうここまで来ちゃったんだし、そもそも私たちから言い出した対決だもんね。

 思いっきりぶつかる以外に、選択肢なんてないよね!」

 こうしてみくるは、美月の言葉を得て、己の迷いも興奮も吹っ切り、目の前のライブを思い切り楽しむことだけに集中するのであった。

 

 暫しの時を置いて…ついにダブルエムの出演時間がやってきた。

 フィッティングルームが設置されたステージ袖に待機した2人は、今回のライブで身にまとうドレスを揃えたアイカツ! カードを互いに見せ合い、最終確認を行っている。

 「やっぱり、マリンで決めて良かったね」

 みくるがニッコリと笑いながら語ると、美月は「ええ」と上品に微笑んで同意する。

 マリンと呼ばれたそのドレスは、複数の異なるブランドが同一のコンセプトで作り上げる『トレンドコレクション』と呼ばれるものの一つで、正式には"サマーマリン"と言う。

 夏らしい露出度が高めな涼やかなデザインのドレスであるが、ソレイユが着たドレスに比べると、アイドルらしい華やかさでは劣る。何というか、ビーチを歩いている可憐で派手な女の子、と言った印象のドレスで、インパクトに少々欠ける印象がある。

 しかしそれでも、2人はこのドレスが今回のライブにピッタリだと信じ、選んだのだ。

 「私一人じゃ、このドレスは選べなかった」

 美月がそう評するが、それは無理らしからぬことかも知れない。彼女はこれまでのライブでは、もっと華やかで輝かしいドレスを身に纏うことが多かったからだ。

 「でもね…みくると一緒だから、このドレスも自然に着られるんだよ」

 美月にそう評価されたみくるは、はにかみ笑いを浮かべる。このドレスにいしようと真っ先に言い出したのは、何を隠そう、みくるだったからだ。

 「私は、美月の爽やかマリンが見たかっただけなんだ」

 「その"見たい"って気持ちに、私は答えたかったの。ダブルエムの、パートナーとして、ね」

 そう評価されたみくるは、ますますはにかみの笑みを大きくする。

 「さぁ、今日も行くわよ!」

 そんなみくるの笑みに応えるように、美月は元気な声を張り上げると、みくるにスッと手の甲を差し出した。

 「今日の私たちのライブは、私たちのかけがえのない歴史になる。

 そしてそれが、いつか伝説になる!」

 「…うん、そうだね!」

 みくるは美月の言葉に応えながら、差し出された手の甲の上に、自らの手のひらを乗せる。

 手を合わせた2人は、一緒に腕をを上げて山のような形を作り出すと。

 「ダブルエム! レッツ、シャイン!」

 ダブルエムの決まり文句を一緒に叫び、それぞれのフィッティングルームへと足早に駆け込むのであった。

 

 フィッティングルームを経て、ステージに立った夏樹みくる。その見に纏うのは、先述した通り、トレンドコレクション『サマーマリン』のドレスである。

 カードの状態で見ただけでは、インパクトに欠けた印象のあるドレスであったが。みくるがその衣装を身につけたことで、彼女自身から溢れ出すような健康的で元気なオーラも相まって、眩しいほどの輝かしさを醸し出す。

 「みくるさん、カワイイね!」

 「ホント、穏やかじゃない!」

 「ああ。モデルとしてもやっていけそうだな」

 ソレイユの3人も大絶賛するほどのキマリ具合である。

 

 一方…神崎美月の登場は、みくるより数テンポ遅れる。

 フィッティングルームに何か不具合でもあったのだろうかと、思わずがみくるが眉根を曇らせて待っていると。

 バラエティ番組で目玉コーナーに引きに引っ張り、ようやく衆目に晒す――そんな計算された()らしを適用したかのように、満を持して美月がステージ上に現れる。

 その時、ステージを彩るド派手な演出を目の前にして、みくるが唖然として言葉を失う。

 

 満天の星空をバックに、巨大な女神像の手のひらの上に乗って登場する、神崎美月。

 その身に纏うドレスは、サマーマリンのような元気と爽やかさだけが取り柄のドレスではない。

 宝石のように煌びやかで、天使というよりも女神を思わせるような光の翼を背にした、神々しいまでのドレス。

 美月専用のブランド、ラヴ・ムーンライズのプレミアム星座ドレス…ミステリアスヴァルゴコーデである!

 

 「え…な、なんで…!」

 みくるは今、頭蓋を巨大な鉄槌で激しく殴打されたかのような、強烈な衝撃を覚えた。加えて、破裂しそうなほどに鼓動が発狂するほどの、重大な困惑に苛まれた。

 当然だ。美月は、事前の打ち合わせとは全くかけ離れた衣装で、ステージに現れたのだから。動揺せず泰然自若としていられるワケがない。

 一方、観客はダブルエムの事前の打ち合わせなど知る由もなく、華やかな美月の衣装に、わぁっ、と盛大な歓声を上げる。

 その歓声に溶け込ませるように、みくるがヒクヒクと口元を震わせながら、マイクが音声を拾わぬようになるべくトーンを抑えながら、責めるように問い質す。

 「ねぇ…どうして…! マリンで決めようって、言ってたじゃない…!

 なのに、星座ドレスだなんて…! 話が全然、違い過ぎ――」

 しかし、みくるは最後まで非難混じりの詰問を口にすることはできなかった。

 何故ならば、ナイフのようにスッと細め、感情の輝きを一切放たぬ視線で、美月が睨みつけてきたからだ。

 その視線ときたら、横暴な女王が窮状を直訴しにきた下賤な市民に対して見下すような、背筋が凍り付くような冷徹さに満ち満ちていたのだ。

 その寒気にみくるの唇は、舌は、スッカリと凍り付いてしまった。悪寒は口元に留まらず、脊椎を通じて全身に回り、毛穴という毛穴をゾワリと粟立てる。

 (私…なんて人と、アイドルユニットを組んでしまったんだろう…)

 胸中に否が応でも浮かび上がる怯懦の言葉を噛みしめながら、みくるは寒気がやまぬ己の全身をギュッと両腕で抱きしめるのであった。

 

 しかし、みくるはいつまでも怯懦に甘んじるワケには行かなかった。――なぜならここは、今正に彼女らのライブが開演するステージなのだから。

 スピーカーが無機質に、大音量で楽曲のメロディーを奏で始める。普段のみくるならば、ウキウキとした気持ちに突き動かされるまま、自然な素振りで元気よくダンスを始めるところだが…。動揺に支配された彼女は、白痴のようにキョロキョロと周囲を見回すばかりだ。

 「あ…」

 天におわす神聖な存在に助けを求めるように、やっとのことで小さな掠れ声を出した、その時。みくるの隣では、美月がメロディに合わせて体を動かし始める。

 もうライブは、始まっているのだ! そして、止めようもない!

 (と、とにかく、やらなくちゃ…! お客さんが見てるんだもん、やらなくちゃ…!)

 みくるも慌てて、美月に追随してダンスを始めるが…動揺が身体を蝕み、普段通りの活発なキレが全く見られない。

 それどころか、動きはギクシャクとぎこちないし、歌も音を外したり、テンポが遅れたりと、散々な状態である。

 

 一方、美月と言えば…普段通り、いや、普段以上の優美な動きと歌声で、会場の聴衆を虜にする。

 美しい星座ドレスに包まれた身体は、まるで氷の上を滑るように軽やかに動き、本物の妖精か天使が光臨したかな印象を与える。

 美月の歌声は決して力強くはないが、儚げな声音がダンスと相まって人の心を幻想の世界へと誘う。

 

 このステージにおいて、美月とみくるは、月とスッポンの関係にすらなり得ない。

 事実、聴衆の意識の中からはみくるの存在は消えているようである。彼らの熱い視線は、美月にばかり集まっている。

 たまにみくるを視界に入れた客は、ハッ、と鼻で笑い飛ばす冷笑を浮かべると、口直しを求めるように即座に美月へと視線を向けてしまう。

 

 みくるにとって、それはあまりにも惨たらしいステージであった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 ダブルエムの演目が終了し、ステージ袖へと引っ込んだ、美月とみくる。

 当然、みくるは即座に美月へと詰め寄る。足運びは地響きでも起こすかのように力に満ちており、真っ赤に染まった顔には恥辱と憤怒が泳ぎ回り、つり上がった眼には今にも(こぼ)れそうな涙の滴が溜まっている。

 「どうしてなのよっ!」

 みくるは美月の襟首を掴むような真似はしなかったが、その行動が見て取れるようなほどの、涙ぐんだ怒声を上げた。

 「どうして、2人の打ち合わせを無視したの!?

