ぐんし と りゅうおう   作:悪手を具現化して人にしました。

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プロローグ

––––竜王 一日目で劣勢か––––

今年度の竜王戦は予選から波乱の幕開けとなっていた。挑戦者有力とされた神鍋歩七段、そして大本命で永世七冠達成かと注目された名人でさえ竜王に挑めなかった。その二人を阻んだ棋士こそ、今年度の竜王挑戦者––––高月孔明アマである。その高月アマは、竜王戦七番勝負でもいきなり魅せてくれた。

 

アマチュアの参加が認められているタイトル棋戦は、現状竜王戦と盤王戦のみ。過去、アマチュアが決勝トーナメントに進むことすらなかった竜王戦を勝ち抜き見事挑戦者となったのが高月アマだ。ちなみに、予選では勢いのある若手から実績の豊富な往年の棋士まで、幅広い層のプロを破っている。決勝トーナメントでは若手の最有力候補こと神鍋七段を破り注目を一気に集めると、挑戦者決定三番勝負で名人を二勝一敗で破った。

 

彼はもともと、中学二年生で奨励会三段という天才として関西では名の知れた棋士だったそうだ。プロ入りも時間の問題とさえ言われ、奨励会三段リーグという舞台でもその実力を遺憾なく発揮していたという。しかし、彼はプロ入りすることなく突如退会。そして、高校生になった今アマチュアとして竜王戦の舞台に上がってきた。

 

高月孔明アマはアマチュア七段。アマチュア名人・竜王の称号を持ち、居飛車振り飛車問わず柔軟な棋風で対応できる。

彼の恐ろしいところはその読みの深さ。予選の棋譜を解析したところ、最新ソフトの最善手を指す確率が八割を超えていた。これはトッププロの棋士ですら不可能な数値になる。すでにプロの編入試験の資格を持っているにも関わらず、竜王戦が終わるまではということで受験していない。竜王戦が終わればプロ入りを目指すのだろうか。

 

 

竜王戦第一局は竜王が初日の最終的な評価値-3000という形で折り返した。立会人、記録係、大判解説者ですら彼の強さに驚愕を隠せない様子だった。九頭竜八一竜王も将棋界でも指折りの天才として注目されているが、高月アマはその比じゃない。戦型は角換わり。竜王の腰掛銀に対して挑戦者も腰掛け銀模様となった。通常、-3000なら投了してもおかしくない数値だが、竜王は粘りを見せ一時-5000まで開いた差を戻してきた。

手を封じた後、九頭竜竜王はひたいに汗をにじませ盤上を眺めていた。一方の高月アマは早々に部屋に戻っている。

 

高月アマの指し手は二日制の対局としては早が正確さは健在。竜王もそのペースに乗せられたように焦って指してしまっていた。

 

以後、対局前の両対局者によるコメントである。

 

高月アマ「竜王とは奨励会時代から関わった仲なのですが、このような舞台で戦えることに喜びを感じています。竜王の挑戦者として恥じないような将棋を指したいと思います」

九頭竜竜王「対局が決まってから予選での高月アマの棋譜を拝見しました。定まった棋風を持たれない方なので研究しにくかったですね。序盤は最善手しか指さないですので、差が開かないよう気をつけながら自分の得意な形にしていければなと思います」

 

対局は明日の9時から再開する。初戦をどちらが制するのか、目が離せない。

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 彼––––高月孔明が俺と初めて対局したのは奨励会の三段リーグのとき。

 

 同い年の孔明と俺は、その時のリーグ内でも強い方にいた。少なくとも、降格というのはないと言われるほどには。

 

 当時、居飛車一本の俺に対し孔明は相手相手で戦術を変えていた。しかも、それで勝てていたのだから恐ろしい。

 

 奨励会は天才の中の天才が集まる場所。その中でも才能も研究量も群を抜いていたと思う。

 

 

「高月三段…が…退会した?」

 

 

 孔明の退会はプロも驚愕するほどの出来事だった。奨励会員なのにも関わらず特集が組まれたほどに。

 

 当然、俺も驚きを隠せなかった。俺より先にプロになると思っていたし、何より退会する理由が見当たらない。ライバルが減ったと言うのは嬉しさ半分、寂しさ半分。圧倒的に負け越していたので悔しさもあった。

 

 ライバルをなくした俺だが、それで棋力が下がるようではプロにはなれない。安定した指し手で俺は勝利を重ね時には負けもした。

 

 そして、しばらくして。師匠の家に孔明が来るようになった。理由はわからない。でも、師匠は嫌な顔ひとつしていなかった。

 

 師匠の研究に協力したり、桂香さんにご飯をごちそうになったり、姉弟子に将棋を教えたり、俺と練習対局したり。一門全員との関わりができた。

 

 そんなある日、俺は勇気を出して聞いてみた。「なぜ、奨励会を辞めたのか」と。

 

 その答えはすぐに返ってきた。

 

 

「え? 奨励会を辞めた理由? 俺にはプロの舞台は相応しく無いと思った。どんなに実力があっても、どんなに才能があっても、俺の場所はあそこじゃない気がしたんだ。それだけ」

 

 

 後悔のない言葉は、それ以上の追求を寄せ付けないという感情も含んでいた。

 

 「そうか」と軽く返事を返したが、それ以降俺の中にその言葉は残り続けている。

 

 その後、プロになり師匠の家を離れた俺だが孔明との個人的な関係は続いた。プロとアマチュアではなく、友人として。師匠も研究を手伝ってもらうことがあると言っていたので一門との縁は未だ健在らしい。

 

 奨励会員のアマチュア復帰規定をクリアし、アマチュア棋士となった孔明はアマチュア竜王・名人の二冠を達成し俺は竜王になった。

 

 このとき、俺と孔明が竜王のタイトルを奪い合うことになるなど思うわけもない。




こんにちは。悪手を具現化して人にしました。と申します。

なんだか書きたくなったので書いてみました。ゆっくりとした進行ですがお付き合いいただければ幸いです。
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