 本当は私が選んだマリンが気に食わなくて、星座ドレスを着たかったの!? それならそうと言ってくれれば、私も星座ドレスを着て揃えたのに!

 どうして、独りで勝手な事したのよ! 私たち2人でダブルエムだって言ってくれたの、美月でしょう! なのに、どうして、どうして…!」

 怒鳴りながら激情が極まったみくるは、とうとうボロボロと涙の滴をこぼし、嗚咽を上げて泣き出してしまった。

 そんな様子を目の前にしても…美月はしかし、微塵の同情も謝罪の念も持ち合わせない。それどころか、ライブ開演直後に見せた、横暴なる女王の冷徹な視線を作ってみくるを見下しながら、感情を抑えた声を静かに唇に乗せる。

 「ええ。私には…ダブルエムには、夏樹みくるが必要不可欠よ」

 「そ、それなら…」

 「ただし」

 みくるの声を即座に上塗りした美月は、命乞いする死刑囚を笑う冷酷な処刑人のごとき、歪んだ微笑をニヤリと浮かべる。

 「隣で一緒に燦然(さんぜん)と輝く星としてではなく。地球に対する月のような存在としてでもなく。

 私という存在が更なる高みに立つための、踏み台として、だけどね」

 あまりにも、心無い言葉。それが鼓膜を震わせた瞬間、みくるの中から涙も怒りも消え失せ、真っ白な衝撃だけが脳内に広がる。

 呆然と立ち尽くすばかりのみくるの有様を見た美月は、腹を抱えてゲラゲラと声を立てて笑い出す。

 「もしかして、ショックを受けているの? まさか、私とあなたは対等な関係だと、本気で思っていたワケ?

 おめでたい頭! そんなワケないじゃない! 冷静に、客観的に考えてみてよ!

 片や、物言わぬ草花ばかり相手にするような、地味で根暗な花屋の娘。そして片や、幼い頃から芸能界の頂点に君臨し続けてきた至高のアイドル。

 そんな2人が、どうして対等でなんかあり得るワケ?

 それとも、アレかしら? あなたはシンデレラのつもりで、私というガラスの靴を持ってきた王子様が見初(みそ)めてくれたとでも思ったワケ? そんなおとぎ話は、幼稚園か保育園の頃にとっくに卒業してなさいよね!」

 暴言と言って差し支えないような、あまりに人を見下した物言い。そのトゲがグサリグサリと胸中に深々と刺さりまくった結果、ようやくみくるは苦痛によって真っ白い意識から我を取り戻す。

 ヒクヒクと頬を震わせながら、タジタジとした様子で美月へ問いかける。

 「そ、それなら…なんで美月は、わたしの事を芸能界に誘ってくれたの…?」

 「決まってるじゃない」

 美月は高慢な態度で腕を組み、光の灯らぬ半眼でみくるを睨む。

 「中卒もそこそこに花屋に勤しむような脳足りんなバカなら、利用しやすいと思ったからよ」

 「…!」

 みくるは何も言い返せない。彼女は現在、17歳。通常なら、高校生活を送っている年齢であるが、彼女は進学せずに就職する道を選んだ。そこには彼女なりのやむを得ない事情があったのだが、(はた)から見ればどんな理由であれ、中卒である事実は動かない。

 「…そ、それに…さっき、ライブの前に、打ち合わせで、私が選んだマリンを、あんなに気に入ってくれてじゃない…。それって、演技だったワケなの? だとしたら、どうしてそんな事…」

 美月は、フッ、と鼻で笑うと、瞼を伏せると、「そうね…」と言いながら、暫し言葉を選ぶ。

 そしてゆっくりと眼を開くと、形の良いほっそりとした人差し指をピンと立てて、こう語る。

 「中卒のあなたにも分かるように、こう例えればいいかしら。

 ゴキブリとアゲハチョウを並べると、どんなに虫嫌いな人でも、アゲハチョウを見て安心するし、その美しさを認めるでしょう?」

 この言葉に、みくるは雷に打たれたかのように身を震わせると。愕然とした悲哀の表情を一変させ、大火が燃え上がる憤怒を露わにする。

 「それって…私のこと、ゴキブリだって言いたワケ!?」

 火を吐くような激しい言葉をぶつけられても、美月は涼しげな態度で、オバサン臭く手のひらで宙を叩きながら応える。

 「いやねぇ、例えだって言ったじゃないの、例えだって。

 でもまぁ、その名のごとく太陽みたいに輝く衣装でパフォーマンスを見せたソレイユを見た後で、あんな地味なマリンを推す感性は、確かにゴキブリっぽいわよね」

 「美月ぃっ!」

 みくるの激怒は、ついに爆発した。ズカズカと強い足取りで美月に詰め寄ると、彼女の襟首を掴み上げる。そして睨みつける彼女の表情は、とてもではないがアイドルとは呼べない。剥き出しにした歯が牙に見えるような、獰猛な雌獣の表情そのものである。

 普段の明るく元気なみくるからは想像もつかない壮絶な表情を前にしても、美月はあくまでも沈着冷静だ。それどころか、表情には余裕を通り越した揶揄すら見て取れる。

 「みくる、凄い表情ねー。

 その勢いで昼ドラのオーディションを受けたら、一発で合格でしょうよ」

 「こんな状況でも茶化し通すなんて、どういう神経してんのよ、あんたっ!

 私は本気で怒ってンのよっ! あんたのこと、八つ裂きにしたくなるくらいに怒ってンのよっ!

 それを、何面白がってンのよっ!」

 「だってみくるったら、ゴリラみたいな表情してるんですもの。

 あっ、ゴキブリもゴリラも、どちらも"ゴ"で始まる言葉ね。なんか上手い事言った気分だわ」

 「ゴキブリだのゴリラだの、いつまで人の事を蔑めば気が済むワケ!?

 トップアイドルなら、何しても許されるってワケ!?

 ふざけんじゃないわよっ!」

 みくるが怒りの炎を強めれば強めるほど、美月の涼しさは更に冴えてゆく。あまりにも対照的な2人の有様は、まさに火と氷の関係。同じユニットを構成しているメンバーとは思えぬ齟齬(そご)ぶりである。

 さて、美月は、ハァ、と冷たい嘆息を吐くと。光を全く放たぬ絶対零度の視線をみくるに突き立てる。

 「まぁ、からかうのはこの辺にしておくとしておくとして…。

 真面目な話、あなたが私を怒るのはお門違いも良いところよ」

 「なんですって!?」

 みくるは冷笑を浮かべ、襟首を掴むみくるの右腕にソッと手を添えながら諭す。

 「あなたは今まで、一介の中卒の花屋のアルバイトに過ぎなかった。客受けは良かったとは思うけど、だからといってあなたの名が響くのは、せいぜい一地域程度。

 それが今、私という太陽と共に居ることで、世界レベルで名を轟かす存在になろうとしている。

 単なる一介の花屋から、未来永劫に語り継がれる伝説のアイドルユニットのメンバーとなったシンデレラ・ストーリー。踏み台だろうがゴキブリだろうが、あなたは黄金の存在として、人に崇め奉られる存在になるのよ。

 そのきっかけを作った私のことは、憎き敵どころか、大恩人と思ってもらわなくてはね。

 それとも…」

 美月の、子供をあやすような、腐り果てるような甘ったるい(ささや)きは、みくるを大きく動揺させたようだ。美月の襟首を掴む腕がプルプルと震えて力を失っている。

 そこで美月は、トン、と軽くみくるの腕を押し、襟首から退()かしながら、鋭い釘の如き一言をグサリと突き刺す。

 「今この場を(もっ)て、ダブルエムを解散させる?」

 みくるの憤怒の顔が泥のように解け出し、ブワリと冷や汗が噴き出す。

 その話は、みくるにはあまりに恐ろしかったのだから。

 みくるは、今の生活を気に入っていた。人々の興奮の視線を集めるアイドルとしての立場は、正直、とても気持ちの良いものだ。おかげで、大好きな花屋の仕事の方にも好影響が出て、それまででは考えられないような遠方の大口顧客まで得られるほどになったのだ。

 そんな絶頂期と言っても良い今、アイドルという立場を失ってしまったら…。アイドルとしてのキャリアが極々短い彼女は、あっと言う間に世間から名を忘れられることだろう。花屋の集客効果も、きっと失われてしまうはずだ。元の細々とした生活に戻ってしまう。

 ――そんなのは、絶対に嫌だ。

 ――だからと言って、今の立場を守るために、卑下されることに甘んじ続けるというのは、果たして正しい人生なのだろうか?

 みくるの胸中に、激しい葛藤が芽生え、憤怒は嵐の中のペラ紙のように彼方へすっ飛んでしまった。

 「わ、わたし…」

 全身を戦慄かせ、その場にへたり込んでしまう、みくる。そんな彼女を物理的にも高慢に見下す美月は、サラリとロングヘアを掻き上げると、クルリと踵を返す。

 「…そろそろ、私たちの評価、出る頃ね。私、先にステージに行ってるわ」

 そして2、3歩と足を進めた、その直後。ピタリと足を止めた美月は、振り向きもせずにみくるに声をかける。

 「…賢い人間なら、そんなに深く考えなくともベストの選択肢を取るでしょうに。だって、考える必要がないほど、明白なんですもの」

 そして美月は、ステージへとその姿を消した。

 独り残されたみくるは、しばらく無言でへたり込んだままだったが…やがて自らの身体を掻き抱くと、うっうっ…と小さな嗚咽を漏らして、ボロボロと涙を(ボロ)すのであった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 ライブ用の風景描画ホログラムが片付けられたステージは、今や無機質な細長い長方形となっていた。ライブの名残を見出せるのは、背後に設置された巨大なディスプレイに映し出されている、ソレイユとダブルエムの華やかなロゴだけだ。

 美月がステージに登場した時には、ソレイユの3人は既に並んでいた。彼女らはライブ用の衣装ではなく、スターライト学園の制服に身を包んでいる。

 一方の美月も、アイカツ・システムによるドレスは当然解除しており、別の衣装で身を包んでいる。その衣装は派手さを感じさせない、清楚で可憐な印象を与える柔らかなピンク色のドレスである。

 ステージ上の所定の位置に立った美月は、観客席に向かって挨拶とばかりに笑顔を振り撒く。それはまるで、雪解けの時期に入ったばかりの早春、冷えた大地を暖かく照らす太陽のように穏やかな微笑みだ。聖母の名画と比肩しても、決して恥じることのないものだ。

 

 ほんの先刻、己のパートナーに対して高慢で辛辣な言葉をぶつけていた人物とは、到底思えない出で立ちである。

 

 美月が登場した直後、ライブの司会は早速対決の結果を発表しようと口を開こうとしたが…夏樹みくるの姿がないことに気付き、目をパチクリさせる。

 何かトラブルでも遭ったのか、と美月に視線を走らせるが。彼女の落ち着き切った出で立ちを目にすると、それは有り得ないな、と確信する。

 ――着替えに手間取っているのだろう。そんな自己結論に達した司会は、そのまま暫く無言で待機するが…。

 5分が経過してもみくるが登場せず、観客たちがイベントの進行停止によって苛立ちと不安のざわめきを上げ始めると。司会も流石に現状を看過できなくなり、後ろで控えているスタッフにみくるの様子を見てくるように指示を出そうとした…その時。

 ようやく、みくるがステージに姿を現した! ほっと胸を撫で下ろす司会であるが…それも束の間、再び表情を曇らせる。

 ライブ用ドレスから着替えて、美月に比べると幾分か派手でスポーティな印象を与える衣装に身を包んだ彼女であるが。その衣装とはあまりにも対照的な、惨めなほどに暗く、ションボリと(しお)れた表情をしているのだから。

 (今回のライブでも、動きがぎこちなかったし…調子でも悪かったのかな…)

 司会は胸中で気遣うものの、今は大勢の観客を前にした大ステージの締めである。表立ってみくるの心配をして場の熱気を冷ますワケにもいかない。

 そこで彼は、気を取り直すためにコホンと小さく咳払いを挟むと。思い切り息を吸って、元気に声を張り上げ、自分の仕事に取りかかるのであった。

 

 この場で司会が伝えることは、2つである。ダブルエムのライブに対する観客の評価と、対決の勝敗だ。

 ソレイユのライブの評価は、既に出ている。だから、ダブルエムの評価が出れば、司会が言うまでもなく、観客は勝敗を(さと)ることとなるだろう。

 ディスプレイには、水平方向に平行に走る2本のバーが現れる。観客の評価を集計した結果を数値化し、図示したものである。上のバーはソレイユの、下のバーはダブルエムの評価を表している。

 ソレイユのバーには、彼女らへの評価が描画されているが、その勢いは凄まじい。バーの満タンにかなり近づくほどの、素晴らしい高評価である。これを越えるとなると、完璧なる満点にほぼ近い評価を受けねばならない。

 相当な困難のはずだが、美月は一片の不安も抱かずに、自身の勝利を確信していた。

 (やはり、今のタイミングでソレイユを対決相手として指名して正解だったわ。

 ただでさえ長いブランクを持つソレイユ、それに加えてメンバー個人個人の仕事量も激増している。十分なレッスンも受けられず、そして生真面目なあの()達のことだもの、スケジュールを(おろそ)かにするような真似は決してせず、何一つ捨てずにこなしてきたのでしょうね。お陰で、身体の疲労はピークに達しているはずだと、計算していたけれども…。

 星宮がまさかのステップミスをしてくれたのは、嬉しい誤算だったわね。

 昨今のアイドルオタクは目だけは無駄に肥えてるもの、霧矢や紫吹がいくらフォローしようとも、致命的なミスとして見えたはずよ。

 …フフッ、やっぱり流れは断然私の方に寄っているわ」

 一方、自らのダブルエムを鑑みれば――みくるの気の入っていないパフォーマンスが足を引っ張っており、ソレイユの自らをどうこう言える立場ではないはずだが…。これに関しても、美月には勝利への確信的な打算がある。

 (ダブルエムは2人ユニットとは言え、世間が注目しているのは、この私のみ。

 事実、さっきのパフォーマンスでは、観客の大半が私に目を注ぎ、みくるなんて大した注目を受けていなかった。

 ダブルエムとは、実質、私を見るためのユニットなのよ。私さえ完璧に演技をこなせれば、評価は必ずついてくる。

 むしろ、みくると言う踏み台が有れば、私の演技は更に輝き、評価を高めることでしょうよ)

 己の打算に酔いしれた美月は、観客たちにあまり目立たぬよう、深く深く息を吸い混み、大きく胸を膨らませては吐き出す。もはや彼女の胸中には、勝利の興奮しか存在しない。

 (さあ、司会。私の勝利の宣言しなさい。

 そして、アイカツ界のトップは不動の私であることを知らしめると共に、私が不在の間、良い気になってトップの座に浸っていた星宮の心を完膚なまでに打ち砕くのよ!)

 美月の胸中の命令に従ったかのように、タイミング良く司会がディスプレイを示して、興奮に満ちた声をマイクに響かせる。

 「果たして、勝負を制したのはどちらなのか!

 いよいよ、ダブルエムの評価の発表です!」

 高らかな司会の声が終わると同時に、ダブルエムの評価を表すバーにゲージが溜まってゆく。

 

 そして…数瞬の後のこと。

 「おおっと、これはっ!!」

 司会が、これまで以上の大きな声を上げる。単に場の雰囲気を盛り上げるための叫びではない。彼自身の純粋な驚愕が込められた叫びである。

 この瞬間、驚愕したのは司会だけではない。観客席を満たす観客たちも、ステージ上のソレイユも、ディスプレイが映す結果に驚きを隠せず、目を丸く見開いている。

 中でも、誰より驚きを見せているのは――美月だ。その限界まで見開き、瞳をフルフルと小刻みに動かす眼の有様は、幽霊や宇宙人を目にしてもここまで衝撃を受けまい、というほどの極めて愕然とした様子である。

 

 誰もが驚愕する結果を見せる、ディスプレイの映像。そこに描画されているのは…。

 「なんとっ、ダブルエム! ゲージがあまり伸びないっ!」

 そう、ダブルエムの評価を表すバーは、半ば程度のところで伸びが止まっていたのだ!

 

 勝敗は、誰の目にも明白である。

 

 「これは、ソレイユの圧倒的な勝利だぁ~!」

 司会が声帯を壊すのではないか、というほどの興奮を込め、声を裏返しながら叫ぶと。観客席から、会場の屋根を吹き飛ばさんばかりの大歓声がワァッと上がる。

 ステージ上では、ソレイユの3人が跳ね上がり抱き合い、無邪気な子供のようにはしゃいで勝利を喜び合っている。ここまで興奮するのは、当然のことだろう。アイドルランクでトップクラスを誇るいちごですら、直接対決で美月を下したことはなかったのだ。毎度毎度、後一歩というところで届かず、涙を飲んだ事が何度あっただろうか。

 その今までの無念を、痛快なまでに晴らすかのような、圧倒的な評価差による大勝利。これに興奮を感じないワケがないだろう。

 司会が早足でソレイユに近寄り、早速勝利のインタビューを始める。いちご達はそれぞれ、ユニット名である"太陽(ソレイユ)"そのものの、燦々(さんさん)たる眩しい笑顔で喜びを伝える。

 「夢みたいです! 今のアイカツ界のトップを走るダブルエムに、勝つことができたなんて!」

 「正直、ライブまでの間、レッスンの時間も取れずに不安だったんですけど…! これも、3人で支え合って努力してきた結果だと思います!」

 「私たちのことを応援してくれた、そして待っていてくれたファンの皆さんにも、感謝を伝えたいです。こんなに盛り上がってくれて…本当に、ありがとうございます!」

 勝利のインタビューはまだまだ続き、観客席からはソレイユやそのメンバーの名前の呼ぶコールが津波のように何度も何度も押し寄せる。実質的なアイドル界の頂上対決で、真の栄光を掴んだものだけが得られる名誉である。

 

 一方で…。

 (何…何よ…何なのよ、この結果はっ!)

 歓声に沸く会場の中で、独り黒々とした感情の火柱を上げているのは、美月である。

 彼女は人前とのこともあり、爆発させたい感情を無理矢理に抑え込んではいるものの…。あまりに烈しい感情は、理性を貫いて顔の筋肉を突き動かし、鬼の形相を作り上げていた。ギリギリという歯軋りが聞こえてきそうなほど噛みしめられた口には、歯が突き破った唇の一端から流れ出す一筋の血液が映える。まるでそれは、煮えたぎった地獄の炎の川を思わせる。

 (完璧な私が選ばれず、何故、ミスを犯した星宮がっ! ソレイユがっ! 選ばれるのよっ!!)

 美月の鬼面など誰も意に介さず、ソレイユへのインタビューはますます熱を帯びて続いてゆく。

 この場において、単なる背景と化した美月は、ギリリと拳を握りしめると、プルプルと全身を震わせながら(うつむ)くのであった。

 その隣ではみくるが、チラリと美月のことを眺めると、一つ小さく嘆息。そして、ソレイユの方へと羨望と小さな寂しさを込めた視線を向けると、暖かい拍手を送ったのだった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 対決ライブの全日程が完了して――。

 観客の姿が消えた会場は今、スタッフが総動員で片付け作業に入っている。

 通常、この作業は主演のアイドル達が関わらない部分であるが…。星宮いちごを初めとしたソレイユに加え、観客として参加していたスターライト学園およびドリームアカデミーの友人たちも、片付け作業に手を貸していた。

 「いや…アイドルの皆さんにこういう裏方の力仕事をやらせるのは…どうにも、気が引けるよ…」

 今回のライブのプロデューサーは後頭部を掻きながら、心底バツが悪そうにそう語ったが。いちごはフルフルと首を左右に振ると、瞳を輝かせながら力説する。

 「私たちだって、このステージを作った一員です! だから、最後まで手伝わせてください!

 普段から私たちを支えてくれているスタッフの皆さんに、最後の後片づけまで投げて任せるなんて失礼な真似、したくないんです!」

 そんな台詞を真摯に、そして非常に楽しそうに語るのだから、プロデューサーは拒めるワケがなかった。

 今やいちご達は、「アイカツ! アイカツ!」と言う威勢の良い掛け声を上げながら、モップがけをしたり、小道具を片付けたりしている。

 そんな健気で元気な少女達の姿を目にしたスタッフ達は、今回のライブに携われて本当に良かったと思うと共に、彼女らのことを心底応援したい気持ちになるのだった。

 そして会場は、爽やかな笑顔に溢れる中で、汗を輝かせながら片付け作業が進むのであった。

 

 その一方で…。

 ダブルエムの状況と言えば、ソレイユの爽やかさに比べるとあまりに悲惨なものであった。

 夏樹みくるは、ライブが終了してすぐに、トボトボとした足取りでまっすぐに待合室に入ると。すぐに荷物を纏め、最低限のスタッフへ挨拶をして回ると、すぐにライブ会場を後にしてしまった。

 挨拶回りをするみくるの表情ときたら、"陰のある"という表現が余りにも優しく聞こえるような、奈落の失意に満ちた暗澹たるものであった。これをみたスタッフ達は口々に、

 「…大丈夫なのかな、みくるちゃん」

 「ライブ中も、動きがおかしかったし…具合でも悪いのかな?」

 「それとも、負けたのがよっぽどショックだったのかな…」

 と、心配の呟きを交わすのであった。

 そして、神崎美月は、と言えば…。

 「クソッ! クソッ! クソォッ!」

 王族のような気品に溢れるトップアイドルの気風はどこへやら。口汚い罵声を独りで上げながら、ヒールの爪先で、待合室のソファの足をガンガンッ! と蹴りまくっている。

 この時の美月の表情ときたら、額には角、口元からは大きな牙が覗いているのではないか、と錯覚させるほどの鬼の形相である。

 「なんでっ、なんでっ、この私がっ! あんな小娘どもにっ!

 クソッ、クソッ、クソォォッ!」

 ドゴンッ! 強烈な蹴りがソファに抉り込まれると、ソファが溜まらず衝撃で小さく宙に飛び上がった――その時であった。

 コンコン。乾いたノック音が、ダブルエムの待合室に響き渡る。

 「はい、誰よ!?」

 粗暴に尋ねる美月の口調は、暴走族と連んでいるガラの悪い女のような酷いものであった。

 対して、ノックの主は美月の酷い声に全く臆することなく、堂々とした態度でガチャン! とドアノブを回し、ツカツカとヒールの音を響かせながら入室してくる。

 こうして、美月の眼前にやってきた人物とは…。

 「織姫学園長…」

 美月が、態度の悪い半眼で睨みつけながら、来訪者の名を呼ぶ。

 そう、美月を訪ねて来たのはスターライト学園の学園長、光石織姫である。

 織姫は薄く笑むと、オレンジ系のルージュで彩られた唇から、懐かしむような、それでいて茶化すような言葉を漏らす。

 「あら、今でも私のこと、学園長と呼んでくれるの?」

 これに対して美月は特に反応を返さず、苛立ちに歪んだ唇から別の話題を(トゲ)のように打ち出す。

 「一体何の用なの?

 無様に負けた私を笑いに来たの?」

 「それであなたの目が覚めるのなら、私はいくらでも笑ってあげるわ」

 「私の目が…覚める、ですって?」

 美月は眉を寄せて怪訝な表情を作ったかと思うと。唐突にパァンッ! と両手を合わせると、アイドルにあるまじき、狂気さえ感じさせるような馬鹿笑いをゲラゲラと張り上げる。

 「何それ!?

 まるで私が、気でも違ってるみたいな言い方じゃない!?」

 ゲラゲラと笑い続ける美月を眼前にした織姫は、悲しみと呆れの混じった様子でゆっくりと目を閉じ、ハァ…、と嘆息する。そして、伏し目がちに眼を開くと、囁くような脱力しきった言葉を投げ掛ける。

 「あなたには随分失礼な言い方かとは思うけれど…そうね、その通りだわ。私には、あなたが気でも狂ってしまったようしか見えない」

 続けて織姫は、パッと目を見開くと…悲劇役者もかくやと言わんばかりの、激しい悲哀の表情を顔に貼り付ける。

 「一体どうしてしまったと言うの、美月!

 あなたはとても素晴らしい、ユニークなアイドルだった言うのに…! どうしてそんなに落ちぶれてしまったの!?

 このままでは、トップの座どころか、アイドル人生そのものがダメになってしまうわ!

 今ならまだやり直せる! 何か悩みがあるのなら、私が力になるわ! だから、ワケを話して! 何があなたをこんな風にしてしまったの!?」

 織姫の発言の始終、美月は全く理解不能な言語でも耳にしたかのように、今にも"はあ?"と言わんばかりの表情を作って首を傾げていたが。織姫の言葉が終わった途端、合点がいったのか、はたまたは降参の合図か、再びパァンッ! と手を打ち鳴らして、ゲラゲラ笑う。今度は腹を抱えて身をよじらせての、大馬鹿笑いだ。

 ひどく戸惑う織姫が、オロオロした様子で美月を眺めていると。たっぷり十数秒の後、美月はようやく笑い声を収め…そして一転して顔に張り付けたのは、地獄の鬼もかくやと云うほどの、憤怒の形相だ。

 「一体どうしたか、ですって?

 そして言うに事欠いて、私の気が狂ってる、ですって?

 冗談じゃないわ! 正気も正気、私は大真面目よ!

 もしも私が狂ってるのならば、そうさせたのは織姫学園長…いいえ、光石織姫、あなたよ!」

 突然の指摘に、織姫は絶句と共に首を傾げる。

 「私…? 私があなたに…何をしたと言うの?」

 「私は、あなたの言葉に! 教えに! 忠実に従って行動してるだけよ!」

 ――言葉? 教え? そう言われても、織姫の琴線に触れるものはサッパリ思い浮かばない。

 オロオロと視線を泳がせているうちに、美月は激情の言葉を爆発させる。

 「忘れたなんて言わせないわっ!

 私の魂に! 人生に! 深く刻み込まれた、あの一言を!」

 

 そして美月が織姫に語り聞かせたのは、次のような過去の出来事であった。

 

 美月がまだ、スターライト学園の中等部に入って間もない頃のことだ。当時からして既に、人気絶頂のトップアイドルとして世間に知られていた彼女は、そのあまりに突出した才能によって、同学年の生徒達から別世界の住人のように扱われていた。別に嫌われていたり、イジメられたりしていたワケではないが、近寄りがたい存在として敬遠されていたのである。

 ゆえに、授業以外の時間では、美月は常に孤独であった。しかし、彼女自身は特に寂しさを感じなかった。

 むしろ、当時から野望に燃えていた彼女としては、平々凡々な有象無象と無駄な関わり合いを持たずに済むので清々する…くらいにしか感じていなかったのである。

 そんな彼女が放課後、仕事が入っていない時には、決まっていつも訪れる場所があった。

 そこは、スターライト学園の卒業生の中でも、芸能界で太陽のごとく輝きを残したアイドル達の立像が設置されているホールである。

 その最奥には、スターライト学園の創始者である光石織姫も片翼を担っていた伝説的アイドルユニット、マスカレードの像もある。

 美月のお気に入りの場所は、そのマスカレードの立像の前である。

 今にも動き出しそうな躍動感を持つ像の前に立っていると、マスカレードの息吹が自身の中へと入り込み、その力にあやかれそうな気分になるのだ。

 (私もいつか、マスカレードと並ぶような…ううん、マスカレードを越える、唯一無二の伝説のアイドルになりたい…。いや、なってみせる…!)

 業界の偉大なる先輩の姿を前にして、美月はいつもその志の炎を胸の内に灯し、拳をギュッと握るのであった。

 ある日、美月がいつものようにマスカレードの像を眺めていると、背越しに柔らかな声が掛けられた。

 「いつもここに来ては、その像を見ているわね。とても気に入ってくれているようで、嬉しい反面、本人としてちょっと恥ずかしいわね」

 振り向くとそこには、光石織姫の姿があった。

 この頃の美月は、まだ入学して間もないという事もあり織姫とさほど深い関係を築いていなかった。だからこそ彼女は、マスカレードの本人と接触できる数少ないチャンスだと思い、単刀直入に尋ねたのである。

 「学園長。どうすればマスカレードのような、伝説的なアイドルになるんでしょう?」

 その問いに、織姫は目を伏せて「ん~」と小さく唸り、考え込む。

 「そうね…一概には何とも言えないけれども…。

 ただ一つ、私から言えることは…」

 織姫はスッと目を開き、微笑みながら答える。

 「伝説は、1人では作れない…ってことかな」

 「1人では…作れない…」

 美月は織姫の言葉を深く、深く味わうように、舌の上に乗せて反芻するのであった。

 

 「あの頃の私は…」

 美月はスッと目を細め、遠くに去った過去へと視線を向けながら語る。

 「あなたの言葉の意味が、よく分からなかったわ。

 単に、アイドルはソロ活動では人気が頭打ちになりやすいのかな、とか…ファンと一緒に人気を作って行くものなのかな、とか…そんな程度のことしか思いつかなかったわ…」

 「ファンのお陰、というのは確かにあるわ」

 織姫が口を挟む。

 「どんなに良いパフォーマンスが出来るアイドルでも、応援し支えてくれるファンの皆様が居なければ、独り善がりの自己満足で終わってしまうもの」

 織姫は、ライブステージで見せた美月の独善的なパフォーマンスへの非難込め、(トゲ)を含んだ言い方をしたのだが…。

 美月の心には、いや、鼓膜にすら、棘が突き刺さる事はなかったようだ。

 美月はムッとしてみせるどころか、完全に自己陶酔の世界に浸り、天を求めるトランス状態の巫女のように両手を頭上に突き出し、喚き出す。

 「でも、今は違うわっ! あなたの一言を! 完全に! 理解しているわっ!」

 そして美月は、迫真の一人舞台を演じるようにコロリと表情を激変させ、ウットリとして蠱惑的な表情を作り、腰にしなを作りながら自らの身体を掻き抱き、言葉を続ける。

 「アイドルは、花やチョウと同じ。

 どれほど美しくても、それ1つだけが世界に存在するだけならば、誰もその美しさを理解しない。対比する汚いものがあってこそ、花もチョウも人に有り難がられる。

 神崎美月という花の、神崎美月というチョウの、美しさを際だたせるためには、すぐ隣に居て凡庸な美…いえ、醜さをさらけ出す、対比対象が…踏み台が必要だったのよ」

 「美月、それは…!」

 織姫は何か言葉を挟もうと素早く発言したが、美月はそれを許さず、陶酔の世界に浸ったまま話を続ける。

 「その点、夏樹みくるはかませ犬として最高の人材だったわ。

 あまり醜すぎては、この神崎美月が目が腐っていると(そし)りを受けてしまう。そこそこに人から好感をもたれる、絶妙なルックスの持ち主だったしね。

 そして何より、単なる花屋からトップアイドルの片腕に抜擢された、というシンデレラ・ストーリーが、最高のスパイスになったわ。見る見るうちにグイグイとランキングを上げてゆくシンデレラ…人々はそれを凄い凄いと賞賛する。そしてそれ以上に、そんな逸材を自力で見出した私の眼力を、素晴らしい、神々しいと賛美するわ。

 その持て(はや)され方は、確かに、1人でアイカツしていては味わえない素晴らしい恍惚だわ!」

 そして美月はまたもコロリと表情を激変させると、今度は気取った王族のような優越感に目を細めて、織姫へと優美な人差し指をビシッと向ける。

 「光石織姫、あなただってマスカレード時代、同じ恍惚を味わっていたのでしょう?

 あなたにとって、相方のミヤは、踏み台だったのでしょう? ミヤを散々踏み倒した結果に得たのが、今の地位なんでしょう?

 ミヤがアイドル業界を去ったのは、散々踏まれ続けて、ポッキリと心がおれてしまったから…かしらねぇ?」

 美月が質問で言葉を締めくくり、ようやく織姫に発言権が与えられる。織姫は不愉快さが滲む咳払いを一つすると、刃物のようにギロリと剣呑に輝く鋭い視線で美月を睨みつけ、彼女の言葉をバッサリと斬り捨てる。

 「あなたは、私の言葉の意味をはき違えているわ。私は、そういう独善的な意味で込めたつもりはないわ。

 それに、ミヤのことだけど、私は彼女のことを一度も踏み台なんて思ったことはないわ。でも仮に…ミヤが私の踏み台だったとしたら、私もまた、ミヤの踏み台だったでしょうね。私たちは、互いに互いをより高い位置に引き上げ合う関係ではあったのだから」

 その台詞を耳にした美月は、やはり理解不能とでも言うような様子でポカンとしていたが…やがて、唐突に腹を抱えてゲラゲラと笑い転げる。

 「そうか! そうなのね! やっぱりそうなのね!

 あなた達はやっぱり、噂通りだったワケか! 濃厚なレズ関係だったわけなのね!」

 織姫は、ハァ、と深い嘆息を吐くと、再びギロリとした視線を取り戻して、キッパリと語る。

 「何故あなたは、そんな歪んだ悲しい見方しかできないのかしら?

 …確かにね、学園の生徒達は、私のことをレズじゃないかって、ミヤの事を待ってるんだって、疑ってるわよね。

 まあね…私は良い歳して未婚だし、若い女の子ばっかり集める学校を創ってトップに収まってるからね、そういう噂をされても仕方がないとは思ってるわ。

 でも…ハッキリ言わせてもらうけど、私はそんなんじゃないわ。

 ミヤは…本人の意向もあるから、詳しいことは言えないけれど…彼女はもう、既婚者よ。もちろん、お相手の方は男性。今では母親になっているわ。私はそんなミヤの結婚式にも顔を出したし、純粋に彼女の幸せな今を歓迎している。その中に、後ろめたい恋慕の気持ちなんて一欠片もないわ。

 それに、私もね…今は、学園の仕事で手一杯で他のことに手が回らないけれども…互いのことを認め合えるような素敵な男性が現れたら、是非ともお付き合いしたいと思っているわ」

 非常に常識的で清廉な回答に、美月は面白くなさそうに…いや、それどころか、即座に唾棄するかのような嫌悪の感情を浮かべて、眉根に深い皺を刻む。

 「何よ、その善人面全開の模範解答? アイドルレベルどころか、下賤(げせん)なお笑い芸人どものレベルから見ても、全く笑えない、詰まらない言葉ね!」

 言いながら美月は、見下すような揶揄を込めて眼を弧状に曲げてみせる。

 「ああ、そっか。まがいなりにも、教育者だものね。

 枕営業を繰り返して手に入れたその立場であろうと、生徒達の手前、そんな汚い現実は晒せないわよね。

 でも、もう私はあなたの生徒じゃないのだもの。遠慮なんかせずに、ズッパリと本音を言えば良いのに」

 織姫の言葉を虚偽と決めつけてヘラヘラと語る様子に、織姫は深い、深い嘆息をハァ…と漏らす。そして首を左右に振りながら、多大な失望を表情に露わに浮かべる。

 「…美月。あなたはアイドルとしてどころか、人としての大切な事すら忘れてしまったのね」

 対して美月は、ハッ、と鼻で笑い飛ばす。

 「大切な事を忘れたぁ? それがなんだって言うのよ?

 今回はみくるの馬鹿が足を引っ張った所為で勝ちは逃したけれども、パートパーカップでは私、優勝しているのよ? オバサン、ちゃんと覚えているのかしらぁ?

 あなたがどうのこうの言おうと、私は私のやり方でトップを掴んでいるのよ? 実績を残しているのよ?

 そして、あなたの教え子達はことごとく、私に敗北したのよ? 徹底的に、無様に、反論の余地もないくらい決定的にね!

 そんなあなたが、私に対して偉そうな口を聞ける立場にあるワケ?」

 この嫌味に対して、織姫は素直に首を縦に振って肯定する。

 「確かに、パートナーカップでのあなた達は素晴らしかったわ。

 でもね、美月。あの時の成功が、あなただけの力によるものだと考えているのだとすれば、勘違いにも程があるわ」

 「…それってつまり、あなた達の生徒は私に花を持たせるために、手加減をして臨んでいたって言いたいワケ?

 言い訳としては、三流以下ね」

 "呆れた"と言わんばかりの態度で、両手を肩の高さに上げて首を左右に振る、美月。しかし織姫は怒りも苛立ちも覚えず、静かな表情のまま首を振って否定する。

 「本当に歪んだ考えばかりするようになったのね、美月。

 私は言い訳なんてしてはいない。私やティアラ学園長の生徒達は、持てる全力を出しきっていた。その事を取り繕うつもりなんて毛頭無いわ、あの()達にも失礼ですもの。

 …私が言及したいのはね。あの時のあなたと夏樹みくるの関係について、よ」

 「私と、あの踏み台のこと?」

 "踏み台"という心無い言葉に織姫はピクリと片眉を釣り上げたが、今はその事を指摘することはせず、淡々と美月の言葉に首を縦に振る。

 「あの時のあなたは…今思えば、今後の布石のための打算で、全て素振りだったのかも知れないけれど…それでも実質的には、夏樹みくるのことを思いやって接してきた。

 夏樹みくるは、生来のアイドル的素質のある()だったと思う。そこに、あなたの思いやりが合わさることで、更なる高みに昇ることができた。

 そして美月、あなたも彼女によって引っ張られ、より高い所へ昇ることができた。

 素振りであろうと何だろうと、2人が良好な関係にあることで、二重螺旋のように互いを高め合えた。だからこそ、あなた達はパートナーカップで最高の輝きを放つことが出来たのよ。

 あの輝きは、私たちマスカレードにも匹敵する…いや、それ以上かも知れない、本当に素晴らしいものだったわ」

 「当然よ。この私がプロデュースしたユニットですもの」

 美月は高慢に口角を釣り上げ、極めて自慢げに語る。対する織姫は、そんな美月の言葉に呆れ切った様子で眉を曇らせると、もう何度目になるか知れぬ嘆息を吐く。

 「そのあなたがプロデュースし、打算に打算を重ねた今回のライブは、はっきり言って無様そのものだったわよ。

 パートナーカップの時とは、正に雲泥の差。目を覆いたくなるような出来だったわね」

 その非難に美月は、その名のごとき美しい満月の如き面立ちを、醜い憤怒と憎悪に歪める。

 「それは、あのクソみくるが踏み台としての役割を十分に果たさなかったからよ。私が完璧に徹していたと言うのに、あいつと来たら一線を越えてキョドりやがって…!

 どんなに出来映えの良い彫像でも、台座がブッ壊れたら、彫像までブッ壊れるっての! そういうこと、あいつの中卒のオツムじゃ思いつかなかったのよね…ああっ、ホントイライラするっ!」

 語っている内に苛立ちが募った美月は、とうとう抑えきれなくなり、下品にもソファに蹴りをドスッ! と叩き込む。

 あまりに酷い有様に、またもや織姫は、ハァ、と嘆息。そして非難を返すように、鋭い眼差しを美月に向ける。

 「今回の失態の責任は、夏樹みくるには全く無いわ。

 私はしっかり見ていたわよ。彼女、ステージに登場した時は、パートナーカップと同じくらい…いいえ、それ以上に輝いていたわ。

 なのに、あなたが星座ドレスで登場した瞬間、彼女は大きく動揺し、輝きを欠いてしまった。

 何が起こったのかは、私たち業界人でなくとも、素人目ですら十分に明白だったでしょうね。美月、あなたが夏樹みくるとの事前の打ち合わせを無視して、勝手に星座ドレスを身につけてライブに臨んだってことを。そのために彼女は混乱してしまい、晴れの舞台を台無しにしてしまった。

 ライブの足を引っ張ったのは、夏樹みくるではない…美月、あなたよ! 身勝手な行動に走ったあなたこそが、彼女の魅力を損ない、そしてダブルエムというユニットの輝きを曇らせたのよ!」

 「…!」

 美月はギリリと歯を軋ませて織姫を睨みつけるが、反論の言葉が咽喉(のど)から飛び出すことはなかった。もしかすると、美月は無意識的に今回の失敗の原因を自覚していたのかも知れない。

 無言のまま、しかし反抗的な眼差しだけをギラつかせる美月に、織姫は悲しげに眉を"ハ"の字にひそめる。

 「あなたは、とても素晴らしいアイドルだった。これまであなたが築いてきた実績は、紛れもなく、あなたの輝きに寄るものよ。

 それが、こんな虚しくて卑しい打算で、全てが無に帰ってしまうのは…あなたの元教師としても、同じ業界人の先輩としても、悲しすぎるわ」

 「…」

 美月は相変わらず、無言のままだ。織姫の言葉を受けて、強がりながらも自省しているのか。それとも、(イラ)立ちを募らせたものの、反論の言葉が見つからないのか。

 織姫は前者の可能性に賭けたのか、落ちぶれた愛弟子に対して、こんな提案をする。

 「…ねぇ、美月。もう一度、私の所へ…スターライト学園へ、戻ってこない?」

 「…はぁ!?」

 やっとこのことで美月が口にしたのは、驚愕とも非難ともつかぬ、裏声がちになった叫びである。

 織姫は美月に言葉を次がせず、提案を畳みかける。

 「星宮や霧矢、紫吹たちだけじゃない。新しく夢を抱いたアイドルの卵達が、互いに競い合ながらも思いやり合い、自らも仲間達も高めていく姿の中に身を置いて、もう一度考えてほしいのよ。アイドルに本当に必要なものは何か、そして自分が失ってしまったものは何なのか。その答えは絶対に、見つかるはずよ。

 でも…トライスターの件で藤堂や一ノ瀬のことが気になるのなら…ドリームアカデミーに生徒として編入するでも良いと思うわ。

 何にせよ、初心に帰って、沢山の価値観と触れあうことで、あなたの素晴らしい輝きはきっと戻ってくるはずよ! だから…」

 続く織姫の言葉を許さず、美月は、ハッ、と鼻で笑って遮る。

 「この私に? 絶対的トップアイドルの地位に居るこの私に? 野に下って、平々凡々な有象無象の山猿どもの中に混ざって生活しろと言うの?

 冗談じゃないわ! あんな奴らから学び取れるものなんて、何もないわ! それどこか、凡人どもの匂いが移って、私の輝きが汚れるっての!

 それに…!」

 何か反論しようとしていた織姫の機先を取り、ビシッと人差し指を伸ばして指差した美月は、こう続けた。

 「私の目標は、伝説のアイドルと言われたあんた達、マスカレードを誰が見ても明白な形で超えること!

 なのに、あなたの背中を追うばかりじゃ、超えられるものも超えられないわよ!

 あの夢咲ティアラにしても同様、いや、それ以下ね! あいつは、あんたの背中を見て、ドリアカを創ったんだもの! いわば、劣化コピーよ! そんなものの力を借りて、どうなるってのよ!

 …私はね、自分の力で全てをもぎ取ってみせるわ! 誰の背中を追うこともない! 私だけの道を進んでね!」

 そう語りながら美月は、部屋の中を早々と動き回りながら荷物をまとめてゆく。

 「美月…! そんな孤独なやり方じゃ、絶対に伝説になんか…!」

 ようやく織姫がその言葉を絞り出した頃には。美月は部屋のドアの前に立ち、冷たく見下した視線で織姫を睨みつけながら、嫌味で粘るネットリとした言葉を静かに、しかし烈しさを込めて投げつける。

 「見てなさい、光石織姫。私は必ず、マスカレードを超える伝説になるわ。それも、極々近い内に、ね。

 この場で散々偉そうな事をヌかしてたあなたに、吠え面かかせてやるからね。

 …さて、もうこれ以上、あなたと無駄な議論をするのは時間の無駄でしかないわ。失礼するわね」

 「美月っ!」

 引き留める織姫の叫びを余所(よそ)に、美月は手早くドアを開くと、ツカツカ! とヒールの音を高く響かせながら足早に部屋の外へ出ると、バタンッと雷鳴のような音を立ててドアをぞんざいに叩き閉めるのであった。

 

 重苦しい静寂の中、独り取り残された織姫は、美月の残像を追っているかのように、じっとドアを見つめていた。

 そんな最中、ガチャン、と静かな音を立ててドアノブが回る。

 そして、少し遠慮がちに開いてゆくドアの向こうに、織姫は心を入れ替えた美月の姿を期待したが…現れた人物を目にした織姫は、落胆とまでは言わないが、寂しい笑顔を浮かべる。

 「…ジョニー先生ですか…」

 そう、入室して来たのは、ジョニー別府である。

 彼の表情は、いつものような陽気なものではない。酷く深刻で、そして織姫の表情と同様の寂しさを浮かべていた。

 「美月は、聞き入れなかったようですね」

 普段なら"美月ハニー"と気さくに呼んでいたジョニーであるが、ドア越しに2人のやり取りを耳にしていたのか、教え子の名を悲しげに呼び捨てにした。

 織姫は喪に伏したような、今にも涙が零れ落ちそうな瞳を瞼で閉じると、残念そうにゆっくりと首を縦に振った。

 「…きっと、私の因果応報ね」

 ゆっくりと瞼を開き、織姫は語る。

 「あの()は、その突出した才能ゆえに、他の生徒と馴染めずにいつも孤独だった。

 その代わりとでも言うように、あの()はいつでも、私と一緒に居るようになった。

 そんな行動からして既に、あの()の打算だったかどうかは、私には分からない。

 でも…子犬のようにずっと私の側ついて来てくれるあの()のことがとても愛おしくて、必要以上に贔屓(ひいき)してしまったのね。

 私は、あの()のやりたいことなら、ちょっと理不尽だと思う理性も飲み込んで、なんでも首を縦に振っていた。

 でも、本当に可愛いと思うのなら…大切な教え子だと思うのなら、なんでも言う通りにしてあげるよりも、ダメなものはダメと頬を叩いて上げることが必要だったのよ。

 でも私は甘やかし過ぎてしまい…結果として、身勝手で打算にばかり目の(くら)(むすめ)として、才能を腐らせてしまったのよ…」

 「学園長にだけ責任があるワケじゃありません。オレにも責任はあります」

 普段の"学園マザー"という軽い言葉を捨てて、ジョニーは堅苦しく述べて頭を下げる。

 「幼い時分からオレのことも頼りにしてくれた美月は、オレにとっても可愛い教え子でした。

 レッスンは、手抜かりなく厳しく教えましたが…その他の部分ではと言えば、甘々でしたよ。何にでもゴーサインを出して、彼女を変につけあがらせてしまったんです。

 学園長だけが、責任を感じる必要はありません」

 ジョニーのフォローに織姫はフッと笑いを浮かべたが、それは枯れ木のような弱々しいものであった。

 そして、笑みによって生じた頬の緩みと共に、涙腺も緩んでしまったらしく、閉じた瞼の隙間からジンワリと涙の滴が滲み出る。

 「…教え子が道を踏み外してしまった姿を見るのは、本当に辛いわね…。

 私は立場上、学園で努力し続けても花が咲かず、アイドル業界を去って行く生徒を何人も見てきたけど…彼女らは決して腐らず、いえ、輝いたまま私の前から去ってくれた。悲しいことではあるけど、私はその輝きに救われていた。

 けれど…こんな別れ方って…破滅に繋がる(いばら)の道に自ら落ちて行く教え子を引き留められず、ひたすらに恨まれて去られるのは…本当に、辛いわ…」

 今にもくずおれそうになり、嗚咽(おえつ)を漏らして泣き出してしまう、織姫。そんな彼女をジョニーはすかさず、力強い両腕で抱き留めると。織姫の前髪を優しく撫で上げながら涙を拭いてやる。

 そんなジョニーの逞しい行動に、織姫は幼子のようなキョトンとした表情を見せていると。ジョニーはいつも通りの陽気な笑みを見せて、ウインクする。

 「学園マザー。あなたの教え子は、美月一人だけじゃありません。

 あなたは今でも、数多くの教え子のマザーです。

 美月の件は、とても悲しいことですが…ですが、その件ばかりに捕らわれていては、美月贔屓(びいき)のままです。

 オレたち教師だって、人間です。失敗することもありますよ。

 今回の失敗をバネにして、今の教え子たちを導く。それがオレたちの使命ですよ!

 一人でも多くの()が、アイドル業界の星になれるように…!」

 そしてジョニーは最後に、元気付けのつもりかおどけたつもりか、親指を突き立てて「イェーイ!」と言葉を添える。

 その有様が面白いというより、心遣いの暖かさを悟った織姫は、涙の跡がキラめく表情で、フフフ、と笑ってみせた。

 「そうね…その通りね。

 ここで私たちが立ち止まってしまっては、生徒たちに申し訳ないものね。

 …ありがとう、ジョニー先生」

 

 それから2人はダブルエムの待合室を後にすると、並んでスターライト学園へと帰るのであった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 時刻は夕刻から宵へと差し掛かる頃となり、空は赤よりも濃紺色で広く染められていた。

 地平線の向こうへ沈んだ陽の光が僅かに巻雲に陰影を描く、幻想的にして物寂しい風景。その中で唯一、燦然と姿を映えさせるのは、半月より少し膨らんだ形状の月である。

 そんな月を呆然と見上げている人物がいる。夏樹みくるである。

 彼女は実家の花屋から比較的近い公園のベンチに座り、月を眺めたまま殆ど動かずに居た。

 公園の敷地内では、ポツポツと電灯が(とも)り始めていた。その光の中に浮き上がるのは、風のざわめきも立てない無言の立木ばかりだ。人の姿は全くなく、木々の陰に追いやられた遊具たちが人恋しげ放置されているのであった。

 みくるの態度は、この寂しげな公園の風景にあまりにも溶け込んでいた。溶け込み過ぎて、彼女が輝くアイドルであるなど、誰にも覚られないかも知れない。今の彼女は、人生の目標を全く見失い、(いたずら)に無為の時間を過ごす惨めな世迷い人にしか見えない。

 (お月様…綺麗だな…)

 ぼんやりと胸中で呟くみくるの頭には、特に何の考えも浮かんでいなかった。何も考えたくなかった。だから、月を見て感想を独りごちたのも、脊椎反射的な感想に過ぎなかった。

 だが…それが引き金になってしまったようだ。月という概念は、彼女のパートナー――いや、もはや"元"という冠詞が付くかも知れない――である美月の事を、否応なく思い出させる。

 そして、ライブ終了後のあまりに辛辣で惨たらしいやり取りもまた、否応なくフラッシュバックさせられる。

 (…!)

 みくるは声無く叫び、ギュッと眼を閉じる。胸中に浮かんだ考えを、視界と共に闇へと葬ろうとするかのように。

 そんな時だ――突如、聞き覚えのある穏やかな声に、名前を呼ばれたのは。

 「みくるさん」

 気怠く瞼を上げて、声のする方を見れば――そこには、残り少ない夕日を浴びて(きら)めく金髪を持つ美少女、星宮いちごの姿があった。

 「…あれ、いちごちゃん。どうして、ここに…?」

 寝惚けたような調子で尋ねるみくるに、いちごは花咲くような笑顔を浮かべて語る。

 「お店の方に顔を出したんですけど、みくるさん居なかったので。店員さんに尋ねたら、多分ここじゃないかって言われて、来てみたんです」

 「こんな所まで、わざわざ…?」

 みくるの花屋とスターライト学園とは、かなりの距離がある。対決ライブの会場からだと、ほぼ正反対の方角だ。

 「なんでそんな…あっ、いたた…!」

 ベンチの背もたれから頭を上げたみくるは、首に走るギクッとした痛みに耐えかね、首筋を手でさする。かなり長い時間首を固定してしまったために、首が凝り固まってしまったらしい。

 「大丈夫ですか!?」

 慌てて介抱しようと手を伸ばしてくるいちごに、みくるは手を振って答える。

 「大丈夫、お月様をずーっと見てたから、ってだけだよ。

 そんな事より、どうしていちごちゃん、こんな所に?」

 するとイチゴは、寂しさを交えた笑みを浮かべる。

 「みくるさん、ライブの時からずっと元気が無かったから…。どうしたのかな、って気になっちゃって」

 「そっか…。ありがとうね、いちごちゃん」

 みくるはまだズキズキする首をさすりながら、瞼を閉じて礼を述べる。

 そして、眼を閉じたままみくるは表情を曇らせて、ポツリとこう漏らす。

 「いちごちゃん、優しいよね…。

 私のパートナーも、いちごちゃんみたいな人だったら…」

 その言葉を耳にしたいちごは、ハッと息を飲んで、みくるの悩みを理解する。

 「…みくるさんの悩んでることって、美月さんについて…ですよね?」

 みくるは自嘲気味の笑みを浮かべて肯定すると…。震えた声を絞り出す。

 「私ってさ、美月にとってゴキブリなんだって。いえ…ウジムシとか、言われたちゃったな…。

 私は、美月の輝きを強めるための踏み台なんだって」

 「そんな…!」

 いちごがフォローの言葉を語るより早く、みくるはフゥーッ、と涙の混じった笑い声を吐き出すと、今にも嗚咽に変わりそうな潤んだ声を口早に絞り出す。

 「でもさ、実際そうだよね。私はただの花屋、芸歴なんて何にもない! スターライト学園やドリームアカデミーにも入れない、凡人だもの!

 そんなのが、世界にも認められる美月の隣に並び立つなんて、おこがましいにも程があるんだよ!

 私は、美月に夢を見せてもらっただけで、十分幸せなんだよ…踏み台として美月に使ってもらえるだけで、十分に光栄な人間なんだよ…。

 私なんて、私…なんて…ただの…!」

 言葉の最後には、みくるの顔は止めなく溢れる涙で濡れ、表情はクシャクシャに歪んでいた。

 口にする言葉は、いちごに向かって語っているのではない。自身に向かって語っているのだ。自身を納得させようと、強く言い聞かせているのだ。

 だが…幾ら言い聞かせても、納得できるワケがない。悔しさや怒りや、虚しさで心が一杯になる。

 そんな彼女を突如、フワリ、とした優しい感触が包む。

 涙で滲む視界を開いて、感触の主を見てみれば…真っ正面からみくるを抱きしめる、いちごの姿があった。

 「そんなことないです」

 いちごはみくるの耳の側で、春を運ぶ優しい微風のような言葉を口にする。

 「そんなことないですよ、みくるさん」

 もう一度言葉を繰り返した後、いちごはみくるから身を離したものの、彼女の両肩に手を乗せて、力強い笑みを浮かべている。

 「みくるさんは、立派なアイドルです。

 パートナーカップ終了後に、みくるさんがソロでステージに立ったことがありましたよね? あの時のお客さんの反応、みくるさんは覚えていますか?

 あのステージには、美月さんはどこに居ない。お客さんは、みくるさんのことだけを見ている。その状況の中、みくるさんはお客さん皆の心をアツくすることができたんです!

 それは、誰のものでもない、紛れもないみくるさん自身の力なんです!」

 それからいちごは、困ったような顔を見せながら、美月について言及する。

 「美月さんは…学園に居たころから、孤高というか…悪く言えば、独り善がりなところがあって…私の周りでも、感じ悪いよねって話が出てたんですよね…。

 特に、藤堂ユリカちゃんや、一ノ瀬かえでちゃん…元トライスターのメンバーの皆を応援している人にとっては、あの人は蛇蝎(だかつ)の如き嫌悪対象なんです…。

 そんな人と一緒になったみくるさんは、これから苦労するだろうなって、みんなで心配してたんですけど…。やっぱり、こういう事になっちゃったんですね。

 でも…!」

 いちごはゆっくりと瞬きすると、再び眼を見開いた時には、再び力強い笑みを浮かべていた。

 その笑みは、みくるに自身の有り余るようなエネルギーを分け与えようとしている、健気で真摯な雰囲気がひしひしと伝わって来る。

 「あの人の独り善がりで、みくるさんの輝きを曇らせてしまうなんて、もったいないです!

 美月さんと活動するのが苦しいのなら、美月さんを抜きにしてしまって構いません! 私たちと一緒にアイカツしましょう!

 スターライト学園も、ドリームアカデミーだって、いつだってみくるさんに対してなら門を開けてます!

 いえ…入学しなくとも、構いません! 私たちはもう友達で、ライバルで、そして同じアイドルの仲間です!

 せっかくのアイドル業界、一緒に楽しみましょうよ!」

 いちごはそう語り、みくるの肩に置いた手を離すと、みくるの右手に向けて手のひらを差し出した。

 

 神崎美月に対して苦言を吐いていた星宮いちごだが、それは美月の暴挙を苦々しく思うが故の、特に別な事態である。

 本来の彼女は、誰にでも分け隔てなく元気に接し、良き所を認めては尊敬し、人と人との関係を大切にする、とても気の良い人物なのだ。

 

 その裏表のない、真に優しく思いやりに満ちた感情に突き動かされたみくるは、いちごの手をソッと握り返す。

 「うん…うん…。ありがとう、いちごちゃん…。私、自分の力を信じて、もうちょっと頑張ってみるよ…!」

 この時、涙を跳ね飛ばして見せたみくるの笑顔は、空に輝く月よりも美しく、力強い輝きに満ちていた。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 アイドル業界の実状は、熾烈だ。

 例え絶大なる人気を誇ろうとも、次々に登場する新星に輝きを奪われ、足下をすくわれることは、よくあることであろう。

 しかし、そんな過酷な世界だからこそ、互いに手を取り合って、(いばら)の道を進もうとする姿勢は、何よりも優しく、輝いて人の目に映ることだろう。

 

 願わくば、彼女らのひたむきな努力と優しさが、歴史に名を刻む花とならんことを――。

 

 

 ―了―


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。